第四使徒・シャムシエルとの戦いから三日が過ぎた。

シンジはミサトの命令に背いたが、彼女の指揮があまりにもお粗末だったため咎められることはなかった。

独房に入れられることなく、学校に登校していた。

ミサトのほうはというと、処罰は三ヶ月の減給で済んだらしい。

それはさておきシンジは。

「でさ、トウジがさぁ・・・・・」

「だああああああっ!!それは言うなてゆうとるやろおおお!!」

第三東京市立第一中学校・2−Aでの休み時間中、クラスは友達同士の会話で賑わいでいた。

そんな中、シンジとトウジ、ケンスケの三人は友達同士でクラスメイトの話題に華を咲かせていた。

あのエヴァンゲリオンパイロット疑惑騒動の件以来でシンジとトウジの間でいざこざはあったものの、話し合い

で万事解決し、三人は親友になった。

それからは流行の話や、学校の話などで盛り上がっていた。

盛り上がっていたところ、昼休み終了のチャイムが学校に鳴り響く。

「なんや、せっかく盛り上がっとった時に昼休み終わりかいな。」

「しかたないさ、次の授業ってなんだったっけ?」

「確か、56時間目とも美術でB組と合同授業だったと思うけど?」

シンジが黒板の隣の掲示板の張り紙を見る。

予定表には56時間目 A組とB組の合同授業ありと書かれていた。

「俺、絵を描くのは苦手なんだよな〜。下手だしさ。」

「ワイかてそや。」

「僕も。」

三人は少々ため息をつきながら、次の授業の準備をし、美術室に足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―EVANGERION―

Another Story

漆黒の騎士と白衣の天使

 

―第六話―

--- A combination class---

---合同授業---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美術室に移動する中、ショウはわきの下に鉛筆デッサン用の道具を抱えながら、廊下を歩いていた。

平和だなあとか思いつつ、物思いにふけっていた。

中学時代なんてもう何回も繰り返したんだろうな、俺。

この世界に来る前は戦乱の地だったし、銃声が響く中で剣を交じり合っていた時代だったな。

こっちじゃ使徒とか言うデカイ相手に戦っているけど、前と比べればかわいいものだな。

こっちの世界に来たせいか、俺も警戒心も薄くなってしまっているな。

この世界にくる前の世界を思い出しながら、物思いにふけっていた。

ショウは異世界渡りの能力を持っている。

彼は不老不死の呪いを身に宿しているのだ。

ショウの生まれた世界である日、力を欲した己の愚かな行為で体に不老と不死の呪いが宿ってしまったのだ。

それ以来、自分が力を欲してしまったことを悔やみ、呪いを解く方法を探すために様々な異世界を渡ったのだ。

中には平和な時代もあれば、戦乱の時代もあり、魔法使いが存在する世界や動物だけが住まう世界もあり、ゲームとかにも出てきそうなモンスターと人間が共存して住まう世界もあったり様々だ。

他にも異世界渡りの影響のせいか、たまに女性化したりや少年に後退してしまうときもあった。

今回は違う、自分に魔法をかけたので本来の体より身体年齢を少々下げているのだ。

何のためにやったのか?それはある目的を果たすために自ら体を少年化させたのだ。

前の世界では、どこぞの中世ヨーロッパのような時代で銃が発達していて、剣と剣を交わして戦うといった時代だった。

ある国と国が条約を破棄してしまった為、戦争が起こってしまったのだ。

そんな剣の交わす中で過酷な状況で生き延びてきたのだ。

その世界では人と接するのを嫌っていたので、城下町や村からはなれたところで隠居生活をしていたが、場所が悪かった。

何故なら隠居していた場所が戦地だったため、自分も戦わざるを得なかった。

もう長く戦ってきた経験があるため、剣術は右に出るものはいないといってもいいほどの実力を持っている。

最も自分は何度も殺されても、体が死ぬことを許さないため何度も蘇ってしまうのだ。

不死の体とはいえ、苦痛を感じることができるのでできる限り殺されないように気を付けているのだ。

場所が戦地なのでいつ殺されてもおかしくない状況だったため、起きるときも寝るときも常に周りに警戒していた。しかし、ここでは自分の命を狙うような輩はいないので、警戒心が薄れがちだ。

前の世界をまだ思い出しているのか、今の世界の平和さを身に感じながら顔を綻ばせていた。

「今日も穏やかだなぁ。」

そんなことをいいつつも、もうすでに美術室は目の前にまで来ていた。

 

 

青い空に白い雲が浮かび、太陽の日差しが差し込む中、グラウンドや校庭などで散り散りになりながらスケッチに絵を描いている生徒の姿が見える。

今日はいつもと比べて温度が穏やかだったので野外でスケッチをとることにしたらしい。

美術の先生が言うには、好きな絵を適当に描いてきてきなさいと言うことで、友達同士で描く者もいれば、一人で真剣に書くものもいた。

そんな中どうすればいいのかわからず、中庭で透き通るような蒼い髪をした少女が立っていた。

「・・・・・・・」

綾波は困惑していた。

今まで絵と言うものを描いたことがないのか、何を描けばいいのかわからず考えていた。

考えを巡らせている中、自分を呼ぶ声が聞こえてきた。

「お〜い、どうしたんだ?」

幼さを感じるようで、どこか大人びた顔立ちをした中性的な顔立ちをした黒髪の少年が彼女に近づいていく。

「・・・・・何?」

綾波はどこか拒絶するような冷たい声で返事を返す。

「何って・・・綾波は絵を描かないのか?」

「・・・・・・どうして私の名前を知っているの?」

綾波は名も知らぬ少年に一度もあったことのないはずなのに、自分の名前を呼ばれたことに疑問を感じた。

「ん?あぁ、そうかこういった形で会うのは初めてだったな。」

「・・・・・?」

「前に一度会ったはずだよ。綾波レイ♪」

「・・・・・知らないわ。」

綾波は冷たく言い放つようにして、顔を背けた。

「シャドウだよ。前に病院で会っただろ。」

「!!」

綾波は無表情ではあるものの、目に驚愕の色を浮かべながら少年の顔を凝視する。

「あの時はシャドウと名乗ったけど、改めて紹介するよ。俺は牧野ショウ。」

ショウと名乗る少年ははにかむような笑顔で話す。

綾波はまだ彼の言うことを信じていないのか警戒するような目で見ながら距離を取っていた。

「・・・・・あなたが彼であることを証明して。」

「疑り深いんだな。・・・まぁ、いきなりだし、信じるはずもないか。」

それからは、ん〜と腕を組みながら、何か信じてくれるものはあったかな〜と呟きながら考えている。

暫く、考え込んでいたが、思いついたようにそうだ!と手をポンと叩いた。

それから、何かを探すように周りを見渡す。とそこに目を付けたのは花壇にある一本の花だった。

水を与えてないのか、萎びたような花がある。

「ちょっと、こっちに来て。」

チョイチョイと手招きして、綾波を先ほど見つけた花のところに誘う。

綾波も萎びた花があるのに気がつき、目をやる。

ショウがしゃがむと、綾波もそれにならってしゃがむ。

「今からこの花を綺麗に咲かせるから、見ててくれよ。」

その言葉に綾波はコクリと顔を縦に頷く。

そして、ショウは凛と透き通るような声で呟く。

命の鼓動よ。躍れ、汝に命の息吹を。

呪文を唱えると先ほどまで萎びていた花が淡い緑色の光を帯びて、みるみるうちに色素を取り戻し、萎びていた

茎は艶々と天を目指すように上を向き、花は見事に咲いていた。

綾波は無表情の顔も驚きに満ちていて、感嘆したように息を吐いた。

彼女は感動と言うものを知らないはずだが、無意識に感嘆していた。

「これでもまだ信じられない?」

「・・・・・いいえ。信じるわ。」

綾波も流石に現実に目の前で起こった出来事を信じられずにはいられなかった。

ショウは、それはよかった!と顔は笑顔だった。

「もう一度言うよ。改めてヨロシク。」

「ええ。」

ショウは握手をしようと手を差し出す。

しかし、綾波は握手の意味がわからず、差し伸べた手を見つめるだけだった。

「ああ。これはね、友好を求める意味で握手をしようってことなんだ。」

綾波が意味を理解していないことに気がつき、彼女に説明する。

それを理解し、綾波も握手をする。

二人の手が繋がれる。

綾波にとっては初めての体験だったのでちょっと戸惑いがちではあったが、そんな彼女の様子が微笑ましくて、

ショウは笑顔になる。

「そうだ、今から何か描こうか迷ってたんだけど、綾波。モデルになってくれる?」

「もでる?」

「そ。綾波を描きたいんだけど、君さえ良ければなってくれるかい?」

「構わないわ。」

綾波から了承をもらい、じゃ早速と綾波を中庭にある一本の木の下にある木のベンチに綾波を座らせた。

「これでいいの?」

「ああ、問題ないよ。それじゃ、今から描くからじっとしていてね。」

「わかったわ。」

よしと舌なめずりをして、スケッチブックを開き、手提げのクリアボックスから鉛筆と色鉛筆を取り出し、一本

一本と丁寧に、丹念に描き始めた。

それからは、風の音と蝉の鳴き声と遠くから生徒の笑い声だけが響いていた。

 

 

スケッチに鉛筆を走らせてから、1時間半が経過した。

ショウがふぅとため息をついてから、横に翠(みどり)の色鉛筆をそっと置いた。

「ありがとう。もう体を楽にしてもいいよ。」

そういうと綾波は体勢を崩して、疲れの素振りも見せずこっちに歩んできた。

「できたの?」

「あぁ、会心の出来だよ。見るかい?」

綾波はコクリと頷く。

ショウはスケッチブックを彼女に渡す。

綾波は描かれたところを見る。

そのページには背景に明暗を巧みに調節した色彩で描かれた翠色で統一された一本の木。その下には木で作られ

たベンチに座っている少女が描かれていた。彼女の髪は神秘的なほどに光に反射したような輝きを巧く表現させ

ていた。彼女の表情はどこか優しさを帯びたような穏やかさを漂わせていた。

綾波は描かれた自分をいつまでも見つめ続けていた。

「これが・・・私?」

「そうだよ。自分としてはうまくできたと思うけど。感想はいかほどで?」

「・・・・・・」

「も、もしかして気に入らなかった?」

返事を返してこない綾波に少し不安を感じて焦る。

顔の輪郭甘かったか?いや、背景の色をもう少し濃くして綾波を強調させるべきだったか?などと考えを巡らせているショウであったが。

やがて、綾波が呟いた。

「わからないわ。・・・・・言葉が見つからない。」

「・・・!」

そう彼女には感受能力が著しく低いのだ。従って、綺麗だとか上手だとかその表現の仕方がわからなかったのだ。

だからなのだろう、言葉が見つからないとはこういう意味を表していたのだ。

「ん〜じゃあ。その絵は気に入ったのかな?それとも嫌だったかな?」

言葉が見つからないのならこっちから聞くまで。

「・・・・・わからない。でも嫌な気持ちはしない。これは何?この暖かさは何?」

「それは・・・きっと気に入ったってことじゃないかな?嬉しいってことだと思うよ。」

「・・・そう。これが嬉しいという気持ちなのね。」

「そうだろうね。よかった。気に言ってくれてなによりだよ。」

そのときだった。

綾波の顔が優しく穏やかな表情になったのだ。

今まで無表情の面しか見たことがなかったので、新しい発見に心を躍らせた。

“へぇ、こんな優しい顔になるんだ。はじめて見たな。”と感嘆の息を吐いて、暫く彼女の顔を見つめていた。

ちょうど、学校の終業のチャイムが鳴った。

「あ、もう終わりか。さてと、綾波。」

「何?」

「そろそろ、そのスケッチを先生に提出しないとまずいから返してくれるかい?」

「・・・・・ええ。」

綾波は名残惜しそうに手に持っているスケッチをショウに返す。

目には物欲しそうな目で見つめていた。

「・・・・・・」

ショウもその視線が何故か痛く感じた。

「えーと。もしかして、この絵が欲しいのかな?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

暫く、沈黙が続いたがやがて綾波はコクリと軽くうなずいた。

どこか頬に朱が差していたのは、気のせいだろうか?

「う〜ん。・・・・・よし、じゃあこの絵は綾波にあげるよ。」

「・・・でもそれだとあなたが困るわ。」

「構わないよ。そのかわり大事にしていてくれよ?

先生には昼寝していて何も描いてませんでした〜ってごまかしとくからいいよ。」

そして、描かれたページの端っこを破いて、それを綾波に差し出す。

「受け取ってくれるよね?」

綾波はそれを受け取る。

「あ、ありがとう。」

「どういたしまして。」

綾波は受け取った絵を愛おしそうに優しく胸に持っていった。

ショウも気に入ってくれたのが嬉しくて、思わず顔が綻ぶ。

 

 

 

「はぁ、背景うまく描けへんから結局そこら辺の野良猫しかかけんかった。」

「あれが猫?よくいうよ、豚みたいにでっぷりしてたし。」

「なんやと!」

「トウジには悪いけど、どっちかっていうと豚かな。」

「ほ〜。シンジまでそないなこというんかい。どうせワイは下手や。」

「まぁ、そう落ち込むなよ。俺達だって似たようなもんだし。」

「そうそう。」

シンジ、トウジ、ケンスケの三人は一緒にスケッチをとっていたが、うまく描けず簡単そうなものを描いた。

結果は言わずもがな、散々だったようだ。

シンジ達は美術室にいる先生にスケッチブックを提出する途中だった。

シンジが中庭にいる綾波を見つけた。

「あれ?もしかして綾波じゃないか?」

「お、ほんまや。て、隣にいる男は誰や?見かけない顔やな。」

「何!?どれどれ?」

綾波の隣に男がいると盛り上がる一同。

ここから遠く離れていて会話こそ聞こえていないが、何かいい雰囲気っぽかった。

そのときだった。

無愛想な綾波が微笑んだのだ。

いつもは無表情で笑顔というものは見たことがなかったのだ。

それが、彼女は笑ったのだ。あの男に対して。

「わ、わらっとる。」

「あんな顔始めてみたよ。」

「くぅ〜!いまここにカメラがないことが悔やまれるよ!」

綾波に対して、驚きを隠せなかった三人であった。

 

 

薄暗いマンションの一室。石膏むき出しの部屋の中、服掛けに壱中の制服が丁寧にハンガーにかけられてある。

小さな冷蔵庫の上にはビーカーと錠剤と薬袋が置かれていた。

時間はもう夕方を指していて、カーテンの隙間から明るい橙色の光が漏れていた。

朝に起きて、学校に登校して、授業を受けて、NERVからの呼び出しがなければそのまま自宅に帰るといった

いつもと違わない日常を送るはずだったが、今日はいつもと違った。

部屋は女の子らしかぬ、無機質な雰囲気ではあったが、ひとつだけ違う。

それはチェストの上に置かれた一枚の紙があった。

紙に描かれているのは、巧みに明暗を表現した翠色の一本の木に優しい雰囲気をした微笑をした綾波が描かれて

いた。綾波はその絵を帰ってきてからもずっと、その絵をじっと見つめていた。

その絵を見つめながら、いつまでも考えを巡らせていた。

“牧野君が描いてくれた絵。・・・そこには笑っている私が描かれている。”

“この絵を見ているだけで心が穏やかになる。心が温まる。”

“何故?どうしてなの?・・・この苦しさは何?嫌な感じはしない。”

“この絵を見ているだけで、安心する。心が安らぐ。”

綾波はふと絵の横にある碇司令の罅の入った眼鏡を見た。

碇司令との絆。私だけを必要としてくれるあの人と私の絆。

いつかは消えてしまうあの人との絆。

私だけを必要としてくれている人。

“この絵は私と牧野君の絆。”

彼女は再び絵に目をやる。

“牧野君から感じる暖かさはあの人とは違う。”

“碇司令は私を求めてくれている。”

“でも私ではない誰かをみているよう。”

“だけど牧野君は違う。”

“彼は何も求めない。だけど彼の目から感じる暖かさは碇司令からは感じなかった。”

絵に目をむけながら、今日の出来事が蘇ってくる。

牧野君と再び出会ったこと。

彼が花を癒してあげたこと。

彼が私に絵を描いてくれたこと。

思い出されてくると同時に心の奥底から温かいものがこみ上げられて来る。

嫌な感じはしない。心地いい感じ。

自分のなかにこみ上げられて来る感情に驚きを感じ、戸惑いを感じながらもそれを素直に受け入れた。

“ありがとう・・・感謝の言葉。”

“あの人にはまだ言ったことのない言葉。”

“感謝の言葉・・・・・・・牧野君。・・・・・ありがとう。”

心の底から何かがこみ上げられて来る。

暖かい気持ち。心地いい。

「牧野君・・・・・ありがとう。」

彼女の言葉は空に消えていった。

彼女の顔は優しい笑顔へと変わっていった。

その笑顔はまるで天使のようにいつまでも微笑んでいた。

 

 

・・・・・・・・・・・To be continued