第弐拾参話
「壊れた二つ、暴かれる心」
◆―――ネルフ本部、シンクロテスト
トウジはいつもと同じようにシュミレーションプラグの中で目を瞑ってシンクロに集中していた。
だがある事実が頭の片隅に常にいて、集中できない。
《トウジ君、聞こえる?シンクロ率が4低下してるわ。余計なことを考えずに集中して》
「わかっとります!!」
スピーカーから聞こえてくるリツコの声につい強く返してしまう。
何故大人達はこれほどまでに”いつも通り”なのか?
つい先日、『アスカが壊れた』と言うのに。
シュミレーションプラグは三つあっても、今はレイとトウジしかその場所にいない。
数日前までその場所にいたアスカは、その頃生きる事を放棄したように虚ろな目を開いて病室のベットの上にいた。
(惣流・・・何があったんや)
詳しい事情を知らされていない、知れないトウジはただ起こった現実だけしか見る事が出来なかった。
シンクロ率は少しずつ低下していく。
◆―――病室、惣流・アスカ・ラングレーの場合
アスカは目を開けながら夢を見ていた。
『日本に着けば新しいボーイフレンドもいっぱいできるさ』
『仮定が現実の話になった。因果なものだ提唱した本人が実験台とは』
『偉いのね・・・アスカちゃん。いいのよ。我慢しなくても・・・』
『アスカはまだ子供だからな』
『毎日あの調子ですわ、人形を娘さんだと思って話しかけてます』
『しかし残酷なものさあんな小さな子を残して自殺とは』
姿は見えない、だが大人達の声が確かに聞こえる。
自分の周りの大人の声が聞こえる。
耳を塞いでも声は止まらない。
叫んでも周りの声は消えない。
封じ込めていた記憶が掘り起こされる。
見たくない、聞きたくない、感じたくない、思い出したくない。
だが一度開いた記憶の蓋は閉まることなく中身を出しつづける。
『精神崩壊それが接触の結果か』
『アスカちゃん?ママねきょうはアスカちゃんの大好物を作ったのよ?』
『そういうことはもう少し大人になってからだ』
『人形は人間が自分の姿を模して作ったものですから、もし神がいたらわれわれはその人形に過ぎないのかもしれません』
判りたくない。
だが大学まで出た頭脳が昔の記憶を理解させる。
あの時は判らなかった事実、だがそれを知ることはアスカを更に追い詰める。
「いや・・・いや・・・」
絶え間なく流れつづける声。
永遠の地獄にも等しいその時間がふと終わりを告げる。
場面が切り替わり、”紅い”世界がそこにあった。
登場人物は自分ともう一人。
加地リョウジ。
額に穴を開けて血を流しつづける加地リョウジと自分だけの世界。
一番新しい地獄がそこにあった。
「いやあああああああ!!!!もう、やめて!!やめてよ!!!!!」
覚めない夢の中でアスカは地獄を見続けていた。
病室で横たわるアスカには、何の変化も表れない。
◆―――ネルフ本部、赤木博士執務室
既に加地がいない事は目の前の現実が無くても何となく判っている、だが”ネルフの作戦課長”としてのミサトは普段と変わることなく仕事を行っていた。まだ加地から託された物にはショックの為か目を通していない・・・。
アスカの事は耳に入っていたが、今のミサトは保護者ではなくネルフ作戦課長だった。保護者失格の良い例である。
「弐号機のコア・・・変更もやむなしかしらね」
「どういう事?アスカはあんな調子だしダミープラグも弐号機には互換性が無いから凍結するしかないんじゃ?」
”戦力”の事でリツコと話をしに来たミサトはリツコの言葉に首を傾げる。
「近い内に新しいチルドレンが来ることになったわ」
「・・・シクスチルドレンが?タイミング良すぎなんじゃない?」
「委員会が直で送り込んできた子。データはこの中よ、見る?」
そう行ってリツコは加地に渡されたものと全く同じROMカセットをミサトの方に向ける。
一瞬躊躇したが、ミサトはそれを受け取った。
「赤木博士・・・また私に隠し事してないでしょうね?」
「さあ・・・?」
結局それ以上の事を話すにしてもデータを見てからの方が都合がいいので、ミサトは部屋を後にした。
◆―――第三新東京市、歩道
近頃トウジは学校に行っていない。
エヴァを使わない人の力での使徒殲滅に続いてアスカの入院。
同じエヴァのパイロットでありながら、操縦技術では下の自分ではなく上のアスカが戦線から離れた。
最大最悪の使徒はエヴァ以外の手によって滅ぼされたが、それはトウジの不安を消すには不十分だった。
学校に行ってないから、近頃ヒカリに会っていない。
親友のお見舞いに行こうと考えた事はあったが、最初に言われた『一人にしてくれ』が余りにも印象に残りすぎて顔が見れない。
力不足を理由に今まで以上に訓練に明け暮れる日々を送っていたが、シンクロ率はトウジのやる気を嘲笑うかのようにじわじわと下がっていく。
レイのシンクロ率は相変らず上がったり下がったりを繰り返しながら、少しずつ上り調子を見せている。
訓練が足りないと思い込んで今日は朝からネルフに入り浸っていたが、過剰訓練がかえって向上の妨げになると赤木博士直々に帰宅を言い渡された。
自分は何をしているのか?
昼間の日の光が差し込む道を歩きながらトウジは悩んでいた。
視線の先、道路の向こうから声が聞こえてきたのはそんな時だった。
♪〜♪〜〜〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪♪〜。
♪〜〜♪〜〜〜♪♪♪〜♪〜♪〜〜〜。
人影が遠目に写っているにも関わらず、透き通った声:口ずさむ音階がトウジの耳に届く。
辺りに人の気配がない事と、お互いを遮る遮蔽物が全く無い為小さな声でも聞こえてしまう。
♪〜〜♪〜〜♪♪〜〜♪〜〜♪〜〜♪♪〜〜。
♪〜〜〜♪♪♪♪〜♪♪♪♪〜♪♪〜♪〜〜・・・。
それが『第九』のメロディーだったが、トウジはどこかで聞いた事のあるメロディーとしか考えずに近付いてくる人影を見た。
服装が学生服で、背丈が同じくらいなので自分と同年齢だと当たりをつける。
整った顔立ちはどこか人形を思わせるが、嬉しそうに微笑んでいるのでそれが人間らしさをかもし出していた。
だが近付いて来れば来るほどトウジはその相手が自分と異なる存在だと考えてしまう。
白い肌。
銀髪。
赤い目。
自分とは。いや、人間とどこか違う空気を纏ったその少年はトウジの前方で止まりトウジと視線を合わせる。
トウジも何故か合わせるように止まり、その少年と向かい合った。
「歌はいいね」
「んあ?」
「歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ」
「・・・それ、わいに言っとんのか?」
自分が唐突に話し掛けられたと理解はしたが、いきなり意味不明の事を言われたのでトウジは呻き声を上げてしまった。
内心『頭、おかしいんちゃうかコイツ?』等と考えている。
「この場所には僕と君しかいない、そう考えてもらって結構だよ、鈴原トウジ君?」
「!?なんやワレ!何でわしの名前知っとんのや!!」
いきなりの突きつけられた自分の名前に、トウジは警戒心を最大にして構える。
だが目の前の少年はそんなトウジの行動を不思議そうに眺めるだけでそれ以上の行動は起こさなかった。
「失礼だが君はもう少し自分の立場を知ったほうがいいと思うよ」
「う・・・」
いつか全く同じ事をシンジに言われたので、トウジはぐうの音も出ずに黙ってしまう。
「ところで、ネルフに行くにはどうしたらいいのかな?案内してくれない?」
「ネルフに・・・?何の用や、あそこは部外者立入禁止やで」
トウジにとって目の前の少年は不審人物以外の何者でもなかった。
だが敵意らしい敵意はない。
出方を窺っていると、今まで以上の笑顔で少年は言った。
「僕はカヲル、渚カヲル。君と同じく仕組まれた子供・・・・・・」
「何言うとんのや?」
回りくどい言い方に、ついついトウジが反論するが。
次の言葉で固まってしまう、
「シクスチルドレンさ」
◆―――第七ケイジ、初号機
《弐号機左腕のマイクロシス作業は数値目標をクリア》
《ネクロシスは現在0.05%未満》
辺りで放送と報告が入り乱れる中、アンビリカルブリッジの上でミサトは初号機の顔を見ていた。
加地がどんな最後を送ったのかは知らない。
《アポトーシス作業、問題ありません》
《零号機の形態形成システムは現状を維持》
《各レセプタを第2シグナルへ接続して下さい》
アスカの精神が壊れてしまったのに冷徹にそれを見る自分がいる。
(エヴァシリーズ。セカンドインパクトを引き起こした原因たるものを流用しなければ、わたしたちは使徒に勝てない)
(逆に生きるためには自分たちを滅ぼそうとしたものまで利用する。それが人間なのね・・・)
(・・・やはり、わたしはエヴァを憎んでいるのかも知れない。父の仇か)
「こんな事しか考えられないなんて、やっぱり・・・保護者失格ね」
ようやくその事実に辿り着いたミサトだが、かけられた声で思考は一旦止まる。
「葛城さん!」
マコトが駆け寄ってきて話があることを告げる。
◆―――ジオフロント、公園
二人は本部を抜け出して、公園のベンチに移動していた。
ミサトはベンチに座り、日向は後ろに立ってお互いに背を向けている
「エヴァ十三号機までの建造を開始!?世界7ヶ所で?」
「上海経由の情報です。ソースに信頼はおけます」
驚くミサトに対して、マコトは冷静に返す
「なぜ、この時期に量産を急ぐの?」
「エヴァを過去に一機失い、現在は三機も大破ですから。第二次整備に向けて予備戦力の増強を急いでいるのでは?」
「どうかしら?これにしてもドイツで建造中の五・六号機のパーツを回してもらってるのよ。最近、ずいぶんと金が動いているわね」
「ここに来て、予算倍増ですからね。それだけ上も切羽詰まってるってことでしょうか」
「委員会の焦りらしきものを感じるわね」
ネルフのメンバーとしてそれらしい会話をするが、もしミサトが加地から託された物の中身を見ていればその真意に気がつけた。
だがこの時のミサトはマコト以上に自分たち以外の思惑を知らないので、想像で補うしか方法がない。
「では、今までのように単独ではなく、使徒の複数同時展開のケースを設定したものでしょうか?」
「そうね。でも非公式に行う理由がないわ。何か別の目的があるのよ」
その答えは手元にあることをミサトはまだ知らなかった。
◆―――ネルフ本部、廊下
「早く会いたいな・・・僕のエヴァンゲリオンに」
「・・・」
「この施設は対人兵装が著しく微弱だね、まあ使徒迎撃専用の要塞都市だからかな」
「・・・」
「会話は人が判りあうために必要不可欠な要素だよ?」
「・・・」
「鈴原トウジ君?」
「だあああああ!!!やかましいわおんどりゃ!ちったあ黙らんかい!!」
初めて会った道路からトウジはカヲルを連れてネルフ本部を訪れていた。
終始話しっぱなしという訳ではないが、話題が途切れることなく次々と移り変わるのでいつしか答えるのも億劫になっていた。
ひたすら我慢していたが、ここに来て遂にトウジの短い堪忍袋の尾が切れる。
「エヴァにしてもシンクロが全然上がらんっちゅう問題抱えて、こちとら気が立ってんのや!!頼むから静かにしてくれや!!」
苛立ちの原因、もやもやとして実体のつかめない物を合えて”エヴァのシンクロ”という形にする。
トウジは普段使わない頭で考える。
近頃友達と会ってない。
エヴァのシンクロ率が上がらない、むしろ下がっている。
惣流が壊れて入院する羽目になった。
何故こんな事に?
「使徒がいつ来るか判らん!ホンマならこないな所で油売っとる暇なんかあらへんのや!!」
使徒が悪い。
友達と会えないのも使徒が悪い。
シンクロ率が下がるのも使徒が悪い。
惣流が入院したのも使徒が悪い。
わざわざネルフに戻らなければならないのも使徒が悪い。
目の前の渚カヲルに苛つくのも使徒が悪い。
全て全て全て、使徒が悪い。
そう決め付けて、怒りそのままにトウジはカヲルを睨みつけた。
だが真っ向から怒りの表情を自分に向けられているにも関わらず、カヲルは笑みを崩さなかった。
真摯な目で真っ直ぐにトウジを見て言う。
「心を開かなければ、エヴァは動かないよ」
「はぁ?何言うとんのや?頭おかしくなったんか?」
トウジの中の現実、機械に心などある訳ないと言う真実そのままにカヲルに侮蔑の目を向ける。
「エヴァには心がある」
「機械人形に心?ホンマにアホやな、そないな訳ないやろ!?」
「エヴァは人形じゃない、それにシンクロ出来ないって事は君が心を閉ざしてるって事さ」
「何やて!!」
カヲルが言っている事はトウジにとって理解できない事が多いが、それでも馬鹿にされたと感じた。
胸倉を掴んで腕を後ろに振る。
暴力を持って沈黙をもたらそうとしたトウジの行動は、怒鳴り声で差し止められた。
「やめなさい!!何やってるの!!」
廊下の遠くからミサトが怒鳴りながら走ってきた。
「止めなさいトウジ君、それから・・・あなた渚カヲル君ね?シクスチルドレンの」
「はい」
ミサトはカヲルを掴んでいたトウジの手を外しながら、銀髪の少年に話し掛けた。
その内情は”過去の経歴は抹消済み”に”生年月日はセカンド・インパクトと同一日”と”それ以外は全て不明”、更に”委員会が直で送ってきた子供”と疑いどころ満載の経歴だった。
はっきり言うと怪しい、だが予備戦力はあるに越した事は無い。
復讐鬼とネルフの作戦課長の狭間で揺れるミサトが出した結論は『今は放置』だった。
「あなたはまだ部外者の筈よ、そ」
ビーー!
ビーー!
ビーー!
『即刻退去して』と続けようとしたミサトだったが、その声は本部全域に鳴り響いた警報によって止められる。
警報とアナウンスが使徒襲来を告げる。
『総員、第一種戦闘配置。地対空迎撃戦用意』
「使徒!?トウジ君行くわよ」
「了解ですわ!」
「渚カヲル君。あなたは・・・見物でもしてて」
「判りました、お手並み拝見させて頂きます」
モニター越しとは言えいきなり戦場を見せる事でカヲルの出鼻を挫くつもりだったのだが、全く変わらない笑みを絶やさないので『肝が据わってるのか、よく判ってないのか、どっちかね』とミサトは考えた。
◆―――ネルフ本部、発令所
「使徒を映像で確認。最大望遠です」
シゲルは報告と同時に衛星軌道を優雅に浮かぶ第15使徒:アラエルの姿をモニターに映し出した。
姿形こそ翼を広げた鳥に見えなくもないが、体全体が光っており輪郭しか捉える事が出来ない。
そもそも観測された大きさが数十メートルの鳥類など、地球上のどこにも存在しない。
「衛星軌道から動きませ、ここから一定距離を保っています」
「て事は、降下接近の機会をうかがっているのか、その必要もなくここを破壊できるのか」
「こりゃうかつに動けませんね」
ミサトの独白に対して、マコトは軽口で返す。
使徒が現れてから実害がない上に、戦い様がないので幾らか緊張が緩んでいる。
「どのみち、目標がこちらの射程距離内まで近づいてくれないと、どうにもならないわ。エヴァには衛星軌道の敵は迎撃できないもの」
作戦課長としてミサトは、現状の把握を行う為マヤに話し掛ける。
「レイは?」
「零号機共に順調、初号機もダミープラグで起動。いつでも行けます」
「了解」
ミサトはマヤの報告を聞いて少し考え込むと、顔を上げて命令を告げる。
「零号機発進、超長距離射撃用意。参号機トウジ君はバックアップとして、発進準備。初号機はとりあえず待機させて」
そんな様子を、発令所の後の方でカヲルはただ見ていた。
◆―――参号機、エントリープラグ
「バックアップでっか?わいが!?」
《そうよ。後方に回って》
カヲルとの先ほどのやり取りで、トウジの怒りは今まで以上に使徒に向けられていた。
怒りを払拭する為に、使徒を倒す為には前衛でなければならない。
トウジは内心の葛藤を言葉にするよりも早く反抗していた。
「嫌です!参号機発進します!!」
発令所の命令を待たずにトウジは自分から地上への射出を開始した。
命令どおり機械は参号機を地上へと持っていく。
《トウジ君!!》
◆―――ネルフ本部、発令所
「トウジ君!!」
リツコは予想だにしなかったトウジの暴挙に思わず叫ぶが、それに反してミサトは口を挟まなかった。
参号機が地上へ射出される直前、ようやく閉ざしていた口を開く。
「・・・しょうがないわ、先行してやらせましょう」
「葛城三佐!?」
いきなり命令を変えるその様子に、密かに恋焦がれているマコトも口を挟む。
「主武装がポジトロンライフルならどっちが撃っても一緒よ、やる気があるのはいい事だわ」
「はあ・・・」
些か納得しかねる内容だったが、上段に座るゲンドウとその隣に立つ冬月が何も言わないので、マコトはそれ以上の追求はしなかった。
◆―――第三新東京市、市街
大雨の中、漆黒の参号機の中からトウジは上空を見上げていた。
雨雲と余りにも離れすぎている為、トウジの視力では見える筈がない。だが間違いなくその方角に使徒はいる。
遥か遠く、衛星軌道の敵を睨みつけながら警報と共に道路から射出されるポジトロンライフルを手にとる。
トウジの頭上からバイザーモニターが伸びてきて、視界が長距離砲撃用に切り替わり。トウジはポジトロンライフルを空の上に向かって構えた。
「倒しちゃる・・・わいのこの手で・・・」
両足を開いて砲撃体勢に入っても、使徒は全く動かない。
射程距離外なので撃つ訳にも行かず、時間だけがただ流れていく。
「何やっとるんや、はよう来んかい!!」
まるでトウジの言葉が聞こえていたように、初めて使徒に変化が現れた。
頭に見える部分から光が放たれ、参号機を覆う。
「んな!!」
それはポジトロンライフルを越える超長距離からの攻撃だった。
◆―――ネルフ本部、発令所
ALEAT!!
ALEAT!!
ALEAT!!
突然の使徒からの攻撃に発令所に警報が鳴り響いた。
「敵の指向兵器なの!?」
「いえ、熱エネルギー反応無し!」
ミサトは思わずシゲルに尋ねるが、予想外の返答が返って来た。
目に見える光であるにも関わらず、熱量は感じられない。それは人が目にする光や熱とは全く違った物である証明だった。
「心理グラフが乱れて行きます!精神汚染が始まります!!」
「使徒の心理攻撃?そんな、まさか・・・」
科学者としての技術部二人も、予想を遥かに越える攻撃に呆然としていた。
◆―――第三新東京市、市街
「うがあああ!!!うぐわわわあああ!!」
脳味噌に焼けた鉄棒を突っ込まれて弄繰り回されるような感覚。
身体的な痛みではなく、”自分”と言う存在そのものを脅かす精神的な痛み。
痛みは感じないのに痛い、強烈な不快感と不愉快が一緒来る。
トウジは耐えられない痛みに両手で顔を覆うが、全く痛みは無くならない。
「この・・・どぐされがあああああ」
ドンッ!
ポジトロンライフルを使徒がいる場所に向かって発射する。
撃ち出された光弾はアラエルに向かって真っ直ぐ突き進むが、着弾する直前で地球の重力に引かれて下を通過する。
行き場のなくなった光弾は大気摩擦と寿命により形を失っていく。
《陽電子、消滅》
《だめです。射程距離外です!》
スピーカーから発令所のメンバーの声がする。
だがトウジは、それに答えるよりも自分の中で暴れまわっている”何か”に耐える事しか出来なかった。
「ああ・・・あぁぁぁぁっ!!!」
耐える心と、使徒を倒す心。
思考が蹂躙されていくトウジの思いは、参号機の持つポジトロンライフルから光弾を撃ち続けるが。
”狙って”撃ったものではないので、光弾が第三新東京市を破壊していく。
ドガンッ!
ドガンッ!
ドガンッ!
火柱と爆音が断続的に数発続くと、ポジトロンライフルのエネルギーは空になってしまった。
◆―――ネルフ本部、発令所
「ライフル残弾0!!」
「光線の分析は?」
「可視波長のエネルギー波です。ATフィールドに近いものですが・・・詳細は不明です!」
ミサトの声にマコトが答える。
「トウジ君は?」
「危険です!精神汚染、Yに突入しました!」
リツコの声にマヤが答える。
発令所は先ほどまでの緩やかな空気から一変して慌しく落ち着きのない物へと変化していた。
たった一撃、だがそれは人智を越えた攻撃なのだと改めて人は思い知らされていた。
◆―――第三新東京市、市街
「何や!お前は、わいの中に入るおまえは何なんや!!!」
頭の中を弄繰り回される感触の次は、何かが入ってくる様に感じられた。
”自分”と言う存在が押し潰される痛み。
強烈な嘔吐感が痛みが頭の中を通り抜ける。
『欺瞞』
『偽善』
『痛み』
「ぐっ!!」
断続的に言葉が頭の中に浮かんでくる。
自分が考えているのではない、強引に”押し付けられる”言葉。
参号機は耐えるトウジの痛みを現すように身をよじらせる。
『恐怖』
『憤怒』
『真実』
「うあっ!!」
湖に石が投げ込まれて波紋が広がる。
自分の中に言葉が投げつけられて考えたくない事が浮かんでいく。
『虚偽』
『妬み』
『死』
「がっ!!」
ただただ反撃も出来ずにトウジの心が暴かれていく。
◆―――ネルフ本部、発令所
「心理グラフ限界!」
「精神回路がズタズタにされている。これ以上の過負荷は危険すぎるわ」
喧騒な発令所の中で、マヤとリツコは冷静に戦場のデータを見ていた。
冷徹とも取れる態度だが。ここが戦場である以上、むしろ見本とも言えた。
「トウジ君!戻って」
《嫌です!》
激情に身を任せるミサトはトウジに通信を送るが、それ以上の激情でトウジは返した。
「命令よ!トウジ君撤退しなさい!」
《使徒はわいが倒すんや!!撤退なんぞしてたまるか!!!》
◆―――第三新東京市、市街
零号機は参号機が持つポジトロンライフルに加速器と固定台を加えた物を構えていた。
初号機は現在ダミープラグで起動可能だが、どうしても攻撃は精密射撃になるので任せる事は出来ない。
《加速器、同調スタート》
《電圧、上昇中。完遂値へ》
ライフルを構えたままの格好の零号機のエントリープラグの中でレイは考え事をしていた。
仮面だけを残して文字通り”消えた”使徒。
生きている筈がない、自分の中でもそれは現実として受け入れている部分がある。
エヴァ対使徒の戦場では何度も会っているが、あの使徒と話した事は三度しかない。
《強制収束機作動》
《地球自転、及び重力誤差、修正0.03》
一度目は自分が住む部屋の中。
二度目は仮面を取った素顔でネルフ本部内。
三度目は自分が今いるこの場所。
あの時から確信になりつつある考え、想像でしかないがおそらく間違いではない。
使徒を除いてレイだけが知っている事実。
『あの使徒は碇シンジ』
たった三度会っただけ。
それだけの筈なのに、他の誰よりも自分の心の置く深くに根付いている存在。
碇司令よりも?
《薬室内、圧力最大》
《最終安全装置、解除》
もう一度会いたいと思っている。
だが彼はいなくなった。
手を下したのが自分で無いとしても、レイの目の前で消えた。
でも、もしかしたらもう一度会えるかもしれない。
《全て、発射位置!!》
「碇・・・シンジ・・・」
レイは誰にも聞こえない独り言を呟いて、微かな願いを込めながらポジトロンライフルのトリガーを引き絞る。
光がアラエルに向かって放たれた。
◆―――ネルフ本部、発令所
最大望遠で映し出されたアラエルの姿には全く変化が無い。
顔に当たる部分から光線を発射していながら、ATフィールドを展開。
いとも容易く零号機の攻撃を弾いたにも関わらず、使徒本体に関しては動きどころか微かな揺れすら観測されない。
動かずに精神攻撃、動かずに守る。
ある意味で第5使徒ラミエルを越える空中要塞だった。
「駄目です!この遠距離でATフィールドを貫くには、エネルギーがまるで足りません!!」
「しかし、出力は最大です!もうこれ以上は!!」
シゲルとマコトは絶望的な声をあげる中、ミサトはモニターを睨みつけていた。
手立てが無い、それをよく知るからこそ何も言えなかった。
◆―――参号機、エントリープラグ
『妹が死んだ』
『殺された』
『使徒に?』
『殺したのはお前だ』
「そうやない!」
『あの時、シェルターから出なければ』
『あの時、いなくなった妹を追っていれば』
『あの時、自分が行動していれば』
『妹は死ななかった』
『お前が殺した』
『見殺しにした』
「違う!そないな訳ない!!」
『自分を偽って』
『誤魔化して』
『逃げて』
『妹から逃げて』
『自分から逃げて』
「違う!!悪いのは使徒なんや!!」
『真実から逃げて』
『使徒に罪をなすりつけた』
『使徒を恨むのは筋違い』
『悪いのは全部自分』
『判っていた』
「違う違う違う!!!!」
◆―――電車内、鈴原トウジの場合
トウジの姿は、いつか間にかアスカとケンスケが見た電車の中に移っていた。
二人がそうであったように、周りには自分以外の姿は無い。
景色が動いていないのに、電車の振動と音が聞こえる現実ではありえない場所。
そんな場所にいる疑問を覚えるよりも先に驚きがトウジを支配した。
目の前にシンジ姿をした人影がいつの間にか座っていた。
『君は怖いんだ』
『エヴァに乗る事が』
『使徒と戦う事が』
『もしかしたら惣流と同じになるかもしれない』
『怖くて、怖くて、怖くて』
『周りに当り散らす事で、使徒に復讐する事で誤魔化している』
トウジが驚いていると、シンジの姿をした”何か”はどんどん話し掛けてきた。
『エヴァに乗りながら、役に立てない自分が許せない』
『使徒を前にして恐怖に飲まれ、他のパイロットの影に隠れる自分が許せない』
『襲ってくる使徒が許せない』
『周りが許せない、他人が許せない、自分が許せない』
『何より、妹を見殺しにした自分自身が許せない』
「・・・止めてくれ!!それはあの時だけで終わらせたんや!!」
トウジは叫ぶがシンジは話す事を止めない。
『怖い』
『逃げたい』
『倒したい』
『逃げたい』
『力が欲しい』
『逃げたい』
『殺したい』
『逃げたい』
『どうしてこんな目にあわなきゃいけないの?』
『やり切れない怒りを使徒にぶつける』
『どうして?』
『エヴァのパイロットだから』
「頼む・・・止めてくれ」
声を止めようと体を動かそうとするが、腕は動いても足が動かない。
動けないから声に出すしかないが。どこか聞かなければならないという意識が生まれ、叫んで声を遮る事が出来ない。
『エヴァのパイロットだからこんな目に合う』
『エヴァが悪い?』
『誰が自分をパイロットにした?』
『葛城さん?』
『赤木博士?』
『ネルフのお偉いさん?』
『決めたのは自分自身だ』
『悪いのは使徒じゃない』
『エヴァのパイロットになると決めながら、その先にある後悔を受け止める覚悟も無い』
『自分が悪い』
「違う・・・頼むから・・・止め・・・」
声は弱々しく、いつものトウジに比べるとまるで別人の姿がそこにあった。
今にも倒れそうな枯れ木、今のトウジはそんな印象だった。
『ケンスケは親友』
『そう思い込んでいる』
『でもケンスケは怨んでいる』
『敵意』
『エヴァのパイロットだから』
『決意も無いくせにエヴァのパイロットだから』
「違う・・・・・・・」
トウジは必死になって隠していた自分自身の心に押し潰されていく。
いつか屋上でシンジと話していた時の本心とは別にある、積み重なった現実。
耐え切れなくなり両手で耳を塞ぐが、シンジの声は止まらず遮れずどうしても聞こえてしまう。
『恐怖を感じるのも』
「・・・」
『ケンスケと仲違いになったのも』
「・・・」
『シンクロ率に悩むのも』
「・・・」
『使徒と戦わなければいけないのも』
「・・・」
『妹が死んだのも』
「・・・」
『全部、自分自身がエヴァのパイロットになると決めたから起こった』
『自分が悪い』
「止め!!もう止めてくれええええ!!!!!!」
◆―――第三新東京市、参号機
「わいは・・・わいは・・・・・・わい・・・は・・・」
自分が拠り所にしていた”使徒と戦う理由”。
掘り起こされた自分自身の思考はそれは真っ向から打ちのめした。
使徒が悪いのではなく、自分が悪い。
判っていたからこそ使徒に怒りをぶつけていた。
自分で自分が許せない、トウジは”自分”を消していった。
◆―――ネルフ本部、発令所
トウジから生きる意志が薄れて、それに呼応して参号機の目の光が消える。
同時に発令所では『EMERGENCY』の紅い文字がモニターを埋め尽くした。
「参号機活動停止!生命維持に問題発生!!パイロット、危険域に入ります!」
「目標変化なし、相対距離以前変わらず」
参号機そのものの武装は全く衰えていないが、それを扱うパイロットが戦う意志を放棄した。
それに引き換え使徒は攻撃と防御を使いこなして傷一つ負っていない。
(今、初号機を出しても攻撃方法が無い以上有効とは言えないから駄目・・・)
(零号機を空輸、空中から狙撃するか?いえこれも駄目ね接近中に撃たれたらお終いだわ・・・)
ミサトは自分たちに出来る手立てを必死で考えるが、良策は出てこない。
一秒一秒、時間の経過を長く感じる中でゲンドウの声が発令所に響いた。
「レイ、ドグマを降りて槍を使え」
「ロンギヌスの槍をか!?碇、それは」
発令所の中でいち早く反応したのは冬月だった。
今発令所にいる中でゲンドウ以外にそれを事細かに知るのはゲンドウと冬月にリツコと階下のもう一人の四人だけだが、四人目は事体を見守る為に静観していた。
何の事か判らないミサト達を放置して、ネルフのトップ二人は話を続ける。
「ATフィールドの届かぬ衛星軌道の目標を倒すにはそれしかない。急げ!」
ようやくミサトの脳がゲンドウの”ドグマ”と言う言葉を理解する。
ターミナルドグマ、ネルフの地下深くで見た白い巨人、あの胸に刺さっていた紅い棒だと思い当たる。
「碇司令!!ロンギヌスの槍とは一体!!」
ミサトも知らない”武器”、使徒に刺さっている以上関係が無いとは思えないので聞いてみたが、ゲンドウから返事が無いので思わずミサトは目を逸らす。
(使徒・・・ロンギヌスの槍・・・セカンド・インパクトと何か関係があるというの?)
《セントラルドグマ、10番から15番までを開放》
《第6マルボルジェへ零号機通過。続いて16番から20番、開放》
ポジトロンライフルを地上に置いたまま零号機がターミナルドグマに向かって降下していった。
◆―――ターミナルドグマ
零号機の下半身まで浸かる大量の紅い液体がそこにあった。
一度だけロンギヌスの槍を刺す時に入ったターミナルドグマ、LCLの海と呼んでも過言ではないその空間でレイは目の前の巨人を見上げていた。
自分の身体の元となった白の巨人リリス。
南極の地下空洞にいたアダムと対を成す、生命の母。
レイは数ヶ月前に差し込んだ時と同じ格好で、物言わぬ巨人の胸から槍を引き抜く。
後の十字架よりもリリスから引き抜くほうが力が必要で、微かな抵抗感を感じたがそれを無視してレイは槍を引き抜いた。
抜いた箇所の穴は瞬時に塞がり、微かに身をよじって今まで無かった両足が数秒と経たずに生える。
LCLの海に生えた足が入り波紋を広げる。
レイは抜いた槍をそのまま構えて警戒するが、それ以上動く気配が無かったので背を向けて降りる時に使用した昇降機に手をかける。
七つの目が刻印された仮面をつけたまま白の巨人はそれを見ていた。
◆―――ネルフ本部、発令所
「碇、まだ早いのではないか?」
冬月は発令所の他の人間に聞こえないようにゲンドウに耳打ちした。
「委員会はエヴァシリーズの量産に着手した。チャンスだ、冬月」
「しかし、なあ・・・」
「時計の針は元には戻らない。だが、自らの手で進めることは出来る・・・・・・」
「老人達が黙っていないぞ」
「ゼーレが動く前に全て済まさねばならん・・・」
「かといって、ロンギヌスの槍をゼーレの許可なく使うのは面倒だぞ」
「理由は存在すればいい……それ以上の意味はないよ」
「理由?お前が欲しいのは、口実だろ?」
あくまで意固地なゲンドウに冬月も説得を諦めたのか、屈めていた身を起こして元の直立体勢に戻る。
そんな二人のやり取りを探るような目でカヲルは眺めていた。
現在のカヲルは完全な部外者でここにいる事すら幸運と言える、まだネルフの一員でない少年が何を言っても無駄だと考えながら、ネルフトップの行動の不審さを考えていた。
(本気で使うつもりなのか?許可無しで・・・)
発令所の中では、報告出来る現実だけが入り乱れていた。
「参号機パイロットの脳波、0.06に低下!」
「零号機、2番を通過。地上に出ます!」
◆―――第三新東京市、市街
重い警報と共に発射口が開き、槍を右手に持った零号機がその姿を現わす。
エヴァサイズでの槍の投擲など一度たりともやった事の無い試みだったが、参号機パイロットの命の危機に加え他の手段が無い事から誰も異論を挟めない。
レイはゆっくりと槍を上段に構える投擲体勢に入った。
《目標確認、誤差修正よし》
《カウントダウン入ります10秒前、8、7》
何事も無く始まったカウントダウン。
レイは発令所が数えるマヤの残り時間を聞きながら、上空の敵に狙いをつけた。
《6、5》
このままいけると、誰もが思うその中で。トウジに放たれた光と全く同じ物がもう一本零号機に向かってきた。
「!!」
《4!!・・・3》
他に明確な攻撃方法が無い以上、ここまで来て攻撃を中止することは出来ない。
痛烈な思いが言葉になってカウントダウンの続行するが、攻撃をもろに喰らっているレイは絶える事に必死だった。
《2》
”自分”が掘り起こされていく。
押し留めていた思いが考えが願いが脳内を駆け巡る。
《1》
脳の中に感じる激痛、身体の痛みではない心の痛み。
無表情の中に押し込めていた、いつの間にか作り上げられていた”自分”。
感情をどう表現すれば判らないが、確かにそこにある。
《0!!》
「くっ!」
痛みの中でも感じる確固たる”自分”、二又のロンギヌスの槍は一気に変形して棒状になり光の中で投げられた。
零号機から一直線に光の中を。アラエルに向かってロンギヌスの槍は雲と空を切り裂いて衛星軌道に向かっていった。
ポジトロンライフルの陽電子を弾いたATフィールド。
ロンギヌスの槍はそれをいとも容易く貫いて、アラエルに突き刺さる。
一瞬の間に槍はアラエルを突き破って遥か後方に飛んで行く、残ったアラエルは貫かれた位置に収縮して光の球体になって霧散していった。
途端に二機のエヴァを襲っていた光が消えてエヴァは解放された。
◆―――ネルフ本部、発令所
「目標消滅、エヴァ両機、解放されます」
シゲルの報告はモニターを見ていたものなら誰でも辿り着く結論なので、冬月はとりあえず報告を無視して気になっている点をマコトに聞いた。
「ロンギヌスの槍は!?」
「第1宇宙速度を突破、現在月軌道に移行しています」
地球の重力を振り切って38万km離れた衛星まで飛んでいった武器。
それを可能にしたエヴァに恐れるか、そうでもしなければ倒せない使徒を脅威と感じるか。
目の前の現実を冬月は言葉にする。
「回収は不可能に近いな」
「はい、あの質量を持ち帰る手段は今のところありません」
モニターには回転しながら地球から遠ざかるロンギヌスの槍を映し出していた。
作戦はゲンドウの機転により無事終了、だがミサトは作戦課長として確かめるべき問題が残っている。
「パイロット両名は?」
「参号機、零号機。共にパイロットの生存を確認・・・」
「どうしたのマヤちゃん?」
報告が続かないのでマヤに視線を向けてみると、歯を食いしばって状況を見つめていた。
「・・・零号機パイロット異常なし、参号機パイロット・・・精神負荷に・・・より」
「助けるのが少し遅すぎ、限界ギリギリのダメージを心の最深部まで受けたから、パイロットとして元に戻るのは難しいわね。生きている事が奇跡だわ」
マヤが言いよどんでいると、リツコが後から助け舟を出す。
だがそれは弐号機パイロットに続いて参号機パイロットまで”壊れた”事を意味する。
エヴァは四機、しかしダミープラグを合わせてもパイロットの数が不足している。
子供の心配よりも先に、打算的な大人の復讐鬼が現状の最良を導き出す。
ミサトは後ろを振り返ってカヲルを見ていた。
「渚カヲル君」
「はい」
「たった今から正式にネルフ本部配属、及びエヴァンゲリオン弐号機のパイロットに任命します」
それに口を挟む者はこの場には誰もいなかった。