第弐拾弐話
せめて、人間らしく
葬儀の最中で聞こえてくる話。
「仮定が現実の話になった。因果なものだな、提唱して本人が実験台とは」
「では、あの接触実験が直接の原因と言う訳か」
「精神崩壊、それが接触の結果か」
「しかし、残酷なものさ、あんな小さな子を残して自殺とは」
「いや、案外それだけが原因ではないかもしれんな」
「アスカちゃぁん、ママねぇ今日貴方の大好物を作ったのよ、ほら、好き嫌いしてるとそこのお姉ちゃんに笑われますよぉ」
病院で母親を見ているアスカ、そこのお姉ちゃんとはアスカを指している。
病院の医師らしき女性と父親の話し声が聞こえる。
「毎日あの調子ですわ、人形を娘さんだと思って話しかけてます」
「彼女なりに責任を感じているのでしょう、研究ばかりの毎日で娘を構ってやる余裕もありませんでしたから」
「ご主人のお気持ちはお察しします」
「しかし、あれではまるで人形の親子だ、いや、人間と人形の差なんて紙一重なのかも知れません」
「人形は、人間が自分の姿を模して作ったものですから、もし神が居たとしたら我々はその人形に過ぎないのかもしれません」
「近代医学の担い手とは思えないお言葉ですな」
「私だって医師の前にただの人間、一人の女ですわ」
墓標の前で血縁者らしきおばあさんが泣きながら話しかけてくる。
「偉いわねアスカちゃん、いいのよ我慢しなくても」
「いいの、あたしは泣かない、あたしは自分で考えるの」
猿のぬいぐるみを抱き泣いているアスカ。
「ウェェェーーーン、ヒック、ェェーーッン」
（なんであたし泣いているんだろう、もう泣かないって決めたのに）
引き裂かれるぬいぐるみ。
「どうしたんだ？アスカ、新しいママからのプレゼントだ、気に入らなかったのか？」
「いいの」
「何がいいのかな？」
「あたしは子供じゃない、早く大人になるの、人形なんてあたしには要らないわ」
「だからあたしを見て、ママお願いだからママを止めないで」
「一緒に死んでちょうだい」
「ママ、お願いだからあたしを殺さないで！嫌！あたしはママの人形じゃない！自分で考え自分で生きるの！パパもママも要らない一人で生きるの」
「アスカちゃん、一緒に死んでちょうだい」
「一緒に死ぬわママ、だからママを止めないで、ねぇママ！」
「ママーーーーーーーッ！！」
自分の叫び声でアスカは目覚めた。
「・・・怖い夢を見たのね」
レイが抱き締めてくれていた。
シンジの家のソファーで寝込んでしまっていたらしい。
「これでも飲んで落ち着いて」
シンジが暖かいココアを持ってきてくれた。
「あ、ありがとう・・・」
「・・・アスカ、私達が居るわ」
「きっと、加持さんの事とかがあって、嫌な事を思い出しちゃったんだね」
「レイ・・・今日一緒に寝てくれる？」
「・・・いいわ」
「ありがとう・・・」
（あたしには、レイが居る、シンジが居る、カヲルが居る、あたしを見てくれている・・・）
その夜、アスカはレイに抱かれぐっすり眠る事ができた。
―第壱中学―――――――――――――――――――――――――
アスカが不機嫌に机に突っ伏している。
「どうしたのアスカ？」
「なんでもないわよ！」
（なんでもなくないじゃない・・・）
声を掛けたヒカリも困ってしまった。
実はアスカはシンジの家に加持が居るため、楽しいと自分では思っていたのだが、加持が居るためにカヲルに逢えない事に苛ついているのである。
しかし、それを認めたくないアスカは、島に行って皆に会えないからと自分を誤魔化している。
そして不機嫌なのである。
「それよりヒカリ、あんた達ちょっとは進展したの？」
「えっ？何の事？」
と言いながらも頬を染めるヒカリ。
「キスぐらいしたの？」
「そ、そんな事・・・・・・・・・・・・・まだ」
ヒカリは蚊の鳴くような声で言った。
「はぁあんたの彼氏も奥手なのねぇ・・・」
「奥手って・・・まだ私達には早いし・・・」
「シンジとレイって何処まで進んでるんだろ？」
「アスカ、綾波さん達と仲良いの？」
「そりゃぁ同じパイロットだし、隣に住んでるし、仲良いと思うわよ」
「そう・・・私はなんか近寄りがたくて・・・」
委員長としてこれではいけないと思っているヒカリは罪悪感があるのだった。
「うーん、普通に話しかければ普通に応えてくれると思うよ、あいつらなら」
「そ、そうかな？今度話しかけてみようかな？」
「あんまり私生活に突っ込まなければ大丈夫よきっと」
「そ、そうね、ありがとう、やっぱりアスカね」
「何言ってんのよ、そんなのお礼言われる事じゃないわよ」
―初号機ケージ―――――――――――――――――――――――
（あのアダムより産まれし物エヴァシリーズ。セカンドインパクトを引き起こした原因たる物まで流用しなければ私達は使徒に勝てない。逆に生きる為には自分達を滅ぼそうとした者をも利用する。それが人間なのね。やはり私はエヴァを憎んでいるのかもしれない。父の仇か）
ミサトが初号機を見上げ考えていた。
「葛城さん」
マコトに呼びかけられた。
ケージを離れジオフロントのベンチに腰掛け話しを聞くミサト。
「エヴァ13号機までの建造を開始？世界七カ所で？」
「上海経由の情報です。ソースに信頼はおけます」
「何故この時期に量産を急ぐの？」
「エヴァを過去に２機失い現在も１機は凍結中、実質現在２機しか稼働できませんから、第二次整備に向けて予備戦力の増強を急いでいるんでは？」
「どうかしら？ここにしてもドイツで建造中の５、６号機のパーツを回して貰ってるのよ？最近随分と金が動いているわね」
「ここに来て予算倍増ですからね、それだけ上も切羽詰まってると言う事でしょうか？」
「委員会の焦りらしきものを感じるわね」
「では、今までの様な単独ではなく、使徒の複数同時展開のケースを設定したものでしょうか？」
「そうねぇ・・・でも非公式に行う理由がないわ、何か別の目的があるのよ」
―発令所――――――――――――――――――――――――――
『総員第一種戦闘配置、対空迎撃戦用意』
「使徒を映像で確認、最大望遠です」
シゲルが報告する。
「衛星軌道から動きませんねぇ」
マコトが状況を解説する。
「ここからは一定距離を保っています」
シゲルの報告。
「って事は、降下接近の機会を伺っているのか、その必要もなくここを破壊できるのか」
「こりゃ迂闊に動けませんね」
ミサトの解析にマコトが応える。
「どの道、目標がこちらの射程距離内に近付いてくれないとどうにもならないわ、エヴァには衛星軌道の敵は迎撃できないもの。レイとシンジ君は？」
ミサトが諦め気味のセリフを述べながら、パイロットの状況を確認する。
「初号機共に順調、行けます」
マヤが報告する。
「了解、初号機発進！超長距離射撃用意！、弐号機アスカはバックアップとして発進準備」
ミサトが指示を出す。
降りしきる雨の中、初号機が射出された。
「目標未だ射程距離外です」
その時、初号機に向かって一筋の光が使徒から放たれた。
「敵の指向性兵器なの？！」
ミサトが叫ぶ。
「いえ、熱エネルギー反応無し」
シゲルが解析結果を報告する。
「心理グラフが乱れています。精神汚染が始まります！」
マヤが叫ぶ。
「使徒が心理攻撃、まさか、使徒は人の心が理解できるの？」
リツコが驚愕の仮説を立てる。
弐号機が、陽電子砲で応戦する。
『陽電子消滅！』
「駄目です。射程距離外です」
シゲルが結果報告を行う。
弐号機がライフルを必死で撃ちまくる。
「弐号機ライフル残弾ゼロ！」
「光線の分析を！」
ミサトが指示を出す。
「可視波長のエネルギー波です。ＡＴフィールドに近いものですが詳細は不明です」
マコトが分析結果を報告する。
「危険です。精神汚染Ｙに突入しました！」
マヤが叫ぶ。
「心理グラフが回復しています。精神汚染回復します」
マヤが驚きの報告を行う。
「使徒の精神攻撃を押し返して居ると言うの？」
リツコが驚く。
「使徒、大気圏に突入！！」
シゲルが叫ぶ。
「アスカ、新しいライフルを出すわ、使徒を攻撃して！」
「任せて！」
アスカは、近くの射出口から出されたライフルを装備すると、使徒に向かって打った。
「駄目です。使徒のＡＴフィールドにはじかれています！」
マコトが叫ぶ。
「使徒、接触します！」
シゲルの報告と共に、使徒に突き刺さる初号機の腕。
「パターブルー消滅、使徒消滅しました」
霧散していく使徒。
「シンジ君、レイ、大丈夫？！」
ミサトが２人に安否を問う。
「大丈夫です」
「・・・問題ありません」
シンジとレイが報告した。
―コンフォート１７―――――――――――――――――――――
玄関のチャイムが鳴り、シンジが出てみるとビールを抱えたミサトだった。
「こんばんはぁ〜〜ちょぉっちお邪魔していいかなぁ？」
「どうぞ、葛城さん晩ご飯は？」
「それが、まだなのよねぇ〜ビールは持ってきたから、なんか摘みでも食べさせて」
そう言いながら片手で拝むミサト。
「いいですよ、残り物ですけど、暖めますから」
「で？加持はどうしてるぅ？」
「よっ葛城」
加持はソファーでふんぞり返ってテレビを見ていた。
「あんたねぇ〜中学生に匿われてるんだから、もう少し殊勝にしたらぁ？」
ミサトがジト眼で加持に言う。
「いいんですよ葛城さん、今までずっと逃げ回る生活だったんだから、ゆっくりして貰って」
「い、いやそれ程逃げ回ってたって訳じゃないんだけどな」
加持が頭をポリポリ掻いた。
「ところでシンジ君、そろそろ少し教えてくれないかな？」
「何をですか？」
「君が何者なのか？俺をどうやって助けてくれたのか？・・・ってとこかな取り敢ず」
「それを教える事による僕のメリットは？」
「うーーん、無いな・・・あはは」
加持は参ったと頭を掻いている。
「じゃぁ何故、加持を助けたかだけでも教えてくれないかしら？」
ミサトが尋ねる。
「加持さんを助けたのは、加持さんが死ぬと葛城さんが泣くからですよ」
「シンちゃぁ〜〜ん、ありがとう・・・ってレイ？」
ミサトはシンジに抱きつこうとしたがレイに阻まれた。
「・・・碇君は渡さない」
「い、いや、別に取りゃしないから・・・あはは」
レイの絶対零度の視線に冷や汗を流すミサトだった。
「俺の知る限り、葛城とシンジ君はそんなに親密な関係じゃなかったと思ったんだがな」
「前にも言いましたが、僕は別に葛城さんを嫌っている訳ではありませんよ。ただ使徒戦になると恨みのためか冷静な判断をなくすので、衝突しただけですよ」
「シンちゃん、なんであたしが使徒を恨んでいる事を知っているの？！」
「葛城調査団唯一の生き残りであることは知っています。そしてその時見た光の巨人を使徒だと教えられ、使徒をお父さんの仇だと思っている事も・・・」
「だから、なんでそんな事をあんたが知っているの？って聞いているのよ！」
「葛城！冷静になれ」
加持が諫めた。
「何故知っているかは、一言では説明できません。代りに別な事を教えましょう」
「別な事って？」
「加持さん？葛城さんにはセカンドインパクトの真相はお話しましたか？」
「いや、悪い、まだだ」
「では詳細は加持さんに聞いて貰うとして、セカンドインパクトはゼーレの思惑により葛城博士が利用され起されました。それは南極に居た第壱使徒アダムを卵まで還元する事によるエネルギーの放出によるものでした」
「ちょっと待って、使徒がセカンドインパクトを起したんじゃないっての？！」
「そうです。葛城博士の実験は失敗する事はゼーレには解っていました。そしてその時にアダムを卵に還元する方法を『被害を最小限に抑える方法』だと進言していたのです」
「じゃぁ、父は騙されて、セカンドインパクトを起してしまった・・・と」
「結果的にはそうですね、ただ糸を引いていたのはゼーレだし、実験の前日に全ての資料を持って引き上げた人間が居ました。それが六分儀ゲンドウ、今の碇ゲンドウですね」
「司令は知っていたと言うの？」
「真実は解りません。もしかしたら父は止めたけど止められなかったから自分だけ引き上げたのかも知れませんし、実験を勧めて自分だけ引き上げたのかも知れません、それを知りたければ父に直接聞いてください。ただ、人類補完委員会を隠れ蓑にしたゼーレがＮＥＲＶの上位組織であることは変わりません」
「ゼーレとはいったいなんなの？」
「それはゼーレのスパイだった加持さんに聞いて頂いた方が良いかと・・・」
シンジは眼を加持の方に向けると加持は「勘弁してくれよぉ」と言う眼でシンジを見ていた。
「加持ぃ〜あんたそんな事までやってたの？！」
「葛城、ま、待て！落ち着けっ！なっ、なっ」
加持は迫り来るミサトを必死で宥めた。
「い、いいわ、そこの所は後でじぃ〜っくり聞かせて貰うからね！」
「は、はい・・・」
加持は萎縮しシンジを恨めしそうな眼で見ている。
「シンジ君、貴方には加持を助けて貰った、セカンドインパクトの真実も教えて貰った。だからもう何も聞かないわ、だけどひとつだけ教えて」
「なんでしょう？」
「貴方は何がしたいの？」
「僕は家族達と平和に暮らしたいだけですよ」
「そのために加持を助け、私にセカンドインパクトの真実を教えてくれたの？」
「何故そんな事をしたのか？って事ですか？」
「そうよ、私もシンジ君には嫌われていると思っていた、加持もそれ程好かれているとも思えない。なのに何故？」
「そう言う事ですか・・・」
シンジは暫く考えていた。
いや、考えているように見えた。
実はレイと相談していたのだ。
そしてシンジは口を開いた。
「加持さんには前に聞いたんですが、使徒が全部倒されたら葛城さんはどうされるお積りですか？」
「全部って言っても使徒は後、何体来るか解らないし、考えてないわ」
「使徒は後２体です」
「何ですって？何でそんな事が解るの？！」
「まず裏死海文書と言う古文書があります。ゼーレにとってそれは予言書であり聖書です。そしてその中に使徒の襲来予定が書かれているのです」
「なんなの、それは・・・」
「これも詳しくは加持さんに聞いてください。そして裏死海文書に書かれている使徒は全部で十八。現在は第壱拾五使徒まで倒しました」
「ちょっち待って、全部で１８なら後３体じゃないの？」
「裏死海文書に書かれている壱拾八番目の使徒、それはリリンと呼ばれる人類の事です」
「私達も使徒だと言うの？！」
「ゼーレが認識している使徒襲来は未来を与えられる種の生き残り戦なんです。そしてその勝者が宗教上で言う階梯を上ると思っています。でもこれは集団自殺の様な物なんです。全生命体が溶けＬＣＬへと還元してしまう、父さんは原初の海に返るだけだと思っているようですが・・・」
「な、何よそれ？！」
「問題は、使徒を全て倒した後、ＮＥＲＶがどうなるかです」
「・・・想像もつかないわね」
「Ａ−８０１が発令されるでしょう、そしてＭＡＧＩの占拠、それに失敗すると人的制圧による本部占拠となるんじゃないでしょうか？」
「なんでそんな事になるのよ！」
「そこの辺りも加持さんに聞いて下さい、僕にも大人の政治的思考はよくわかりません」
「解ったわ、それで？」
「逃げるにしろ、戦うにしろ、葛城さんには加持さんが必要だと思ったんです。僕の大事な家族には既にアスカも含まれています。葛城さんや加持さんが死んでしまうとアスカが悲しむと言うのが、助けた理由です」
「そうだったの・・・」
「俺がここに居るのはアスカのおかげか・・・」
「そうよん、加持さん、だからミサトなんて捨てて、あたしと一緒になりましょう」
「ア、アスカ、何言ってんのよ、あんたにはまだ早いわよ！」
ミサトが我を忘れ焦っている。
「加持さん、葛城さん、盗聴器の類が無いところで話しがしたいなら、ここを提供しますよ」
「それは助かる、是非そうして貰えるかな」
「じゃぁそちらの和室を使って下さい、僕達は僕の部屋に居ますから」
「あぁ助かるよありがとう、じゃぁ葛城、そっちで少し話しをしよう」
「いいわ、じぃっくり聞かして貰うからね！」
加持は冷や汗を流しながら和室に行くと、襖を閉めた。
「じゃぁ僕達は僕の部屋でお茶でも飲んでいようか」
「なんでここに居ちゃいけないの？」
アスカが不満を全身に発散させながら尋ねる。
「ここに居ると聞こえちゃうかも知れないと思って、気兼ねなく話せないんじゃないかと思ったんだけど」
「ミサトがそんな殊勝な玉じゃないでしょ！」
「そう言われればそんな気もするけど・・・」
「・・・ならここに居ればいいわ、碇君行きましょ」
レイがシンジを引っ張って行く。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよぉ」
アスカも付いて来た。
和室では加持がミサトに知っている限りの事を話した。
セカンドインパクトの事、ゼーレの事、エヴァの事、ＮＥＲＶの事等々である。
「これが、俺が知っている全てだ、君に渡したカプセルに入っている情報とかなりダブるがな」
「あれってそんな物が入っていたの？！」
気が付いていなかったミサトだった。
「それにしてもシンジ君とは何者なんだ？」
「そうね、普通の中学生だと思っていたんだけど、とんだ食わせ者だったわね」
「はぁ」とミサトは溜息混じりに言った。
「俺も全然ノーマークだったんだよな、勿論、司令もだ」
「リツコは少し怪しんで居たようだけど、今はそれどころじゃないみたいだしね、でも信用できるのかしら？」
「俺は命を助けて貰ったからな、これ以上に信用する物はないよ」
「そうね、でも気になるのが『家族』って言葉ね、司令を指しているんじゃないみたいだし・・・」
「あぁそれは俺も思った、そしてアスカも家族だと言っている」
「レイとアスカか、でもまだ他にも居そうね、他の組織と繋がっているのかしら？」
「それは、無いな、少なくともＮＥＲＶに対抗できる組織ではない」
「そうね、あんたが知らないなら内調でもゼーレでも無いって事だもんね」
「そしてもう一つ謎なのがレイちゃんだ」
「確かに、シンジ君が来てから変わったわね」
「そうなのか？だったらやっぱり鍵はシンジ君だったのか・・・全く俺としたことが」
「でもレイについても何も解らないのは確かね」
「レイちゃんは司令のお膝元だとドイツでは聞いて居たんだがな」
「確かにシンジ君が来る前は、司令とリツコぐらいしか話さなかったわ、でも命令には忠実だった」
「今は？」
「リツコの命令すら聞かないし、最近は司令が命令しているところは見た事ないわ」
「単純に考えると、シンジ君がレイちゃんを操って居て、レイちゃんが司令を操っている・・・それは有り得んか・・・」
やはり真相に近い所までは持っていく加持だった。
「でも、後２体かぁ〜どうしよう？」
「俺と一緒に逃げるか？」
「世界七カ国でエヴァの製造に着手したって言うし、もう全然解らないわ」
「それは本当か？」
「えぇ日向君が上海経由で手に入れた情報よ、ソースは信頼できるらしいわ」
「その事についてどう思うかシンジ君に聞いてみよう、その回答によって俺達も先を考えるってのはどうだ？」
「そうね、その方が良いわね」
話が纏まったミサトはシンジ達を呼びに行き、シンジの部屋の扉をノックした。
「シンジ君、話は終ったわ、それで一つだけ聞きたい事があるのだけど良いかしら？」
「何でしょう？」
部屋から出てきたシンジは怪訝そうな顔で尋ねた。
「実はね、世界七カ国でエヴァの製造が開始されたらしいの、これについてどう思うか意見を聞きたいんだけど・・・」
「解りました、居間で待っていてください」
そう言うとシンジは一度部屋に入って行った。
シンジ達が居間に行くとミサトと加持がソファーに座って待っていた。
「ちょっと長くなると思いますので、お茶でも飲みながら話しましょう」
そう言うとシンジは台所に行き、紅茶ポッドを持って来た。
「先程話した、階梯を上ると言う話ですが、これをサードインパクトとゼーレは呼んでいます」
「なんですって？じゃぁサードインパクトは起されるって事？」
「ゼーレは、父さんもかな？起そうとしてますね」
「でも、使徒がアダムに接触しないとサードインパクトは起こらないんじゃないのかい？」
加持が尋ねた。
「それはセカンドインパクト級の爆発を起こせると言うだけです」
「それとサードインパクトは違うと言うの？」
「先程も少し言いましたが、ゼーレの望むサードインパクトは、全生命体をＬＣＬに溶かし一つの完全な生命体とする事です。何故かそこでゼーレの老人達は自分達が神になれると思っているようですが」
「それって、意味が全く解らないわ」
「人類補完計画、それは欠けた心の補完、魂が一つになることで欠けた物が補われると考えているようです」
「そんな・・・でもそれとエヴァの製造とどう関係があるの？」
「儀式を行うためです。そしてその儀式のために莫大なエネルギーが必要。多分そのエヴァ達はＳ２機関搭載型でしょう」
「そう言う事か、サードインパクトの為のエヴァと言う事か」
「それを止めるにはどうすればいいの？」
「そちらの方は僕が動いています。多分なんとかなるでしょう」
「え？動いているって？」
「それは企業秘密です」
「じゃぁシンジ君はエヴァの製造が開始された事を知っていたの？」
「いえ、それは知りませんでしたが、そろそろだとは思ってました」
「そう・・・計り知れないわね」
「まぁ心配しなくてもそのうち殆どの事を話す事になりますから、まぁ僕の希望を言えば、とっとと逃げる算段をして欲しいんですけど、それはお二人の判断に委ねます」
「そう、期待して待っているわ」
「えぇ、だからあまり危ない事はしないで下さいね」
シンジはニッコリ笑った。
「シンジ君はゼーレを潰そうとしているのかい？」
「あれは、あれで世界経済の混乱を止めています。内実はどうであれ潰れれば、また大変な事になるでしょう」
「必要悪だと？」
「そうは言いませんが、僕の傲慢でゼーレを潰してしまったら、そのためにまた被害者が出ると言う事です」
「潰す事は出来ると言う訳か」
「さぁ？どうでしょう」
シンジは苦笑した。
「俺はそろそろ準備にかかるよ」
加持はそう言うとミサトと一緒に出て行こうとした。
「気をつけて」
シンジが言う。
「加持さん死なないでね」
アスカが心配そうに言った。
「あぁ、助けて貰った命だ、大事にするよ」
加持も微笑んだ。
加持とミサトが去った後、レイがぽつりと言った。
「・・・良かったの？」
「まぁ良いんじゃないかな？」
「・・・そう」
「ねぇあたしもひとつ聞きたい事があるんだけど？」
アスカが切り出した。
「・・・何？」
「あんた達って何処まで行ってるの？」
「・・・何の事？」
「ア、アスカ、何を言っているんだよ」
シンジは慌てて、レイは何を聞かれたのか解っていない。
「いや、いつも一緒に寝てるから、やってるんだろうとは思っているんだけど、あんた達からそう言う雰囲気感じないからさぁ」
「・・・やってる？」
「ア、アスカァ・・・」
「ひとつになったかって事よ」
「・・・碇君とは良くひとつになるわ」
「そ、そう、やっぱりそうよね、じゃぁおやすみぃ〜」
アスカは顔を真っ赤にして部屋を出て行った。
「綾波ぃ・・・」
「・・・何か悪い事言った？」
「いや、大丈夫・・・」
シンジは脱力感に苛まれた。
「・・・アスカもひとつになりたいのかしら？」
ずれているレイだった。