カタカタカタカタ……

ここマンションの一室、ショウの自宅で一人パソコンにデータを打ち込む作業を進めていた。

ディスプレイに様々なデータが表示されていた。

ショウが今行っているのはNERVのMAGIへのハッキング作業だ。

そこからデータを盗み出して、NERVの近況を調べていた。

ダミープラグ、エヴァ弐号機のドイツからの輸送計画書、裏死海文書の進行状況、などの様々なデータを閲覧してはコピーしてデータを盗んでいた。通常の方法ではデータを閲覧した痕跡が残ってしまうのだがそんなへまはしない。

ショウは科学者であり開発者の経験もあるので進入プログラムを作るのは容易い。

ショウの作った進入プログラム“ルシフェル”で進入を図っていた。

これはMAGIに侵入者だと気づかれないうえにNERVの者によるアクセスだと錯覚を与えるプログラムである。

ただし、制限時間がある。MAGIの目を眩ませることができるとはいえ、流石に長い時間ハッキングをしてしまうと察知される恐れがあるためにたった二十五分しか進入できないのだ。

しかし、ショウにとっては長い時間だ。二十五分もあれば十分だ。

ディスプレイの左下の端にデジタル型の時計表示でリミットの時を刻んでいた。

残り時間 00h03m25s と表示されている。

「…………これで終わりか。終了っと。」

黙々とキーボードにコードを打ち続けていたショウがENTERキーを押して、プログラムを停止させる。

ハッキング完了だ。

手に入ったデータを確認するべくディスプレイに表示される

暫くの間、NERVの状況について調べる。

「葛城三佐が一佐に降格のうえにNERVから戦略自衛隊で講習を受けて研修生扱いで訓練を受ける?…まぁ今後の使徒戦のことを考えると妥当な選択かな。裏死海文書の進行状況は?…問題なしか。」

ショウは入手したデータの確認を続ける。

「ん?これはチルドレン登録表記名簿か?………なんだこれ?名前は“Nobody”?…俺?しかもゼロチルドレンって俺になんの断りもなく勝手に登録かよ。うっわ、勝手なことしてんな〜これ。」

ショウはNERVに本人になんの断りもなく勝手に登録されていたのだ。

名前には“Nobody”と登録されていて、顔写真もある。

見たところこの写真はいつかのNERVでの通信でモニターに映った際の顔のようだ。

バイザーをしていたのが幸いして顔はバレてはいないようで安心した。

名前と顔写真以外はほとんど“Unknown”と書かれていた。

ただ、詳細欄には正体不明のエヴァに搭乗する人物。正体は不明。各国のNERV支部にも探りは入れたがこれといったデータは見つからず、敵か味方なのか全くわからない謎の人物。と表示されていた。

このことに少し苦笑を覚えるショウ。

気を取り直して、次の作業に取り掛かる。

別のデータを閲覧する。

開いた次のデータはドイツからのエヴァ弐号機輸送計画書だ。

「次はドイツからのエヴァ弐号機の輸送か?確かあいつから受け継いだ記憶によれば加持リョウジとか言う男がNERV本部へのアダムを極秘で持ち込んでくるはず……これは何が何でも気づかれずに手にいれなければな。…って確かその時に第六使徒ガキエルが襲来するんじゃなかったっけ?」

ショウは裏死海文書のデータを開いた。

そして“記憶”と裏死海文書の一説と重ねてみた。

「……………ビンゴだな。」

それは間違いなく重なっていた。

“記憶”と裏死海文書の一説が重なったのだ。

しかし、重なったからといってその時に必ず襲来するとは限らない。

自分はこの世界には存在してはならない人間だ。己の存在によって世界にどれ程の因果律を歪めていることか。

因果律とは何なのか?簡単に言うと“原因と結果の法則”だ。

世界は様々な原因と結果で世界は成り立っている。それは歴史も然りだ。

しかし、本来の標(しるべ)をめざす因果律を歪めている。すなわち本来の歴史を別の歴史へとショウの存在のせいで塗り替えられているのだ。

本来はあってはならないのだがショウはそれを承知の上で塗り替えている。

だから、歴史が変わることでその世界全体が変わるのだ。

第六使徒ガキエルが歴史どおりに襲来するかもしれないし、もしかしたら本来よりも早く襲来するかもしれない。襲来はしてこないのかもしれない。そんな可能性があるのだ。

「……まぁ一応念は入れて置いとかないとな。ダミープラグの進行状況はどうだ?……!思ったよりも進行している。このままではバルディエルが来る前に完成するかもしれない。注意する必要ありだな。…とこれで終わりと。」

Windows-DX(この世界でのWindowsです。)を自動終了させてアイスコーヒーを一杯入れて飲む。

ハァと溜息を吐く。

コーヒーを飲むとショウは壁にかけてあるコルクボードに一枚のメモ押しピンで貼った。

そこには赤ペンで“エヴァ弐号機ドイツより輸送あり。アダムの奪取。注意すべし!”と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―EVANGERION―

Another Story

漆黒の騎士と白衣の天使

 

―第十話―

---私がいる限り貴方の出る幕はないわ!---

---There is not your appearing curtain as far as there is me!---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、シンジとリツコそして、綾波と三人でNRVE専用ヘリにのってドイツの輸送艦隊“オーバー・ザ・レインボー”に向かう途中だ。さっきからどういうわけか禍々しいオーラをビシビシとヘリの中で撒き散らす人物がいた。

それはリツコだった。

どうもレイとはあまり馬があわないらしく綾波と一緒に乗るのが嫌でこんなことになっているのだ。

なぜ、レイもヘリに乗っているのか?

時を遡ること三日前の出来事だ。

 

ジェットアローンの暴走があったことをNERVの人から聞いたのだが、幸い爆発には至ることはなくすんでのところで暴走は治まって回収されたようだ。しかし、その後のそれを開発した企業に対して風当たりが強くなり、責任問題にまで発展してしまったらしく、現在は今後からは暴走を起こしかねないものを作ることは一切禁止と注意が入り、今は静かになっているようだ。これを嬉しく思っているのはただ一人、マッドサイエンティストと噂されている赤木女史一人だった。

まぁ、それからは使徒も全く姿は現して来ないので問題はないのだが。

しかし、事件は起こることになることをシンジは知らない。

あの電話が来るまでは。

ジリリリリリリリリ!!

リビングに一つの電話が鳴り響いた。

シンジはやかましい音を打ち消すべく、受話器を手っ取り早く取る。

「はい、葛城です。」

「もしもし?シンジ君ね?私よ。」

シンジはリツコがここに電話をかけてきたことに驚いた。

ここはもともとミサトが住んでいるのだが、今は戦略自衛隊で軍事訓練生として研修にいっていて不在なのだ。

それなのに電話をかけてくることに疑問を感じていたのだ。

もしかして使徒が出現したのだろうか?

平和な日常からまた戦場に戻ることに一抹の不安を抱かずに入られないシンジだった。

「リツコさんですか?もしかして、使徒ですか?」

「いいえ、違うわよ。今度、エヴァ弐号機がドイツから日本に艦隊に乗せて搬送されてくるの。」

「はぁ。エヴァ弐号機ですか?」

そのことについては初耳だった。なにせ、シンジの父親であり、上司でもあり、NERVの総司令でもあるゲンドウからはそんな話は一切聞かれていなかった。ただ、弐号機とそれを操縦する専属パイロットがいることは綾波から聞いたことがある。なんでもドイツにあるらしく、ここ日本には置かれていないのだ。

それなのに突然の来訪。

これから先、使徒との戦いが厳しくなるからだろうか?

「ええ。それとその搭乗パイロットも乗っているの。私はエヴァ弐号機の譲位権取引書にサインを貰いに行くだけど。友好を深めることもついでに貴方もそのパイロットに会いに行かないかしら?とてもかわいいらしいわよ。」

「はぁ。でも僕なんかが行ってもいいんですか?迷惑になるのでは?」

「迷惑なんかじゃないわよ。でどうかしら?」

「……あの〜。」

「何かしら?」

「綾波もやっぱり行くんですか?」

「………さぁ?あの子はこういったことに関しては、興味はないみたいだし行かないじゃないかしら?」

一瞬間が空いていたのは気のせいかと思ったが気を取り直した。

「そうですか…。」

「あの子のことが気になるのね?」

「え?や!そういうわけじゃないですけど!ただ綾波も行くのかなあと思っただけで他意はないですよ!」

「あら?ということは何か考えていたのかしら?」

「違いますよ!」

綾波のことをいきなり聞かれてしまったから急に緊張してしまった。

暫く、落ち着くとシンジは行くかどうか悩んだ。

綾波の話では弐号機パイロットは女の子らしく、同い年だと聞いていた。

その子を考えているうちに何故か、綾波の顔がポンポンと出てきた。

行きたくないといえば嘘だった。僕にも興味はあったからからだ。弐号機パイロットがどんな子なのか。

シンジは挙句に悩んだ。

暫く考えている事一分。

「ん〜…行きます。どうせ会うなら早いほうがいいですし。」

「あらそう?わかったわ。後で指令にも許可を貰っておくから三日後に出発よ。忘れないでね。」

「解りました。」

そして、向こうが切れるのを確認すると受話器を下ろした。

弐号機パイロットのことを頭に思い浮かべては綾波の顔が思い浮かんでくるその繰り返しではあったが考えた結果シンジは綾波も誘っていこうということで決着をつけて行くと決めたのだ。

というわけでシンジは再び受話器を手に取って、綾波の自宅の電話番号をプッシュする。

…プルルルルルルル

受話器から電話のコール音が聞こえてくる。

暫くしてから、コール音が鳴り止んで声が聞こえてきた。

「もしもし?綾波です。」

「綾波?夜分遅くにごめんね?」

「いいの。どうしたの?」

「ええとね……………。」

シンジは先ほどまでのいきさつを説明した。

それから綾波からの了承を取って行くことになった。

 

そして、今に至るわけである。

それでリツコは綾波が行くことになることを知って不機嫌になったのだ。

シンジはリツコに睨まれているのを知っておきながらあえて無視を決め込んでいた。

というか直視できないのだ。何故なら、リツコの顔が毘沙門天のごとく恐ろしいほどに歪んでいるのだ。

目を見たら“殺される!”と思うほどに怖い。

シンジは気をそらすためにヘリの窓から景色を眺めていたが、あるのは見渡す限り海なのでずっと見てしまうとやはりどうしても飽きてしまう。かといって綾波に話をしようにもリツコが常に睨んでいるため、話題はろくに思い浮かばす。

まさに蛇ににらまれる蛙の図であった。

綾波を一瞬、チラ見をしたが彼女は全くリツコオーラに動じず微動だにせずただこっちを見ていた。

何かを訴えるような目をしていた。

それはシンジにも伝わっていた。

その目が何を意味するのか知っていた。

何故こんなにも赤義博士は怒っているの?と目が訴えていた。

実は先ほど綾波がいろんな意味で爆弾発言を言ってしまったため離陸直後よりもかなり不機嫌になってしまったのである。

「何故そんなに不機嫌でいるのですか?」と。

その時の顔はあまりにも恐ろしくて説明できないほどだ。

般若なのか悪魔なのか口ではうまくいえない。

彼女一人でも使徒一匹倒せるんじゃないかと思うぐらいだ。

流石に綾波のせいだとは言えなかったので沈黙を押し通した。

で今に至るわけで。

一緒に乗っているというだけで息が詰まる。というか生きた心地がしない。

とにかく早くついてくれと祈るばかりであった。

出発から一時間ほどしていくつもの輸送艦隊が見えてきた。

中央に一つの艦があり、大きい布で何かを隠しているようにしていた。

中央の艦を護るように円形で五、六機の戦艦があった。

 

同時刻、艦の渡り廊下から上空を見上げる少女が一人いた。

その影の人物は黄色のワンピースを身に付けて、赤銅の長髪が風になびいていた。

「やっと来たわね。待ちかねたわよ!」

少女は上空に浮かぶヘリに向かって大声で放つ。

 

ヘリはゆっくりとそれに向かって降下してゆく。

着陸場にヘリを下ろし、艦の甲板に足を着ける。

息の詰まる空間からやっと解放されてことで背をのばして、息を大きく吸う。

綾波も降りて、シンジにならって息を大きく吸う。

流石の綾波も恐怖を感じたらしい。無理もないだろうあんな空気では誰だって嫌だから。

「やっと着いたね。」

「ええ。」

「全く、さっさと用事を終えて帰りたいものね。」

後ろからの声に二人は背中を強張らせる。

ギリギリと油が切れたロボットが首を曲げるように後ろをゆっくりと見る。

しかし、もう既に禍々しいオーラは発していなくて普段どおりのリツコがそこにいた。

シンジと綾波は緊張が解かれて安心する。

「待っていたわよ!ファーストにサード!」

またも、後ろから威勢のいい高声が聞こえてきた。

二人は後ろを再度振り向くとそこにいたのは黄色いワンピースに赤銅の髪にサファイアブルーの瞳をした女の子が胸を大きくはって挑発的な態度で突っ立っていた

かなりの美少女だ。

突然、風が大きく吹き抜けた。

いたずらな風のせいで大きくスカートがめくれ上がった。

―――あ、ピンクか。

そんなことを考えているうちに拳がシンジの顔にめりこんでいた。

ジャストミートだ。

シンジは鼻血を流して後ろに倒れる。

「見物料よ!これぐらいは安いもんでしょ!」

「…碇君。大丈夫?」

「うう………なんとか。」

シンジは殴られた鼻を痛そうにしながら押さえる。

「痛えじゃねえかよ!何も見られたからってグーで殴ることないだろ!?」

久々にシンジマジ切れモード・スイッチオン♪

「はん、知らないわよ。だいだい見たあんたが悪いんだもん。」

またもや突風が吹きぬけたと思いきやそれは綾波の制服のスカートが捲れあがった。

―――あ、白かぁ。

一瞬の内に綾波がシンジの目に目潰し。

「ぐおおおおおおおおおお!目が!目がああああああ!!」

シンジは有名な某映画に出てくるム○カ大佐のように目を押さえていた。

綾波の行動にシンジとリツコは驚いていた。

最近、ショウの影響のせいか綾波も恥じらいという感情も覚えたらしく、下着を見られたことが恥ずかしくてシンジに目潰しを喰らわせたのだ。というかどこで覚えた?

「痛いよ。綾波。何で?」

「………ごめんなさい。でも貴方も悪いわ。」

綾波は恥らいながらもすまなさそうに謝る。

「見たのは謝るけど、何も目潰しなんて過激なことしなくてもいいんじゃ?」

「ちょっと!!あんた、ファーストには謝っておいて、何で私には謝らないのよ!?」

「態度が違うからだよ!お前見たいなガサツな女に謝りたくないね!」

「なんですって!!」

「ああ!?」

「そこまでよ!!」

リツコが静止する。

「女狐は…」「年増は…」「「引っ込んで(ろ・て)!!」」

「女狐?年増?……………フフフ。いい度胸しているじゃない。」

そういうと何所からともなく両手の指の間に数本の注射をとりだした。

中には透明な液体ではなく何やら、紫色やどす黒い赤色に青色など見た目からして危なっかしいような感じをしていた。

二人は怒らせていけない人を目覚めさせてしまったことに後悔し、脱兎のごとく逃げる。

「ちっ、逃げたわね。まぁ、いいわ。…あら?レイは何所に行ったのかしら?」

レイは危険をいち早く察知してヘリの陰に隠れていた。

流石に長い付き合いをしていたので、如何に恐ろしいのか存じている。

これまたショウの影響のせいか恐怖という感情も覚えたらしい。

 

ここオーバー・ザ・レインボーの艦の上に招かされざる人間が一人いた。

レーダーやパラボラアンテナの集まったところの影に一人の人間がいた。

いうまでもない。それはショウだ。

ショウは普段どおり人に顔を見せないようにフードで覆い隠し身に漆黒のコートを身に纏っていた。

ショウは遠く離れたところにいるシンジ達を見ていた。

ギャーギャー騒いでいる姿にフフフと笑みを漏らす。

「これでチルドレン勢揃いか。…さてと俺も行動開始といきますか。」

ショウはそう言ってタンと小気味いい音をたてて飛び降りた。

ショウの目的はアダムの奪取。

どれほどこの時を待ちわびただろう。

アダムさえ手には入れれば、ゼーレやNERVの計画はほとんど頓挫するといっても過言ではない。

アダムは奴らの計画の要といってもいい。

ショウは足音を殺して、忍び足で走っていく。

暫く数秒ほど走って目的のドアが見えた。

そのドア手前に立つと向こうから近づいてくる気配を察知する。

しかし、そんなことにも慌てず冷静にしながら天井に飛び移って張り付く。

やがてドアが開き、軍人らしき人が出てくる。

ショウはドアが閉まる前に軍人の背後に静かに降り立ちドアが閉まるとともに中に入った。

軍人は気づいた様子もなく、そのまま去っていった。

―――よし、まずは潜入成功。しかし、まだ油断はできない。注意しなければ!

ショウは隠密行動を進める。

いかなる敵にも気配を探られないように注意しながら走る。

ドアを開けては次の階段を見つけ、船員が近づいては隠れその繰り返しだった。

そして、ある部屋に着いた。

ドアの横にはRYOUJI KAJIと刻まれたネームプレートがかけられていた。

そうここは加持の部屋。

この先にはアダムがある。

ドアの向こうに人がいないか気配を探る。

―――気配はない。あたりにも人はいない。……やるなら今だ。

ショウは自動ドアを開こうとするが、開かない。

流石にロックされているよなぁ。仕方ない、魔法を使おう。

辺りに注意し気配がないことを確かめて、魔法を構成し始める。

如何なる扉を開かざるものは皆無なり、全てを開く鍵よ、その鍵を解除せん。開錠(クラスト)

呪文を詠唱し終えるとガチャンとロックが解除される音がした。

そして、ドアを開け中に入る。

中には白で統一されたクローゼットにマホガニーの高級机に一台のベッドが置かれていた。

それほど散らかってはいなく丁寧に整頓されていた。

ショウは目的の物を探す。

それはいとも簡単に見つかった。

「……………………。」

ショウは少しの間、呆れたような顔をする。

中身が極秘のものだというのはわかるがいくらなんでもご丁寧に机の上に置くことはないんじゃ?

そう目的の物は机の上に置かれていた。

銀のアタッシュケースの中からアダムの命の波動を感じる。

微弱ながらも確かに感じる。

アタッシュケースには四桁の数字の入ったダイヤル式の施錠が掛けられており開かない。

「これなら魔法は使わずにすぐに済むかな。」

ショウは椅子に座り、アタッシュケースのダイヤルを回す。

ダイヤルを見ると左から三番目まではまだ新品のように輝いていて傷ひとつもない。

しかし、右から一番目は少しばかり傷がついていた。回したせいだろうそれで傷がついたのだ。

なら零から九まで一つ一つまわせば開くはずだ。

そして、一つ一つまわしていく。

カチ…カチ…カチ…カチ…カチ…カチ…カチ…カチッ!

七の番でロックが開かれた。

そして、ゆっくりとアタッシュケースを開いていく。

そこにはオレンジ色の特殊ペークライトで固められたアダムがあった。

それを見て、唇を吊り上げながら笑う。

ショウはアダムの上に手をかざす。

するとペークライトの周りに淡い青の粒子に包まれてペークライトをすり抜けて中からアダムが浮かび上がる。

そして、それを右手に取り込ませようとアダムが泥に沈むような感じでゆっくりと掌に吸い込まれていく。

アダムが覚醒しないように拘束式制御魔法を構成し、手に赤の光を帯びた複雑な文様をした魔方陣が浮かび上がる。

次第に赤みを帯びていた魔方陣は薄っすらと消えていった。

「アダム奪取に成功っと。さてこいつをどうしようか。」

ショウはアタッシュケースの中にあるスポンジの上にあるアダムがなくなって、空になったペークライトをマジマジと見る。

「……………やっぱりなくなっていると知れたらまずいよなぁ。」

流石にアダムが消えたと知れたらNERVは慌てるだろうし。

そうなると新たなプランが考え出されることもあるかもしれない。

また、アダムが盗まれたなどゲンドウの奴が知ったら加持を死刑にするのは目に見えているし。

これはやっぱ避けないと加持が気の毒だな。

念の為にこいつを持ってきておいて正解だった♪

ショウはポケットから一枚のカードを取り出した。

そのカードの裏には目を閉じて微笑みながら祈る天使とボロ屑のフードを被った大鎌を持つ骸骨の死神が背中を合わせている姿が描かれていた。

そして、表には虹色の複雑な文様をした魔方陣にその中央にあるポップな感じのイラストをした女の子の妖精が本を持っているといったのが描かれていた。

我、汝と契約しうるものなり、万物を模る力を持つ妖精、エレーンよ、今ここに一時姿を現せ!

するとカードから眩い光が放たれる。

次第に光は落ち着いてゆき、手元にはカードはなくあるのは手のひらサイズの女の子の妖精が本を持ってちょこんとかわいらしく座っていた。

「私をお呼びするの何百年ぶりでしょうね?ご主人様。」

「ああ、久しぶりだな。エレーン。」

「今回はどのようなご用件でしょうか?」

「ああ、アダムをコピーして、またここに戻したいだがいいか?」

ショウは空いている左手でアダムの入っていたアタッシュケースを指差す。

「お任せください!…では貴方の記憶からイメージを引きずり出してもよろしいですね?」

「ん、頼むよ。」

ショウは両手でエレーンを乗せながらゆっくりと額に近づける。

エレーンは手を額に当てて、目を閉じる。

目を閉じるとともに手がほんのりと淡いピンク色に輝いては消えた。

手を額にあてることでエレーンの頭の中に他人の記憶を見てそこからイメージしたものを作り出すことが出来るのだ。

「はい、もうよろしいですよ。」

「じゃ、頼むよ。」

「はい。」

エレーンをゆっくりと額から放してから、机に近づき降ろす。

そして、片手に持っていた本を持って呪文を唱え始めた。

その言葉は特殊な言葉でショウでさえも何を言っているのかは理解出来ない。

これは天使言語といって特殊な言葉なのだ。

ショウも一時期、この言葉を解読しようとしたが結局わからず匙を投げたほどだ。

これは選ばれた者のみだけが理解できる言語らしいのでわからないのだ。

エレーンの手に持っていた茶色いカバーをした分厚い辞書らしきものが浮かび上がり、パラパラと紙が目にも止まらないほどの速さでめくられていく。

やがて、めくられていた紙は目的のページに達したのか止まり、そこから緑と赤と青の光の奔流が溢れ出しそこから何かが形成されていく。はじめこそは小さいスライムであったが、ボコボコと泡立てながら形を作っていく。

やがてそれは形になり、アダムのコピーが作られる。

形成が終えると光は治まり、偽アダムはショウの手のひらにポスッと乗せられる。

「ふぅ〜。久しぶりですから疲れちゃいました。」

両手を後ろにして座り込むエレーン。

「お疲れ、エレーン。」

ショウは偽アダムを再びアダムのいたペークライトの中に戻す。

アタッシュケースをしまいこんで、ロックをもう一度戻す。

「さてと、人がここに戻ってこないうちにここから一刻も早く立ち去らないと。」

「それでは私は元の世界に帰りますね。」

「ああ、ありがとうな。」

「はい、では失礼します。」

そういって、本を持って立ち上がるとくるりと一回りするとポンッと音をたてて元のカードに戻った。

ショウはカードを拾い、部屋を立ち去る。

立ち去るころには警報アラームが鳴り響き始めた。

「ガキエルのお出ましか。早く立ち去らなければな。」

ショウは足早に駆ける。

 

ガキエル襲来の四十五分前に遡る。

リツコの怒りも治まり、再び集まって自己紹介を改めて行った。

「私はセカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレー!プロダクションモデルのエヴァンゲリオン弐号機パイロットよ!」

アスカは胸を大きく張って、腰に手をつきながら威風堂々と言った。

シンジと綾波も自己紹介をする。

シンジはそっけない態度で自己紹介をする。

「エヴァンゲリオン初号機パイロット。サードチルドレン、碇シンジ。」

続いて綾波が言った。

「私はエヴァンゲリオン零号機のパイロット。ファーストチルドレン綾波レイ。」

飄々とした態度で凛と話す。

それぞれの自己紹介を終える

「そう。でも私が来たからにはもうあなた達の出る幕はないわよ!」

そうよ!私が居るからにはもうあなた達なんかは出るような幕はないわ!

何故なら私は選ばれたチルドレン。

そして、エヴァンゲリオンのエースパイロットなのだから。

しかし、かえって来た返事はこれであった。

「あっそ。じゃあ、これでもう苦労しなくて楽に済みそうだ。期待しないでいるよ。綾波、行こう。」

「ええ。」

あっさりとアスカをスルーする。

もちろん、こんな態度をとられては無視できるはずもなく二人に怒鳴る。

「ちょっと待ちなさい、ファーストにサード!」

「なんだよ?セカンド。」

「セカンドって呼ばないでよ!」

「自分は良くて、人から呼ばれるのは嫌ってか?我が侭なじゃじゃ馬だな。」

「誰がじゃじゃ馬よ!私はいいのよ!」

「悪いけど、あっち行っててくれない?五月蝿くてたまらない。」

「なんですってぇ!?」

暫く、二人はギャーギャー言い争っていた。

綾波は我関せずといった風に傍観するのみだった。

リツコは出会って早々に仲を悪くするチルドレン達に頭を痛めていた。

 

ここ、操縦室にリツコはシンジ達を率いて来ていた。

「この度はエヴァンゲリオン弐号機の輸送に協力してくださってありがとうございます。」

「何、構わんよ。こんな大層な物一つ運ぶだけでも光栄だよ。こいつが地球の命運を握っているのならこの仕事喜んで引き受けるよ。」

「頼もしいですわね。それではこれはエヴァの非常電源用ソケットの仕様書です。」

「海の上でも泳がせるつもりかね?」

「ご冗談を。万が一の非常事態の為の備えだとご理解いただきたいのです。」

「万が一のために我ら太平洋艦隊が護衛をしておる。心配はご無用じゃよ。」

「ええ、ですがやはり念には念を押して呼んでいただきたいのです。」

「用心深いのう、まぁいいじゃろう。一応目を通しておくよ。」

貫禄のいい艦長にリツコは書類を手渡す。

艦長はそれを丁寧に受け取る。

「それではこちらのほうにサインを頂けますか?」

「悪いが、それはできんよ。」

「何故です?」

「エヴァ及びその操縦者の引渡しは向こうに着くまではサインは出来ん。」

艦長が手を出して、“NO”といった身振りで断ると艦長の後ろに居た男が口を出す。

「海上は我々の管轄です。申し訳ありませんが口出し無用でお願いします。」

「そうですか。わかりました。…万が一の為に使徒が襲来して来た場合、NERVの指揮権が最優先されることになることをお忘れなく。使徒が襲来してこないならそれはそれで助かるのですけどね。」

「できればあってほしくはないが、いいだろう!その時はお前たちに任せる。」

「ありがとうございます。」

リツコは艦長と副艦長に礼を言う。

そして、横から男が話しかける。

「相変わらず凛々しいねぇ、りっちゃん。」

「加持さん!」

声のするほうにその場に居た者が目を一斉に向ける。

向けられた先にはNERVの関係者らしく、赤のネクタイに薄い紺のシャツに黒のズボンをしていた男が居た。

「あら?加持君もこの艦に乗っていたの?」

「おいおい、りっちゃんのことだからこの俺が乗っていることは知っていると思ったんだけどな。」

「失礼ね。」

「加持君。私は君をここに呼んだ覚えはないはずだが?」

「失礼、ここに知り合いが来ると聞いたもので居てもたっても居られなくなりました。」

加持は冷静に大人の態度で飄々と艦長の言うことをさらりとかわす。

「それでは私達はこれにて失礼します。」

「うむ。」

リツコは一礼して、シンジ達を連れて操縦室を後にした。

操縦室をあとにしたリツコたちに艦長は顔をしかめる。

「まさか、あんな子供達が世界を救う鍵とはな。」

「全く世も末ですね。議会もあのエヴァとか言う奴に期待をしているらしいですよ。」

「ふん、そんな金があるなら少しはこっちに回せってモンだ。」

苦々しげに言う艦長に副艦長はやれやれといった風に肩をすくめる。

「……それにしてもあんな子供に頼らなければならないと言うのは酷だな。」

「ええ、私たち大人の非力さを感じられずにはいられませんね。」

「私には孫娘がいるが、その子もあの子供たちと同い年でな。…全く大人がどうして子供を戦場に出さねばならんのだとつくづく思うばかりだよ。」

「……それはなんともいえないですね。」

「全くだよ………。」

艦長と副艦長はまだ見えぬ目的の方角を見据えていた。

 

ここ、士官食堂でリツコと加持そして、アスカ、シンジ、綾波が一つのテーブルを占領して食事をしていた。

「ここに来るならミサトだとばかり思っていたけどミサトはどうしたんだ?」

「ああ、今は戦略自衛隊のところで研修生として訓練を受けている最中よ。」

「マジ?じゃ、あの情報は本当だったのか。」

加持はドイツに居る間でも各地のNERVの情報を常に調べているのだ、その中で日本にあるNERV本部の情報だけが優先され、そこを重点的に情報を得ていたのだ。

「なんでまた自衛隊なんかで研修受けているのよ?」

アスカはミサトとはドイツでの大学で知り合いなので知らないこともないのだ。

「なんか、使徒との戦いで自分の指揮に自身を持てなくなったからって再度、自衛隊で研修を受けているのよ。」

「はぁ〜?ミサトの考えていることってわかんないわね〜。」

「まぁ、自分を磨くいい機会じゃないか。どう成長するか期待するとしようじゃないか。」

暫く、話が続き盛り上がった。

突然、加持はシンジに話しかけた。

「そういえば、シンジ君は始めてエヴァに乗って使徒を殲滅させたとき、シンクロ率最高七十パーセントを超えただって?」

シンジの眉が少しピクリと反応した。

アスカも加持の言葉に驚いて素っ頓狂な声をあげる。

「嘘!?こんな冴えないのが七十パーセントを超えるなんて何かの間違いじゃないの?」

「あら、私が調べたんだもの間違いないわよ。」

リツコもアスカの言葉にカチンと来たのか言葉を返した。

「おいおい、冴えないとは失礼じゃないか。彼だって曲がりなりにもエヴァのパイロットなんだぜ?」

「………生憎、使徒を殲滅したのは僕じゃありません。殲滅したのは彼ですよ。」

「え?彼って?」

「貴方も知っているとは思うけどその時はエヴァシャドウのパイロットが殲滅したのよ。」

「エヴァシャドウだって!?ちょっと待てよ!そもそもエヴァって全部で零号機から弐号機までの三体のはずだろう!?だとしたら数が合わないじゃないか。」

加持はエヴァシャドウの存在を知らなかったのか、驚いたような声をあげる。

加持も知りうるはずがない、そもそもエヴァシャドウは本来ないはずの存在しないエヴァなので公にしてはまずいということで最重要極秘とされているため一般のNERV関係者の権限ではこの情報は閲覧することができない。

ハッキングしたとしてもかなりの極秘レベルなのでそうそう簡単に手に入れることなどできないだろう。

「ちょっと待ってよ!何なのよ?さっきからエヴァシャドウとか言っているけど私にもわかるように説明してよ!」

「ここだけの話よ?…そもそもエヴァシャドウなんてエヴァは存在なんてしないはずなのよ。」

「えっ?」

NERVのMAGIを使って調べても他支部で造られたなんて情報はおろか全くの不明のエヴァ。」

「ちょ…じゃあ、パイロットは誰なのよ?」

アスカも流石に驚かずにはいられなかった。

「…名前はわからないわ。ただ、彼は“Nobody(存在しない者)”とかっているから呼び方は“ノーバディ”とかエヴァシャドウの名前から“シャドウ”とか呼んでたりしているわ。…そうそう、本人の承認を受けたわけじゃないけど彼を存在しないチルドレンということで“ゼロチルドレン”と登録までしているのよ。」

「何それ!?存在しないチルドレンなのにゼロチルドレンって勝手に登録しているの!?図々しいにもほどがあるわ!」

「図々しいって…だから上の人が勝手に登録したのよ。」

「存在しないチルドレン…ゼロチルドレンねぇ。興味深いな。…りっちゃん、もっと詳しい話を聞かせてくれないかい?」

「話してもいいけど…面白くもないわよ?」

「いいんだ。」

「…そうねぇ。いつも何かしら窮地に立たされると助けてくれているって感じだったわね。忌々しいけど。」

本来、NERVは使徒を殲滅するためにあって使徒に対するためにエヴァを作ったにもかかわらず、何処の者かわからない者が存在しないエヴァに乗って使徒が殲滅されているのだ。

これまでにNERVのエヴァは使徒を殲滅した例がないことにリツコは苦虫を噛み潰すような表情になる(最もラミエル戦ではNERVのエヴァが殲滅したと言うことになってはいるがリツコ個人では納得ができず、NERVのエヴァが殲滅したとは思ってはいない。)。

「助けられているのかい?」

「ええ、でも第五使徒のラミエルの時は現れなかったけど。」

「ということは第三、第四の使徒のときに出てきたのかい?」

「そう。もしかしたらこの後も出てくるかもしれないわね。」

「ふん!そんな奴の助けなんて要らないわ!シャドウだかノーバディだか知らないけど、助けを借りるまでもなく私が全ての使徒を殲滅してやるわ!」

「頼もしいな。期待しているよ。」

「まっかせなさいよ!サードやファーストの手も要らないぐらいに倒してやるわ!」

アスカは加持に期待されていることに喜び、調子付いてサード(碇シンジ)とファースト(綾波レイ)を見下すような感じで胸を大きく張って答える。

「シンジ君にレイちゃんも期待しているよ。シンジ君は実戦での経験は一番だから君なら何とかしてくれていると信じているよ。」

「はぁ、どうも。」

アスカはシンジが一番だということが耳に入り、それを快く思わなかったのか顔が険しくなり、視線をシンジに向けて睨み付ける。

―――こいつが一番?違うわ、私が一番なのよ!

―――シンクロ率なんてすぐに追い越してやるわ!

―――私こそが選ばれたチルドレン、エースパイロット、惣流・アスカ・ラングレーよ!

―――私が居る限りあんた達の出る幕はないわ!

―――見ていなさい!ファーストにサード!

アスカの中に渦巻く黒い感情とはよそにシンジと綾波は飯を食っていた。

 

数分後、シンジと綾波と一緒に風に当たりに行こうということで廊下を歩いていたところをアスカに呼び止められた。

「ちょっと待ちなさい!サード!」

「無視しよう。綾波。」

「ええ。」

「待ちなさいって言ってんのが聞こえないの!?」

「なんだよ?赤毛猿。」

「誰が赤毛猿よ!?まぁ、それはさておきちょっとついてらっしゃい。」

「今から綾波と一緒に行くところがあるんだ。行くなら一人で行ってよ。」

シンジは再度、綾波と歩み始める。

アスカも流石にカチンときて叫ぶ。

「待ちなさいよ!!」

「うるさいな。あっち行けよ。」

「そうはいかないわ!私についてきなさい!」

「僕の意思は?」

「却下よ!」

シンジもここまで直球で言われると流石に怒り、無視を決め込む。

綾波もそれにならってシンジの行く先に付いていく。

アスカも怒りボルケージが限界を超え、強硬手段に出る。

ガシッ…ギリギリギリギリギリ。

痛ててててててて!!

アスカはシンジの耳を掴みだしたのだ。

暫く、シンジはアスカに耳を掴まれながらある場所にまで連れて来られた。

 

エヴァ弐号機・臨時格納庫INオセロー

シンジと綾波はアスカに連れてこられて、戦艦オセローのエヴァ格納庫に来ていた。

アスカが防護シートを捲りあげるとそこにはなみなみと液体プールの中から上半身を露呈した紅のカラーリングをしたエヴァ弐号機が姿を現した

アスカはエヴァ弐号機の上に乗ってまるで自分が一番であると誇示するかのようにシンジ達を見下していた。

「いい?所詮、零号機と初号機は開発過程のテストタイプとプロトタイプ。訓練なしの貴方がいきなりシンクロして動かせるのがいい証拠よ。けどこの弐号機は違うわ!」

「「………」」

「何故なら、この弐号機は実戦用に作られた世界初のプロダクションモデルの本物のエヴァンゲリオンなのよ!」

アスカは胸を張って威張るようにして話す。

シンジと綾波はアスカの説明など聞いていないのか上の空だった。

「実戦用も何も、戦い方によってはテストタイプだろうとプロトタイプだろうと関係ないだろ?」

「プロダクションモデルといってもパイロットがうまく動かせないようでは意味がないわ。」

「うまいこと言うねぇ!確かにそのとおりだ。」

「あんた達もそんなことを言っているのも今のうちよ!」

とその時突然の激しい揺れが起こる。

シンジと綾波は突然の揺れに床に倒れる。

「きゃ〜〜〜〜っ!!」

アスカは今の揺れで足を滑らせてプールに落ちる。

「くっ!今の何だ!?」

「水上衝撃波だわ。使徒が攻めてきたのかもしれないわ。」

「なんだって!?」

シンジと綾波はすぐさま立ち上がり外へと繋がる階段へ向かって走り出した。

「ちょっとぉ〜〜〜!!置いていかないでよ!」

アスカはまだプールに入っていた。

シンジと綾波は外に出ると目に入ったのは大きな水柱をたてて船が沈む様子だった。

「間違いないね。」

「ええ。」

「「使徒だ。」」

シンジと綾波の言葉が見事にハモった。

 

戦艦オーバーザレインボー・操縦室

「シンメリン沈黙!タイランド、リカス目標確認できません!」

「くそっ!!最悪の事態が起きてしまった!」

副艦長の言葉に言葉を濁す艦長は舵に拳を叩く。

そこにリツコが操縦室に姿を現した。

「間違いなく使徒ね。このままではやられてしまうわ。エヴァを起動するしかありません。」

「まだだ!このままでは引き下がれん!!私達にも軍人としてのプライドもある!」

N2魚雷発射準備が整いました!いつでもできます!発射許可を!」

「無駄よ。使徒にはATフィールドがあるわ。それを崩さない限り勝ち目はないわ。」

「それは今までの使徒では陸上の場合ではだろう?水中の使徒に対してはどうだろうな?」

「しかし、使徒には通常攻撃は効かないのよ?」

「ものは試しさ。やってみないことには何も始まらんよ。」

「艦長!」

「許可する!放てぇ!」

艦長の威勢のいい指示に各戦艦から幾数のN2魚雷が使徒に向けて放たれる。

そして、魚雷が目標に当たり数本の水柱が天にむかって放たれては雫になって海に落ちる。

「どうだ!?」

目標に手応えありと信じて止まない艦長の目に後に絶望へと変わる。

使徒はまだ死んではいない。

それどころか全く攻撃を受けた様子を見せず、艦に向かって体当たりをする。

また一つ戦艦が沈んだ。

「くそ!化け物め!!」

 

加持は手すりに寄りかかって双眼鏡をのぞき見て使徒の戦いを見物していた。

ATフィールドの出現させている様子はない。…その上、全くの無傷。頑丈だな。」

加持は携帯電話を上着のポケットから取り出すとダイヤルをプッシュし、電話を繋げる。

「碇指令ですか?こっちでは使徒が襲来していますよ?こんなところで使徒襲来とは、話が違いませんか?」

「問題ない。そのための弐号機だ。弐号機パイロットも居る。…最悪の場合、君だけでも脱出したまえ。」

「了解しました。」

受話口からツーツーと電話の切れる音を確認すると携帯電話を仕舞い、加持は双眼鏡を仕舞い込むとその場を去った。

 

「これは大物だな。…使徒って食えるのか?だとしたら、食糧問題も少しは気休めにはなるだろうな。」

ショウは相変わらず漆黒のコートを見に纏いながら、あぐらをかいて座り、人からは見えない場所で使徒を見物していた。

どうやら、ここでエヴァ弐号機がどう戦うか胸を躍らせながらエヴァが出てくるのを待っているようだ。

 

シンジと綾波は未だにオセローの艦の上に乗っていた。

「僕たちにはエヴァもないから戦おうにも戦えないね。」

「ええ、本部までまだ遠いから乗ろうにもできないわ。」

「僕たちはここで歯を食いしばって見ることしかできないのか………!!」

その時、後ろから声が聞こえた。

「あんた達が出るまでもないわ!あたしが出撃して殲滅するわ!」

アスカは先ほどまで着ていた黄色のワンピースではなく、赤を基調としたプラグスーツを着ていた。

「セカンド!それって、プラグスーツ?」

「セカンドって呼ばないでって言っているでしょう!!言うまでもなく私が出撃するのよ!」

「そうかエヴァ弐号機!」

「残念ねぇ。あんたたちの出番はなくって。」

アスカはここぞとばかりに嫌味をシンジ達に言う。

しかし、シンジ達は。

「まぁ、喰われないように祈っているよ。」

「…期待しないでいるわ。」

返ってきた言葉は何処か棘があった。

アスカは返ってきた言葉に少し腹をたてたが、ここは我慢!ということで収まった。

「ま、まぁいいわ!あんた達は私の華麗な戦いを眼にとくと拝んでいるがいいわ!」

場所は変わって、同時刻、オーバーザレインボー操縦室。

「くそ!N2魚雷も効かないとなると………。」

艦長は使徒に対して、通常攻撃はおろかN2魚雷も効かないことに腹をたてていた。

「エヴァが出撃して殲滅するしかありませんわ。」

「………………くっ、止むを得まい。」

「……………。」

「指揮権を私達、国連軍よりNERVへ譲渡する!君たちに任せるしかないようだ…。」

艦長は悔しさで一杯だった。苦い思いで指揮権をNERVへと譲渡する。

「オセローより入電!エヴァ弐号機が起動しました!」

「アスカ?」

『こちら、エヴァ弐号機!アスカよ!』

「いいタイミングね。…アスカ!たった今、指揮権はこちらに譲渡されたわ。これより貴方に命じます。まず、向かいの艦に予備電源のソケットが置かれているわ。そこに飛び移って装着し、使徒が海上から出るのを見計らってプログナイフで皮膚を切り裂いて、コアを破壊して頂戴。」

「飛び移るだって!?」

『了解!』

アスカは威勢よく答えるとインダクションレバーを握り締め、エヴァを動かす。

オセローの甲板より布に包まれたエヴァが動き出し、向かいの艦に飛び移ろうとする。

その時、ガキエルがオセロー艦に向かって体当たりをかましたのだ。

艦の船底が粉砕されて沈もうとする前にエヴァ弐号機は勇ましく跳躍し、布を脱ぎ放って、向かいの艦に着艦したのだ。

エヴァの自重に耐え切れるはずもなく、巨大な波しぶきがイージス艦の周りに飛び散った。

間一髪、難を逃れてエヴァ弐号機はイージス艦に着艦した後にアンビリカルケーブルを装着した。

そして、再度エヴァ弐号機は跳躍して、また別の艦へと飛び移る。

『エヴァ弐号機着艦しま〜す!』

「総員対ショック姿勢!!」

「無茶をしおって!」

艦長はアスカのすることに非難の声をあげながらエヴァ弐号機を見守る。

 

ところ変わって沈没寸前のオセロー艦。

「ぐぐぐぐぐぐぐ。綾波、しっかり!」

船底が粉砕されたためにだんだん船が傾いてきているのだ。

シンジは左手に手すりを掴み、右手で綾波の手を掴んでいた。

こうしているいうちにもだんだん船体は傾いていく。

このままではシンジの手も耐え切れず自分ごと綾波も海の藻屑となってしまうだろう。

「ぐ…うぐぐぐぐぐっ。」

もう限界だ。

このままでは落ちてしまう。

とうとう、シンジにも腕が耐え切れず、手すりを離してしまう。

「うわあああああああああっ!!」

その時、傾く船体を駆ける漆黒のコートを纏う者が居た。

それは紛れもなくショウだ。

慈愛に満ちる大地よ、我の足を束縛せし鎖を解放せ!飛翔(ウィング)

ショウはシンジを左脇に抱え、綾波を抱きかかえると空へと浮かび飛んだ。

シンジと綾波はもう駄目だと目を硬く閉じていたが、いつまでも来ない息苦しさに疑問を覚えた。

むしろ、浮遊感に違和感を覚え、目を少し開けた。

「うわわわわ!!と、飛んでるううううう!!」

「喋るな。舌を噛むぞ。」

「えっ!?あっ!ノーバディ!?」

シンジは脇をショウに抱えられていることに気が付いた。

「………まぁ、名前は間違ってはいないな。シャドウでいい。」

「それよりさ、一体何者!?普通、人間は空を飛ばないよ!?」

「…あー、説明している暇はない。」

ショウはもう投げやりな感じで答える。

ショウは先ほどまでレインボー艦の上に乗っていたのだがアスカの乗るエヴァ弐号機が跳躍するとともに船体が使徒の体当たりのせいで傾いてしまい、シンジと綾波がピンチになっていることに気が付いて救助に向かったのだ。

ショウの視力はかなりのものだ。常人の三倍、6.0以上はある。

しかし、オセロー艦とレインボー艦との距離が大きく離れているのもあって、双眼鏡がないと見えにくいといったところだったが、ガキエルの力をはかるために双眼鏡を持っていたのが幸いした。

そのおかげでシンジと綾波が海に落ち掛けていることに気が付くことができたのだ。

綾波もショウに抱きかかえられながら飛んでいることに気がついた。

目は大きく開いていた。驚いているのだろう。

人間が空を飛ぶなんてことは本来ありえないことだからだ。

それでも、シンジとは比べ慌てる様子は全く見られず、至って冷静だった。

綾波はショウの顔をフードの下から覗き込む。

「牧…。」

「シャドウだ。それは言っては駄目だ。」

ショウは綾波が自分の名を呼ぼうとしていることにすぐさま気が付いて綾波の言葉を遮った。

「何故?」

「理由は今度話す。だから頼む。その名を言っては駄目だ。」

「わかったわ。シャドウ。…助けてくれてありがとう。」

「ああ、海に落ちるんじゃないかと冷や汗をかいたよ。」

「ねぇ、綾波!今なんて言おうとしたの?まき…なんて?」

「落とすぞ?」

ショウは少しシンジを脇に抱えていた力を緩ませる。

これは本気だと思ったのかシンジは慌てる。

「うわあああああ!!わかった!わかった!聞かない!だから落とさないで!」

やがて、レインボー艦近くの上空まで達したので二人を下ろすためにゆっくりと速度を緩めながら、降りていった。

作業員の見えないところでゆっくりと着地した。

シンジを脇から手放し、綾波を丁寧に下ろしてやる。

「牧…シャドウ、助けてくれて本当にありがとう。」

「何者か知らないけど、シャドウ、助けてくれてありがとう。」

「礼には及ばない。ただ、このことについては内緒にしていて欲しい。」

「ええ。」

「どうして?」

「人間が本来持ちえるはずのない力を持っているなどと知れてしまったら厄介なことになるからだ。」

「あれはいったい何?」

「これ以上は聞かないでくれ。あまりこの力を知られたくはない。」

「…わかった。このことは誰にも言わない。助けてくれたし。」

「すまないな。」

ショウはそう言うと疾風のように消えた。

「消えた!?彼は一体?」

「行きましょう。」

「あ、待ってよ。」

シンジと綾波はショウに助けられ、命びろいしたが、またもや命の危機にさらされるのは知る由もなかった。

 

エヴァの着艦の衝撃により戦艦の傾きから戦闘機が落ちてゆく。

「愛しの戦闘機!HAYATE−V2ぅぅぅ!!Air−Fighter21がぁぁぁぁぁ!!」

艦長は戦闘機が海の藻屑になったことにさめざめと涙を流す。

艦長の悲痛な叫び声とはよそにアスカはガキエルの襲撃に注意して集中していた。

電源限界時間表示機は8の数字で一杯だった。無限を現している証拠だ。

エヴァ弐号機のウェポンラックよりプログナイフを片手に装着する。

ガキエルもエヴァ弐号機のいる艦に向かって泳いできた。

肉眼でも確認できるほどに巨大だ。

距離が零になると同時に水面から巨大な体を現すと正面からエヴァ弐号機に体当たりをかます。

エヴァ弐号機もガキエルを押さえるが、ガキエルの自重に加えて特攻の衝撃力に耐えうるはずもなかった。

ガキエルが突撃したために戦艦も傾き、エヴァはバランスを崩す。

そして、慣性の法則に伴い海へと落ちた。

「きゃあああああああ!!」

「まずいわ!B型装備では水中戦では圧倒的に不利!」

リツコが叫び声にも似た声で言った。

アンビリカルケーブルはリールが休むことなく凄い勢いでケーブルが引っ張られていった。

とその時、甲板から一機の戦闘機、日本の生み出した最強の垂直離陸用戦闘機SAMURAI−Uが姿を現した。

機体は蒼を基調としているのが特徴の戦闘機。

「加持君!?何か策でもあるの?」

『悪い、りっちゃん。俺、届け物があるんで先に本部に帰るわ。』

「えっ?」

そう言っている間にも垂直離陸用のブーストが火を吹いて、宙に浮かび、日本の方角へと機体を向けるとメインバーナーのエンジンが唸り声をあげては空へと飛び去った。

「…逃げおった。」

「加持君………日本男児なら、侍の国に生まれた男なら敵前逃亡するんじゃないわよおぉぉぉぉぉ!!」

リツコは敵前逃亡する男・加持リョウジに対して叫んだ。

『ちょっとぉぉぉぉぉ!!なんとかしてぇぇぇ!!』

アスカからの通信にリツコは我を取り戻した。

「どうしたの!?」

『喰われちゃったのよぉぉぉぉ!』

「なんですって!!」

アスカはガキエルに食べられていたのだ。

というより咥えられている格好ではあるが。

プログナイフはいつの間にか落としてしまったらしく、絶大絶命に陥っていた。

ちょうどその時だった。

レインボー艦より離れた空中より黒い影が突如現れた。

「艦長!あれは一体!?」

「なんだ!?」

黒い影は一瞬にして形を成しては整えられていく。

「あれは………エヴァシャドウ!?」

リツコは突然のエヴァシャドウの登場に驚く。

 

「アスカも少しはまともに動いてくれると思ったけどガキエルに喰われたじゃ世話ねぇな。」

エヴァシャドウのパイロット、ショウはアスカに対して呆れたように言う。

インダクションレバーを握り締めてはエヴァシャドウを動かせる。

リツコは突然現れたエヴァシャドウに対して驚いていたが、さらにもっと驚くものを見てしまった。

それは何か?

「「「エヴァが泳いでいるうぅぅぅぅぅぅ!?」」」

艦長と副艦長、リツコは叫んだ。

ちょうどシンジと綾波も操縦室に入ってきた。

「あの質量で…。」

「あの巨体で…。」

「…泳ぐなんてありえないわ!普通、自重で沈むはずよ!なのに何で浮かんでいられるの!?非科学的よ!!」

もはやリツコはヒステリー気味で叫んでいた。

科学者としての脳が警鐘で鳴り響いていた。

原因はエヴァシャドウのボディにATフィールドを纏っているのだ。

ATフィールドをコントロールすることで地球からの重力を反転させることで浮力を得ていたのだ。

それによってエヴァの水泳を可能にさせたのだ。

ATフィールドこそ解明はされてはいないが。

しかも、器用にもエヴァシャドウはバラフライで泳いでいた。

このままでは艦に激突する。

しかし、激突をするどころか緩やかに減速して深く潜ってはいきなり水面から飛びあがってきた。

そして、クリスタル艦に着艦した。

エヴァシャドウは腰にある小太刀二刀を模った刀を鞘から抜き出す。

「さてと、魚取りといきますか♪…少し、アダムの力を借りるぞ。」

ショウは右手の甲より魔方陣が淡い赤い光を放つ。

 

「いやぁ〜〜〜〜!もう何とかしてぇ〜〜〜!!」

アスカのエヴァ弐号機は未だにガキエルに咥えられていた。

ガキエルは食い千切ろうと歯に力を込めようとした途端にある波動を感じ、エヴァ弐号機を放った。

「えっ!?」

アスカは訳もわからず混乱する。

ガキエルはもう既にエヴァ弐号機から離れていってしまった。

「何が起こっているの?」

ガキエルは水面に姿を現そうとしていた。

「……来る!」

ショウはガキエルが出現するのを警戒し、エヴァシャドウは刀を斜め十字に構える。

そして、ついに水面から大きい水飛沫をあげて姿を現した。

先ほどのエヴァ弐号機と同じくエヴァシャドウに体当たりを食らわせるつもりだ。

ショウはそれを難なくかわし、ガキエルの腹の下に潜り、腹に刃をたてる。

ガキエルの腹から血飛沫があふれる。

ガキエルは苦しそうにうめき声をあげて海へと逃げ込む。

「流石に厚い皮膚に護られていてコアには届かないか。」

ショウは冷静に使徒を分析する。

ウェポンラックよりコンパクトロッドを取り出し、二つの刀を両端に装着する。

「これなら届くだろう。さぁ、来いよ。ガキエル。」

ショウはさも楽しそうに言う。

再び、ガキエルは大きく口を開けてエヴァシャドウを喰らいかかってきた。

「やばい!」

間一髪でかわし、ガキエルは海へと再び潜った。

「ガキエルのやつ、鋭い牙持っていやがる。あんなのに喰いつかれたら終わりだな。」

また、ガキエルはエヴァシャドウに襲いかかろうとしていた。

今度は大きく離れたところでUターンして、緩急をつけて向かってくる。

「緩急をつけて勢いで海に押し込むつもりか?甘いな。」

ガキエルはさらに勢いを増し、距離はさらに縮んでいく。

エヴァシャドウもガキエルの攻撃に対し、槍を構える。

「……5……4……3……2……1」

ショウは接触までのカウントダウンをとってタイミングを計る。

「……0!」

ゼロと言った瞬間にガキエルは水面から現し、ショウも同時にインダクションレバーを引く。

エヴァシャドウはガキエルの側面に回りこみ槍を引いて、瞬時にコアごと貫く!

これに伴い、ガキエルは力を失う。

力を失い、甲板に落ちる。

幸いにも海に沈むことはなく、耐えうることが出来た。

「ガキエル…獲ったどーーーーーー!!」

エヴァシャドウは天に向けて人差し指を指す。

 

後に、海に沈んだエヴァ弐号機もついでに引き上げた。

どうも、ガキエルに引っ張りまわされたせいかリールの巻き上げ機が破損してしまったらしく、手助けをしていた。

もはや、魚の餌を巻き取る状態であった。

アスカはガキエルに吐き出された後、頭部を海底にある岩にぶつけてしまい、フィードバックで気絶していた。

引き上げた後にシャドウエヴァは海へダイブし、日本の方角へと泳ぎ去った。

去った後にガキエルの刺身パーティが船上で行われ、外人に好評であった。

「オウ!コレハウマイデース!ベリーグッドネ!」

「デリシャス!刺身サイコーネ!」

外人は刺身が好物のようだ。

「っていうか使徒って食べても大丈夫なの?」

「……問題ないと思う。」

シンジと綾波はなんだかんだでガキエルの刺身を食べていた。

「ぶつぶつ……ありえないわ。エヴァが泳ぐなんて……ぶつぶつ。」

リツコもなにやら怪しげに呟いてはいるものの、ガキエルの刺身もちゃっかりと食っていた。

暫く、日本に着くまで刺身パーティが行われていた。

流石にガキエル全て食べきれないので残ってしまったものの、港でバラバラに解体して刺身にして魚介市場で限定食品として大ブレイクした。

紆余曲折あって、チルドレン一行は無事に日本に行き着いた。

 

―同時刻・NERV本部・総司令執務室―

相変わらず、薄暗い部屋の中。三人の人影があった。

ゲンドウと冬月。そして、それらに対して立つ者はNERV所属諜報部の一人、加持リョウジだった。

「全く、波乱に満ちた船旅でしたよ。…まさか海の上で使徒に出くわすとはね。」

加持はゲンドウのデスクの上に銀のアタッシュケースを乗せる。

そして、ロックを解除し開く。

「やはり、これのせいですか?」

開かれた中身は硬化ペークライトで固められた偽アダムが入っていた。

「すでにここまで復元されています。硬化ペークライトで固められていますが…。」

ケースの中にあるアダムが既にショウの手によって掏りかえられている事に気が付くはずもなく、語り続ける。

「間違いなく生きています。」

「……………。」

「人類補完計画の要ですね。」

「………そうだ。」

先ほどまで無口だったゲンドウが唇を吊り上げながら答えた。

「最初の人間…アダムだよ。」

ゲンドウもまたアタッシュケースの中に眠るアダムを見る。

しかし、これがショウによってすりかえられていることは知る由もない。

この時でもう既に人類補完計画の半分以上は頓挫していた。

ゲンドウがショウの手によって作られたピエロ即ち道化師になっていることを知るのはまだ先の話だった。

 

                             ……………To Be Continued