白い壁に床と天井。

そこに一台のベッドがあった。

そこには頭に包帯が巻かれ、横たわる一人の少年の姿があった。

その寝顔は、リズム良く寝息をたてて寝ていた。

右側に窓が大きく付けられており、白いカーテンの隙間から日差しが出ていた。

「・・・・・・・・う・ん。」

やがて、その日差しが顔に差し込み、まぶしく感じたのかシンジは目を覚ました。

「・・・・・知らない天井だ。」

シンジはまだ頭がはっきりしないのか、うっすらと目を開けて呟いた。

ようやく自分がベッドで寝ているのだと理解し、体を起こそうと起き上がる。

「!?・・・・・・痛ぅ。」

頭に激痛が一瞬走り、頭を抱える。

頭に包帯が巻かれていることに気が付き、何故頭が痛むのか頭をフル回転させて原因を探る。

「・・・確か、僕はあのエヴァとか言うものに乗って、それから・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―EVANGERION―

Another Story

漆黒の騎士と白衣の天使

 

―第二話−

---The story that is spun---

---紡がれる物語---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---会議室---

人類補完委員会、通信会議で行われる国際連合の実質的最高決定機関。

すなわちゼーレ。

議長は、ドイツのキールローレンツ、他議員はアメリカ、フランス、イギリス、ロシアの代表である。そして、日本の碇が出席している。

しかし、ゲンドウの周りには人の姿は見当たらない。

あるのは闇に浮かぶ複数の黒いモノリス。

そのモノリスから声がでてくる。

「碇君、ネルフとエヴァもう少し上手く使えんのかね。」

「零号機に引き続き君らが初陣で壊した初号機の射出口に兵装ビルの補修・・・国が一つ傾くよ。」

「まぁ、我々の先行投資が無駄にはならなかったとも言えるがね。」

「聞けば、あの玩具を君は息子に与えたと言うではないかね。」

「人、物、金、いったい幾ら使えば気が済むのかね。」

「玩具に金を注ぎ込むのもいいが肝心な事を忘れちゃ困る。」

「君の仕事はそれだけではないだろう。」

「左様、人類補完計画、我々にとってこの計画こそがこの絶望的状況下における唯一の希望なのだ。」

「承知しております。」

「明らかになってしまった使徒とエヴァの存在、どうするつもりかね。」

「その件に関してはお任せを、既に対処済みです。」

ゲンドウはうんざりとした口調で答える。

無理もないだろう、昨日イレギュラーが起こったためその修正するためにシナリオを再考していたため一睡もしていないのだ。

「それと・・・・・・あの黒いエヴァは何だ?五機しかいないはずのエヴァの他に存在しないエヴァ。」

キールの言葉と共に周りのモノリスがざわめく。

「そうだ!なぜ、あるはずのないエヴァがあるのだ!?」

「あの強さは異常ではない、敵に回してしまえば厄介だ!」

「これはシナリオにないことだ!どうするつもりだ!?」

「聞けば、あのエヴァに助けられたそうじゃないかね。」

「なんと!?それはまことか!?」

「助けられているようでは何のためにエヴァを作ったのかわからんではないか!」

「うろたえるな!!」

モノリスが喧騒としている中で委員会の長、キールが叫ぶ。

次第に辺りが静かになる。

まさに鶴の一声。

「確かにあのエヴァは厄介ではあるが、そのエヴァを逆手に利用すれば我らの計画に支障をきたすことはない。

・・・・存在しないエヴァに、存在しないチルドレン。碇よ、これについて今後調べることだ。

もちろんこちらもできる限りのことは調べておこう。」

「・・・・・わかりました。」

「今後、存在しないチルドレンを0“ゼロ”チルドレンとする。我らの計画に支障をきたすようであれば、即時殲滅せよ。」

「・・・・・承知しました。」

「いずれにせよ、使徒再来による計画の遅延は認められない、予算に関しては一考しよう。」

「はい。」

「では、後は委員会の仕事だ。」

キールの解散の言葉と共に一つまた一つと姿を消していくモノリス。

一人を残し委員達の姿が消えた。

「碇、後戻りはできんぞ。」

「解っております、全てはゼーレのシナリオ通りに。」

碇はにやりと口元を歪ませた。

キールの姿が消えた。

「・・・解っている。人間には時間がないのだ。」

 

 

 

 

同時刻、第三新東京市立ち入り禁止区域

プレハブ小屋の中でミサトはテレビを見ていた。

『昨夜の第3新東京市での爆弾テロに対して政府は』

ミサトはチャンネルを変えた。

『え〜ですから、その件につきましては、後日』

『正式な発表を持って』

『詳細を発表』

『したいの』

どこのテレビ局も全く同じ嘘の会見の放送をしているのにいらつき、ミサトはテレビの電源を切った。

「シナリオはB−22か」

分かってはいたがこうまで鮮やかにマスコミに圧力をかけることにミサトは少し複雑な心境だった。

「作られた真実・・・事実と言うものね」

「分かってるわよ・・・・でもね」

ミサトは小屋の外を見た。

大人数を投入しての探索作業、ちょっと高いビルに登れば崩壊した街が見える。

その大半はエヴァ−シャドウによるものだった。

ここまでやってしまえば、不審に思う者もただでは済まないだろう。

「広報部は喜んでいたわよ、初めて仕事ができたって、皆張り切っているわ」

「恐怖から逃れるために、仕事に打ち込む。の間違いじゃないの?」

「そうともいえるわね。」

「ところで、あのエヴァとかチルドレンについて何かわかったの?」

ミサトが思い出したように尋ねる。

「今、解析中よ。残念ながら、それらしき情報はないわ。

一応、マギを使って調べてみたけどどこの支部にも、他組織でもその情報はなかったわ。」

「そう、やっぱり敵なの?」

「今後の動きについて見てみないとわからないわね。・・・あと、うちに所属したわけじゃないけど彼のことをゼロチルドレンと登録したらしいわ。」

「ええ!?マジ!?」

「本当よ。・・・・・もしかして、また書類読んでないわね?」

「なんのことかしら?」

ミサトはバツがわるそうに顔を背けた。

「全く、あなたって人はそうだったわね。」

「てへ、めんぼくない。」

リツコはため息をつきながら、コーヒーに手をついた。

パソコンに食い入るように見詰めながら、昨日のことを思い出す。

彼は“Nobody”と言っていたわね。・・・・・存在しない者。あの言葉はどういう意味かしら。

それに“ある計画”・・・・・おそらく人類補完計画。

何故、彼が知っているの?知っているのは私の他に副指令と総司令・・・そして、ゼーレ。

あの黒いエヴァは一体?あのエヴァについて手がかりは全くなし。

紅い大剣はなぜATフィールドを切ることができたの?

剣からは特殊なエネルギーはなかったし、謎だらけね。

・・・・・考えてもきりがないわね。

リツコはハァとまた、ため息をついた。

「どうしたの?一気に老け込んだ感じねえ〜。」

おちゃらけた口調で言うミサト。

しかし、その言葉の中にいってはいけないことを言ってしまったことに気が付かなかった。

言ったときにはもう時は既に遅し。

「ふふふふふふふ、そういえば新しい薬ができたの。

それは美貌を保つ薬なんだけど実験体がいないの。

ねぇ、あなたやる気はないかしら?」

眼鏡は怪しげに太陽の光に反射して光っていた。

リツコの後ろにはマッドサイエンティストのオーラが立ちこめていた。

しかも殺る気満々だ。

「ツツシンデオコトワリサセテイタダキマス。」

リツコのオーラに圧されてカタコト口調になっているミサト。

「ふふふ、遠慮することはないわ。」

顔こそは普段は顔にはしないほどの美しい笑顔ではあるが、目が笑っていない。

手にはいつの間にか注射器が持っていた。

「さぁ、いざ科学の進歩のために!」

「イヤーーーーーーーーーーーーー!!!!」

瓦礫の町の中で、一人の軍人がマッドサイエンティストの餌食になった。

後にその場にいた作業者Hさんは語る。

「ええ、あれはね。もうなんていうか般若のごとく恐ろしいものでした。夢にも出てきそうです。」

ミサトは薬の副作用で一週間、えびちゅが飲めなくなるのは後日の話。

 

 

 

 

 

 

 

時は昨日にさかのぼる。

高層ビルと高層ビルの中間にエヴァンゲリオン初号機が立っていた。

目の前には第三使徒サキエル。

エヴァが目の前に現れたことに気が付いて興味を持ったのかまじまじと見つめている。

「シンジ君、まずは歩くことだけを考えて。」

エントリープラグ内の内部スピーカーから声が流れる。

「はぁ?何、のんきなことを言っているんだ。目の前に使徒がいるって時に。」

シンジはあきれてため息を付く。

しかし、エントリープラグ内はLCLで満たされているので、肺に残った気泡だけが口から出てきただけだった。

「っ!あなたはNERVのパイロットなのよ!言うことを聞きなさい!」

ミサトは頭に来たのか声を荒げて、命令を下す。

「そんなものなった覚えはねえし、認めてもいねえ。」

きっぱりとミサトの発言を切り落とす。

これによってミサトの怒りは頂点に達する。

リツコはこれ以上指揮系統を乱すとややこしくなりそうだったので、先手を打って自ら命令を下した。

本来なら作戦部長のミサトが命令を下すが、今のミサトには何をしでかすかわかったもんじゃない。

「シンジ君、さっき説明したようにエヴァは頭で強くイメージすれば歩くことも走ることもできるわ。やってみて頂戴。」

「要は強くイメージすれば動かせるってことか?」

「ええ。」

「OK。」

シンジは再度、使徒の方を確認した。

向こうはまだ様子を見ているだけで、一向に攻めてくる気配はない。

シンジは瞑想するように、目をゆっくりと閉じて集中し始めた。

しばらくして、エヴァがシンジの思考を読み取って動き始めた。

一歩ゆっくりと歩いた。

「おお〜〜〜〜〜〜っ。」

モニターを通して、エヴァ初号機が歩んだのを見て発令所内のオペレーター達がいっせいに喚声をあげた。

「・・・よし、足は動くと・・・・・手も動かしてみよう。」

再び、エヴァは動きを確認するように腕を胸の前まであげて、指を握ったり開いたりの動作を確認した。

再び、発令所でも喚声があがっていた。

「これはいけるわね。」

リツコはシンジがうまくエヴァを操っていることに満足の笑みを浮かべていた。

「シンジ君、確認はもうそれぐらいでいいわ。・・・目の前にいる使徒を倒して頂戴。」

唐突にリツコが使徒を倒せと言う命令に発令所内にどよめきが響き渡る。

「ちょっと!リツコ!何、勝手に命令してるのよ!その役目はあたしでしょーが!」

自分が命令するはずであったことをリツコに横取りされて憤慨するミサト。

「今のあなたじゃ、どんな命令をするか分かったもんじゃないわ。」

「あたしはNERVの作戦部長よ!勝手な真似は困るわ!」

「じゃあ、シンジ君の態度はともかくとして、ちゃんと仕事して頂戴ね。作戦部長の葛城一尉。」

リツコは最後のミサトの地位を強調しながら言った。

「ぐっ!わかったわよ!シンジ君、うまく使徒の後ろに回りこんで攻撃して!」

ミサトは言い様のない怒りを一生懸命に抑えながら、作戦を命令するが作戦部長にしてはアバウトな作戦だ。

そもそもこれは作戦とはいえないだろう。

「その前になんか武器はないのか?まさか素手で倒せとか言わないよな?」

「え?そ・それは・・・・。」

ミサトは助けを求めようとすぐさまリツコに目を向ける。

リツコはあきれてため息を付きながら、シンジに説明する。

「ごめんなさい、今、武器は製作中で何もないの。あるとすれば、左肩のウェポンラックにプログナイフがあるわ。」

「・・・マジ?」

通信が終わると共に一人のオペレーター日向マコトが叫ぶように報告する。

「目標、エヴァ初号機に向かって走り始めました!」

「なんですって!」

シンジも使徒がこっちに向かって走っているのに気が付き、エヴァを動かそうとする。

そして、エヴァ初号機も使徒に向かって走り始めた!

「うおおおおおおおおおおお!!」

あらん限りの声をあげながら、使徒に向かって直進する。

体当たりをかまそうとしたとき、六角形の赤い壁が使徒の前に出現し、それを阻む。

「痛ってぇ!?・・・なんだ、これは!?」

激突した際に頭を打ったため、その衝撃がダメージとなって頭に痛みがフィードバックした。

何が起こったのか分からず、目の前にあるATフィールドを確認すると改めて驚いた。

 

 

---発令所---

「あれはATフィールド!」

リツコが叫んだ。

「あれがある限り使徒に近づけることはできないわ!」

 

 

「ぐっ!こいつさえなければっ・・・・。」

シンジはどうにかしてATフィールドをこわそうとして何度も拳を握り締めて殴っていた。

やがて、使徒が瞬時にATフィールドを解除して、右手が顔面狙いで襲い掛かってくる。

シンジはわけも分からず、使徒の攻撃をくらった。

「ぐあっ!」

フィードバックによるダメージで頭に痛みが走り、たまらず顔を手で覆う。

使徒の攻撃をくらった際にエヴァ初号機に隙ができてしまい、それを見逃さすに左腕をつかみ掛かる。

左腕を握り締める使徒の手はさらに力が加わり、エヴァ初号機の腕が変形していく。

それに伴い、シンジにもダメージを受ける。

「ぐあああああああああっ!!」

 

 

---発令所---

「シンジ君!落ち着いて、あなたの腕が直接つかまれてるわけじゃないわ!落ち着いて攻撃して!」

ミサトはシンジを落ち着かせようと命令するが痛みが強いのかシンジの耳には届いていない。

「マヤ!シンジ君のフィードバックを一桁落として!」

「はい!」

リツコの命令でマヤがキーボードに指を走らせる。

それと共にディスプレイに表示されている、シンジのフィードバックのケージが下がる。

 

 

「ぐうううううううううっ!・・・はぁはぁ」

やがて、痛みが和らいできた。

しかし、休む暇を与えてくれるはずもなく、使徒は攻撃の手を緩めない。

「うあっ!」

シンジの頭に激痛が走った。

それは使徒が初号機の頭をつかみあげて、バイルで攻撃を与えているものによるダメージだった。

使徒はさらにバイルで攻撃をする。

そして、エヴァ初号機の頭部に亀裂が入る。

「ぐああああああああああああっ!!あああっ・・・・・・・・。」

体力の限界だった。

ダメージの付加が激しく、気を失った。

 

 

---発令所---

「シンジ君!」

ミサトが叫ぶ。

「装甲が持ちません!共にパイロット意識不明!生命活動も限界に近いです!」

マヤが悲鳴にも近い声で叫ぶ。

発令所は喧騒としていた。

「もはや、これまでね。初号機とパイロットを回収。パイロットの生命維持を最優先に!」

ミサトが冷静にエヴァの回収の命令を下す。

共に、発令所内のオペレーターが作業に取り掛かる。

そして、それはさらに驚愕に変わる。

「!?エヴァ初号機と使徒の頭上に正体不明の高エネルギー反応あり!!」

オペレーターの一人青葉シゲルが叫ぶ。

メインモニターに使徒を示す白のポインタ、エヴァ初号機を示す紫のポインタ。

そして、それに重なるように“Unknown”と文字が表示され、黒のポインタが突如現れた。

「なんですって!」

リツコが“馬鹿な”と言わんばかりにさけぶ。

「まさか!?新たな使徒なの!?」

ミサトがマコトに叫ぶように尋ねる。

「いいえ!パターンは・・・・・・赤!人間です!」

「「「!?」」」

発令所にいる場の人間がさらに驚愕した。

その中で最も驚いた人物がいた。

NERV総司令碇ゲンドウと副指令の冬月コウゾウだった。

ゲンドウはサングラスに手で口の前に組んでいて表情こそ見えないものの、目は驚きのあまり開いていた。

冬月は唖然と口を開いていた。

 

 

 

 

 

「・・・やれやれ、碇シンジ。君はもっと骨のある奴かと思ってけど、これぐらいか。

 まあ、エヴァをうまく操っただけマシか。

 さて、そろそろいくか・・・・・・シャドウ。」

そして、その声の人物は手元の操縦桿を握り締める。

エヴァと使徒の頭上に突如現れた黒の球体。

それは、使徒とエヴァめがけて急降下した。

 

 

 

 

 

「正体不明のエネルギーがエヴァと使徒に向かって急降下!」

「まずい!」

そう叫んでいる間にメインモニターに映るエヴァと使徒にそれが激突。

そして、白の閃光。

その衝撃でモニターにノイズと砂嵐。

「何が起こったの!?」

「モニター回復します!」

発令所にいる全員がモニターをいっせいに見る。

砂嵐のモニターがだんだん回復していく。

しかし、モニターには白の煙幕で何も見えない。

次第に煙が晴れてくる。

そこに映ったものを見てまた驚愕する。

なぜなら、存在するはずのないものが現れたからだ。

 

 

 

 

 

---エヴァ初号機エントリープラグ内---

シンジは気を失っていたが、次第に意識をとりもどす。

しかし、ダメージが激しいのか意識はまだ朦朧としている。

「・・・・・・・?あれは・・・。」

目の前はかすかにぼやけてはいたもののかろうじて目を開けることはできた。

目に映ったものは、漆黒のボディ、それに沿うように深紅のライン、後姿であるがわずかに見える二本の角。

人によっては鬼に見えたかもしれないがシンジはつぶやいた。

「・・・・・・・黒の・・・・・エヴァ?」

そして、意識は闇へと落ちた。

 

 

 

 

 

モニターに映ったのは紛れもなくエヴァだった。

漆黒のボディに一対の目、二本の角、口元には獣のようなとがった牙が見える。

ボディのフォルモはエヴァ初号機と酷似していた。

その姿はまさに鬼そのものだった。

「ちょっと!リツコあれはなんなの!?なんでエヴァがいるのよ!」

「・・・・・・・知らないわ。まして、あんなエヴァ見たこともないわ。」

リツコはミサトの叫び声に冷静に答えてはいたが、表情は驚きをあらわにしていた。

「あれは敵なの?」

「・・・・・わからないわ。」

リツコはミサトに振り向くこともなくモニターをじっと見詰めていた。

本来ならばゲンドウのシナリオどおりにエヴァ初号機が暴走して、使徒を倒すはずだった。

しかし、暴走はいつまでたっても、起こらなかった。

初号機は黒のエヴァの後ろにあるビルに背もたれて力がなくなったように顔を下に向けていた。

「何が起こっているのよ・・・・・・・・。」

暫く、沈黙が続いていたが、やがて黒のエヴァが動き出す。

 

 

 

 

 

「さてと、少しは楽しませてくれよ♪第三使徒サキエル。」

その声は楽しげで、緊張感の欠片もなかった。

まるで戦いを楽しむように。

操縦桿を握り締め、エヴァは動き出す。

そして、黒のエヴァは目先の使徒の腹にボディブローをかます。

使徒は、表情は変わらないものの、うめき声をあげている。

攻撃の手をゆるめることなく、連続で拳を顔面へ殴りつける。

それは一旦、攻撃をやめて体を半回旋させ、後ろ回し蹴りで使徒を遠くまで蹴り付けた。

吹き飛ぶ使徒。

やがて、ビルに激突に止まる。

黒のエヴァは休ませまいと使徒めがけて走る。

 

 

「凄い。」

突如現れた謎の黒のエヴァに驚きの声をあげるミサト。

動きは多少荒っぽいものの、どこか戦いなれたような動きをみせる。

発令所にいる者は皆、自分の仕事さえも忘れてモニターに食い入るように見詰めていた。

 

 

使徒に向かって激走する黒のエヴァ。

目標にもうすぐたどり着こうとしたところで左手を前に出し、右手は拳を握り締めて後ろに構えていた。

距離は近づきある。

しかし、それを阻む赤い六角形のATフィールドが目の前に現れる。

黒のエヴァはそれが出たのを確認するとATフィールドもろとも貫いてやるといわんばかりに拳をぶつける。

しかし、貫くことなくATフィールド全体に波紋が渡るだけだった。

「流石に壊せないか。・・・・・それぐらいでないとおもしろくない。」

謎の人物は楽しむように口を吊り上げて笑う。

黒のエヴァは壊せないとわかって、一旦距離を置いてさがる。

そして、右手を空にかざす。

すると、その右手に一本の白い光が光を放つ。

次第に、光は収まり右手には透き通るような紅の剣を携えていた。

そして、それを両手で斜め右上に構え、一気に振り下ろす。

ATフィールドは紙を切るように、真っ二つになり、砕け散った。

使徒は守る術をなくし、隙だらけになる。

黒のエヴァは大剣を後ろに引いて、使徒のコアめがけて貫いた。

そして、辺りが白の閃光に包まれる。

 

 

―発令所―

モニターに白い閃光につつまれて、砂嵐が走りノイズが流れる。

「爆発!?」

ミサトが叫んで、白い光に眩さを感じて、腕で強い光からかばう。

「どうなったの!?」

リツコが叫ぶ。

やがて、砂嵐のモニターが徐々に回復していく。

「モニター回復します!共に謎のエヴァと初号機の反応あり!」

「パターン青消滅!使徒の殲滅を確認!」

そして、モニターに映る爆煙に包まれた市街に立つ右手に大剣を携える一つの黒い鬼・・・もといエヴァが立っていた。

その姿はまさに鬼そのものだった。

モニターに映るエヴァに各々は旋律を感じずにはいられなかった。

「そうだわ!あのエヴァに通信をつなげられないの!?」

ミサトは気が付いたようにマヤに尋ねる。

「え!?やってみます!」

マヤは急いでコンソールに通信できるかプログラムシステムを起動させる。

「何をする気なの?ミサト。」

「何者か聞いてみたいのよ。敵なのか味方なのか。」

「無駄だと思うけど。」

「アクセスに成功!通信つながりました!・・・指令いかが致しますか?」

マヤは指令に尋ねる。

ゲンドウは呆然とモニターを見詰めて、何か考えていたがマヤの声で我を取り戻す。

「・・・・・つなげろ。」

「はい!モニターに表示します。」

そして、再びモニターを見る。

そこには奇妙な七色の一つ目が描かれた黒の大きなバイザーを付けた者がエントリーシートに座っている姿が映っていた。

頭には銀のインターフェース。

体にはエヴァと同じように黒を基調とした色とそれに重なるようにやや控えめの白の炎をイメージしたカラーリングのプラグスーツ。

そして、鈍い黒色のボディパーツ。

その姿を見て、発令所の人間がざわめく。

そんな中、大声で尋ねた人物がいた。

「あなたは何者なの!?何故、あなたがエヴァに乗っているの!?それとそのふざけたものはずしなさいよ!」

矢継ぎ早に質問を出すミサト。

それに答えるように画面に映る人物が口をゆっくりと開く。

「・・・・・・・俺はNobody(“存在しない者”)さ。あと悪いがこれははずしたくない。」

「はぁ?ノーバディって・・・何ふざけたこと言っているのよ!まぁいいわ、あなたは何故エヴァに乗っているの!?どこの所属よ!?」

それこそが発令所にいるものの全員が思っていたことだった。

「・・・・・・・Top Secretだよ。それに俺はどこにも属していない。」

どんな答えが返ってくるのかと思いきやミサトはかえって来た返事に肩透かしをくらった。

「どこにも属していないって・・・じゃあ何故あなたは存在しないはずのエヴァに乗っているの!?」

「・・・・・・・それこそTop Secretだな。答えられないね。答えられるとすればこのエヴァの名はShadowだ。」

「はぁ?」

「存在しない影のエヴァと言うことで、エヴァンゲリオン−シャドウってことかな。」

「・・・・・とにかく!私達NERVの仕事の邪魔をしないで頂戴!」

ミサトの中の復讐が知らない何者かに横取りされたのが悔しいのか声を荒げていた。

「良く言うぜ、あんたこそまだ何も知られていない14の子供を戦場のど真ん中。しかも敵さんの目の前に出すあんたに言われたくないね。」

「なんですって!」

「冷静さを失うようじゃ軍人としては程遠いな。全くこれで一尉なんて世も末だな。」

「ぐぐぐぐぐぐぐ!・・・ガキが判ったようなこと言うじゃないわよ!!」

馬鹿にされたのが腹に立って、軍人としては似つかわしくない言葉をぶちまける。

まるで子供だ。

もっともミサトはセカンドインパクトの葛城調査団の生き残りでただそれだけの理由で軍人時代、戦果を挙げただけで一尉になれたのだ。

その裏はある闇の計画を企むものによって、作り上げられたものであるということはミサトが知りうるはずもなかった。

「あなたは味方なのかしら?それとも敵なの?」

相手の真偽を計るようにリツコが尋ねた。

「それはあなた達の判断に任せるよ。言ったとしても信じてくれそうにもないしな。」

あと、俺はガキなんて程の年齢じゃない。・・・・・やば、言ってしまった。

バツが悪そうに口を手で覆うようにした。

リツコは訝しげに首をかしげた。

「まぁ、いいか。どうせお前達は一生理解出来ないことだ。・・・それじゃあこれで失礼するよ。」

「待て!」

発令所の最上部から大声が響く。

その正体は碇ゲンドウNERV総司令だ。

「・・・?なんだ。」

「貴様は、何を企んでいる?エヴァは五機しか存在しないはずだ、なのに何故エヴァに乗っている。」

「・・・・・ひとつはさっきも言ったように答えられない。

もうひとつは・・・・・まぁ、くだらねえ計画を企むじじいどもの組織の壊滅とあるものを手に入れるためだ。」

「「「!!?」」」

その言葉を理解した、リツコに冬月、そしてゲンドウが驚きを隠せずあらわにする。

「おしゃべりが過ぎたな、これでおいとまするよ。・・・・・・・・・また会おう、愚かなるNERVの諸君。」

「待て!」

ゲンドウが静止するが、モニターは糸が切れたようにプツンときった。

モニターに映るのは、使徒を殲滅したところだった。

まだ黒のエヴァは立っていた。

やがて、紫のエヴァを向いているほうとは逆に歩み始める。

そして、霞のようにぼやけ、姿を消していった。

「え!?消えた!?どうなっているのよ!日向君、反応は!?」

「いいえ、反応はありません。文字通り消滅しました。」

発令所内は、呆然としていて誰一人として言葉は出なかった。

「・・・・・・・・・何なのいったい。・・・はっ!そうだわ!総員エヴァンゲリオン初号機の回収に取り掛かって!

 あと、マヤちゃん!パイロットの心拍はどうなっているの!?」

「あっ!?はい、パイロットの心拍は安静化しています!命に別状はないと思われます!

 しかし、先ほどの使徒との戦いで頭部にダメージを受けているので精密検査を受けてみないとわかりません!」

ようやく、NERVの発令所の人たちも仕事の本分を思い出し、先ほどの静けさが嘘のように打って変わって喧騒としていた。

そんな中、呆然とする人物がいた。

「・・・・・・碇、これはシナリオにないぞ。」

「・・・・・・問題ない。」

「どこがだ!?あの存在しない黒のエヴァに、暴走を起こすはずの初号機!この修正は容易ではないぞ。」

「・・・・・・結果的には使徒は殲滅した。それにイレギュラーはどんなことにも起こりうるものですよ。」

「・・・・・・ただのイレギュラーだけ済めばいいが、あいつの言っていたことは碇ももうわかっているはずだろう?」

ノーバディが言っていた言葉、“くだらねえじじいどもの計画・・・・・”

あれはおそらく例の組織のことを指しているのだろう。

そう、己が神になると言う人類補完計画を企てるもの・・・・・・それはゼーレであることを。

「・・・・・ユイ。」

今は亡き人のかつて妻を思い出しながらつぶやいた。

その言葉を聞くものは誰一人として、いなかった。

存在しないはずのエヴァそして、存在しないチルドレン。

それが現れた瞬間、ゲンドウの中のシナリオに亀裂が入ったことを認めまいとユイのことばかりを考えていた。

あいつはいったい何者なのだろうか?

敵なのか、味方なのか?

何を企むのか?
・・・・・あいつの言動からして、敵だろうな。ゼーレをつぶしてくれるのならばこっちとしては都合が良い。

たが、“あるものを手に入れる・・・”その言葉の意味が理解できん。・・・・・まさかな。

ゲンドウはユイのことから謎の人物のことを考えて、その人物がやろうとしていることを推測していた。

最後にあるものが思い浮かんだが、やがて考えすぎだと頭を振るようにして考えを打ち消した。

しかし、それは正解であることをゲンドウは知る由もなかった。

 

                                          ・・・・・・・・・・To be continued