その後のアスカ


シンジ達と暮らしていたアスカは暇を持て余していた。
アスカ自身、大学も卒業しているため学校に行く必要もない。

しかし、使徒達と暮らすこの島での生活は15歳の少女には刺激が少なすぎた。
シンジやレイ達の暮らしは、15歳の多感な少女からしてみれば穏やかすぎるのだ。

「あんた達って老人みたい!なんかこうパァッとやりとか思わないわけ?!」
アスカは常々そう発言する事が多くなっていた。

そんなアスカにシンジとカヲルは少々可哀想な物を感じており、アスカが16歳になったある日、提案したのだった。

「アスカ、もし、退屈だったらアメリカにでも行ってみる?」
「リゾートに行くんだったらここより良いところなんてないのは解ってるからいいわよ」
アスカはそう言いながらジュースを啜る。

「いや、遊びにじゃなくて、友達を作りにさ」
「友達?」
アスカは怪訝な顔をした。

「うん、僕達はこの穏やかな生活が気に入ってるけど、アスカは刺激が欲しいんじゃないかと思ってね」
「確かに、ここは穏やかすぎるのはあるわね」
アスカもあからさまに不満と言う訳ではないが、それは常々思っている事だった。

「別にここには何時でもリエが運んでくれるからね、アスカもアメリカの大学にでも行けば、こことは違う楽しみが出来るんじゃないかと思ってね」
「それ良い!行く行く!」
アスカは飛び跳ねて同意した。

そしてアスカはアメリカで大学に通う事となったのである。
アメリカではアスカのルームメイトと言う形でシンジ達の誰かが常にアスカの警護を兼ねて、同室に誰かが住んでいる状態であった。

しかし、アスカの私生活には一切干渉しないため、アスカは自由奔放に大学生活を楽しむ事が出来た。

アスカは持ち前の努力と優秀さですぐ大学院に行き、遊びと学問を両立させ、充実した日々を送っていた。

大学では、若干、年が若いものの、これくらいの飛び級は珍しいとは言っても居ないわけではなかった。
友達もそこそこできたが、人と言う物に対しそこそこ目が肥えているアスカは遊び惚ける事もなく、楽しく過ごしていた。


そんなアスカに、恋人が出来た。
本人は否定しているが、彼氏の方は当然肯定している。

同じ大学院に通う院生で、NERVアメリカ支部でエヴァパイロットの候補生にもなった事があったらしい。
その事で、話を聞いてしまったアスカは、それからズルズルと行動を共にするようになって行った。

しかし、所詮、そういう話で女を釣る男であったようだ。
付き合いが進むうちにアスカの方で白けてきていた。

とかく自慢と自尊心の高さが鼻につくのだ。
それは、エヴァに乗って一番に成ることが至上命題だったアスカの記憶とオーバーラップされアスカの思いは急速に醒めて行ったのだった。

そんな相手は、面白くなく、強攻策に出てきた。

「なんだよ!お高く留まりやがって!」
そう言って男はアスカにのし掛って来た。

しかし、離れているとは言え軍事訓練を受けてきたアスカには、その男の暴力等はものの数ではなかった。

「ふん!あんたなんかに犯られる程、安くもないのよ!」
アスカの捨てセリフの後には股間を押さえ呻いている男の姿があった。

「やっぱり世の中、ろくな男居ないわねえ」
溜息を吐くアスカだった。


そんなアスカも26歳の時に結婚を決めた。
相手は、アスカの研究結果を特許としてアメリカで申請作業を行う弁護士だった。

それから暫くはアスカは島には寄りつかない生活となった。
アスカ曰く
「あんた達と居ると隠居生活になっちゃうから、ちょっとアクセク生活してみるのよ」
との事だった。

しかし、アスカは特許も数多く取得しており、相手も弁護士と言う事でお金には不自由してない幸せそうな生活をしていた。

子供も出来た。

シンジ達は影ながらアスカの生活を守っていた。
未だにチョッカイを出す組織は後を絶たなかったのである。

シンジ達は、こっそりとアスカの赤ん坊を見る為にアスカの所には結構出入りしていた。
こっそり見ようとするのだが、いざ見てしまうと、もう少し近くからとどんどん近付いてしまい結局眼の前まで行ってしまうのだ。

アスカもそんな皆に満更でも無い顔をして迎え入れる。

「見たいなら何時でも来ていいのよ。何でこそこそ来るかなあ?」
容姿で目立つ彼らは彼らなりに気を遣っていたのだ。

アスカの娘は、ミレイと言う名前らしい。
未来としたかったのだが「ラ」の発音が嫌で「レ」にしたらしい。

「それにレイの名前も入ってて良いでしょ?」

そう言ったアスカにレイは本当に嬉しそうに微笑んだ。

「その娘は一人目だからファーストね」

レイのブラックが炸裂した。

シンジ達の暗躍もあり、アスカ親子は平和に暮らす事ができた。
娘が3歳〜6歳ぐらいまではラミとサンが良く遊びに来ていたのだが8歳にもなると容姿が変らない事を疑問に思い出して来たので疎遠になっていった。

ラミとサンは少し寂しそうでは、あったが、そこは持ち前の明るさで乗り切っていた。

アスカが40歳の時ミレイは14歳となった。
アスカそっくりの強気な性格で、アスカそっくりの赤い金髪に青い眼。

アスカはそんな娘を見て、この娘はエヴァになんて関わる必要がなくって本当に良かったと思っていた。

旦那との仲もそれ程悪くはない。

順風満帆な生活と言えただろう。
娘は、学校で恋愛し、親に反抗し、そして自立した。
大学に通う頃には一人暮らしを希望し、アスカ夫婦は子供の熱意に負けてしまう。

そしてアスカ夫婦は熟年夫婦の期間を過ごす事となる。

この時、夫と幸せな時間を過ごしていた。
アスカの夫はアスカに理解があり、アスカを家庭に縛り付けるような事はしなかった。
そして、週末には2人で出掛ける等、充実した夫婦生活を送らせてくれたのである。


晩年、アスカは夫に先立たれてしまった。
享年71歳、この時代では長生きした方である。

アスカは65歳となっていた。
娘も39歳、孫が丁度14歳だった。
名前は「キョウコ」。

それを聞いた時、アスカは苦笑いしたものだった。
娘に母親の話などしたことがなかったのに。
それは、聞かされてない娘が調べた物だったのだろう。

葬儀の後、娘達とも別れ一人で居るアスカの元に14歳ぐらいのカップルが近寄って来た。
それは20年以上会っていなかった嘗ての戦友。
アスカは2人を見初めると、抱きつき嗚咽を漏らして泣いた。
それは、夫の葬式でも見せなかった涙であった。

「シンジィ〜レイ〜」
アスカは2人の名前を呼び、未だ泣いている。

「あたし、また独りになっちゃったよぉ」
「・・・貴女は独りじゃないわ」

「子供達は確かにいるけど、親離れって言うの?なんか邪魔なような気がして・・・」

アスカのその言葉にレイは首を横に振りこう言った。
「・・・忘れたの?私達は決して貴女を独りにしない」
「レイ・・・」
アスカはそう呟くと、またレイに抱きついた。

「僕達の所に帰って来るかい?」
レイとシンジが言う。

それはアスカには抗えない甘美な言葉だった。
「また戻っていいの?」

「勿論さ」
「・・・問題ないわ」
そして黒い穴に消える3人。

アスカ達が出たところは、アスカが居なくなってからも何も変っていなかった。

降り注ぐ太陽の日差しに青い空。
眼下には、青い海が見渡せる。

容姿の変っていないシンジとレイ達。

「お久しぶりでございます」
サキがお茶を持ってきてくれた。

「わぁ!おばあちゃんになっちゃったねぇ〜」
「元気だったぁ〜実はずぅっと影ながら見てたから知ってたんだ」
ラミとサンが未だ5〜6歳の容姿でアスカに纏わりついてきた。

昔と変らない面々にアスカの顔も自然と綻んで行く。

「・・・貴方が人間を捨てるなら、身体を変えてあげるわ」
レイが唐突に言った。

「え?身体を変えるって?」
アスカは突然何を言われたのか解らなかった。

「僕達と粗同じになるって事かな?流石に使徒って訳にはいかないけど、身体を再構成するって感じだよ」
「それって・・・」

「・・・貴方も余命幾ばくもないわ、天寿を全うする気ならそのままでも構わないわ」 レイが淡々と述べるが人間であれば当然の事だ。

「少し考えさせてくれる?」
「・・・ええ」

「他にも選択技があるんだ」
「え?」

「人の身体は脆い、幾ら作り直しても、何かの事故で死ぬ確率は変らないんだ。だから魂を僕達が共有するって言う方法もある」
「それって・・・」

「そう、僕達と溶け合うってことだね」
「それも含めて考えさせて」
アスカは、突然の提案を呵責するので精一杯だった。

「勿論さ、時間はあるよ、ゆっくり考えて」
シンジは微笑んでそう言うと、座り直してサキの入れてくれたお茶を飲んだ。

人として不老不死は永遠の課題であろう。
アスカとて、若返れるなら若返りたかった。
しかし、本当にそれで良いのだろうか?

孫まで居るアスカは考えさせられた。
夫が死んだ時、悲しかった。
胸が張り裂けそうだった。

自分が不老不死になると、娘や孫が死ぬ所を見なければいけなくなる。
シンジ達に助けてくれと頼んでしまうかもしれない。
しかし、そんな事が出来るはずは無い。

そんな事をしていたら、繋がりのある人間全てをその様にしなければ行けなくなってくる。
そんな事はシンジ達も了承しないだろう。
そうすると、やっぱり人の死に悲しむ事になる。

アスカは悩んだ。

ここで余命を悠々自適に過ごしても、それは他の人達と比べても遙かに幸せな人生だろう。
しかし、目の前に若返れると言う事実がある。
これは、人にとって甘美すぎる響きだ。

アスカは結論を先延ばしにする事にした。

「私の寿命が尽きるまで、今のままでここに居させて貰うわ」
「・・・わかったわ」
アスカの言葉にレイが承諾の意を示す。

「死ぬ間際に幸せだったと思うか、死にたくないって思うかで決めるわ」
「それは、なかなか良い考えだねぇ」
カヲルが珍しくアスカに同意した。

アスカとしてみれば本当に何を望んでいるのか、それは瀬戸際になれば明確になるだろうと言う判断だった。



数十年後、島のビーチでは、赤い金髪に青い目の少女がはしゃいでいた。

「ちょっとあんたも偶には付き合いなさいよ!」
シンジに向かって言い放つ少女。

「わかったよ」
そう言って、微笑んで少女に付き合うシンジ。

アスカの葬儀は、アスカの娘の元で行われた。
シンジ達が、大人の姿で、アスカの亡骸を送り届けたのだ。

アスカの決断は・・・

レイとの同化だった。
アスカは身体を捨てたのだ。

そして、魂のレイとの同化を果たした。

しかし、寿命まで生きたアスカの魂は、殆ど生の力は無かった。
最後の時、レイが願いを聞き入れ、アスカの魂を身体から取り出し、自分に同化させた。
既にアスカはレイを拒絶するはずもなく、同化はすんなり行われた。

力の無いアスカの魂は殆どレイの魂の中で眠っている。
そこは、溶け合い満たされる安住の地であった。
所謂、天国と呼ばれる所に一番近い場所であろう。

しかし、偶に起きると、こうしてレイに身体を借りてはしゃぐのだった。

どれくらい偶かと言うと・・・100年に一度くらいだった。



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後書き

これは、携帯サイトに書いていた物を加筆したものです。
短いですが、お許し下さいm(_ _)m

アスカは天国に行ったと思ってくれて良いです。

本来、サードインパクトで全ての生物が溶け合ったLCLの海。
それは溶けている側には天国では無かったのかと夢魔は思うのです。

仏教では生きている事は一切皆苦とされています。
悟りを開き、解脱する事により、この苦から解放されると言う物ですが、周りからの力による悟り、これが生物が溶け合ったLCLの海では無いかと夢魔は思う訳です。

何もしなくても生きていける。
これは宗教に身を投じている人達の楽園そのもだと思う訳です。

ではゼーレは正しかったのか?
ゼーレは宗教家です。
彼らは自分達が正しいと当然思っていると思います。

しかし、宗教家の正しい事は往々にして、それ意外の人達には戯言で有ることが多いです。
人は生きる事に意味を見出しているのです。
人は生きている事に価値があると言う事です。

それが、今回のアスカの人生ですね。
そして、死んで天国に行くと言うつもりで書きました。

うーーんちょっと支離滅裂ですね。
風邪のせいと言う事で(^_^;)<オィ