光の差し込まない闇に閉ざされた部屋。
そこには一台のベッドがあった。
あたりは使われていないようなものばかりで埃が少したまっている。
少年はベッドの上でリズム良く寝息をたてながら眠っていた。
シンジのそばにある時計が突如鳴り響く。
“ジリリリリリリリリン!!”
シンジは安眠の妨げされたことにこめかみをゆがめて、手探りで目的のモノを探す。
しかし、手ごたえはない。
まだ、時計はやかましく鳴り続いていた。
ようやく、時計に触れて一気に叩く。
アラーム音は鳴りやんだ。
時計は7時を指していた。
「ん〜、朝か。」
シンジは眠たそうにまぶたをこすりつけて目を覚ます。
天井が目に入る。
「・・・・・あれ?知らない天井だ。」
シンジは気がついたように呟いた。
ようやく、意識が覚醒し、昨日のことを思い出す。
「そうか、葛城さんのとこで泊まってんだった。」
体をゆっくりと起こして、朝食を作るすべくキッチンへと足を運んで行った。
ふと頭にズキンと痛みが走った。
“あの人のことだ。きっと朝食もまともじゃないから自分で作ろう。”
昨日の記憶が再び蘇る。
それは彼にとってはショッキングだっただろう。
そう、あのミサトカレーだ。
嫌なことを思い出し、背中に悪寒が走った。
“・・・・・はやく、作ろう。”
シンジは自分の将来の為に冷蔵庫を開けた。
しかし、あるのはえびちゅのみで、ほとんど食材がなかった。
「・・・・・・・・・。」
シンジの苦悩は続く。
―EVANGERION―
Another Story
漆黒の騎士と白衣の天使
---第四話---
---As for the boy, what fights in sake?---
---少年は何が為に戦う?---
ミサトはいつにもまして目が早く覚めた。
ふすまの隙間からいいにおいが鼻腔をくすぐって、においにつられて目を覚ましたのだ。
“あれ?誰かが料理を作っている。”
頭に疑問を抱えて、まだ重たい体を起こして、ふすまを開けてにおいのするほうを見やる。
そこにはエプロン姿をしたシンジが作った料理を机においていた。
シンジはふすまが開かれていることに気がつき、こっちを見る。
「葛城さん。おはようございます。」
「え?ああ、おはよう。」
目もすっかり覚ましてしまったので、寝る気にもなれず立ち上がって机にいく。
机の上にはミサトにとってはゴージャスな朝食・マカロニグラタンがほかほかと蒸気をあげていた。
「あら〜!もしかして、シンちゃんが作ってくれたの?」
「ええ、食材を探すのに苦労しましたが。小麦粉と牛乳にバター、マカロニがあったんで作りました。」
「すごいわ〜!こんな才能があったなんて!」
ミサトは目を輝せていた。
シンジはこっちに来るまでは居候として住んでいたため、家賃代わりに料理を作らされていたのだ。
そのため、料理にはかなりの自信がある。
はじめはうまくいかず、怒られてばかりではあったが紆余曲折あって、料理の才能が開花したのだ。
さらには、一般家庭料理から料亭料理までできるほどのプロクラスの実力にまで成長したのだ。
彼に包丁を持たせると右に出るものはいないといってもいいほどだ。
余談ではあるが、あちこちの料理の大会で高校生の部に混じって優勝した経験があり、“ゴッドハンド”と呼ばれている。
雑誌の取材がいくつかあったが、面倒は嫌いということで拒否してはいるもののちらほらとシンジのことが載っていた。
もちろん、ミサトは知りうるはずもないが。
「いただきま〜す。」
ミサトは椅子にちゃっかり座り、そばに置かれていた銀のスプーンを手にし、一口食べる。
「こ・・・・・これはっ!・・・・・・・ぅまい〜〜〜〜〜!!!」
口にしたとたん、顔がリアルな表情(ジョ○ョ風)になり、次には顔を綻ばせていた(中華○番風に)。
一口、また一口と味を堪能しながら食べていた。
顔の方はというと百面相していたが、それ程うまいというほどだろう。
「・・・・・・・・・・」
シンジはあっけに取られていたが、気に入ってくれたのでよしとしていた。
“今までろくな飯食ってなかったんだな。”と思いながら空ダンボールの中にぎっしりとした空のインスタント食品を見る。
「おかわり!」
「早!っていうかもうありません!」
いつの間にかミサトはチーズどころかマカロニのマの文字もないほどに平らげていた。
冷や汗をたらしたが、冷静を保ち自分も食べ始める。
「そうそう、シンちゃん。あなたはこっちに暮らすことになるから学校の方に転入手続きをしておいたわ。」
シンジはまだ食べていたが、不意にミサトから学校のことを言われたので、口に運ぶスプーンが止まった。
「え?聞いてないですよ!」
「司令からは何も聞いてないの?」
「全く。」
「・・・・・とりあえず、いってらっしゃい。」
「あの髭親父め。次あったら覚えておけ。・・・ちなみにどこの学校です?」
「第三新東京市立第一中学校よ。はい。これ、地図ね。」
シンジはミサトから差し出された地図を受け取る。
「そういえば、もう8時10分過ぎてるけど。大丈夫?」
「え!?」
シンジは壁時計を見る。
そこはもうすで、8時を過ぎていた。
「うわわ!急がないと!」
時間に気がついて、急いでグラタンを食べる。
シンジはすぐさま、部屋に戻り制服に着替えて、ボストンバックから筆記用具を取り出し、ショルダーバックに入れる。
「行ってきます!」
そして、ドアを大きく開け放ち新たな学校へと走って行った。
―第三新東京市立第一中学校・2−A―
シンジは全力疾走で迷わず、学校についた。
チャイムもちょうど間に合ったらしく、遅刻しなくてすんだ。
今、教室のドアの横に立たされていた。
そして、今日室内では。
「え〜、実は今日、転校生が来ることになりました。」
老先生が突然の転校生が来たことを明かした。
それにより、生徒がざわめく。
その中の二人は知っていたようであまり騒いでいなかった。
綾波レイと相田ケンスケだ。
「それではカモン!」
老先生が指をパチンと鳴らしながら合図をした。
“今時、カモン!?”
“うわ、指ぱっちんしているよ。”
“あんな先生始めて見た.”
先生の指ぱっちんでそれぞれの生徒は思っていた。
そして、ドアが開かれていく。
シンジは先生のそばまで行って、みんなの方を振り向く。
「始めまして、碇シンジです。趣味は・・・ええと、料理、読書です。よろしくお願いします。」
最後に満面の笑顔で自己紹介をする。
女子の反応はすさまじかった。
男子は反感を買っていたが。
“ぃやぁ〜ん、かわいい!”
“弟にしちゃいたいぐらいだわ!”
“好みのタイプだわ〜!”
“ちっ、碇シンジか。覚えとけよ。”
“ふふふ、裏切り者には死を。”
“これは売れる!売れるぞぉ〜!”
“今日の弁当は何かな?”
それぞれの思惑とは別にシンジの新たなる学校生活が始まった。
そして、別の教室で転校生がいた。
同時刻・第三新東京市立第一中学校・2−B
「佐倉先生!おはようございます!」
生徒全員がびしっと起立して、大きく挨拶をしていた。
生徒の向く先には、黒のスーツに無精ひげを生やしていた強面の先生がいた。
しかも、顔には似合わず、無類の花好きなのだ。
「ぉう。おはよう。」
どっかのヤクザみたいな言葉で話す。
教員とは思えない。
「突然だがな、今日、転校生が一人来ることになった。」
その言葉と共に生徒はざわめく。
「はいはい、騒ぐな。おーい、入ってもいいぞ。」
合図と共にドアが開かれ、一人の生徒が教室に入って来た。
そして、先生のそばに近づいて、自己紹介をする。
「始めまして、牧野ショウといいます。よろしくお願いします。」
「お?自己紹介はそれだけか?よし、じゃあ、窓側の後ろの席に座ってくれ。ておい!そこ、漫画読むな!」
「やべ!ばれた。」
佐倉先生が開いているほうの席を指差すが、その手前の生徒が漫画読んでいることに気がつき、叱った。
漫画を読んでいた男子生徒はばつが悪そうにべろを出して、おちゃらける。
教室は爆笑の渦だった。
そんな中、ショウは思った。
“中学時代なんてとうの昔に終わっているのに、また中学生やることになるとはな。・・・まぁ。いいか。”
などと考えていながら、自分の席につく。
と不意に隣の席から声がかけられた。
「あたしは河合ユキっていうの。よろしくね。」
「ああ、よろしく。」
そして、もう一人の少年・牧野 ショウの学校生活が始まった。
処変わって、再び2−A
窓際に一人の少女が席に座り、開かれた窓から青い髪が風に吹かれてなびかせていた。
綾波レイだ。
彼女は左腕を頬にあてながら空を眺めていた。
意識は上の空で、昨日の病室での出来事を思い出していた。
それはシャドウのことだった。
“あなたは今、どこにいるの?”
“あなたはまた会うと言ってくれた。”
“いつ会いに来てくれるの?”
綾波はまだ昨日のことを思い出していた。
あと、彼女の体は全快していた。
昨日のシャドウの特殊な力によって傷が癒されたのだ。
彼女の担当の医者は驚いていたが、いくら調べても異常は見られなかったので昨日の昼ごろに退院したのだ。
もちろんゲンドウもリツコも驚いていた。
彼らはシャドウが何をしたのか聞いてきたが、綾波は頑として話さなかった。
あのゲンドウに思いを寄せていた彼女がだ。
今まで反抗したことは無かった、思えばあれが始めて反抗したことだった。
シャドウは命令はしなかった。
“誰にも言うな”ではなく“彼と私の秘密だ”といってくれた。
命令ではないのにもかかわらず、綾波はそれを聞き入れ、司令には話さなかったのだ。
綾波は自分と彼の間に秘密ができたことに喜びを感じていたのだ。
綾波はというとまだ物思いにふけっていた。
“あなたに会いたい。あなたのことが知りたい・・・・。”
彼女の心は確実に感情の芽が息づいていた。
彼女の心いさ知らず、彼女の会いたい人物は隣の教室にいることはまだ知らない。
シャドウ。いや、牧野ショウ・・・・・罪作りな男よ。
シンジとショウが転校してから三週間目のある日。
“キーンコーンカーンコーン”
ちょうど二時間目のチャイムが鳴ったときだった。
ドアにはジャージを着た一人の男子生徒が立っていた。
「なんや、すいぶんと減ってもうたのぉ。」
関西弁を流暢に話す。鈴原トウジだ。
「疎開だよ。疎開。なんか、こないだのやつでクラスの半数近くが疎開しているみたいなんだよ。」
鈴原の言葉に彼の友達、ケンスケが答える。
トウジは教室を見回した後、自分の席へ座る。
「まぁ、こないだのドンパチで喜んどんのはお前ぐらいやろな。」
「まぁね、生のドンパチなんてそう簡単には見られないけどね。
トウジこそ、どうしたのさ?ここんとこ、ずっと休んでいたけど何かあったのか?」
「・・・・・あぁ、妹がな。」
ケンスケは友達として、トウジを心配していたが当の本人は顔をゆがめていた。
トウジの顔は歯をかみ締める。妹を案じているのだろう。
ケンスケは彼の言いたいことを察したのかこれ以上の追及はしなかった。
「妹のユウカがな、こないだのドンパチのせいで瓦礫の下敷きになってもうたんや。
でな今、入院しててん。まだ、意識は戻らなくてな・・・。
しかも、ウチはお父んもおじいもな、研究所に勤めてんやんか。それやと、見舞いにいくんは俺しかいないんや。
俺が行かんと、あいつは独りぼっちになってまうんや。それで今まで来んかったんや。」
「・・・・・・。」
鈴原は怪我で休んでいたわけではなかったのだ。
この間の騒ぎで彼の妹・ユウカは瓦礫の下敷きになってしまい、その際に頭を負傷してしまったのだ。
今もなお、意識不明の重体でいつ目を覚ますのか解らない状況なのだ。
妹のことが心配で学校にかまう暇などなかったのだろう。
今までずっと、妹に付っきりだったのだ。
“知らなかった、ユウカちゃんがそんなことになっていたなんて。トウジもそんな重いものを背負っていたんだ。”
トウジの言葉に重さを感じて、ケンスケは顔を曇らせた。
「しっかし、あの黒のロボットのパイロットはほんまへぼやなあ!!無茶苦茶腹立つわ!ちゃんと足元見て戦えっちゅうねん!」
トウジは煮え切らない怒りを吐き出すように叫んだ。
「そのことなんだけど。転校生の噂、聞いた?」
「こんな時に転校生やて?」
「そうなんだよ、実はな・・・・・。」
教室ではノートを開いて、教科書を開くということは全く無かった。
代わりに、机の上には個人端末ノート型パソコンが置かれていた。
そこに授業の内容を入力するだけというお粗末なものだった。
シンジのノートパソコンではチャットが行われていて、さまざまな質問が入ってきた。
転校してきてから、質問されてばっかりだ。
適当にシンジは答えていたが、いい加減うんざりしていた。
とそのときにちょうどひとつの文章がはいってきた。
“ねぇ、君ってこないだのロボットのパイロットなんでしょ?Y/N”
シンジは驚いた。
なぜ、こんなことを知っているのかわからなかったが、とりあえずシンジは答えることにした。
“YES”と返信を送る。
「「「ええええええええええ!?」」」
クラス中は大騒ぎになり、次々と授業中にもかかわらず席を立って、シンジに質問をぶつける。
最早、授業どころではなかった。委員長の洞木ヒカリが注意をするが全く聞いていない。
その時、一人の男子生徒の登場で静まり返った。
「おい、転校生。あとでツラ貸せや。」
トウジは今にも殴り掛ってきそうな雰囲気で話しかけてきた。
その手には拳を握り締めて、震わせていた。
「理由は?」
シンジはものともせずに冷静に答える。
「ここでは話せへん。昼休み、屋上に来いや。」
そういうと、トウジはシンジに背をむけて席に座る。
生徒が静まる中、蝉の声と老先生の思い出話を語る声だけが聞こえた。
―昼休み・屋上―
青い空に浮かぶ雲にまぶしく照り輝く太陽。
暑い日差しのなか、第一中学校の屋上に三人の影があった。
シンジとトウジにケンスケだった。
不意に風が吹く。
「で?用事はなんなのさ。」
「お前があのロボットのパイロットってほんまなんやな?」
「さっきもチャットでやったとおり、事実だよ。」
「そうか。」
とトウジが突然、拳をシンジの左頬を殴った。
バキッと鈍い音をたてる。
シンジは後ろに倒れる。
「すまんなあ、転校生。ワイはお前を殴らなあかん、殴っとかんと気が済まんのや。」
シンジの左頬は腫れて、口から血を流していた。
シンジは口の中に満たされた鉄の味に嫌気がさして、顔を横に向けて血を吐き出した。
吐き出された血は床に飛び散る。
「何故、殴ったのか理由を聞いてもいいか?」
口に残る血を右手で拭いながら、ゆっくりと立ち上がる。
「あのドンパチでワイの妹が巻き込まれて、大怪我したんや!傷もんにしよって!嫁にいかへんようになったらどないすんねん!」
「・・・・・・・君の妹が巻き込まれて、その腹いせに俺を殴ったわけか?」
「そや!それ以外に何の理由があんねん!」
「ひとつ聞きたい。何故、避難しなかったんだ?そうすれば、怪我せずに済んだはずだ。」
「避難したにきまっとるやろ!せやせどな、間に合わんかってん!それで怪我したんや!」
「その時、お前は何していた?傍にいなかったのか?」
シンジは厳しい目をしながら、訴えるトウジから一度足りとて、目を離さなかった。
一句一句、聞き漏らすまいと耳をむけて聞いていた。
「傍におったわ!せやけど降りかかってきた瓦礫で離れてしまったんや!」
「傍にいながらにして、妹を守らなかったのか?」
「なんやと!」
「あの時、お前の妹の傍にいたのはお前だけだ。
彼女の傍にいたのなら、お前は妹を守れたかもしれないだろう?
守れたかもしれない失いたくない大切な人を守るならば、君が身を挺してでも守るべきだったんだ。
それなのに、お前はお前の言うロボットのことを言い訳にして責任から逃れているだけだ!」
「ぐっぐううぅぅぅぅ・・・・。」
トウジは悔しそうに拳を握り締めて、首をうなだれる。
言葉が出なかった。
何故なら、シンジの言っていることは最もだったからだ。
“そうや、ワイはロボットのことを言い訳にして逃げていただけや。”
“こんな八つ当たりみたいなことをして、ユウカが喜ぶか?・・・・・せえへんやろな。”
“ワイは最低や!ワイはユウカを守れたかもしれへんのに!”
“ユウカ・・・・・ワイは最低の兄貴やな。”
暫く、トウジとシンジの間に沈黙が続いた。
ケンスケは二人だけの話なのであえて水を差すようなことはせず傍観していた。
やがて、シンジから口を開いた。
「俺からも謝るよ。たとえ、故意にやったわけじゃなくても責任は俺だってある。・・・・・君の妹に謝る。すまなかった。」
そう言うとシンジは頭を下げて、トウジに対して謝ったのだ。
「いや、謝るんはワイの方や。一方的に責めてしもたりして悪かった。顔をあげてくれ。」
トウジが答えるとシンジも顔をあげた。
お互いの視線が交わされる。
「そういや、転校生の名前、聞かんかったな。名前は?」
「俺は碇シンジ。君は?」
「ワイは鈴原トウジっちゅうんや!トウジでええわ!これからはそう呼んだってや!」
「わかった。よろしく、トウジ。」
「おう、よろしゅうな!シンジ!」
お互いは許しあい、握手した。
「まぁ、なにはともあれ一件落着だな。よかった。」
ずっと傍観していたケンスケは握手しあう二人の元に歩む。
「なぁ〜にがよかったや。お前、なんもしとらんやん。」
「まぁ、そう言うなよ。俺は相田ケンスケって言うんだ。ケンスケでいいよ。」
そういうとケンスケはシンジに握手を求めた。
「よろしく。」
シンジはケンスケの握手に応じるように答えた。
ここに三馬鹿トリオが誕生した瞬間であった。
「そういや、シンジは黒と紫のどっちに乗ってたんや?」
不意にトウジが質問をする。
「え?紫のほうだけど。・・・・・・ってちょっと待って!今なんて!?」
シンジが突然声をあげて、トウジの肩をつかむ。
「な、なんや?黒と紫のどっちやて聞いたんやけど?」
トウジは驚くが、どうにかして言葉を出すことに成功した。
シンジはあの出来事を思い出していた。
“あれは夢じゃなかった。ってことは現実に起こった?”
“じゃあ、あのエヴァに乗っていたのは誰?”
シンジは暫く、考えをめぐらせていたがケンスケの軽い往復ビンタで我を取り戻す。
「ぅお〜い、大丈夫か?」
「はっ。え?ああ、大丈夫。」
「それにしてもなんであんなことを聞いたんだ?詳しく聞きたいね。」
ケンスケがトウジに顔をむける。
眼鏡が太陽の光に反射して、怪しげに光っていた。
何を隠そう、実はケンスケはミリタリーオタクでこういった話は聞かないと気がすまない性質なのだ。
「頼むから近づかんといてや。ええとな、ロボットのせいで妹が怪我したんまではわかるな?」
「「うん。」」
シンジも黒エヴァに興味をもったのか、話を真剣に聞いている。
「実はな、あん時な。紫やのうて黒の方がな無茶苦茶やっとってな。それで妹が傷ついたんや。
紫の方はやられたまんまで動かんようなってから、黒いのが突然現れたんや。
でバケモンをボコボコに倒す際に巻き込まれたんや。」
「ほぅ〜、でどうなったんだ?」
ケンスケはさらに眼鏡を光らせて、トウジに詰め寄る。
「結局、黒いほうはバケモンを倒したで。俺達はそのあと、妹と一緒に病院へ行ったんや。これで終いやな。」
シンジはあのとき気を失ってしまったので、その後のことは全く知らされていなかった。
トウジの話を聞いて確信した。
“あれは夢ではなく、現実だったんだ!”
“でもパイロットは誰だったんだろう?”
“聞いたところ敵じゃないし、俺は守られた。・・・・・味方なのか?”
シンジはまたもや疑問の海に意識を浮かべていた。
屋上入り口の裏にあるひとつの影。
そこに一人の人物が居た。
その少年は牧野ショウだった。
手には学校の昼食の定番、焼きそばパンを左手にイチゴオレを右手にしていた。
どうやら、シンジ達が来る前にずっとここに居たらしい。
彼は通常の聴覚とは違い、三倍の聴覚を持っているので障害物がない限り、遠く離れていても何を言っているのかわかるのだ。
トウジがシンジを殴っていたところからずっと聞き耳を立てながら聞いていたのだ。
“話を聞いたところ、あいつの妹が傷ついたのは俺のせいか。”
“たしか、鈴原トウジだったな。妹はユウカだっけか?”
“あいつの記憶じゃ、シンジのせいで責められていたが、俺がこっちの世界に来たせいで変わってしまっているな。”
“・・・・・・ううん。まいったね、ユウカって子を闇から意識を取り戻してやらないとな。”
“じゃないとシンジもトウジも不憫でならない。”
“また、病院に忍び込まないとな。”
ショウはトウジに対して、罪の意識を感じ、彼の妹を救ってやろうとおもった。
俺のせいだと言うのは傲慢かもしれない。でもせめてもの償いで彼の妹を救ってやりたかった。
そのとき、自分の知っている気配が屋上に近づいているのを感じた。
“この気配は綾波か。”
そして、彼女の気配が近づき、屋上のドアが開かれる。
「碇くん。・・・・・NERVから非常収集。先に行っているから。」
そういうとシンジ達に踵を返して、ドアをくぐり階段を下りていった。
「あ、待ってよ!・・・じゃ、行かなくちゃ。」
「わかった。気を付けろよ!」
「シンジ!終わったら、もっとしゃべろうや!絶対帰って来いや!」
「もちろん!」
シンジは満面の微笑を浮かべて答えた。
シンジの目には、“必ず、帰ってくる!”と決意の意志を浮かべて、彼女を追うように走っていった。
一方、ショウはというと。
“そういえば、シャムシエルは今日か。あいつの記憶どおり、やってくるか。”
そう思いながら、焼きそばパンを一気に食べる。イチゴオレを一気に飲み干す。
ゴミは残さず、丁寧にコンビニ袋にまとめていた。
そして、立ち上がり壁に手をかざす。
と、どうだろう壁には黒い縦の楕円形の影が出来上がり、それは炎のようにうごめいていた。
ショウはうごめく黒の炎に向かって歩みだす。
そして、黒の炎をくぐり、やがて噴霧して消えた。
・・・・・・・・・・To be continued