―NERV本部・発令所内―
現場では突然の使徒出現で発令所内は喧騒としていた。
中央に大きく浮かぶメインモニターには、甲殻虫を連想させた使徒が宙に浮かんでいた。
昼を司る使徒・第四使徒シャムシエルだ。
山からロケットランチャーより、使徒に対して攻撃を続けているが効果は全く見られず、使徒は平然と移動していた。
「税金の無駄使いだな。」
メインモニターに映る使徒に攻撃が効かないことに対して、冬月が小言を漏らす。
「司令の居ぬ間に、第四の使徒襲来か。意外と早かったわね。」
ミサトがモニターから目を離さず、呟いた。
「前は十五年のブランク、今回はたったの三週間ですからね。」
「こっちの都合はお構いなしか、女性に嫌われるタイプね。」
オペレータの一人、眼鏡をかけた青年、日向マコトがミサトと話しかけている間にも使徒は山を越えて、湖を通過している。
マコトの前にあるディスプレイには、シンジのエントリープラグ内の様子が右下に映ってあり、シンジは待機している。
「委員会からエヴァンゲリオンの出撃要請が来ています。」
「うるさい奴らね。言われなくても出すわよ。・・・・・シンジ君?」
ミサトがディスプレイの横にあるマイクからシンジに話しかける。
シンジは瞑想をしている。
ミサトの呼びかけに答えるようにゆっくりと目を開ける。
「はい。」
「今から出撃するわよ。用意はいいわね?」
「その前に作戦は?」
「そんなこと言ってる暇はないわ。じゃ、エヴァンゲリオン初号機出撃!!」
「ちょ、ま・・・うぉおお!!」
シンジが質問を再び続けようとしたところに、ミサトが遮るように出撃させた。
唐突に地上にあげられたので、強力なGがシンジを襲った。
地上ではエヴァ専用のゲートが着実と開かれ始めていた。
ゲートが開かれるとともに鋼の巨人、エヴァが姿を現した。
エヴァの目の先にはシャムシエルが待っていたように構えていた。
“全く作戦も敵の配置を教えもなしに出すなんて、何考えてんだよ。”
“まぁ、下手な作戦を出されるよりはマシか。”
シンジはブツクサ考えながら、目の前の使徒を確認する。
確認と共に、シンジはインダクションレバーを手にする。
エヴァは使徒に向かって歩を進める。
シンジの第二戦が始まる。
―EVANGERION―
Another Story
漆黒の騎士と白衣の天使
―第五話−
---Uneasiness to stagnate---
---澱む不安---
―No,13シェルター内―
そこには第一中学の教師を含む生徒一同が避難していた。
あるものは友達同士で談話をする者もいれば、昼寝をする者もいる。
そんな中、一人の眼鏡をかけた男子生徒が電波受信式のハンディカメラを持って呟いた。
「ちっ!まただ!」
「また、文字だけなんか?」
トウジがケンスケの持つハンディカメラを覗きながら言った。
「報道管制って奴だよ。俺達、一般人には見せてくれないんだよ。こんなビッグイベントだっていうのに。」
ケンスケがぼやくように天井を見ながら呟く。
とふいにケンスケが眼鏡を光らせながら思いついたように手を叩く。
「なぁ、トウジ。い〜ぃこと思いついちゃったんだけど?」
「な、なんや。」
ケンスケが眼鏡を光らせながらこっちを振り向いて、たじろく。
眼鏡を光らせるときは碌でもないことを思いつくことを長い付き合いのトウジは知っていた。
今まで碌なことはなかったのだから。
内心ビクビクおびえながらケンスケに聞く。
「ちょっとさぁ、このシェルターを抜け出しちゃわない?」
「な!?なにゆうとんねん!」
「しーっ!声が大きい。いいか・・・・・・・・・。」
ケンスケは周りに聞こえやしないかと気を付けながら、トウジに話をする。
話が終わり、トウジは諦めたようにため息を吐いた。
「全く、お前っちゅう奴は・・・。お〜い!!委員長!」
トウジは女子達と楽しく談話をしている委員長・洞木ヒカリに話しかける。
「な、何よ?」
トウジに思いを寄せているヒカリは頬をうっすらと染めながら、答える。
「わしら、便所に行って来るさかいに。」
「もぅ、そういうのは早く済ませてきなさいよ。しょうがないわね、行って来なさい。」
「すまんな。」
ヒカリに了承の返事をもらうとケンスケと一緒に通路に向かって歩き出したのだった。
暫く、通路を歩いているとあるゲートにたどり着いた。
それは緊急用のハッチだった。
「なぁ、ケンスケ。やめようや。こんなんやっとって、なんの得があんねん。」
「一度だけでもいいから見たいんだよ!」
ケンスケはこのハッチを開けたら自分の見たいものが見られるんだと興奮していて全く聞いていない。
トウジはそんなケンスケを呆れていた。
「せっかくのチャンスを逃してしまったら、もう二度と見られないかもしれない!だから見ておきたいんだよ。」
「外に出てもうたら死んでまうで?」
「大丈夫だって。」
「何の確証があって、そんなん言えるねん。」
「それはともかくとして、ネルフの決戦兵器ってのが見たいんだよ。あのシンジが操縦するロボットだよ?
この前もあいつがこの町を守ったんだ。それなのにトウジが殴りかかってさぁ。
そのせいでロボットが満足に動かせないようじゃ・・・・・。」
ケンスケは熱意のこもった声で語ると、最後に少しの間をおいてから言った。
「皆、死ぬぞ。」
ケンスケの言葉に呑まれたのか、のどがごくりと唾を飲み込んだ。
「トウジはそれを見守る義務があるんじゃないか。」
「・・・・・・・はぁ、全くお前はホンマに自分の欲望には律儀なやっちゃなぁ。」
ため息をつくとケンスケの説得に負けて、頭をかきながら言った。
ケンスケは笑みを浮かべながら答える。
二人はハッチの前に改めて向き直る。
ケンスケは制服のポケットに手を探りいれるとNERVのIDカードを取り出した。
何故、ケンスケが、一般人が持つはずのないNERVのIDカードを持っているのか?
答えは簡単。ケンスケの父、勝三がNERVの監視部部長をやっているのだ。
おそらく、父の気がつかないうちに仕事用の鞄から勝手に無断拝借したのだろう。
これはケンスケの父、勝三の管理不十分ではあるが、勝手に拝借するケンスケもケンスケだ。
ハッチの横の認証機にIDカードをスライドさせる。
セキュリティが解除され、ポーンと確認の音が鳴る。
それと共にハッチが上にスライドされて開かれる。
開かれたゲートの先に二人は足を踏み入れたのだった。
―同時刻・地上―
エヴァ初号機は偽装ビルに格納されたパレットライフルに向かって走り出していた。
エヴァが武器格納ビルに近づくと共に、格納扉がスライドされて、パレットライフルが姿を現す。
シャムシエルはまだ状況を理解できていないのか、何もしてこない。
その間にエヴァは目的のところにたどり着き、パレットライフルのトリガーに左手でかけて、右手でライフルの先を持って使徒にむけて、構える。シャムシエルは狙撃されようとしているのに、気がついてエヴァに振り向く。
「シンジ君、使徒のATフィールドを中和させながらパレットライフルの一斉射。いいわね?」
エントリープラグ内のディスプレイを通して、ミサトがシンジに作戦の指揮をする。
「わかった!」
合図と共に、シャムシエルがこっちに気づいたことを確認し、シンジはインダクションレバーを手に力を込める。
エヴァの左手の指がトリガーを引き、使徒に向かってATフィールドを中和させながら一斉射する。
使徒に向かって、銃口から劣化ウラン弾が放たれる。
劣化ウラン弾は人体に影響を及ぼす危険物質ではあるが、そんなこともお構いなしに撃っていた。
全弾撃ちつくすと使徒は弾幕のせいで全く見えない。
「馬鹿!見えないじゃない!」
ミサトがシンジに指揮したのに、自分のことを棚にあげて叱責する。
「ああ?お前の言われたどおりにやっただけじゃねえかよ!なのに馬鹿とはなんだ!?」
シンジはぶち切れモードにはいっていた。
言い返しているうちに、弾幕から使徒の触手が鞭のようにしならせながら、エヴァに対して攻撃を仕掛ける。
シンジは咄嗟に危険を察知し、エヴァを動かす。
手にしていたパレットライフルを投げ捨てて、横に飛んで使徒の攻撃を回避する。
投げ捨てられたパレットライフルは使徒の触手によって真っ二つにさせられた。
「シンジ君!新しいパレットライフルを出すわ!」
エヴァが回避したところの近くの武器格納ビルからもう一本取り出す。
「葛城!あいつ、全然利いてねえ!どうする!?」
「ガキが生言ってんじゃないわよ!とにかく、近づきながら攻撃して!」
「はぁ!?」
ミサトはシンジに対して、安易な指揮をする。
対するシンジは、あまりの幼稚な指揮に呆れて、思わず奇声をあげる。
気を取り直して、もう一度シンジは使徒に攻撃を仕掛ける。
エヴァの持つパレットライフルから放たれる弾にものともせずに使徒は触手を足に絡ませた。
それに伴い、エヴァはバランスを崩し、使徒は触手を足に絡ませて山に向かって投げ飛ばした。
「うわああああああっ!!」
投げ飛ばされると同時にエヴァの命の手綱ともいえるアンビリカルケーブルが切断された。
―同時刻・シェルター近くの山の坂道―
「すごい!すごい!こんなの初めて見るよ〜!あぁ〜生きててよかったぁ〜!」
「お、おい!やばいて!こんなとこさっさと引き返そうや!」
ケンスケはハンディカメラを手にして、エヴァと使徒との対決を撮影していた。
さっきからのエヴァの激闘に恐怖を感じたのか、興奮して撮影をやめないケンスケを呼び戻そうとする。
とそこにエヴァがカメラ越しにこっちに向かってくるが、ケンスケは気がつかない。
裸眼で直接見るならば、気がついただろうが、カメラ越しで見ていると判断がつかなくなり、自分に対して近づくことには気がつきにくいのだ。その為、判断が遅れた。
「ん?なんかこっちに近づいてきている。」
ケンスケは変に思って、カメラから目を離して、直接見ようとする。
「おおおい!!やばいて!こっちに飛んできとる!」
「へ?」
エヴァ初号機がトウジとケンスケめがけて飛んできた。
「「ぎゃあああああああああああっ!!」」
突然の出来事で逃げることはおろか、足が動かない。
二人はただ叫ぶしかできなかった。
徐々に二人との距離が縮まるにつれ、影が大きくなる。
エヴァが山の斜面に激突した。
エントリープラグ内のシンジはエヴァが背中を諸に受けてしまい、ダメージがフィードバックする。
「うあっ!!」
思わず、悲鳴をあげる。
さほど、ダメージはなかったのか意識はしっかりと保つことができた。
シャムシエルは追撃を喰らわせようとこっちにむかってきた。
シンジは使徒を確認するとインダクションレバーを改めて握り締める。
と共にアラームが鳴り、シンジの横にトウジとケンスケの姿が電磁画面に表示された。
その姿は運良くエヴァの左手の指の隙間に被害を免れて、腰を抜かしている泣き顔の二人だった。
シンジは驚きを隠せず、目を大きく開いた。
「何で!?」
―NERV本部・発令所内―
「エヴァ初号機、アンビリカルケーブル切断されました!起動停止まであと4分56秒です!」
オペレータの一人、伊吹マヤが悲鳴にも似た声で状況を報告する。
ミサトは発令所の中央に大きく表示されたメインスクリーンから目を離さずに見守る。
スクリーンにはエヴァが山に激突する姿がリアルタイムで映っていた。
とそのときだった。発令所内にアラームが鳴り出したのは。
マヤの手前のディスプレイに二人の男子生徒のデータが表示される。
「なんでこんなとこに民間人が?・・・シンジ君のクラスメート!?」
ミサトはあまりのイレギュラーに驚愕する。
シンジは突然のイレギュラーに対応できるはずもなく、混乱していた。
その間にシャムシエルは距離が縮まっていく。
シャムシエルは触手をしならせながら、エヴァ初号機めがけて振り下ろされる。
シンジもそれを確認すると、咄嗟にエヴァの手で触手を掴み取る。
エヴァの手から火花が迸る。
ダメージがフィードバックされて、シンジの手に熱が帯びるような痛みが襲う。
シンジは二人を守るために痛みを耐える。
「なんで、反撃せんのや?」
「俺らが邪魔で戦えないんだよ!」
それでもケンスケとトウジは逃げるはずもなく、ただじっと見守るしかなかった。
シンジの横に通信が入る。
「シンジ君、EVAを現行モードでホールド。2人をエントリープラグの中へ収容して!」
「越権行為よ、葛城一尉。許可の無い民間人をエントリープラグには入れられないわ。」
「私が許可します。」
二人が言い争っている間にシンジはインダクションレバーの右トリガーに指をかける。
エヴァの後ろ首からエントリープラグが半射出される。
「早く!乗るんだ!急げ!」
外部スピーカーよりシンジが叫ぶ。
「シンジ?シンジなんか?」
「とにかく急ごう!早く乗らないとこっちも巻き込まれるよ!」
ケンスケとトウジは外部スピーカーからの声で我を取り戻し、エヴァのエントリープラグまでよじ登る。
二人はプラグ内に入るとLCLまみれになる。
「なんや!?これ、水やないか!」
「カメラ、カメラ!」
初めてLCLを体験する二人は困惑したが、シンジを見ると冷静になった。
シンジは使徒を見据えたまま真剣な表情で、インダクションレバーを手にしていた。
「シンクロ率低下!パルス乱れています!」
マヤが悲痛な声で報告する。
「異物を二つも入れたんだから当然ね。」
リツコは呆れてモノもいえないのか、冷静に語る。
ミサトは二人の言葉など全く耳に入らず、モニターをじっと見据えていた。
ミサトは次の指揮をするべく、マイクに話しかける。
「シンジ君、退却よ!」
「無理だ!エヴァが思うように動かない!」
「いいから!退却しなさい!」
何もわかってないミサトはシンジに退却しろとしか命令しない。
シンジも流石にこれは聞き入れられなかった。
「却下だ。」
そう言い残して、通信を自ら切った。
対するミサトはギャーギャー喚いていたが、通信が切られているのでシンジに届くはずもなかった。
「お、おい!なんや退却しろゆうてるで?」
「無理だよ。二人が入ってきたせいでこいつの動きが格段にダウンしたんだよ。」
「じゃあ、どうするのさ!?」
ケンスケが悲痛な声で叫ぶ。
「退却は無理。・・・なら戦うしかない!」
「「えええええ!!?」」
シンジはインダクションレバーを引き、エヴァの左肩のウェポンラックからプログナイフを取り出す。
両手でそれを握り締めて、エヴァは使徒のコア目掛けて走り出す。
トウジとケンスケは抱きしめながら泣き叫び喚く。
シンジは使徒から目を離すことなく、真剣に見据える。
エヴァと使徒の距離が縮まっていく。
シャムシエルは危険を察知したのか触手をエヴァの両腕に絡ませる。
シンジの両腕に痛みが走り、顔に苦痛で表情が歪む。
「こんの野郎おおおおおお!!」
怯まずにインダクションレバーに力を込める。
それに呼応するかのようにエヴァの両手に力が込められる。
活動限界まで残り10秒
9秒・・・シンジは苦痛に耐えながらも、使徒から目を離さない。
8秒・・・ミサトは拳を握り締めながら、自分のことを棚にあげながらシンジに“馬鹿馬鹿”と呪詛のごとく念じていた。
7秒・・・リツコは冷静にモニターに映る使徒とエヴァを見つめている。
6秒・・・マヤはハラハラしながら、モニターを見ている。
5秒・・・ゲンドウは机の上に手を組んでいる。組まれた手に隠れている唇は吊り上げながら笑う。
4秒・・・冬月はじっとモニターを見ながら、立ち尽くしている。
3秒・・・ケンスケは“ああ、シェルターなんか抜けるんじゃなかった・・・でもエヴァに乗れたから本望・・かな?”と黄昏てた。
2秒・・・トウジは“すまん、ユウカ。ワイ死ぬかもしれん、兄貴らしいことなんもしてやれんかった。”走馬灯のように妹を想う。
1秒・・・一人の男がインダクションレバーのトリガーに指をかけようとしていた。
・・・0秒!
エヴァ初号機の双眼が暗くなっていく。
活動限界が来たのだ。それとともに初号機は力がなくなったように立ち尽くす。
発令所の人間は最早これまでとあきらめかけた。
その時だった。メインモニターに“Shadow - EVA”と黒のポインタが山間部に出現した。
「山間部に正体不明のエヴァ出現!」
日向マコトが報告する。
発令所全体の人間が驚愕した。
山に黒のエヴァが、光学迷彩が解除されるようにうっすらと姿を現したのだ。
エヴァシャドウの右手には大型の銀白のDE(デザートイーグル)型の銃を持っていた。
向けられた銃口のさきには、使徒のコアを目指していた。
「後退しなかったのは正解だ。しかし、コアを破壊するには至らなかったか。」
呟くようにして、インダクションレバーのトリガーに指をかける。
白黒の炎状のカラーリングのプラグスーツを身にしたシャドウは目の前の二つの赤丸の照準が合わさるのを待った。
そして、照準が合わさり、トリガーを引く。
エヴァシャドウの持つ銃から銃弾が使徒のコア目掛けて放たれた。
エヴァ初号機の頭上を掠めながら、銃弾が通過し、使徒のコアを貫通していった。
コアを貫かれたシャムシエルは力を失う。
エヴァの両手に絡まれた触手が力を失い、緩んでいった。
シンジのほうもダメージのフィードバックがなくなり、痛みが和らいでいく。
「・・・・・助かったの・・・か?」
シンジは気を失い、意識は闇へ落ちていった。
トウジとケンスケも同じく気を失った。
「目標沈黙!使徒殲滅完了です!」
マコトが職分を忘れずに報告する。
メインモニターの左にはコアにプログナイフを差し込んだまま立ち尽くすエヴァが、右には山の頂点に立って銃を構えたエヴァシャドウが映っていた。
満足したようにエヴァシャドウが霧のように霞んでいき、消えていった。
「また、消えた・・・。あいつは敵なの?味方なの?」
ミサトは呆然としながら呟く。
しかし、その問いは返ってこなかった。
「正体不明のエヴァ、消滅しました。」
発令所全体に沈黙が続くが、前回も見たことなのですぐに自分の職分を思い出し、仕事を再開した。
この戦いを忘れるかのように喧騒としていた。
「また、彼に助けられたな。」
「・・・・・問題ない。」
冬月の言葉に答えるが、組まれた手に隠れた口には歯軋りをしながら、忌々しそうに歪めていた。
本来ならエヴァが殲滅するはずだったが、どこのものか知らない存在しないエヴァに助けられたなどゲンドウにとっては屈辱だろう。
まして、このままエヴァシャドウに殲滅されるとなるとNERVの存在意義がなくなってしまう。
このことが国連に知れたらなおさらだ。
ゲンドウはますます忌々しそうに顔をゆがめた。
冬月はそんなゲンドウを珍しそうに見ていた。
“彼は敵なのか、味方なのか?未だ、答えは見つからない。”
“このまま、殲滅してくれれば助かるといいたいがそうもいかないな。”
“国連とゼーレがまず認めないだろう。”
冬月は先ほどの戦いを思い出すように自問自答をしていた。
―NERV専属病院―
シンジは先ほどの戦いであまりダメージがなかったためすぐに目を覚ました。
となりには綾波がいすに座っていた。
「・・・・・ずっと、いてくれたの?」
「・・・ええ。」
「俺は・・・僕はどうなったの?」
「碇くんがコアにプログナイフを刺したあと限界を迎えて、エヴァが止まってしまったの。」
「・・・・・」
「そのあと、黒のエヴァがあなたを助けたの。」
「!!・・・・・そうか、また助けられたのか。」
「・・・・・」
「・・・・・」
暫く沈黙が続いた。
その沈黙を先に破ったのは珍しくも綾波だった。
「あなたは彼を知っているの?」
「・・・?何故それを聞くのか分からないけど僕が知るはずがないよ。第一話したこともないし。」
「・・・そう。」
綾波は期待していた答えとは違ったことに落胆したように顔を床にむけた。
表情こそ変わらないが。
しばらく、静かになったが突然の来客で病室が騒がしくなる。
ミサトが病室のドアが開かれると共にどかどかと乱暴に入ってきた。
「どうして、命令を聞かなかったの?!」
「後退してたら、確実に死んでいましたよ!」
「そんなのわからないじゃない!とにかく命令違反よ!」
「やめなさい!」
ミサトの次に病室に入ってきたのはリツコだった。
「何で止めるのよ!この子は命令を違反したのよ?!」
「その前にあなたの越権行為を責められるべきよ!」
「なんでよ!あれは人命を優先しただけじゃない!」
「そのせいでシンクロ率はどうなったと思う?」
「えっ?」
「シンクロ率が20%まで低下して、後退していたらシンジ君の言う通り確実にやられていたわよ。」
「う、嘘よ。」
「嘘を言ってどうするの!わかったらさっさと始末書を処分してきなさい!」
ミサトは歯をかみ締めながら、拳を握り締めて病室をあとにした。
ミサトが病室を去るのを確認すると、リツコはため息を吐いた。
「見苦しいところを見せてごめんなさいね。」
「いいえ。」
「あなたは大して負傷していないから、もう退院してもいいわ。」
リツコはそういうと踵を返して、病室を出ようとするが、シンジが静止する。
「ケンスケとトウジは・・・僕のクラスメートなんですがどうなりましたか?」
「ああ、あの子達ね。彼らなら、大丈夫よ。気絶程度で済んだだけで大して怪我はしてないわ。」
「そうですか。」
シンジはほっと胸をなでおろした。
トウジとケンスケが無事だということがわかり、安堵感から肩に力が抜けていった。
リツコはその様子を見ると微笑んで、病室を去った。
「私ももういくわ。」
「あ、うん。ありがとう、心配かけたね。」
シンジが満面の笑顔を綾波にむける。
この笑顔は向けられた女性にノックアウトするほどの威力を持つ。
綾波もその顔を見て、頬に朱がさす。
「・・・問題ないわ。」
そっけない返事ではあったが、彼女なりに答えたのだろう。
シンジは答えてくれたことに喜びを感じていた。
やがて、綾波が病室を去る。
しばらく、シンジは考え込んだ。
「そういえば、綾波と話をするのって今回が初めてだよな。」
思い出したようにシンジが呟く。
後日談ではあるが、ケンスケとトウジは正座をさせられて、リツコに説教をくわされていた。
終いには、ケンスケのカメラも没収されて、ケンスケは涙をさめざめと流していた。
説教は1時間と延々続けられたが、開放されると次は親からの愛のムチ、曰くゲンコツを食らわされた。
次の日、学校の教師に呼び出され、各教科の課題が出され、一週間以内にやれといわれた。
彼らの災難はつづく。
この課題のお陰で中間テストは平均80点台をクリアしたのは後日の話であった。
・・・・・・・・To be continued