はじめて、から再開しよう。
紅い水溜りからこんにちわ。
青い空よ、ありがとうお。
「なんじゃこりゃーーー?!」
碇シンジな少女がムンクばりのホラータッチで絶叫する。
おのれのたわわ(ここさりげに重要だし)に実った乳房を、制服の上から鷲掴みした。
もみもみもみもみもみも……。
「あン」
現実逃避に、色っぽい声のひとつもでてしまう。
いやいやいや。
恐る恐る下半身を確かめてみようじゃないか、と右手を伸ばすシンジ。
三十秒経過…。
ないんです。影も形も。
きれいさっぱり。
碇シンジはどっからどうみても雌だったのでした。イェー。
めでたし、めでたくない…。
「も一回サードインパクト、起こしてやる! うわーーーん!!」
激しく泣ける。
『♀えう゛ぁ』
サイレンが頭上をカッ飛んでいた。
『告! 非常事態宣言、現在進行形。B級以下の市民は直ちにシェルターに避難すべし。最優先事項。繰り返す……』
「そこだ! ぶちかませーーー!!」とか。
「ばっ、何やってんの、もう! そんくらい避けろよ、この、だぼがっ!!」とか。
「いまだ! 明日に向かって抉り込めーー!!」とか。
UN対サキエルのドンパチを特等席で観戦する、缶ビール片手に(お酒は二十歳になってから!)こぶしを振り上げ、近くのゴミ箱にやくざキックをかましながらエキサイトするいたいけな少女がひとり。無論、性転換したシンジちゃんだ。
これまでの繰り返し人生で培った様々な経験が、シンジを内罰的で人の顔色を六万五千色で窺う全自動穴掘り少年から、毎日がカーニヴァルでフェスタでだんじり祭りだったらいいよね的、享楽的なトラブルメーカーに、いやな感じに変えちゃっていた。
十分後…。
「あーあ、また一機死んだよ。だめだコリャ」
シンジが数えただけでも両手両足の指に余るくらいのヘリと戦闘機が首なしサキエルちゃんに叩き落とされていた。懲りないというか、無限1UPでもしているんだろうか。
やられキャラ?
かませ犬?
戦闘はまだ続いているものの、ワンパターンな展開にいい加減飽きてきたシンジ。退屈だ。とてつもなく。待っているだけというのも性に合わない。欠伸をひとつふたつ噛み殺し、リリアンするためにカバンをごそごそやり始めたら、ふと脇道にリリスな綾波を大発見。
OH、イベントフラグがたっていたのをすっかり忘れていましたよ。シット!
「綾波! あいたかったよぉ!!」
がばちょと抱きつこうとするシンジに、綾波はすげなく身をかわす。
「なんでぇー」
熱い抱擁(ベーゼ)を拒まれちょっと不満顔のシンジ。
しかし、シンジに見付けてもらえず一人アスファルトにのの字を書いていたらしい綾波は、すっかりご機嫌斜め三十五度ばかし傾斜な様子。
「知らないもん」
拗ねた綾波は、ぷい、とそっぽを向いた。
もんってなんだよ、もんって。とシンジは思ったが、もちろん口には出さない。本気で怒った綾波レイ嬢は、はっきりいって絶対恐怖領域そのものですから。
「ごめんごめん。このとーり」
両の掌の皺を合わせ、許してソウリィ。軽く小首を傾げ上目づかいが高ポイント碇シンジに三千点の秘訣か。
暫くシンジが平身低頭していると、しかたないわねって感じでお許しがでた。改めて、綾波とハグる。とってもやーらかくて、いいにおいに至福のひととき。ひとしきり、再会の喜びを分かち合った後。
「無事にコンティニュー出来たみたいね」
微笑みをを浮かべる綾波。
思わず見惚れるシンジだったが、
「って、誤魔化されないからな!」
「なんのこと?」
「これだよ、これ!」
シンジは、胸部で思いつきり自己主張するふたつのましゅまろを掴む。自前じゃなかったら、間違いなくセクハラで、おやじだ。えっちい。
「どうしてウーメン、Why!?」
ぴくり。
「……忘れたとは言わせないわ。前回のこと…」
ごごごご…。それまでの愛らしさからうってかわって、うつむき加減の影差す綾波から紡がれる、仄暗い地獄の底より響くような低い声音。
「な、なにかな…?」
「私を手始めに、赤毛SAL、戦自娘。、眼鏡っこ、委員長、ウシチチ女、某マッド、マッドの子分、果てはサルベージママンまで。手当たり次第あっちもこっちも口説いて。許される行為じゃないわ」
今のシンジは、めっちゃ挙動不審。あっちきょろきょろ、こっちきょろきょろ。うえにきょろきょろ、したにきょろきょろ。冷や汗たらたらり。本能が、脳内Magiが全会一致で戦術的撤退を推奨している!?
「だ、だだだだってさあ」
そこにハーレムルートが燦然と輝くのをアキバ系エロゲーマーばりの嗅覚で発見したなら、一名様御案なーいって感じで突貫したくなるのが人情ってもんやろ。
「そうだろ、男ならそうに違いないさ、大宇宙曼荼羅的に間違いねー」
酒池肉林な日々を追憶し、だらしない顔をしていたらしいシンジに、情け容赦のミジンコ程もない世界を獲れる黄金の右炸裂。ぶべぼって感じで、激しくえぐれたね。
「殺すわよ」
「ず、ずびばぜん」
土下座するシンジ。ごめんなさい、すみません、もうしません。端から見たら、女の子を下僕る女王様なのか。なにげに、いや〜ん。
「でも、だからって僕を女の子にしちゃうのは、はなし的にどうかと」
いろいろシナリオも狂ってくることだしさ。
「ふっ…」
ゲンドウスマイル炸裂。徐に綾波がシンジのぱいおつを揉みしだく。ぎゅうぎゅうって、牛じゃないっての。もそっとソフトにお願い。
「きゃっ、セクハラよ」
綾波がシンジの胸を鷲掴みながら心底嬉しそうに、マッドな微笑みを浮かべた。某赤木女史そっくりでリアルに怖い。
「我ながら、いい仕事したわ」
綾波さん、超満足げ。
「いろいろ弄ってあるし」
「!! 弄るって、なにさ!? まさか違法改造? ドリル? ドリルなんだね!?」
嗚呼、うっとり。ついにあこがれのブツが我が手に。掘って掘って掘りすすまんかい。ミス・ドリラーの称号はワイのもんや。
「それはないわ」
きっぱり。シンちゃん悲しい。
「ドリルとハーレムは漢のロマンなのにぃ」
浪漫を解せん奴め。見損なったよ、綾波。
「問題ないわ。今のあなたは碇子さん」
でた、綾波の問題ないわ口撃。髭親父直伝のはったりスキルであり、その実、単なる現実逃避でしかないって。
「碇子さんって…。ま、いっか。…んで、今回の変更点は性別だけ?」
レッツラ、ポジティブシンキング。ケ・セーラセラー、でGO。
「TSした影響で、生い立ちやデフォルトの対人関係の好感度が今までとは大きく異なるわ」
「女になったってだけで、そんな違うもんかな」
シンジは頬に手を当て首を傾げる。んーと。男の子から女の子に変わるのは己的大問題なんだけど、他人の反応の違いがうまく想像つきゃしない。
なんてことない仕草も美少女なシンジがやると様になっていたが、無論シンジは気づかない。
ジリリリリリリ…。それは始まりの合図か。
「そのあたりは習うより慣れろね。実際に体験してもらった方が早いわ」
徐々に、綾波が透き通っていく。
「綾波?」
「時間よ。じゃ、がんばってね。……会えて嬉しかった」
恋人にするように、甘い抱擁。抱きしめる腕に力を込める。バックに百合の花が咲いていようが関係ないさ。
「大好き」
「僕もだ」
綾波は大輪の花が咲くような綺麗な笑顔を残して消えていった。まるで陽炎のように。
最後に、私によろしくと言いのこして。
続く…かも。