ここ崩壊した丘陵のふもとにある“NERV仮設第四研究所”にシンジはミサトと一緒に視察に来ていた。

本来ならここには中学生がはいっていいいような場所ではないが、彼はNERVに所属しているのでノープロブレムである。

ここの関係者なのだろうか、作業着を着る者もいれば、白衣を着ている研究者のような者が所々で作業を行っていた。

建物の中は一応、照明で明かりを付けてはいるものの、少し薄暗い。

シンジとミサトの目の前には巨大なモノが置かれていた。

それが最初は何なのかは解らなかったが、巨大なものということですぐに何かわかったのかはそんなに時間はかからなかった。そう、これは使徒なのだと。

前回の使徒戦で戦った第四使徒シャムシエルの残骸が目の前に置かれていた。

「これが僕達の敵なの?」

シンジの第一声がそれだった。

とそこにリツコがやってきた。

「コア以外はほとんど損傷もなく原型を留めているから理想的なサンプルよ。」

「あ、リツコ。」

リツコの声に気がついて自分の後ろを振り向く。

そこには白衣姿にタバコをくわえているリツコの姿があった。

「で、どう?何かわかったことはある?」

「そうね。ちょっと来てもらえるかしら?シンジ君も来てくれる?」

「あ、はい。」

そして、シンジとリツコ、ミサトは研究所の中にある簡易のプレハブ小屋みたいなところでリツコはパソコンから使徒に関するデータベースを呼び出し、それを見ていた。

そこには第四使徒シャムシエルの名前と何かしらのグラフらしきものが表示されていた。

「これを見て御覧なさい。」

「ん?」

「使徒は光と波動で構成されていることが判明したわ。」

「ふんふん、それで?」

「それがねぇ、これは地球上のどの物質・原子にも該当しないものなのよ。」

リツコはタバコを灰皿の上に置き、煙をハァ〜と吐き散らす。

「それって、もしかして反物質ってものですか?」

シンジが横から話しかける。

「あら、よくわかったわね。そうだけど、それだけじゃないわ。」

リツコがカタカタとキーボードに指を走らせて、文字をインプットする。

そして、新たにウィンドウが開かれそこに計測器みたいな画面が表示され、その上にこう記されていた。

code:601”

「なによ、これ?」

ミサトが怪訝そうな顔をして顔をしかめる。

「これはMAGIの分析結果だけど。解析不能のコードが出てくるばかりよ。」

「つまり、わけわかんないってこと?」

「ええ、つくづく私達の科学の限界ってことを思い知らされるわ。」

リツコは再度キーボードに指を走らせる。

また新たにウィンドウが開かれる。

画面には数学的な式と数字とアルファベットに何かしらの配列のパターンが表示されていた。

「これは?」

「使徒の独特の固有波形のパターンと遺伝子の構成の配列パターンよ。この数字を見て御覧なさい。」

シンジとミサトは画面の右下にある表示された数字を見る。

そこには“99.89%”と表示されている。

「構成要素に違いはあるけど、遺伝子の構成が99.89%なのよ。」

「それって人間に近いじゃないですか。」

「理解が早いわねシンジ君。そうなのよ、人間にほぼ酷似しているといっても過言じゃないわ。」

リツコは灰皿に置いたタバコを手にし、口に咥える。

「まったく、私達科学者は頭を痛めるばかりだわ。」

シンジは何の気なしにクレーンに乗せられているコアのもとに歩んでいる父を見つける。

傍には冬月と2、3人の科学者らしき人が付いていた。

シンジは少しでも父が見えるようにプレハブの入り口まで歩む。

手袋をはずして、コアに直接触れながら調べるようにしている。

そして、手が後ろに組まれる。

シンジはその手に火傷らしきものを見つけた。

「……………火傷のあと?」

シンジは訝しげにそれを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―EVANGERION―

Another Story

漆黒の騎士と白衣の天使

 

―第七話―

--- You yearn for what in the world watching the same sky---

---同じ空を見る世界であなたは何を想う---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾波 レイ 14歳

マルドゥック機関により選抜された最初の被験者、ファーストチルドレン

エヴァンゲリオン試作零号機専属操縦者

過去の経歴は抹消済み

血液型、誕生日、出生地も同じく不明

 

太陽の暑い日ざしが、グラウンドを照らし、グラウンドの土から熱い熱を放つ。

ここ第三新東京市立第一中学校のグラウンドで体育の授業が行われていた。

男子はグラウンドでバスケットの授業を、女子はプールで水泳の授業が行われていた。

プールの隅っこでスクール水着を着て、体育座りをしている綾波の姿が見える。

彼女の肌は病弱さをイメージするかのように肌白かった。

しかし、その肌は穢れがないほどに純白で美しさを帯びていた。

女の子なら誰もが羨ましがるほどに綺麗だった。

バスケットのチーム分けで今、別のチームが試合をしているのかシンジはコートラインから離れたところで休憩をとって手を後ろにして、地面に付けながら座っている。

その休憩の間にシンジはプールの方に目を向けていた。

その目線の先には、体育座りをしている綾波だった。

「な〜に、熱い目で誰見とるんや?センセ?」

トウジがシンジに話しかけてきた。

トウジもシンジの目線の先を追うようにして見る。

「え?あ、ああちょっとね。」

「ほ〜綾波かぁ。センセも隅に置けんやっちゃやなぁ。」

「なになに?どうした?」

ケンスケもシンジとトウジがこそこそとやっているのを見つけてやって来る。

シンジもケンスケとトウジともかなり仲良くなっていた。

いつも何かと三人は一緒にいた。クラスでは三馬鹿トリオと呼ばれるほどだ。

「綾波はええ体しとんなぁ。」

「そんなんじゃないって。」

「またまたそんなに謙遜しちゃってぇ。」

トウジとケンスケがズイズイと迫ってくる。

シンジは思わずのけ反る。

「「綾波の胸」」

ズイ

「「綾波のフトモモ」」

ズズイ

「「綾波の…」」

ゴクリと唾をシンジは飲み込む。

「「ふくらはぎ!!」」

ズルッとこけるシンジ。

「なんや?どないしたん?」

「い、いや。なんかもっとすごいこと言うと思って予想とは違ったから…。」

タハハと笑いながら座りなおす。

「おい。聞きましたか?ケンスケ?」

「ああ、どうやらシンジはすごい想像をしてたに違いない。」

「「いやらし〜〜ぃ。」」

二人は腰をくねくねしながら言った。

「どっちがいやらしいんだよ。」

ため息をつくシンジ。

再度綾波に目をむける。

とそこに綾波も同じくしてこっちを振り向いた。

「!」

シンジは驚いたが、すぐに目を逸らすこともできず手を振ってしまった。

しかし、反応はいつまでもたっても返って来ず、彼女はそっぽをむいた。

シンジは返事が返ってこなかったことに少し落胆した。

「わっはっは振られてもたな〜センセ。」

「ほっとけ。っていうかさ綾波はいつもああなの?」

「「え?」」

咄嗟にあっけに取られてトウジとケンスケはお互いに顔を見合わせる。

「ん〜、そないゆうたら綾波の友達らしい友達は見たことあらへんな。」

「っていうかさ。綾波の雰囲気って近寄りがたいんだよな。」

「あれ?でもこの間、綾波に話しかけている人がいたよね?」

シンジはこの間の合同授業を思い出す。

そうこの間の合同授業で綾波は第一中学校の制服を着てはいたものの、見かけない男子と一緒にいたのだ。

おそらくB組の男子だろう、シンジはそう思った。

綾波は誰とも話しかけない無口なイメージではあったが、その見かけない男子と話し合っていたのだ。

そのときの綾波の表情はわずかではあったが穏やかでいて、嬉しそうな顔だった。

「ああ、そういえばいたな。」

「ていうか誰なんや?」

「あの後、調べてきたんだけどどうもシンジと同じ転校生でさ、最近越して来たばかりらしい。」

「へぇ。で、名前は?」

「なんや綾波のこととなると気になりだし始めたな〜?」

「違うって!」

「ま、いいけど。名前は確か……牧野ショウだったかな?」

「牧野ショウ?」

「うん、NERV関係の人かと思ったけど違うみたいだな。」

「知らないよ。会ったこともないし。」

「まぁ、綾波に直接聞けばいいんじゃないか?」

シンジは綾波のいるほうに目をむける。

そこにはさっきと変わらず、誰とも話しをしようともせず一人でポツンと座っていた。

シンジは“僕はまだ綾波のこと何も知らないんだ”と思った。

そんな時、学校の授業終了のチャイムが鳴り響いた。

 

―回想―

NERV本部・第二実験室

黄色を基調にしたカラーリングのボディに単眼のエヴァ零号機が実験場のフロントガラスのむこうに立っていた。起動実験が始まろうとしていたところだった。

制御室では責任者である碇ゲンドウをはじめ、冬月とリツコに数人のオペレーターがいた。

「起動開始!」

リツコの合図と共にオペレーターはキーボートにコマンドを打ち始める。

共にあちこちで状況を伝えはじめる。

「主電源接続全回路接続」

「主電源接続完了、起動用システム作動開始」

「稼動電圧臨界点まで、あと0.5」

0.2」

「突破」

「起動システム第二段階へ移行」

「パイロット接合に入ります」

「システムフェイズ2スタート」

「シナプス挿入結合開始」

「パルス送信」

「全回路正常」

「初期コンタクト異常なし」

「左腕上腕金まで動力伝達 」

「オールナーブリンク問題なし」

「チェック2550までリストクリア」

「第三次接続」

「2580までクリア」

「絶対境界線まであと0.9…0.7…0.5…0.4…0.3…」

ビィー!ビィー!ビィー!

制御室の部屋全体にアラーム音が鳴り響く。

「パルス逆流!中枢神経素子にも拒絶が始まっています!」

強化ガラスの向こうには何かに苦しむように悶えはじめた。

エヴァの自由を束縛する拘束機がエヴァの暴走によって破壊される。

「コンタクト停止!6番までの回路開いて!」

「神経拒絶、ダメです!零号機、制御不能!」

「実験中止!電源を落とせ!」

「零号機、予備電源に切り替わりました!活動停止まで、後35秒!」

エヴァ零号機は依然として、暴走を止めない。

頭を抱えるようにして、苦しむ。

振り上げられた拳が壁に撃ちつけられる。

制御室が拳の衝撃で振動する。

「司令、危険ですので下がってください!」

「オートイジェクション作動!」

「いかん!」

零号機からエントリープラグが強制的に射出される。

射出されたエントリープラグは天井に激突する。

壁にぶつかり、地球の引力に法則に従い自由落下していく。

「レイ!」

「ワイヤーケージ、特殊ベークライト急いで!!」

リツコの瞬時に適確な指示を送り、実験場の壁からオレンジの凝固液ベークライトが零号機に放たれる。

碇ゲンドウは射出されたエントリープラグに誰よりも早く駆けついた。

エントリープラグに辿り着いたゲンドウはレイを救出するべくハンドルに手をかける。

「ぐおっ!」

あまりの高熱にのけぞった際に眼鏡が落ちた。

そんなことにもお構いなしに高熱に耐えながらハンドルを回す。

そして、ハッチが開かれる。

開かれた際に高熱のLCLがあふれ出す。

落ちたゲンドウの眼鏡が高温のLCLによってレンズが割れて、フレームが変形していく。

「レイ!大丈夫か!レイ!」

エントリープラグのシートには力なく横たわっていた。

レイの意識はまだあるのか、うめき声をあげている。

そして、ゆっくりと目が開かれていく。

穢れのない透き通った紅の瞳は司令を見ている。

「レイ…」

「……碇司令」

「大丈夫か?」

「は…い」

「そうか」

ゲンドウは緊張が解かれて、顔が和らいだ。

ゲンドウの足元には変形したゲンドウの眼鏡が静かにLCLに浮かんでいた。

 

シンジは昨日の視察でのリツコとの会話を思い出していた。

話では父さんの手にある火傷の跡は、綾波を救うために怪我したものだと教えられた。

父さんが身をはって、綾波を救った?

とてもじゃないが想像し難い。

今は六限目の社会の授業で、このクラスの担当の老先生がセカンドインパクトの話をしていた。

その話の内容のほとんどは思い出話が多いのでクラス全体は無視しているか、寝ているか、またはパソコンを使って授業の話を聞いている振りしてチャットをしているなどだった。

シンジはリツコの話を思い出しながら、窓際にいるレイを見つめる。

彼女は窓の方を向いてどこか遠くを見ているような感じだった。

「綾波レイね……。」

シンジは誰かに言うわけでもなく、ただポツリと呟いただけだった。

その小さな呟きは蝉によって掻き消されていった。

ちょうど授業終了のチャイムが鳴り響いた。

 

―放課後―

今ようやく全ての授業も終わり、掃除の準備が始まり、当番でない者は帰り支度をしてすぐに帰るものもいればまだ教室に残って友達と話をしている姿が見える。

シンジはNERVに行く準備をしていた。今日は本部から呼び出しがあるのだ。

「お〜い、シンジ今からトウジとゲーセンに行くんだ。行かないか?」

ケンスケが誘ってきた。

「ごめん。今日はNERVに行かなくちゃならないから無理なんだ。また今度誘ってよ。」

「そうか、じゃあしょうがないな。またな。」

「うん。」

ケンスケがトウジのもとに去っていくとシンジはショルダーバッグを肩にかけて教室を出る。

とそこに綾波の姿が見えた。

綾波も僕と同じくNERVに行くのだろうと思って、声をかけようとした。

シンジに声をかけられる前に綾波は見かけたことのある男子生徒に声をかけられた。

―――あれはたしか……牧野ショウ君?

面識はないが、この間の合同授業で綾波と一緒にいた人だ。

ショウは綾波に何かしらの誘いをしているようだ。

綾波もそれに答えて了承したように頷く。

心なしか綾波の表情が和らいでいるように見えるのは気のせいだろうか。

―――あんな表情もするんだ。

シンジは改めて自分は綾波のことはまだよく知らないんだなと思った。

いつの間にか自分は綾波のことを気になりだし始めていることに気がついた。

体育でのトウジとの会話が思い出される。

「(気にしている…か。…………あながち嘘じゃないな。)」

見たところ綾波はもう彼と一緒に行くみたいだし、NERVまで一緒に帰ろうと誘うのはもう無理だな。

仕方がない、また今度誘ってみよう。

そう考えてシンジは一人寂しくNERVに向かったのだった。

 

―午後7時11分・葛城宅―

NERVでのハーモニクステストにシンクロテストが終了し、ちょうどご飯を食べているところだ。

今日はミサトがリツコを誘ってここに来ていた。

今、着ている衣服はいつもの白衣ではなく私服であった。

黒のストッキングに黒色の生地のタイトスカートに紺色のタートルネックのシャツを着ていた。

仕事の時の雰囲気とは違い、柔らかく見える。

今、目の前に置かれているのはシンジのお手製のマッシュルームのホワイトソース添えのスパゲティに周りをレタスとトマトで飾り、大根おろしとタレで和風にアレンジしたローストビーフを載せた皿が置かれていた。

本当ならミサトが腕を奮って料理をするつもりだったらしいが、シンジがいち早く嫌な予感を察知したので、それを阻止して、自分で作ったのだ。

尤もミサトに任せると自分とペンペンの身が危ないので、料理全般は自分がやっているのだ。

「これ、中学生が作る料理とは思えないわね。」

リツコは目の前に置かれている料理に目を奪われていた。

「でしょ〜?ホント毎日美味しい料理が食べられるんだから天国よ♪ねぇ、シンちゃんもう食べてもいい?」

ミサトは待ちきれないといわんばかりにフォークを握り締めながら言った。

「どうぞ。」

シンジの合図を待ってましたと言わんばかりにがっつき始めるミサト。

リツコはゆっくりと料理の味を味わおうと料理を口に運んだ。

「ん〜〜〜〜っくはぁ!旨いいいいいい!!」

ミサトの顔はかなり綻んでいた。

リツコはというと。

「…………………。」

無口で肩をフルフル震わせていた。

あまりの旨さで声が出ないようだ。

ペンペンは満足そうにもぐもぐとローストビーフを頬張せながら料理を堪能していた。

しかもご満悦のようだ。

シンジも調理の片付けが終わって座る。

「シンジ君。こんな生活破綻者と一緒にいるより私と暮らさないかしら?ミサトにはもったいないぐらいだわ。」

「どういう意味かしら?それ。」

「そのまんまの意味よ。で、どう?」

「ん〜そうですねぇ。ミサトさんの生活の破綻振りにはほとほと呆れてましたし、いいかもしれませんね。」

「ふっふっふ、無駄よ。だいだい引越しにはカードの更新やら手続きやらで時間がかかるのよ。」

こういうときに限って頭は働くのだ。策士だな。

こんな無駄ことより使徒戦で頭を働かせればいいのにと思う。

「……ちっ。(こんなことならミサトが引き取るって言う前に手篭めにすればよかったわ。もしかしたらシンジ君は未来の義理の息子になるかもしれないのに。そうすればゲンドウさんと仲が良くなれば、或いは……って何考えてんのよ、私!私は決してショタじゃないわ。うん、大丈夫ね。)」

リツコが忌々しそうに舌打ちしたあと何やらぶつぶつ言い始めた。

シンジは見なかったことにしようと食事に没頭する。

それから暫くしてリツコが思い出したようにハンドバッグを開けて中をまさぐりだした。

「シンジ君。」

「……?何ですか?」

「レイの更新カードなんだけど、実は渡しそびれてしまったの。代わりに渡してくれないかしら?」

「ああ、構いませんよ。明日も学校だし、そのときに渡しますよ。」

シンジはリツコから綾波の更新カードを受け取る。

それを受け取るとシンジは食い入るように綾波の写真を見つめる。

カードには透き通るような蒼銀の髪に紅の瞳をした無表情の綾波の写真が貼られていた。

「ん〜〜どうしちゃったの?ははぁ、もしかして……。」

「なんです?」

「もしかしてレイちゃんに惚れた?」

「違います。」

「ん〜〜いいのよ!わかっているんだからぁ!」

「冷やかしするつもりですか?今度、下剤を混ぜときますよ?」

「……ごめん。」

「ふっ、無様ね。」

レイの写真を見つめるシンジに冷やかしをしようとするミサトは横槍を入れられて、しおしおと小さくなる様子にリツコは嘲笑する。

「ただ、僕は綾波のこと何も知らないんだって思っただけですよ。」

シンジは再びカードに目をやる。

「どういうこと?」

リツコがシンジの何気ない一言に興味を持つ。

「いえ。綾波は無愛想な人だなって思ってたんですけど、今日、綾波がほかの人に対して笑顔で答えてたんですよ。それであんな顔もするんだってなんか感動してて、それで僕は改めて綾波のことはまったく知らないんだって思ったんですよ。」

シンジが今日、見た綾波のことを言う。

「へぇ〜よく見てるわね。レイちゃんのこと。」

「だからそんなんじゃないって。」

「どうだか?ホントは好きなんじゃないの?」

「一週間僕の料理抜きとえびちゅ禁酒とどっちがいいですか?」

「ゴメンナサイ。」

流石にえびちゅ抜きとシンジの料理抜きはミサトにとってはかなりの痛手だろう。すぐさまシンジに土下座した。

あまりにも不憫すぎる。哀れなミサト。

対するリツコはレイのことを考えていた。

「(レイが笑顔で?忌々しいけど碇指令にしか笑顔で答えないはず…。そもそもレイに表情は、おろか感情は教えてはいないはずなのに?まさか感情が芽生え始めているというの?……まぁ、心がそっちのほうに傾いてくれればこっちはこっちで都合がいいんだけどね。……私もづくづく嫌な女ね。でもこれでは例の計画に支障をきたしてしまう恐れがあるわね。)」

リツコは自分の中にあるどす黒い感情が芽生えている自分に嘲笑しながら口の端を吊り上げ笑っていた。

ミサトとシンジはじゃれあいをしていた為、こっちの表情に気がつくことはなかった。

 

―翌日―

今日は綾波にカードを渡すはずだったのに肝心の彼女がいない。

シンジの目の向ける先は綾波の座る窓際の席だ。

しかし、そこには彼女の姿はない。

「どうしようかなぁ。せっかくカードを持ってきたのに綾波がいないんじゃ意味がないよ。」

とそこにふと一人の男の姿が頭をよぎった。

牧野ショウ…彼なら綾波の家が何処にあるのかわかるかもしれない。

しかし、彼のことを思い出したところでどこか気に食わなさを感じた。

「(あれ?なんで僕が彼を快く思わないんだ?……何故だ?)」

シンジは思いとどまったが、改めて気を取り直して、ショウのいるクラスB組へ足を進めた。

この間の合同授業で見かけない顔があったのでおそらくB組だろうとわかったのである。

そして、ここB組の入り口に立っている。

あたりを見回す、談話する者、昼寝をする者、本を読みふけっている者の姿があちこちに見かけられる。

くまなく探すと自分のクラスの綾波と同じように彼は窓際に座っていた。

しかも、本をアイマスク代わりにして天井を向いて寝ている。

そばまで歩み寄る。

雑誌の表紙には“この夏のインテリアはこれに決まり!”といったキャッチフレーズがでかでかと印刷されていた。いびきこそは聞こえてはこないものの、リズム良く胸を上下に呼吸し、寝ているのがわかる。

シンジは相手の気を悪くさせないようにゆっくりと肩を揺らそうとする。

そして、肩を数回揺らした後、起きたのか腕を伸ばして背伸びして、アイマスク代わりにしていた雑誌を手にする。雑誌を退けた顔には寝惚けてはいたが紛れもなく牧野ショウであった。

少々、欠伸をして起こしたシンジに声をかける。

「……君は確か。」

「あ、はじめまして。碇シンジです。隣のA組の。」

「ああ。碇シンジ君だね。(知っていたけど。)何か用かい?」

「ええと。…牧野ショウ君ですよね?」

「あれ?俺、名前教えてたっけ?」

「あ、実はうちのクラスメイトが名前を知っていたので…。」

「ああ、そうなんだ。(教えた覚えはないが…まぁ、おおよそ予想はつくが…。)」

シンジはショウに綾波のことを尋ねようとする。

しかし、綾波のことを聞こうとした途端に何か心にとげが刺さるような不快感があった。

それを懸命に振り払って聞く。

「あの…綾波が今日、休みなんだけど。」

「ああ。」

「それで今日中に渡さなくちゃいけないものを頼まれたんだけど、綾波の家、知らない?」

「なんで俺だ?」

「あ、ええと。何か、この間。綾波と仲が良かったの見ていたから、家は知っているのかなと思って…。」

「悪いが、知らないな。と言うか行った事もないし。(何処かは知っているけど、綾波に教えられてもいないのに、いきなり行ってしまったら彼女にも驚かれるだろうし………。)」

ショウはシンジに綾波の自宅を尋ねられたが、嘘を言ってごまかした。

「そっか…知らないんだ。」

「悪いな。力になれなくて。」

「ううん、いいんだ。…じゃ、これで。」

シンジはすぐさまショウから去ろうと体を回れ右した。

「あ、ちょっと待ってくれ。」

ショウは去ろうとするシンジを呼び止める。

「え?」

「俺さ、レイ……いや、綾波から本を借りていたんだけど、ついでに一緒に行ってもいいかい?」

「え!?(今、綾波のことをレイって呼んでなかった!?そんなにも仲がいいのかな?……ってそうじゃないだろ!なんで、こんなにも綾波が気になるんだ!?)……行くのはいいけど、家は知らないんだろ?」

「先生に聞けばいいじゃないか。」

「…そうだね。」

シンジはショウが綾波のことをファーストネームで呼んでいることで、仲がいいのだと思い、どこか不快に思った。―――何故だろう?彼女とはあまり話はしたこともないのに、こんなにも嫌な気持ちになるんだ?

自分の中のショウのことを快く思わないことから目をつぶって、とりあえずシンジはショウと一緒に綾波の家に行くことにした。

 

―綾波の自宅のドア前―

ここ、綾波が住んでいる団地にいる。周りは何層もの団地マンションが建てられているが、人の気配がまったく感じられず、無機質な雰囲気が辺りを支配し、不気味なほどに静寂していた。

学校の授業が終わり、放課後に先生のところに職員室へ向かい、老先生から綾波の自宅の住所を教えてもらった。最初はケンスケから聞いたのだが、その時に書いてもらった地図があまりにも下手でお世辞にも上手とは言えない絵を差し出されて、声が詰まった。流石にケンスケの好意を無下にしたくはなかったので、その地図を受け取ったが、親友に心の中で謝りながら先生に綾波の自宅までの地図をコピーしてもらった。

そして、今、ショウと一緒に綾波の自宅に来ていた。

「こんなところに本当に綾波が住んでいるのかなぁ?」

「先生からもらった地図に間違いがなければな。」

あまりにも静か過ぎて、とても人が住んでいるようには思えなかった。

とりあえず、シンジは意を決して、インターホンを押す。

しかし、ドアの向こうからは返事は帰ってこなかった。

「あれ?壊れているのかな?」

シンジは再度インターホンを押すが、やはり返事は返ってこなかった。

「いないのかな?」

「……いや、気配はある。」

急にショウの意味不明な発言に思わず、シンジは“はぁ?”と間抜けた返事をしてしまった。

――気配があるって、何でわかるんだよ?っていうか綾波もだけど牧野のことも知らないよな。

シンジはドアノブに手を掛けて、開いているか確認する。

――ガチャ

開いていた。

シンジはまさか開いているだろうとは思っていなかったので、少しばかり驚いていた。

「あ、開いている。どうしよう?」

「中にいるみたいだし、入ろうか。……お〜い!お邪魔するぞ。」

ショウはドアを開けると、大声で尋ねて、入っていった。

ズカズカと入っていく様子にシンジは驚いていた。

シンジもそれに続くように入っていった。

綾波の部屋の中に入っていくと、ショウが部屋の入り口で呆然と立っていた。

なんだろう?とシンジも部屋に入るとそこには……。

コンクリート剥き出しの部屋に小さなチェスト一台と小さな冷蔵庫が壁際に置かれている。その反対側には簡易なベッドが置かれていて、カーテンは病院にあるのと似たような無地のカーテンがあった。

とても女の子が住むような部屋とは思えなかった。

ショウが絶句して、呆然としている理由がよくわかった。

キッチンの向かいにあるドアの向こうから水音がする、どうやら彼女はシャワーを浴びているようだ。

「………とても女の子が住むとは思えないね。」

「………というより人が住む部屋以前の問題だな。」

しばらくシンジは部屋を眺め回していたが、ふとチェストの上に置かれている一枚の画用紙に気がついた。

そこには明暗の差が巧く分けられた樹の下のベンチに座っている綾波が描かれていた。その表情は穏やかで優しい笑顔をしていた。

「これって………。」

「お、それは俺が合同授業のときに描いてやった絵だ。」

「牧野君が?」

――意外だ。牧野君ってこんなにも絵が上手だったんだ。

シンジはショウの絵の描写がとても上手だということに驚きの声を隠せなかった。

その時、後ろのほうからドアノブが回る音がした。

二人は音のした方を振り向いた。

そして、さらに驚愕し、絶句した。

何故なら、綾波はバスタオルで頭を拭いたまま全裸で現れたからだ。

彼女の肌は異常なまでに肌白かった。彼女の胸はまだ発展途上といったところで、形も良くて中学生にしてはややバストが一回り大きく見えた。秘所はまだ恥毛は生えていなくて、つるつるだった。

彼女の裸姿は穢れがないほどに綺麗でどこか神秘的にも思えた。

―――――………はっ!?僕は何見てるんだ!?女の子の裸をじろじろ見るなんて最低じゃないか!

シンジはようやく、現実世界に意識を取り戻した。

レイは髪に吸い付いた水気を拭き取ろうとするバスタオルをかけた手を止める。

チェストの上に置かれていたはずの絵をシンジが手に持っていることに気が付き、レイは顔を顰めてシンジから奪い取ろうとシンジのもとに歩み寄る。

そして、シンジの手に持つ絵を無造作に取り上げた。

「その絵に触らないで。」

レイは不機嫌そうに言い放った。

「あ。ご、ごめん。それ大事なものだとは知らなくて。あの…その…。」

あわててシンジは謝る。

「あ〜。レイ、とりあえず何か着てくれ。それと碇も女の子の裸をじろじろ見るんじゃない。」

そうなのだ、レイは素っ裸でバスタオル以外何も着ていないのだ。

尤も、バスタオルを持っていても隠すべきところを惜しげもなく、晒していたのだ。

シンジに注意しながらも、ショウは彼女の裸に目を向けないように壁のほうに振り向いた。

「うわわわわ!ごめん!」

シンジもショウの注意で綾波が裸であることに再び気が付き、壁のほうに振り向いた。

「どうして?」

「どうしてってな…男と女がいるときに裸でいるのはまずいことだ。だから、何か着てくれ。頼む。」

「私は別に構わないわ。」

「レイは良くても、俺たちが困るんだよ!頼む!何か、着てくれ!」

ショウはもはや、叫ぶように懇願していた。

「わかったわ。」

綾波もそれに答えて、クローゼットの方に向かった。

クローゼットのドアをスライドさせて、中からシャツと下着が取り出される。

綾波には羞恥心がないので、仕方がないかもしれないが、人がいるときぐらいは何か着てほしいものだとショウは考えていた。後ろ向きとはいえ、服と肌が擦れる音はどうしても耳には入ってしまう。

シンジは後ろで彼女が着替えているのだと思うと、鼓動が大きく高鳴って緊張していた。

やがて、着替えが終わる。

「着替えたわ。」

そして、二人は再び綾波の方にふりかえると、そこは。

「ぐはぁっ!!」

「あうっ!」

綾波は白い下着と白のシャツ一枚の格好で出てきたのだ。

男なら喜んで涙を流すべきだろう。が、如何せん刺激がシンジには強すぎた。

シンジは綾波の格好に思わず仰け反った。

ショウはと言うと、手で鼻を押さえるようにしていた。

彼らの起こした行動の元凶である、綾波は「?」と首をかしげていた。

どうやら、状況がつかめていないようだ。

 

暫くして、二人は落ち着きを取り戻して本題に入った。

「はい、これ。」

「何?」

「綾波のNERVの更新カードだよ。今日、学校に来ていたら、渡すつもりだったんだけど、来ていなかったからこうして、持ってきたんだよ。」

シンジは綾波にカードを手渡す。

彼女も素直にそれを受け取る。

「……ありがとう。」

「うん、どういたしまして。」

綾波から返事が返ってきたことに思わず、シンジは笑顔になる。

「あ、あの。」

「何?」

「え、ええと。その。部屋、もう少し何か飾り付けしたほうがいいよ。」

「必要ないわ。」

「え、でも。」

「碇の言うとおり、何か飾り付けしたほうがいいよ。カーペットとか壁紙とかカーテンとか。こんな部屋にいたら、滅入ってしまうよ?」

ショウがシンジに助け舟をだす。

流石にコンクリート剥き出しの部屋を見ては何か言わずにはいられなかった。

「どうして?」

「どうしてといわれても…なぁ。」

ショウがシンジに同意を求めるように目を向けた。

「うん。やっぱり何か、模様替えしたほうがいいよ。」

シンジもその目が何を意味しているのかを理解して、それに答える。

「………。」

「なぁ、レイ。今度、一緒に家具を買いに行こう。こんな部屋じゃ友達とかも呼べないだろう?」

「………私に友達はいないわ。」

「「!!」」

そうなのだ。彼女は感受能力が乏しいだけではなく、社交性も全くと言ってもいいほどにないのだ。

だから今まで友達と言える者は一人として、いないのだ。

「………少なくとも俺とは友達だろ?」

「あ、あの。もし、よかったら僕とも友達になろうよ!」

「友達……それは絆なの?」

「う〜ん。まぁ、そうとも呼べるかもしれない。」

綾波の問いに少々困ったが、とりあえずそういうことにしておいた。

それからは暫く、今度の買い物で家具は何が良いかとか、これがいいとか、あれがいいとかいろいろと三人で話し合った。尤も、綾波はコクコク頷くとか首を傾げたりしていただけだったが。

 

 

蝉の鳴き声と車のクラクションの音が辺りに響く。

日が傾いたころ三人は歩道を歩いていた。

なんでも、今日は綾波とシンジの二人はこれからNERVでのハーモニクステストがあるとかで、そのついでにショウも一緒に歩いているのだ。ちなみにシンクロテストはないらしい。

交差点が見えたところでショウは自宅に帰るため二人とは別の道に行くことになる。

「俺の家こっちだから。」

「あ、そうなんだ。」

「わかったわ。」

シンジはショウの言葉に相槌を打つ。

綾波は少し残念そうに返事を返した。

ショウが振り返って、離れようとしたところで、シンジが呼び止める。

「あ、あの。」

「ええと、なんかさ…その。“碇”ってのはやめてくれる?なんかむず痒くってさ。」

シンジは照れたようにショウに尋ねる。

「……わかった、“シンジ”。これでいいかな?」

「あ、うん。」

「俺だけってのも不公平だな。俺のことも“ショウ”って呼んでくれても構わないからな。」

「わかった。じゃあ、またね。」

「ああ、レイもまた明日な。」

「ええ。また、会いましょう。」

そして、綾波とシンジはショウと別れた。

ショウの姿を見送った後、シンジと綾波は一緒にNERVへと向かうのだった。

シンジは綾波に他愛もない話をしていたが、それなりに努力して少しでも話をしようと努力をしていた。

シンジの話に綾波は“ええ”とか“そう”と相槌を打つだけだったが、それでも話を聞いてくれていることにシンジは喜びを感じていた。

二人の会話はNERVに着くまで続いた。

 

 

―NERV本部―

今、ここで綾波のハーモニクステストが始まろうとしていた。

シンジのテストは終わったので、彼女が零号機に搭乗して実験が行われている。

制御室では、使徒が来るときのほどではないが空気が張り詰めていて緊張した面持ちで集中していた。

無理もない。この間、綾波は零号機の連動実験で暴走を起こしてしまったので、失敗は許されないのだ。

零号機の暴走に着いては、先日ミサトから聞いていた。

シンジは無事に終わるようにと綾波の身を案じながら、フロントガラスの向こうにある零号機をじっと見守っていた。

「レイ、聞こえるか。」

「はい。」

ゲンドウの問いにLCL越しに伝わってくる。

「これより、零号機の再起動実験を行います。第一次接続開始!」

リツコの合図とともに、各自のオペレーターがキーボードに指を走らせる。

「主電源、コンタクト。」

「稼働電圧、臨界点を突破。」

……了解。フォーマット、フェイス2へ移行。」

「パイロット、零号機と接続開始。」

「回線開きます。」

「パルス及びハーモニクス、正常。」

「シンクロ、問題なし。」

「チェック2590までリストクリア。 絶対境界線まで、あと、2.5……1.7……1.2……」

一人のオペレーターがカウントを秒読みする。

緊張した様子で、制御室にいる者全員が零号機を見る。

シンジは心なしか手に汗を溜めていた。といってもプラグスーツを着ているから見えないが。

よほど、綾波を心配しているのだろう。

――――そういえば、なぜ綾波はエヴァに乗るのだろう?怖くないのだろうか?

シンジは綾波にエヴァに乗ることが怖くないのかと言うことに疑問を持っていた。

「0.4……0.3……0.2……0.1……突破!ボーダーライン、クリアー!」

「零号機、起動しました。」

実験棟の面々の顔の緊張が緩む。制御室全体に重い雰囲気が一気に消える。

シンジも零号機が無事に起動してくれことに、安心して息を大きく吐いた。

「引き続き電動試験に入ります。」

突然、制御室に内線電話が鳴り響いた。

それを即座にゲンドウが手に取った。

「……………わかった。」

話が終わったのか、受話器を元に戻す。

「未確認飛行物体が接近中だ。おそらく第五使徒だろうな。」

「ふむ、そうか。実験中止、総員、第一種警戒態勢に入れ!」

制御室にいたオペレーター達が一斉に立ち上がる。

「零号機は使えるのか?」

「まだ、実戦には耐えられん。初号機の準備はどれぐらいだ?」

「はい、380秒で準備できます。」

「そうか、シンジ。出撃しろ。」

「ふん、言われなくとも。」

シンジは実父に一瞥して、エヴァの格納ケージへと足を進める。

 

 

―エヴァ初号機・格納ケージ―

シンジはもうすでにエントリープラグに搭乗完了していた。

先ほどのハーモニクステストでプラグスーツを着ていたのが幸いして、早く搭乗したのだ。

あとは出撃を待つのみだ。

エントリープラグ内の左モニターにミサトからの通信が入る。

「シンジ君、準備はいいかしら?」

「その前に敵はどのような状況なのか、何処にいるのか。このエヴァは何処に配置されるのか教えてくれ。」

「そんな細かいことはどうだっていいわ!発進!」

「ちょっと待て!うわ!」

またもや前回と同様にシンジの了承なしでエヴァが打ち上げられた。

強烈なGがシンジを襲う。

―――――まったく!これじゃ前と同じじゃないか!また、危険な目にあったらどうするんだよ!

シンジはミサトのお粗末な指揮に腹を立てていた。

状況を知っているのと知らないのとは戦況が全くと言ってもいいほどに異なるのだ。

知っていれば、自分はどう動けば良いのか前もって判断することができるが。逆に状況が知らなければ、自分が何処に配置されるのか、敵はどんな攻撃をしてくるのか全くわからず、リスクがかなり高くとても危険だ。

もうすぐエヴァが地上に現れようとした時だった。

「目標内部に高エネルギーを感知!!」

「円周部を加速!さらに収束していきます!」

二人のオペレーター、青葉シゲルと日向マコトが叫んだ。

「!?…まさか価粒子砲!?」

ミサトが悲鳴にも似た声で叫ぶ。

「駄目!避けて!」

ミサトからの通信にシンジは一瞬、悪寒が背筋を伝った。

エヴァが地上に現れたと同時にラミエルから一筋の閃光が放たれた。

それは光速で避けられるはずもなかった。

使徒から放たれた光線はエヴァに直撃し、ボディを融解していく。

「ぐああああああああああ!!」

シンジにエヴァのダメージがフィードバックされて、激痛が走る。

さらには光線による高熱でLCLの温度が上昇していく。

シンジは体が耐えうるはずもなく、意識は失った。

「シンジ君!」

「エヴァ初号機を回収!急いで!」

リツコがエヴァを回収するよう、命令を飛ばす。

スクリーンに映るエヴァは回収される様子がリアルタイムで送られていた。

「私はケージに行って来るわ!シンジ君の心臓に電気ショックで心臓蘇生を行って頂戴!」

「わかったわ。」

ミサトが指揮を終えると同時に発令所から出て行き、シンジの元へと走り急いだ。

そして、ミサトが着いたときにはエントリープラグから強制射出されて、作業員の肩を借りて歩いている姿が見えた。どうやら、先ほどの心臓蘇生によるマッサージによって、意識を取り戻したらしい。普通なら暫くは意識が戻らないはずだ。シンジの生命力が強かったおかげだろうか。

「シンジ君!」

ミサトはシンジの姿を確認すると、彼の元へと走って行った。

シンジもミサトの声に気が付き、シンジは作業員の手を振り払って、よろめきながらもミサトの元へ歩む。

「シンジ君!よかった、生きていてくれて。」

ミサトはシンジを抱きしめてあげようと腕を広げる。

しかし、シンジの拳がミサトの頬を殴った。

突然のことだったのでミサトは避けられなかった。

たまらず、後ろに倒れる。

作業員がシンジを静止しようとつかみ掛かる。

「よかった…だと?」

シンジは怒りで体をめぐる血が煮えたぎっていた。

「ふざけるな!!パイロットに敵の状況も伝えもせずに射出するだけじゃなく、自分の配置も教えもせず、作戦の要項も伝えない!あんたはそれでも作戦部長か!こんなときに保護者面するな!反吐が出る!」

シンジは自分の中に溜めていた怒りを吐き出す。

ミサトは殴られたことに呆然としていて、状況が頭についていってない。

「あんたが作戦部長だなんて、絶対に俺は認めない!今日と言う今日は許さない!今日のことは忘れない!いいや、忘れるものか!もう、保護者面するのはやめろ!偽善者め!」

シンジは言いたいこと吐き散らすと気を失った。

そして、ストレッチャーがやってきてシンジが作業員の手によって、乗せられ運ばれて行った。

ミサトは暫く、呆然と立ち尽くしていた。

ヤシマ作戦まであと6時間23分。

                       …………………to be continued