時は西暦2016

かつて春夏秋冬という四季が存在していた日本。

西暦2000923日南極を襲った最大規模の災害“セカンドインパクト”

セカンドインパクトの大規模な爆発によって地殻は変動してしまい、四季を失った。

また爆発によって南極の氷はほとんどが解けてしまい水位が上がってしまったため、大規模な津波が世界を襲った。

日本も被害を受けた。そこは日本の元・首都東京であった。

今は水没してしまい煌びやかで活発だった東京は死んだ。

セカンドインパクトによって亡くなった人間は総数約20億人以上であった。

もちろん経済のほうも壊滅的な大打撃を受けた。

それに伴って、世界各地で紛争などが起こっていた。

そんな中、常夏と化した日本の第三新東京市

青い空に白い雲浮かび、太陽があたりを眩しく照らしていた。

天に向かってそびえたつ無数の高層ビル、どこかに繋がっているのであろう一本のレール。

“第三新東京市駅”と掲げられた看板の駅の前の大きい円形状の広場。

気温三十度の暑い日差しの中、時計台の下にひとつの人影があった。

中学生であろうか、黒のスボンに白のカッターシャツを着ていた。

まだあどけない幼さが残った少年が額に汗を流して立っていた。

少年の周りには人っ子一人もおらず、車も一台も通る気配がまったくない。

少年は“はぁ”とため息をついて、石段に座った。

しばらくしてから少年は制服のスボンのポケットから一通の手紙を取り出した。

おもむろに手紙から1枚の紙と写真を取り出す。

その手紙にはただ1行でこう記されていた。

 

“来い、ゲンドウ”

 

「・・・十年間ずっと音沙汰なしでいきなり“来い”って何考えてんだよ。父さん。」

その声に答えるものは誰もなく、ただ空に消えて行った。

汚い大人たちの計画にまきこまれるであろう少年は行方を知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―EVANGERION―

Another Story

漆黒の騎士と白衣の天使

 

第一話

---A wheel of fortune turns around---

---運命の輪は回る---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜〜〜っ」

少年、碇シンジは盛大なため息をついた。

「僕、時間間違えてないよなあ?確かに昼12時きっかり来たのに二十五分待っても誰も来ないし。

さっきも確認しようと電話しても繋がらないし、人影はひとつもない・・・。」

シンジは再びポケットから1枚の写真を取り出した。

写真には肩まで伸ばした長い黒髪に下手したら二十代後半ぐらいだろうか大人の女性が写っていた。

しかも余計に胸元の辺りに赤の丸が書かれていて“ここに注目!”と書いてあった。

「葛城ミサトさんか・・・この人、父さんの何なのさ?」

しばらく写真を見た後ポケットにしまって、背伸びしようと立ち上がった。

「ん〜〜〜〜っ」

背を伸した後、道路に目を走らせた。

そして、アスファルトの上に立つひとりの少女が目に入った。

「え!?」

シンジは驚いた。何故なら少女の髪は普通では有り得ない色だからだ。

遠くから見てもわかる。あれはどう見ても紛れもなく蒼銀の髪だった。

そして、紅色の瞳。

シンジはよく見ようと数回か瞬きをして、少女の立っているところに目を向けた。

しかし、さっきまでは居たはずの少女は消えていた。

一瞬、幻か?それとも蜃気楼か?と思ったがある警報の音にはっと気がつく。

『本日12時30分、東海地方を中心とした、関東地方全域に特別非常事態宣言が発令されました。

住民の方々は速やかに指定のシェルターに避難して下さい。』

広場の時計台の上にあるスピーカーからアナウンスが流れてきた。

やがて、どこからともなく轟音を立てて、銀翼の鳥が一筋の白い線を引いて飛んでいった。

「巡航ミサイル!?何でこんな市街で!?・・・ってあれは!?」

シンジはどこからか放たれたミサイルに驚きを感じていたが、それよりもミサイルの着弾したところを見た先に更に驚愕した。

幾多のミサイルが爆発し、やがて爆煙が晴れた。

とそこには奇妙な仮面を面に付けたような高層ビルを軽く越す黒い巨大なモノがなんともなかったように姿を現し、平然と歩んでいた。

「な、なんだよ・・・あれは?」

ミサイルがまったく効かないことで国連軍のV−TOLが引き返した。

そして、黒いモノに対して背を見せた瞬間、黒いモノによって撃墜された。

飛ぶ術を持たなくなった戦闘機は地球の引力によって地へと落ちていく。

やがて、地に達して轟音をあげて爆発した。

爆発によって戦闘機の破片が飛び散られ、シンジに容赦なく飛んでいった。

「うわあああああっ!!」

シンジは思わず叫んだ。体は防衛本能が働き、身を守ろうと腕を前にする。

しかし、いつまでたっても体に来るはずの衝撃は来なかった。

おかしいと思って、目を恐る恐る開けた。

そこには少年を守り、盾となった青いルノーだった。

そして、ドアが開き一人の女性が姿を現す。

「遅くなったわね!シンジ君ね!?」

「は、はい。もしかして葛城さんですか?」

「説明してる時間はないわ!早く乗って頂戴!」

「は、はい!」

シンジは慌てて、助手席に乗り込んだ。

ミサトはシンジが乗るのを確認した後、急発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、第三新東京駅からやや離れた高層ビルの屋上

そこには一つの人影があった。

真夏だというのに胸には三つの銀の留め具をした漆黒のコートにフードで顔を覆うといった格好であった。

コートの影から見える足もまた黒のブーツを履いていた。

屋上で静かに腕を組みながら暴れる黒いモノを遠く見つめていた。

フードに隠れる漆黒の瞳に少しフードから触角のようにツンとした黒髪がはみ出ていた。

「・・・運命の時は来た。」

彼は落ち着いていてそれで静かに凛とした口調で呟いた。

この言葉は誰に対して言ったわけでもなく、まるで自分自身に言ったようにも聞こえる。

やがて、その人の影がうごめいたと思いきや、その影は炎のように猛けあがる。

黒の炎は彼を纏うように覆われ、そして後は誰も存在しなかったように姿を消した。

あたりは、遠くから聞こえるうめき声とも似ても似つかないほどの黒いモノから放たれる声だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、NERV本部 発令所

 

巨大なモニターが中心と左右に掲げられていた。

そのモニターに映るのは第三新東京の周辺の地図が表示されていた。

その地図に小さく点滅する赤のポインタ。

「正体不明の物体、海面に姿を現しました!」

「物体を映像で確認!メインモニターに回します!」

あちこちで悲鳴にも似た声が発令所に響き渡った。

「十五年ぶりだな・・・」

発令所の最上部で椅子に座り、机の上に手を組み中央のモニターを見つめるサングラスをかけた男の傍に立つ初老の男がつぶやいた。

「ああ・・・間違いない。使徒だ。来るべき時が来たのだ。我々人類にとって避けることのできない試練が。」

サングラスをかけた男は口の端を吊り上げて、薄ら笑いをした。

もちろんそれに気づいた者は誰一人として居なかった。

「目標、山を超えて第三新東京市に到達!以前進行中です!」

 

 

 

 

 

ミサトのルノー内

 

「遅くなって、ごめんなさいね。大事に到らずに済んで幸いだわ。」

ミサトは公園から出発してからほぼ時速180kmの速さで飛ばしていた。

ミサトのルノーは青い弾丸と化していた。

「ねえ、シンジ君。お父さんからIDカード預かってないかしら?」

「ああ、もしかしてこれですか?」

シンジはポケットから手紙を取り出し、中からカードを手にした。

そのカードは銀をバックに1枚の葉が半分にその影からNERVと赤色の文字が刻印されていた。

「結構。それじゃこのパンフを一応読んどいて。」

ミサトから“ようこそNERV江”と印刷されたパンフを渡されてシンジはそれを受け取る。

シンジはそれを見もせず放った。

「お父さんに会えて嬉しいでしょう?」

ミサトは車を全力で飛ばしているにもかかわらず、陽気に話しかけてくる。

「・・・まさか?十年もろくに便りもなかった父親ですよ。

嬉しいなんてもんじゃない。むしろ何考えているんだって思っていますよ。」

シンジは露骨そうに顔を歪めた。

・・・そう、父さんは僕のことなんかなんとも思っちゃいない。

あれからもう十年。父さんが僕を親戚の家に預けてから・・・。

心底、僕を見捨てた父さんを憎んでいる。

なら何故ここに居る?・・・ただここに行けば父さんが何を考えているのかを聞きたかっただけだ。

そう、ただそれだけ。父さんのことなんかどうでもいい。

「父さんのこと、嫌いなの?」

「大嫌いです。」

即答だった。

きっぱりと答えられて流石にミサトも気が悪くなった。

「・・・・・」

「・・・・・」

それからは気まずい雰囲気が漂って、両者とも何も言わなくなった。

暫くすると車は市街を抜けて、山に出た。

シンジは何の気なしに窓から移り変わる景色を眺める。

その時だった、漆黒のコートを着た人が見えた。

一瞬だった。

顔こそはフードに覆われていて見えなかったものの自分を見ていたようだった。

フードから僅かに見えた口は微笑むように笑っていた。

「え?」

シンジは驚いて振り向いたがもう距離は離れていて見えなくなっていた。

暫くは考え込んでいたもののミサトの悲鳴にも似た声で我に返った。

「UN軍が引き返していく・・・まさか!N2地雷を使うつもり!?シンジ君伏せて!!」

「へ?」

シンジはわけも分からず、ミサトに覆いかぶされる。

と共に白い閃光が辺りを照らし、轟音が響き、爆風が辺り一帯のものを襲いかかった。

青いルノーは爆風に耐えられず横転する。

やがて辺りに静けさが戻ってきた。

 

 

 

 

 

同時刻、NERV本部 発令所

 

「わはははははははは!!どうだ!見たかね!これが我々UN軍の切り札N2地雷の威力だよ!

 碇ゲンドウ君!これで君の出番はなくなったわけだよ!」

壮年の高官の軍人が高笑いをしながら、NERV総司令の碇ゲンドウに罵声を浴びせていた。

「電波障害のため、回復まで暫くお持ちください!」

一人のオペレーター眼鏡を掛けた青年、日向マコトが叫んだ。

「あの爆発だ、ケリはついている!!」

勝利を確信したように顔は満面の笑みを変えることもなく、オペレーターの言葉を切って捨てた。

後に軍人の顔は絶望へと変わる。

「爆心地に高エネルギーを確認!」

「映像、回復します!」

ノイズが混じる砂嵐が徐々に回復していく。

映像の回復と共に、発令所にいる者達全員がメインモニターに目を向ける。

そして、モニターに激しい爆煙で目標が見えないが、次第に晴れていく。

そこには表面には多少のダメージを受けてこそはいるものの、ものともせずに歩みをやめない使徒が映っていた。

「馬鹿な!!」

「我々の切り札が!」

「町ひとつを犠牲にしたのだぞ!!」

高官の軍人は立ち上がるものもいれば、机を激しく叩きつけるものいた。

軍人の自信とプライドは崩れた。

嘆いている間に赤い電話が発令所に鳴り響く。

「はっ。・・・わかっております。・・・しかし・・・はい、了解しました。」

電話に出た軍人は忌々しそうに電話を置く。

息を一旦吐いて、口を開いた。

「碇ゲンドウ君。政府からの通達だ。只今より本作戦の指揮権は君たちNERVに譲渡された。

 我々のN2地雷が通用しなかったのは認めよう!・・・だが碇ゲンドウ君!君ならあの化け物に勝てるのかね?」

悔しさに満ちる声に冷静な声でかえって来た。

「ご心配なく。その為の・・・・・NERVです。」

ゲンドウは右手でサングラスを押し上げて不敵な笑みで軍人たちを見上げる。

 

 

 

 

 

一方、ミサトの車

 

吹っ飛んだ後、シンジとミサトがどうにかして横転した車を元に戻し目的の場へと向かっていた。

車こそは所々へこんではいたもののまだ動けるところは流石に頑丈だった。

やがて、カートレインのゲートにたどり着きくぐる。

そして、ミサトはカードをスロットルに下ろして、車はだんだんと降下していく。

「痛たたたたた。さっきの爆風のせいで腰打っちゃったわ〜。」

「・・・大丈夫ですか?」

「ん〜なんとかねえ。」

カートレインがトンネルを抜け、巨大が地中空間に姿を現す。

「!・・・・・これは。」

「ジオフロント。世界再建の要であり、人類の砦となるところよ。」

ミサトは満足そうに説明した。

しかし、後にシンジの言葉に口が引きつる。

「そんな予算があるなら、飢餓している国の援助に当てればいいのに・・・無駄使いだな。」

「・・・・・」

ミサトは“かわいくねえ〜・・・やっぱりカエルの子はカエルね”などと思っていたが口にはしなかった。

 

 

 

 

 

 

NERV本部 発令所

 

「へっくしょん!」

「?・・・風邪でもひいたのか?」

初老の男、冬月コウゾウが珍しいなといわんばかりに尋ねた。

「問題ない。・・・誰かが私のことを噂しているみたいだな。」

冬月は“悪い噂ばかりだぞ。”と言いたかったが黙ることにした。

「UNもご退散か・・・どうする?碇」

「初号機を起動させる」

「パイロットが居ないぞ?」

「問題ない・・・たった今予備が届いた」

(息子を予備呼ばわりかユイ君が聞いたら何と言うかな・・・)

冬月は心では複雑そうにしてはいたが、目的を果たすために黙した。

 

 

 

 

 

NERV ジオフロント内

 

廊下を歩く二つの足音が響く。

「あの、これから父さんに会いに行くんですよね?」

「そうよ。どうして?」

「さっきから同じところを回ってる気がするんですけど、気のせいですか?」

「ぐ・・・あんたは黙ってついて来てればいいのよ!!」

「・・・・・・」

迷ったんだなとシンジは呆れる。

「(まずったわね〜こんなことならリツコに地図でももらっとくんだった。)」

それからほどなくして、金属音が鳴った。

音のしたほうを振り向くとエレベーターの扉が開き、白衣を着た金髪に目元に黒子が付いた女性が姿を現した。

「あ、リツコ。」

「遅いわよ。葛城1尉、ただでさえ使徒が襲っているときに。」

「ごみ〜ん、まだここには慣れてなくってね。」

「全く・・・あら?あなたは例のサードチルドレンの碇シンジ君ね。」

リツコはミサトの後ろにいたシンジに気が付き、しげしげと上から下まで眺める。

「よろしく、私はE計画担当の赤木リツコよ。」

「はあ、よろしくお願いします。」

シンジはおずおずとリツコから差し伸べた手と握手して言った。

「付いてきて。あなたに見せたいものがあるわ。」

シンジはわけも分からずただ付いていった。

 

 

 

 

 

---EVA格納ケイジ---

 

シンジは二人に付いていって暫くしてからあるドアを開けて入った。

そこはまったく何も見えない闇だった。

「ちょっと待ってて。今照明を点けるわ。」

言葉が終わると共に照明が一斉に付けられ、辺り一帯が明るくなった。

シンジが先に目に入ったものは。

一本の角に1対の目、紫で統一された鋼の頭部だった。

「!?・・・・・・こ、これは!?」

「人の造り出した究極の汎用人型決戦兵器。人造人間エヴァンゲリオン。その初号機。建造は極秘裏に行われた。我々人類の最後の切り札よ。」

リツコはとても誇らしそうに胸を張って言った。

「これも父さんの仕事ですか?」

「そうだ!!」

シンジの言葉に上から声が返ってきた。

声のしたほうを振り向くと、エヴァの頭上の奥にあるフロントガラスを前にして、こちらのほうを見てサングラスをした男が立っていた。

「・・・・・10年振り・・・だね。父さん。」

「・・・・・シンジ。今、使徒と呼ばれている巨大生物がこちらに向かって攻めてきている。・・・お前がこれに乗って戦うのだ!」

「!?」

シンジは唐突にエヴァに乗れと言われて戸惑った。

そこですかさずミサトが信じられないと言ったように叫ぶ。

「待ってください司令!綾波レイでさえエヴァとシンクロするのに七ヶ月もかかったんです!今来たばかりのシンジ君にはとても無理です!」

「座って居れば良い。それ以上は望まん。・・・・・・乗るならば、乗れ!でなければ帰れ!」

「・・・・・・・くくくっ。」

シンジはその言葉を聞くとまるであざ笑うかのように不気味に笑い始めた。

リツコはその笑いを見ると狂ってしまったのかとその顔を覗き込みながら大丈夫か聞いた。

「くくく。・・・・・ふっざけんあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

シンジは堪忍袋の尾が切れて、あらん限りの大声を叫んだ。

その声は格納庫全体に響き渡った。

ミサトは思わず耳を塞ぎ、リツコは至近距離だったためか、魂がほぼ抜けかかって静止している。

「ふざけんなよ!くそ親父ぃ!貴様は母さんが死んでからはを見捨てた!

その挙句、10年間音沙汰なしのうえ、手紙でいきなりここに呼び出してきたかと思えば、こいつに乗って、戦えだと!?

 はい、わかりましたで済むわけないだろ!?何を考えている!?」

シンジは自分の言いたいことをぶちまけると肩は大きく息をして、呼吸を整える。

「・・・・・冬月、予備が使えなくなった。レイを起こせ。」

ゲンドウは顔色を変えることなく、何もなかったように手元にあるコンソールに向かって話した。

「使えるのか?」

「死んでいるわけではない。」

リツコもようやく黄泉の世界から生還し、自分の成すべき事に気が付いて命令を下す。

「エヴァのパーソナルデータをレイに書き換えて再起動よ!」

リツコはシナリオに基づいて命令をする。

もともと、エヴァ初号機はレイが操作していたため、書き換える必要はないがシンジが乗らざるを得ない状況を作るために言ったのだ。

対するミサトはシンジの説得をしていた。

「シンジ君それでいいの?何をしにここまで来たの?逃げちゃ駄目よ!シンジ君、お父さんから、何よりも自分からっ!」

「ああ?知ったこっちゃないな!ましてあのくそ親父から逃げててるだと?はっ、馬鹿馬鹿しい。

 俺は、来いと言われたから来てやったまでだ。ここに来て早々にこいつに乗れだと?

冗談じゃないな。てめえら大人ってのは汚ねえな!

まだ14歳の俺を乗せて、大人のお前らは子供を戦場に出してあんたらは高みの見物か?

それこそふざけるな。てめえらが乗って戦えばいいんだろうが!」

ミサトは一瞬、シンジの性格が報告書と違っていたので戸惑っていたが、すぐに我を取り戻す。

しかし、言葉が出なかった。

なぜなら、シンジの言っていることは正しかった。

そう子供を兵器に乗せて、大人は見物。

乗らなければ人類が滅ぶのよと言いたかったが、すんでのことで言うのをやめた。

言ったとしても偽善だからだ。自分は子供を復讐の捨て駒として戦場に送り出すのだから。

「・・・・・」

暫く沈黙が続いた。

そして、その沈黙を破ったのは扉から一台のストレッチャーを押した音だった。

そのストレッチャーには一人の少女が乗っていた。

彼女は綾波レイ。

その子は先ほど道路で見かけた少女だった。

見間違えるはずもない。

なぜなら、その子は透き通るような青い髪に澱みのない紅の瞳をしていたからだった。

「君は・・・・・」

「レイ、予備が使えなくなった。出撃だ。」

「はい。・・・・・くっ。」

非情にもゲンドウは包帯まみれの少女を戦場に送り出そうとする。

レイはエヴァに乗るべく、起き上がろうとするが痛みで思うように体が動かない。

「いつまでそこに居る!お前など必要ない!さっさと帰れ! 人類の存亡をかけた戦いに臆病者は不要だっ!!」

ゲンドウは自分の息子に対して、侮蔑のまなざしで罵倒した。

シンジはカチンとした。

「乗りなさいシンジ君!!シンジ君が乗らなければ、あの娘が乗る事になるのよ!恥ずかしくないのっ?!」

「黙ってろ、偽善者。」

「なっ!」

シンジはもう一度、ゲンドウと面を合わせて何か言おうとしたが、突然の衝撃で遮られてしまった。

 

 

---ドガァァァァァァン!!!!---

 

 

轟音と共にケイジは揺れた。

天井から今の衝撃で鉄骨が落下してくる。

それもレイに向かって。

―まずい!―

シンジはとっさに頭で判断するより先に体が動いていた。

落下する前にレイにたどり着き、わが身を犠牲にしてかばおうとする。

と突然シンジ達に大きい影が包んだ。

「?」

シンジは何が起こったのか確認しようと上を見上げた。

それはエヴァの手が彼らを守ったのだ。

守るようにエヴァの手が彼らの上にあった。

「そ、そんな有り得ないわ、エントリープラグも挿入していないのに。」

「守ったと言うの?シンジ君を・・・いける。」

それぞれの思惑の中、シンジは腕の中にいるレイの身を案じていた。

レイは苦しそうに顔をゆがめている。

シンジは手に付いた少女の血を見つめる。

―ドクン!―

一瞬、振動の動機が激しくなった気がした。

「・・・・・乗るぜ。そのエヴァとやらに。」

シンジは目に決意の炎を宿らせながら、呟いた。

「あと、言っておくがてめえらに言われたから乗るんじゃねえ。俺乗るんだ。」

「ええ、良く言ってくれたわ。じゃあ説明するからこっちに来て頂戴。」

リツコは説明を始めた。

 

 

 

 

 

---発令所---

 

「エントリープラグ挿入。」

「プラグ固定終了。」

「第一次接触開始。」

「LCL注入。」

 

リツコの指揮により発信準備が進んで行く。

「?なあ、これなんだよ。俺を水攻めにする気か?」

なにやら物騒なことを言うシンジにリツコは冷や汗を流すが、冷静に説明する。

「安心してもいいわ。それはLCLと言って、肺がLCLで満たされれば直接血液に酸素を取り込んでくれます。すぐに慣れるわ。」

リツコの説明を聞きシンジは口の空気を吐き出すが顔をしかめる。

「血の味か・・・・・いやなもんだな。」

「我慢しなさい!男の子でしょう!」

「黙れ。てめえも乗ってみたらどうだ?」

「っ!あんたは黙って言う通りにしてればいいのよ!」

「俺はてめえの人形じゃねえ。てめえの言うことなんざ聞きたかねえ。」

「なんですって!」

「ミサト!あなたは黙ってなさい!シンクロ率に影響がでてしまうでしょう!」

「ぐ。・・・・・わかったわよ。」

ミサトはまだ、怒りが抑えきらなかったが戦場に出せばこっちのもんだと考えたところでおとなしくなったようだ。

 

「第2次コンタクト開始。」

「思考形態は日本語を基礎原則としてフィックス!」

A10神経接続異常なし。」

「初期コンタクト全て異常なし。」

「双方向回線開きます。」

 

暫くして、最後にオペレーターの一人、伊吹マヤがシンクロ率を報告するが。

いつまでたっても返事は来ない。

「?・・・どうしたの?」

呆然としている彼女に話しかける。

「は・・・し、失礼しました。彼のシンクロ率ですが。・・・・・68.4%です。」

発令所は、驚きで言葉が出ない。

「そんな・・・訓練もプラグスーツもなしに、イキナリ・・・ありえないわ。」

リツコはモニター計測器をみて驚く。

「すごいわ!シンクロ誤差0.3%以内よ!」

「ハーモニクス、全て正常位置。暴走、ありません!」

 

「碇・・・これはシナリオにはないぞ」
「予想以上にシンジが母親を求めていただけだ」
「そうだといいがな」
「・・・問題ない」
ゲンドウと冬月が異常な事態を懸念していた。

 

「いけるわ。」

ミサトはやっと私の復讐が始まるのだと心を躍らせていた。

意気揚々と号令をかける。

「エヴァンゲリオン初号機、発信準備!」

 

『第一ロックボルト解除!』

『解除確認!アンビリカルブリッジ移動開始!』

『第2ロックボルト解除!』

『第一拘束具を除去!』

『同じく第2拘束具を除去!』

『1番から15番までの安全装置を解除!』

『内部電源充電完了!』

『外部電源用コンセント異常なし!』

「EVA初号機射出口へ!」

 

射出口へ移動していく初号機。

『5番ゲートスタンバイ!』

「進路クリア!オールグリーン!」

「発進準備完了!」

技術部最高責任者であるリツコの最終確認が出される。

「了解!」

NERV総司令であるゲンドウの方を向き確認するミサト。

「かまいませんね?」

「もちろんだ。使徒を倒さぬ限り我々に未来は無い。」

「エヴァンゲリオン初号機発進!!」

ミサトの勇ましい声と共に射出口固定台ごと地上に打ち上げられる初号機。

初号機のエントリープラグ内に強烈なGが体に加わる。

たまらず顔をゆがめるシンジ。

「ぐっ・・・ぐううううううううう。」

地上で射出ゲートが徐々に開いてゆく。

そして、エヴァ初号機の紫のボディが姿を現す。

エヴァの前に第三使徒サキエルの姿が。

暫く、NERV本部発令所に緊張が走る。

「シンジ君、準備はいいかしら。」

「・・・・・ああ。」

 

『目標は、最終防衛ラインに侵入しました』

モニターに映る、第三新東京市街へと侵入する使徒の姿が見える。

「最終安全装置、解除!エヴァンゲリオン初号機、リフト・オフ!!」

(シンジ君。死なないで)

都合のいいようにしか考えてない偽善に気が付くはずもなく人のことを案じていた。

 

 

 

 

 

同時刻、エヴァ初号機の出現したところの近くのビルの屋上

 

どこからともなく誰もいないはずの屋上にひとつの影が浮かび上がりうごめいた。

やがて、その影は大きく盛り上がり。

炎のように黒の影が燃え上がり、次第に形を整えていく。

そこには黒のブーツを履き、漆黒のコートを身にし、頭はフードで覆われた謎の人物がいた。

「さて、碇シンジ。そして使徒・・・・・お手並み拝見とさせていただこう。」

フードからわずかに見える唇は尖らせて笑っていた。

 

 

                                                     ・・・・・・・・・・・To be continued