第拾九話

男の戦い

 

 

今日もカヲルとリエはシンジの家に居る。

 

「あんた、最近よく居るわねえ?本当にドイツに住んでいるの?」

とは、カヲルのお土産のドイツ産ソーセージを摘みながらのアスカの言である。

 

「本当だよ、疑っているのかい?」

「だって、本当にちょくちょく来るじゃない?飛行機代も馬鹿にならないだろうし、時間も掛かるじゃない」

 

「確かにそうだねぇ、シンジ君、そろそろ本当の事を話す時が来たようだねぇ」

「カ、カヲル君、勝手に話しを進めないでよ・・・」

シンジが唐突に切り出したカヲルに慌てる。

 

「これは、悪かったねぇ、でも、僕も早く本当の事を話して、気兼ねなく来たいのさ」

「・・・それは貴方の勝手、碇君を困らせるなら私が相手をするわ」

 

「い、いや、そんなつもりは勿論ないよ・・・レイ君気を静めておくれ」

まだ使徒として覚醒していないカヲルはレイの絶対零度の視線に冷や汗を流す。

 

「レイ様がお怒りなら、私には止める術はございませんわ」

ニコニコしながらリエが言う。

 

「本当の事ってなによ!まだあたしに隠し事してるっての?!」

そこにアスカが割り込んだ。

 

「隠し事ってわけじゃないよ、まだ全部話終ってないだけだよ」

シンジがフォローに入った。

「あの話の系列って事ね・・・いいわ、早く話してっ!」

 

「すっかりそう言う雰囲気になってしまったねぇ」

「・・・貴方のせい」

また余計な事を言ってしまったと、冷や汗を流すカヲルであった。

 

「じゃぁ、今日はカヲル君も居るし、カヲル君について話すね」

「おや、僕についてなのかい?これは少し照れるねぇ」

 

「あんたでも照れるって事があるのね」

アスカが突っ込んだ。

 

「まず、使徒と言うか裏死海文書に書かれている生命体の可能性が18有る事は、この間話したよね?」

「えぇ、それで十八番目が人間なんでしょ?」

 

「カヲル君は人間なんだけど、十七番目の可能性を封印されているんだ」

「な、な、な、何ですってぇ〜〜〜っ!!!」

アスカが今までで一番ではないかと言う大音響で叫んだ。

 

「・・・アスカ煩い」

レイは相変わらず耳を押さえて静かに指摘する。

リエは気絶している。

 

「そ、それじゃぁカヲルは使徒になっちゃうって言う事?」

アスカは恐る恐る聞いた。

 

「そうだね、そして綾波は第弐使徒リリス、僕は第壱使徒アダム、リエは第拾弐使徒レリエルなんだけどね」

「えっ?えっ?えっ?あんた何言ってるのよ!あんた達どう見たって人間じゃない!」

 

「・・・碇君、アスカが困惑しているわ」

「そのようだね、でもカヲル君が本当の事をって言うから」

「・・・碇君を困られせるだけでは飽き足らずアスカまで困惑させたのね」

 

「シ、シンジ君、ぼ、僕を陥れないでくれるかい?」

カヲルは自分の言った事を後悔し始めた。

 

「あ、あんた達なに和んでんのよっ!」

 

「そうだっ!」

ポンッとシンジが手を叩いた。

「・・・どうしたの?」

 

「百聞は一見にしかず、丁度いいから皆に会いに行こう!」

「それは良い考えだね、賛成するよ」

レイは何もいわず、気絶しているリエを起していた。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ、これからどこかに出かけるって言うの?!」

 

「体感すれば、カヲル君が何故頻繁にドイツから来ているのかも理解できるよ。リエお願いできるかな?」

「承知致しました」

リエがそう言うと一同は黒い穴に沈んで行く。

 

「いやぁ〜何よこれぇ〜使徒の時と同じじゃないぃ〜いやぁ〜カヲルゥ〜助けてぇ〜」

アスカは叫び続けてどさくさに紛れてカヲルにしがみついている。

 

 

 

―名もない南の島――――――――――――――――――――――

 

「きゃぁ〜〜〜〜〜〜っ!」

まだ叫びながらカヲルにしがみついているアスカ。

 

「・・・アスカ煩い」

レイはいつもの如く耳を塞ぎ指摘する。

 

「えっ?えっ?ここは何処?私は誰?」

見回すとホテルのロビーの様なところで10人程、耳を塞いで蹲っている。

アスカは顔を赤くして俯いた。

 

「随分、喧しい奴を連れて来たな」

バルディエルが突っ込む。

金髪でスポーツ刈り、青眼のバルディエルはその精悍さと髪と眼の色を覗けばトウジそっくりであった。

 

「ジャ、ジャージ!あんたなんでこんな所に居んのよ!」

「全くけたたましいお嬢さんだな、俺はバルって言うんだ、ジャージなんて名前じゃないぞ」

 

後ろでシンジとレイが笑っている。

 

「まぁまぁ、まずは座ってお茶でも如何ですか?」

サキエルが椅子を勧める。

 

「ここは、僕達の島でね、昼なら海に泳ぎにも行けるし、温泉もあるよ」

「そ、そうなの・・・」

あまりの出来事に思考が着いていかないアスカだった。

 

皆はニコニコしてアスカ達を見ている。

シャムシェルだけは、ニコニコしているとは言い難いが。

椅子に座り、出されたお茶を飲み、漸く落ち着いてアスカは切り出した。

 

「で、どういう事なのか説明してくれるんでしょうね?」

 

「落ち着いたようだから、取り敢ず、自己紹介から始めようか、こちらが惣流アスカラングレーさん、じゃぁサキからでお願いするよ」

シンジはアスカを紹介した。

 

「畏まりました、私がサキエルで御座います。サキとお呼び下さい。今後共宜しくお願い致します」

「シャムシェルだ。シエルと呼んでくれ」

「ラミエルのラミたんだぞぉ〜」

「ガギエルで御座います。お久しゅうございます。エルとお呼び下さい」

「イスラフェルです。ラフェールと呼んで下さい」

「サンダルフォンよ。熱くして悪かったわね。サンって呼んでね」

「マトリエルと申します。リエルとお呼び下さい」

「サハクィエル、クィエルと呼んで」

「イロウルです。ウルとお呼び下さい」

「私はレリエルで御座います。皆様からリエと呼ばれております。もうご存じで御座いますね」

「バルディエルのバルだ宜しくな」

「そして僕がダブリスのカヲルと言う事だね」

「僕がアダムで、碇シンジ」

「・・・リリス、綾波レイ」

 

「わ、私をからかってるの?!あんた達どう見たって人じゃない!」

アスカがまだ現状を把握できないでいえる。

 

「だって今、リエのディラックの海を使ってここに来たじゃない?信じられない?」

「そ、そうね、確かに信じ難い経験だったわ・・・」

 

「今、第三新東京市に来る使徒達は本能でアダムに回帰しようとしてやって来ているだけなんだ。でも皆攻撃するから、当然応戦する」

「じゃぁ使徒達は人類の敵じゃないって言うの?!」

 

「まぁあの状態じゃ人類なんて歯牙にもかけないから、ほっとけば人類がまずい事になるのは確かだけどね」

「使徒は殲滅していなかったのね?」

 

「殲滅と言うより分解かな?」

「分解?」

 

「今まで殲滅して爆発したり、そのまま活動を停止したなんて使徒は居なかっただろ?おかしいと思わない?セカンドインパクトは1体の使徒が引き起こしたと言われているんだよ」

「そう言えばそうね、なんで?」

 

「まず、爆発を起したら周りに被害が起こるから、次ぎに変に身体を残すと後処理で莫大なお金が掛かっちゃうからね」

「お金って・・・」

 

「それでなくてもNERVは莫大な予算を使っていて、そのために弱小国なんか餓死者や自殺者が多量に出てるからね、気が引けたんだよ」

「はぁ・・・あんたって変な所でお人好しねぇ、じゃぁ戦う必要もないんじゃない?」

 

「それが、あの状態じゃ闘争本能の固まりみたいなもので話合いも何もないからね」

「じゃぁカヲルもあんな風になっちゃうの?」

 

「それはないね、綾波とカヲル君は少し他の使徒と呼ばれるヒト達と出生が違うんだ」

「そ、そう・・・これが、前シンジが言ってたサードインパクトはもう起こらないって事なのね」

 

「いや、少し違うんだ。NERVの人達が信じているアダムと使徒が接触したらサードインパクトが起こると言うのは、全くの嘘で、本当はセカンドインパクト級の爆発を起す事ができるだけなんだ」

「それとサードインパクトとどう違うのよ!」

 

「できるだけで起そうとしなければ起きないってことだよ」

「え?」

 

「だって僕はアダムなんだよ、ここの誰と触れてもサードインパクトなんて起きていないだろ?」

そう言ってシンジはレイの肩を抱き寄せ、頭を撫でた。

レイは眼を細めている。

 

「あんたがアダムで他の人が使徒だと言う事を信じるならね」

シンジは苦笑した。

 

「まずアダムはセカンドインパクトで卵まで還元されたのは話したよね?そしてそのアダムを加持さんが弐号機の輸送時に一緒に本部に輸送した。それまで本部に居たのはアダムと似た波動を出すリリスだったんだよ」

「嘘?加持さんが?!」

 

「届け物があるって先に戦闘機で帰っただろ?だけど、その前に僕が魂を抜いておいた。葛城さんが提督とやりあってる時だよ」

「それであんたは居なかったのね」

シンジは軽く頷いた。

 

「そして今、魂の抜け殻のアダムは僕の父さんの右手にある。NERVはその波動かリリス、綾波の波動に導かれて、使徒が第三新東京市にやってくると思っている」

「実際はあんた目掛けてやってきているって事ね」

 

「そう言う事、僕と綾波は殆ど一緒に居るから感じる方も強烈に感じているだろうね」

「はぁ〜なんか馬鹿らしくなってきたわ、NERVはあんた達に踊らされているのね」

 

「そうでもないよ、結構綱渡りでここまで来たんだよ」

「どこが?」

 

「例えば、加持さんが僕をノーマークだったように、今は父さんもノーマークさ。何時でも邪魔になれば殺せる存在だと思っている」

「殺せるって・・・あんたのパパでしょ?」

 

「残念ながらね」

「で、あんたは何がしたいの?」

 

「僕は皆で平和に暮らしたいだけだよ」

「それがあんたが前に言ってた将来設計?」

 

「そうだよ、後3人、家族が揃って平和に暮らす事、それが僕の望みだよ」

「使徒は後3体来るって事ね」

 

「カヲル君を入れると4人だね」

「カヲルもやっぱり攻めて来るの?」

 

「その話は後でしよう、それよりアスカは使徒である僕達と共生できるかい?」

「何言ってんのよ!今までだって一緒にやってきたじゃない!これからだって変わらないわよっ!」

 

(・・・アスカって結構順応力が高かったんだね)

(・・・碇君は前からそれとなく話していたわ)

(・・・それはそうだけど、やっぱりカヲル君の力が大きいみたいだね)

(・・・そうね)

 

「ありがとう、アスカならそう言ってくれると信じていたよ」

カヲルがアスカに微笑んだ。

 

「な、何今更言ってるのよっ!」

アスカは赤くなっている。

 

「これでリエの能力も隠す必要がなくなったし、カヲル君と直接スケジュールを調整して会ってくれて構わないよ」

「な、なんで、直接調整なのよ、今まで通りシンジ経由で構わないわよ!」

「そうなのかい?それは少し哀愁を感じるねぇ・・・寂しいってことさ」

「ば・・馬鹿」

 

皆和やかに微笑んでいる。

 

ラミエルとサンダルフォンが「お姉ちゃん」と言ってアスカに懐いて遊んでいる。

アスカもまんざらでもないようで楽しそうだ。

 

(・・・アスカって保母さんも似合うかも)

(・・・そうね)

 

穏やかな時間が流れて行った。

 

「ねぇシンジ?」

「どうしたの?アスカ」

 

「カヲルって使徒になるの止められないの?」

「それは無理だね、でもそれは大した問題じゃないよ」

 

「大した問題じゃないって?」

「見た目は、今見ている通りだし、アスカが望むなら子供だって作る事はできるし」

「こ、子供って、あんた何言ってるのよっ!!」

 

―バッシーーーン―

 

シンジが叩かれた。

アスカは耳まで真っ赤になっている。

「痛いよ、アスカ」

「あ、あんたが変な事、言うからでしょ!」

 

「・・・碇君、大丈夫?」

「あ、あぁ大丈夫だよ、綾波ぃぃいい・・・」

レイはシンジの打たれた頬に自分の頬をつけた。

 

「・・・冷やしてあげる」

 

「レイ、それって冷やしてるとは言えないと思うわよ」

アスカがジト眼で言う。

 

「・・・そう?でも貴方に言われる筋合いは無いわ」

レイの紅い瞳がアスカを睨む。

 

「そ、そうね悪かったわ、あんたの大事な彼氏を打って」

「・・・解ればいいの」

 

 

 

―発令所――――――――――――――――――――――――――

 

「第拾四使徒を光学で捕らえました。」

メインモニターに使徒が映し出された。

 

ミサトが到着した。

「1撃で第17装甲板まで貫通!!」

日向が驚くべき報告をした。

 

「エヴァの地上迎撃は間に合わないわ、弐号機を本部の防御に回して!」

 

「17枚もの装甲を一瞬にして・・・第伍使徒の加粒子砲並の破壊力ね」

リツコが呟く

 

「弐号機ジオフロントに射出!」

 

「ジオフロント天井部破壊されました!!」

 

ジオフロントの天井が爆発して、そこから使徒が姿を現した。

 

『くっ、ATフィールドは中和しているはずなのに・・』

 

アスカは焦った。

間違い無く着弾している。だが、ダメージは無い。

表面が強過ぎる。

使徒は帯状の触手を伸ばして来た。

弐号機は紙一重で交わしたが、接触したエヴァ専用のバズーカーが寸断された。

 

『・・くっ』

 

弐号機はもう片方の攻撃をバック転で交わした。

強い。間違い無く。

攻撃力、守備力ともに半端ではない。

使徒の口が発光している。

 

『拙い!』

 

使徒はエネルギーを収束させて、弐号機に向けて放った。

 

『きゃああああああ!!!!!!』

 

「アスカ!」

ミサトが叫ぶ。

 

間に合わない!そう思った時、初号機にはじき飛ばされた。

 

凄まじい勢いで使徒の触手が初号機に迫って来た。

 

『危ない!』

 

アスカは叫んだが、2枚のATフィールドが、使徒の触手を阻んだ。

 

『こんな時、タンデムはいいねぇ』

シンジが暢気に守秘回線でアスカに通信を行って来た。

 

『あんた、こんな時、何暢気な事言ってるのよ!』

『遅れてごめんよ』

 

『いいからさっさとやっつけて!』

『了解』

 

『・・・来る』

レイが呟いた。

 

シンジは、迫って来た使徒の触手を掴み自分に引き寄せると同時に使徒のコアに貫手を入れた。

しかし、使徒はコアの前が瞼のように閉じ初号機の手套を遮った。

 

『甘いよ』

 

初号機はそのまま強引にコアに貫手を突き入れた。

 

霧散していく使徒。

 

「パターン青消滅、使徒消滅しました」

シゲルが報告する。

 

 

 

―ジオフロント―――――――――――――――――――――――

 

スイカ畑に加持とシンジと少し離れたところにレイが居る。

 

「アルバイトがばれましたか?加持さん」

「あぁそうだ、だから俺の居る場所がなくなった、以来ここで水を蒔いている」

 

「加持さんは、使徒が全て倒された後、どうなると思っていますか?」

「平和が来るんじゃないのかい?」

加持は惚けた。

 

「ゼーレが預言書に沿って行動を起している以上、それはあり得ませんね」

「確かにな、それでどうなるんだい?」

 

「A−801が発令されるとどうなりますか?」

「そんなコードよく知っているな、そうだなNERVは投降するか、交戦するかだな」

 

「父さんならどうすると思いますか?」

「交戦か・・・それで俺にどうしろと?」

 

「死なないでください」

「またそれか、どういう事なんだい?」

(なぜシンジ君はこれほど俺が死ぬことを心配するんだ?)

 

「使徒が全て殲滅された後、葛城さんを守れるのは加持さんだけだと思うんです」

「俺一人じゃ何もできんよ」

(葛城?これも変だ、葛城とは衝突してばかりだと聞いているのに・・・)

 

「今からなら、お得意の工作ができるんじゃないですか?」

「何故、俺なんだい?司令を説得した方が確実なんじゃないかい?」

 

「父さんはNERVなんて眼中にありません、それどころか全人類さえも」

「・・・・・」

(父親は全く信用していないか・・・)

 

「貴方にしかできない、貴方なら出来る事があるはずです、自分で考え自分で決めてください。自分が今何をすべきか、後悔のないように」

「おいおい、今度は説教かい?」

 

「僕が、昔、兄のように信頼していた人の、姉のように慕っていた人の思い人だった人の言葉ですよ」

「その人はどうしたんだい?」

 

「真実を求めて死にました。8年前に言えなかった言葉を結局言えずに・・・」

「そうかい、真摯に受け取っておくよ」

(また8年前に言えなかったことか・・・たまたまなのか?)

 

「そうして下さい、その姉のように慕っていた人は、その人の意志を継ぎ、結局僕を庇って死んでしまったんです」

「シンジ君・・・君はいったい何がしたいんだい?」

(昔の知人とだぶってなんとかしたいと言うとこか・・・それにしても・・・)

 

「僕は、家族皆で平和に暮らしたいだけです。そしてその家族の中にアスカも含まれます。加持さんが死ぬとアスカと葛城さんが泣くんです」

「なんでそこで葛城が出てくるんだ?君は葛城とはそんなに仲が良かったとは思えないのだがな」

 

「僕は葛城さんが嫌いなわけではありません。ただ復讐に取憑かれた彼女は、使徒戦において正常な判断ができず、僕はそれが看過できなかっただけです」

「正常な判断ができないとは?」

(随分、葛城の事が解っているんだな・・・)

 

「使徒を、エヴァを使って自分の指揮で倒す事に固執しすぎるあまり、出さなくても良い被害や、買わなくても良い反感を他組織から買っています」

「確かにな・・・」

 

 

 

―コンフォート17―――――――――――――――――――――

 

シンジとレイが家に帰ると、何故かアスカが居た。

奥にはカヲルとリエだ。

 

「やぁお邪魔しているよ、シンジ君」

「いや、それは全然構わないんだけど、大丈夫なの?カヲル君」

 

「僕は結構、自由でね、あまり拘束されて居ないんだよ」

「でも監視はあるでしょ?」

 

「それも結構、薄くてね、あんな所からそんな簡単に出て行かないと思っているようだね」

「それもそうか」

 

「シンジィ〜お腹空いたぁ〜」

アスカが欠食児童になっている。

 

「はいはい、じゃぁなんか作るね」

 

「あたしパスタがいい♪」

アスカ専用レストランの様だ。

 

「他に注文はない?」

「僕はなんでもいいけど軽くすませたいねぇ」

「私は特に、なんでも構いません」

「・・・碇君が作るのならなんでもいいわ」

 

「はいはい、じゃぁドイツにはないであろうタラコパスタでいいかな?」

「あたし好きぃ〜♪」

アスカはやはりハイテンションだ。

 

「それは興味深いね、ところでタラコとは何だい?」

 

「あんた馬鹿ぁ?そんな事も知らないで興味深いとか言ったの?信じらんなぁい」

アスカはいつもの調子だ。

 

「はは、あまり欧米では食べないからね、助惣鱈の子供なんだよ、キャビアの鱈ヴァージョンって思えばいいかな」

「成る程、それは高価そうだね」

 

「昔は安かったらしいんだけど、今は海産物は皆高いからね。でもキャビア程じゃないよ」

「・・・手伝うわ」

「私もお手伝いさせて頂きます」

 

シンジが盛り付けを行おうとしているとレイとリエが手伝いに来た。

 

「じゃぁ、ついでにサラダと、コンソメスープでも作ろうか」

 

全く、何でも作れるシンジだった。

 

「これは、また美味しいねぇ」

カヲルが眼を丸くして言っている。

 

「・・・碇君の作る食事は何でも美味しい」

「あんた、本当にそればっかりね」

 

「・・・事実よ、認めなさい」

「何時からミサトになったのさっ!」

 

「・・・知らないわ、多分、私は3人目だから」

「3人目のあんたにしか会ってないわよ!」

 

「・・・どうしてそう言う事言うの?」

「あんたが訳解んない事ばっか言うからでしょ!」

 

「なかなかレイ君もダークな冗談を言うようになったねぇ」

カヲルが冷や汗を流している。

 

「・・・問題ないわ」

 

「ところで3人目って何よ」

アスカが唐突に切り出した。

 

「綾波は、僕の母さんの遺伝子とリリスの魂から作られた人間だったんだよ。それでクローンが居たんだけど、身体が滅んでも次ぎの身体へ魂が移ったんだ」

「な、何よそれ!」

 

「父さんが、リリスを自分の命令通り動かそうとして作ったんだよ。だから僕が来るまで何も与えられず育てられていた。実験動物のようにね」

「あんたのパパって・・・」

 

「粗悪な新興宗教みたいに、劣悪な環境に置いて、自分だけが優しくする事によって盲信させる。そんな事をしていたみたいだよ」

「・・・碇君が私に心を教えてくれたわ」

 

「はぁ・・・もう驚く事はないと思っていたのにまだ有ったのね」

アスカも呆れている。

「もう、綾波のクローンはないけどね」

 

「カヲルも似た様な育ち方をしたって言ってたけど、そうだったの?」

「僕の場合は、育ててくれた人は、優しい人だったからもう少し環境は良かったみたいだね。ただ、実験動物のようだったと言うのは変わらないねぇ」

 

「そう、あんたも酷い目に遭ってたのね」

「アスカも自覚してないけど、似たような物だよ」

シンジは爆弾発言をした。

 

「あ、あたしの何処が似てるって言うのよ!」

「6歳の時から毎日毎日、実験に付き合わされて、飛び級に次ぐ飛び級で知識を植え付けられて、本来、同年代がやるような事は殆どやってなかったんじゃない?」

 

「そ、そうね・・・そう言われればそうだったわ」

 

「今も、結構制約はあるけど、僕は幸せだよ。これもシンジ君のおかげだね」

「カヲル君・・・」

 

「・・・碇君の側に居れば幸せだわ」

「あんたは、またシンジ至上主義なんだから」

 

「私もシンジ様のお側に居られるのは幸せで御座いますわ」

普段あまり口を出さないレリエルの発言に場が凍りついた。

 

「あら?何か失礼な事、申し上げてしまいましたでしょうか?」

「い、いや、光栄の至りだよ」

シンジは冷や汗を流した。

 

シンジ宅の夜は更けて行く。