第拾八話

命の選択を

 

 

エヴァ参号機を吊り下げた巨大な全翼機は低空飛行を強いられていた。

 

「エクタ64よりネオパン400へ」

「ネオパン400了解」

「前方に積乱雲を確認した。指示を請う」

「ネオパン400より、積乱雲の気圧状態は問題なし。航路変更せずに到着時間を遵守せよ」

「エクタ64了解」

 

全翼機は雷鳴の轟く積乱雲の中に吸い込まれるように入っていった。

 

 

 

―コンフォート17―――――――――――――――――――――

 

「じゃあ、松代まで行ってくるから」

ミサトは靴をはいた。

 

「行ってらっしゃぁい、おみやげよろしくねぇ」

アスカは脳天気に送り出した。

 

ミサトが出ようとした時チャイムが鳴り、ドアが開きケンスケが現れた。

 

「おはよう御座います!」

「本日は、葛城3佐に御願いに上がりました!」

「自分を!自分をエヴァンゲリオン参号機のパイロットにしてください!」

ケンスケは開口一番にその様な言葉を発し頭を直角に下げた。

 

「へ・・・・」

「クエ・・・」

ミサト、ペンペンは突然の事に呆気に取られた。

 

「あんた馬鹿ぁ?あんたなんかに成れる訳ないでしょ!」

ケンスケはアスカに突き飛ばされた。

 

それを学校に行くために外に出ていたシンジが受け止めた?

「どうしたの?」

 

「な、なんでもないよ!」

ケンスケは泣きながら走って行った。

 

「どうしたの?」

シンジはアスカに聞き直した。

 

「あんの馬鹿、エヴァのパイロットにしてくれって直談判に来たのよっ!」

「そ、そう・・・」

冷や汗を流すシンジだった。

 

「じゃぁ行って来るわね、留守中は加持が来てくれるから」

ミサトが出て行った。

 

「加持さんがっ♪」

アスカは喜んでいる。

 

「僕らも学校に行こう」

「・・・そうね」

 

「ちょっと待って、あたしも一緒に行くわ」

アスカが急いで鞄を取りに行った。

 

 

 

その夜、保護者であるミサトが松代にある第2実験場に暫く出張することになったため加持が泊まりに来ていた。

 

当然、食事はシンジの家である。

 

「おお!これは美味いなぁレイちゃんは良いお嫁さんになれそうだな?」

「・・・作ったのは碇君」

 

「そ、そうなのか、シンジ君、一流コックになれるよ」

冷や汗を流しながらフォローする加持。

 

「綾波も手伝ってくれたじゃない、でも、お口に合ってよかったです」

シンジはニッコリ微笑んだ。

 

「加持さぁん、あたしはぁ?」

アスカが膨れる。

「いや、アスカの手料理なんて食べた事ないし・・・」

「ミサトよりましだと思うけど?」

「た、確かに葛城の料理を超える人間は少ないな・・・アハハ」

それでもミサトの料理を食べられる数少ない人間の加持だった。

 

「それより葛城さんが夜居ない事なんて結構あるのに、なんで今回に限って加持さんが泊まる事になったんですか?」

「いや、今回は結構長いからな、葛城も心配になったんだろ」

 

「加持さん?」

「ん?何だい?」

 

「僕達に何か聞きたい事があったんじゃないですか?」

「何故、そう思うんだい?」

 

「僕は、貴方が信用できないんです。何時も人を探るような眼と物言い。そのくせ親しげに近づいてくる」

 

「シンジ?」

アスカがシンジのいつもと違う雰囲気に気がついた。

 

「はは、そいつは悪かった、どうも諜報部なんかに所属していると癖が抜けなくてね」

加持はポリポリと頭を掻いた。

 

「そんなもんですか?貴方程の人がそんな事はないと思いますけど」

「それはどういう意味だい?」

 

「そんな癖を中学生に見抜かれているようじゃスパイとしてまずいんじゃないかと言う事です」

そう言いながらシンジは盗聴器を加持の前に差し出した。

それは加持がここに入ってから仕掛けた物だった。

 

「これは・・・」

アスカが呟いた。

 

「この家の盗聴器の類は、全て壊してあります。これは加持さん貴方が仕掛けましたね?」

「どうしてそう思うんだい?」

加持はまだ白を切り通そうとした。

 

「思うじゃなく解っているんです。貴方がこの家に入るまでは無かった物だ。こう言う事をするなら、今後ここには立ち入らないで下さい」

「解った、降参だ、今日は退散するよ。アスカ先に葛城の部屋に帰って風呂に入っているわ」

そう言って加持は部屋を出て行った。

 

「シンジィ〜あたしはどうすればいいの?」

「今まで通りでいいんじゃない?僕は僕の領域を侵されるのを防いだだけだから。加持さんは仕事として仕方のない事だと思うし」

 

「仕事としてって?」

「チルドレンの監視だよ、元々ここの盗聴器の類はいくら仕掛けても僕が壊すから経費が馬鹿にならないし綾波もいるから諦めているってとこがあるんだよ」

 

「じゃぁミサトの部屋にもあるっての?」

「葛城さんの場合はそれに要人の護衛ってのも理由としてはついてるけどね」

 

「ミサト一人でも仕掛けられるって事ね」

「そう言う事、でも葛城さんも自分の部屋は壊してるよ」

シンジは苦笑した。

 

「それより、アスカ、明後日ぐらいにカヲル君が来るよ」

「えっ本当?」

 

「来たら連絡するから、空けておいてね」

「解ったわ、ぜぇったい連絡しなさいよ!じゃぁあたしは帰って加持さんを慰めておくわ」

 

「よろしく、くれぐれも例の事は口を滑らせないでね」

「加持さんは良い人よ」

 

「アスカにはね、でも、あの人は3重スパイなんだよ」

「えっ?どういう事」

 

「ゼーレと内務省とNERV、あの人は自分の興味のある真実を求めるために他の物全てを犠牲にしている」

「う、嘘・・・」

 

「元々は葛城さんのためにセカンドインパクトの真実を求めだしたみたいだけどね、そしたら更なる謎にぶつかって・・・って事さ」

「じゃ、じゃぁシンジが教えてあげれば・・・」

 

「それは危険過ぎるんだよ、どの組織も加持さんの状態を黙認して使ってる。つまり僕が喋るとその3組織に僕の事が知れ渡ってしまうリスクがあるんだ。当然アスカが喋ってもね」

「・・・・・」

アスカは黙ってしまった。

 

「解ったよ、アスカ、加持さんを呼んで来て、全部は話せないけど、一部を話してなんとかスパイを止める方向に持って行って貰うよ」

シンジは両手を上げて降参のポーズで言った。

 

「本当?!呼んでくる!」

アスカは駆けて行った。

 

「・・・いいの?」

「まぁ加持さんが死んだらアスカも葛城さんも泣くしね、取り敢ず餌を与えて様子を見るよ」

「・・・でも最後には・・・」

「それは、彼らの取る責任だよ、そこまでは面倒見ないし、僕はそこまで傲慢にはなれないよ」

「・・・そうね」

 

「加持さんを連れて来たわよ〜」

「ふぅ」

っとシンジは溜息をついた。

 

「シンジ君、話ってなんだい?」

「すこし長くなります。そして今から話す話を自分で確認するのは止めてください」

「どうしてだい?」

「いえ、僕が最初にそう念を押した事を覚えておいて下さい、理由は話しを聞けば解ります」

「そうかい、では話してくれ」

「その前に、そのレコーダと盗聴器を」

「はは、本当に全部ばれているんだな」

そう言って加持は自分のレコーダと盗聴器をシンジに渡した。

 

「まず、加持さんはシンクロの原理を知っていますか?」

「いや、A−10神経を介して行うぐらいしか知らない」

「何にシンクロするかは?」

「ごまかしは効かないようだな、コアにインストールされた近親者と思ってる」

「ありがとうございます。では初号機のコアにインストールされている近親者もご存じですね?」

「残念ながら確証は得られていないんだ」

「そうですか、では、ここからは他言無用と言うことでよろしいですね」

「解った」

加持は駆け引きをしていた。

実は初号機の中に居るのは碇ユイであることはほぼ掴んでいた。

しかし、自分のカードを全部だしてしまうと相手の言っている事が本当かどうかの見極めが困難になるので、ある程度カードを残したのだ。

 

シンジもそれは解っていたが、これはシンジの作戦だったため、言葉のやりとり上、それに乗った。

シンジは最初にシンクロの話をする事により、何故これから話す事をシンジが知っているかと言う事を加持自信が勝手に解釈するように誘導しているのだ。

「まず、初号機のコアには僕の母さん、碇ユイがインストールされています」

「・・・・・」

シンジがあっさりカードを切ってきた事に少し驚いた。

つまり、これは全くカードの意味をなさなく、話の本筋はもっと深いところにあると言う事だからだ。

 

「そして僕はその初号機に高シンクロ率でシンクロする事ができると言う事が前提です」

「そんな機密事項が前提なのかい」

 

「まず初号機は使徒のコピーである事はご存じですよね?」

「ああ」

 

「そして、襲来する使徒と対抗するためアダムとリリスからコピーされた」

「ちょっと待ってくれリリスとは何だい?」

 

「南極にある白き月、そこに居た第一使徒アダム、日本にある黒き月そこに居た第二使徒リリス、そしてアダムはセカンドインパクトと呼ばれるエネルギーの放出により卵まで還元された」

「・・・・・」

 

「当時スーパーソレノイド機関を提唱していた葛城博士、そこに情報を与え南極に向かわせたゼーレ、実験の前日に引き上げた六分儀ゲンドウ、そして実験により引き起こされたセカンドインパクト」

「ちょちょっと待ってくれ、何故ゼーレを知っている、いやそれより、セカンドインパクトは人為的に起されたと言うのか?」

 

加持の質問には答えずシンジは続ける。

「裏死海文書の解析を行った碇ユイは使徒の襲来を懸念しエヴァの製造に着手、ゼーレはそれに賛同、しかし人類補完計画を企てた」

 

「人類補完委員会を隠れ蓑にしたゼーレの補完計画は自分達が神になること、しかしそれは神ではなく統率者の域を出ない、即ち妄想だが、実現しようとしているのはサードインパクト」

 

「使徒とは単体で完成された生命の実を持つ生命体、人は十八番目の可能性、知恵の実を持つ生命体。生命の実それがスーパーソレノイド機関、所謂S2機関」

 

「ちょっとぉ人間も使徒だと言うの?」

アスカが叫んだ。

 

「人間の定義する使徒から人間は外れている、でも、裏死海文書に記載されている可能性としては十八番目まで有り、その十八番目はリリンと呼ばれる人間達」

 

「シンジ君、先程から出てくる裏死海文書とは何なんだい?」

「古文書です。しかし、ゼーレにとっては預言書であり聖書です」

 

「碇司令もそれに加担しているのかい?」

加持はかなり有益な情報を得られたと思い、もう一つの気になっている事についても情報が得られる可能性が高いと踏んで質問した。

 

「父さんは、加担していると言うよりそれを利用して、母さんを取り戻そうとしているだけです」

「それはどういう事だい?」

 

「初号機に取り込まれてしまった碇ユイ。しかしサルベージは失敗。取り戻すためには人類補完計画に乗ってその時の現象に乗り母さんに会おうとしているんでしょう」

「それだけのために・・・」

 

「人類の進化が行き詰まっていると考えている事も根底にありますから」

「補完計画自体は反対ではないと言う事か・・・」

 

「老人達のそれとは違う結果になると思っているようですけどね」

「よく解らないのだが?」

 

「老人達は妄想で神になれると思っている。父さんは科学者の立場から原初の海に返るだけだと思っている」

「成る程、知識の違いによる見解の相違か・・・」

 

「どちらにも、それぞれの真実ですよ」

(それが真実は人の数だけあると言った意味か・・・)

 

「何故俺にそんな話しを?」

「加持さんが死ぬと泣く人が居るんです」

加持はスイカ畑での話を思い出した。

(あれは俺の事を言っていたのか・・・迂闊だった、もしかしたら彼は至る所でヒントを置いて行っているのかもしれないな)

 

「何故、俺が死ぬと?」

「3つもスパイを続けていれば、そのうち死ぬでしょ?」

 

「言っている意味がよく解らないが、真摯に受け止めておくよ」

加持は判断に困っていた。

全くノーマークだったシンジがこれほど真実に近いとは思っていなかったのだ。

 

「それで俺はどうすればいい?」

「自分の身を守ってください」

 

「へ?」

加持はこれだけの情報を与えられたのだから、何か要求されると思っていたので素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「最初に言った通り、この話の裏を取りに行くと確実に命を落とすでしょう」

「確かに君の言う通りだったらそうだな、だが俺も話しを聞くだけで、はいそうですかと信用出来るほど人間が出来ていないんだよ」

 

「僕は忠告しましたから、それとできればこの話は他言無用でお願いしたいと思います」

「それは、解ってるつもりだ」

 

「今日はここまでと言う事でいいですか?」

「まだ続きがあるのかい?」

加持は驚いた、全てカードを切ったとは思えないが続きがあるとも思っていなかったのである。

 

「明日は僕達も松代へ行かなければならないので、今日はそろそろ寝たいと思いますので」

シンジは苦笑した。

 

「そう言う事か、悪かった、じゃぁ次回を期待しているよ」

そう言って加持は帰って行った。

 

「これで加持さん3重スパイ止めてくれるかな?」

アスカが心配そうに尋ねる。

「どうだろうね、ただ興味の対象は移ったと思うよ」

「え?どういう事?」

 

「・・・碇君が対象になったわ」

「なんで?」

「多分、加持さんは今まで僕の事はノーマークだっと思うんだ、でも加持さんの知りたい真実に一番近かった。そしてまだ先があることも臭わせた」

 

「それで?」

「他のとこから得られる情報より僕からの情報の方が有益だと感じたら、他は己ずと疎遠になるかなって思って」

 

「そっか、ありがとねシンジ」

「いや、まだ安心はできないよ」

「うん解ってる、じゃぁあたしも帰って寝るわ。おやすみ」

「おやすみ」

「・・・おやすみなさい」

 

アスカが帰って行った。

 

「・・・本当によかったの?」

「まぁ僕は綾波と皆が居ればいいから」

そう言ってシンジはレイを抱き絞めた。

 

「・・・碇君・・・ずるい」

「どうして?」

「・・・抱き絞められたら何も言えない」

「ごめん、でも抱き絞めたかったんだ」

「・・・いい、もう少しこのままで」

 

 

 

―長野県松代市―――――――――――――――――――――――

 

長野県松代市にあるネルフの第2実験場。

そこに空輸された初号機とそれに乗ったシンジとレイが到着しようとしていた。

 

『赤木博士』

シンジから通信が入った。

 

「何?」

『そちらに付いたら食事をしたいので、そちらの皆さんも休憩しておいて貰えますか?』

「解ったわ、これから1時間休憩とします。皆も食事に行って頂戴」

 

「アンビリカブルケーブルの位置はここよ」

リツコは地図と初号機に送った。

『了解』

 

「誰も残らなくていいの?」

ミサトが不審がった。

「大丈夫でしょ、ここで何かしても知れてるわ、私たちも食事に行きましょ」

「そう・・・」

釈然としないミサトだったが腹が減っては戦はできぬと食事に出かけた。

 

ミサト達が地下の食堂で食事をしていると大きな音と共に大きな揺れが来た。

「何が起こったの?」

ミサトとリツコは、急いで外に出た。

 

そこには、参号機の首を掴んでいる初号機と爆発で吹き飛んだ実験場があった。

参号機のエントリープラグの位置から霧散していく物が見える。

 

「使徒が侵食していたと言うの?」

ミサトが呟いた。

「乗っ取っていたのね」

リツコも呟いた。

 

初号機から降りてきた二人にミサトは尋ねた。

「何があったの?」

「初号機をアンビリカブルケーブルに繋いで参号機の近くに行ったら、参号機の眼が光ったように見えて、咄嗟にATフィールドを張ったんです。そしたら爆発が起こって参号機が攻撃してきたので、首を絞めたら、首の後ろから霧散していく使徒が・・・」

シンジが答えた。

 

「そ、そう、どんな使徒だったの?」

ミサトは狐に抓まれた気になったが取り敢ず尋ねた。

 

「・・・粘菌状の白い物がエントリープラグの後ろに張り付いていました」

レイが答えてた。

「ありがとう、僕は夢中でそこまで見てなかったよ」

 

(これがダミープラグでいいと言った理由なのね・・・)

リツコはレイに対し、単なるリリスだからと言う事では、説明できない何かがあると感じていた。

 

「そう、来て早々悪いけど実験は中止だわ、実験場も壊れちゃったし、使徒が侵食してたと解ったら調査しないと使えないしね」

リツコは素早く判断し、実験の中止を決定した。

 

 

 

―発令所――――――――――――――――――――――――――

 

「松代にて爆発事故発生」

シゲルが叫ぶ。

 

「被害、状況一切不明です」

マコトが続ける

 

冬月は的確な指示を飛ばす。

「救助および支援部隊を送れ。戦自が介入する前に処理しろ」

 

さらにオペレーターからの状況報告が続いた。

「爆発現場付近にて未確認移動物体発見」

「何?」

 

「パターン青、使徒です」

 

ゲンドウは取り敢ず責務を全うした。

「第1種戦闘配置!」

「地対地戦用意」

 

「パターン青、消滅」

シゲルが報告した。

「何?」

 

「松代から連絡です、回線繋ぎます」

マコトが報告する。

 

『葛城です。松代の実験場で大規模な爆発と共に使徒が発現しました』

「発現とは、どういうことかね?」

冬月が疑問を問う。

 

『使徒は参号機に侵食していた模様です』

「爆発による被害は?」

 

『負傷者、死亡者は共に0、実験場は跡形もありません』

「どういう事かね?」

 

『丁度、初号機が到着する時で、実験に備え全員地下の食堂で食事を取っていたためです』

「使徒はどうなったのかね?」

 

『初号機が殲滅しました』

「参号機は、どうなったのかね?」

『殆ど無傷ですが、実験続行は不可能です』

 

「参号機は凍結、すぐ戻る準備、支援部隊を出した。準備完了次第戻って来るように」

ゲンドウが指示を出す。

 

『はい、了解しました』

 

「碇、これはどういうことだ?」

「・・・問題ない、レイがやったのだろう」

(レイに拘りすぎだな・・・)

「どうも我々のシナリオと違う様な気がするのは俺だけか?」

「・・・気のせいだ」

「だと良いのだがな」

 

 

 

―コンフォート17―――――――――――――――――――――

 

その夜、シンジの家は宴会だった。

何故かメイド服(ミニスカート)で銀髪のセミロング、薄いブルーの眼をした少女とカヲルが来ていたためだ。

 

「カヲル〜♪」

カヲルを見た瞬間アスカは包容し、カヲルはアスカの頬に軽いキスで挨拶した。

「おひさしぶりだね」

 

お互いドイツに居たと言う事で欧米式の挨拶をしただけだが、それを見たレイはシンジにしつこく聞いていた。

「・・・あれは、恋人同士の挨拶ではないの?」

「いや、欧米では普通の知人の挨拶だよ」

「・・・そう、日本では違うの?」

「そうだね、日本人には馴染みが薄いね、恋人同士でも日本じゃあそこまでやる人は少ないよ」

「・・・私も欧米に住む」

「でも、例えばここが欧米だとしたら、父さんや副司令ともああいう挨拶になるよ」

「・・・それは嫌」

 

「これは誰よ?!」

アスカがカヲルの横に居る少女に攻撃的な眼を向けながら聞いた。

 

「私は、カヲル様のお付きのリエと申します。以後お見知りおきを」

「お付きって、あんた本当、お金持ちなのね」

 

「そうでもないよ、リエは護衛も兼ねてるけどね」

「へーあんた強いの?」

 

「シンジ様やレイ様には遠く及びませんが、そこそこには」

 

なんだかアスカの眼が怪しい。

 

「アスカ、試そうなんて考えないでよ」

シンジが危険を感じ釘を刺した。

 

「なんでよ!」

「家を壊されたくないからさ」

「そんな事、するわけないでしょ!」

「リエは謙遜してあんな事言ってるけど、本気でリエが暴れたら、この階は一部屋になっちゃうよ」

「嘘!」

実は階どころではなくマンション自体無くなってしまうが、そこまで言えば大袈裟すぎて信じないだろうと控えめにシンジは言った。

 

リエはニコニコしているだけだった。

 

そして今に至る。

はっきり言ってアスカは舞い上がっている。

数々の攻撃(口でだが)を仕掛けたが、リエはカヲルには恋愛感情は持ってないと確信したのだ。

 

そして、アスカにしてみれば、カヲルは今回泊まって行くと言う事になる。

実際は、前々から準備していたので今の時間に居られる事がカヲルに取っては珍しい事なのだが。

 

場は殆ど、カヲルとアスカ、その他3人と言う形で話しが行われている。

 

そして夕食も終った後、アスカは一度、シャワーを浴びに戻った。

こちらも、二人ずつお風呂に入ろうとしたが、レイがシンジとカヲルが入る事に反対したため、シンジ、レイが先に入り、カヲルがその後に入った。

リエはシンジ、レイと一緒に入ると言ったが、流石に3人はきついと言う事で最後になった。

 

アスカはシャワーを浴びたと言うのにしっかりおめかしをして、パジャマ姿で枕を持って来た。

 

夜も更けて何処で寝るかと言う事が問題になった。

 

カヲルとシンジが居間で寝てレイとリエがシンジの部屋、アスカが和室とカヲルが提案したところ、一人で寝るなら泊まりに来ている意味がないとアスカが却下した。

 

それでは、アスカとレイとリエが和室で寝てシンジとカヲルがシンジの部屋とシンジが提案するとレイが強固に反対した。

「・・・それは駄目」

 

「これは困ったねぇ」

さしものカヲルも頭を抱えた。

 

「いいよ、皆で雑魚寝しよう、カヲル君、僕、綾波、アスカ、リエの順で並べば問題ないだろ?」

取り敢ず、この辺りが妥協案とアスカは納得した。

 

しかし、カヲルは時差のため眠くなかった為ベランダに出て、風に当たっていた。

「うーん、シンジ君のおかげで僕達は幸せだねぇ〜そうは思わないかい?惣流アスカラングレーさん?」

「気がついてたいたの?」

アスカが後ろから忍び寄っていた。

 

「君は良い匂いがするからねぇ」

「な、何言ってるのよ、この変態!」

アスカは持ってきたジュースの缶でカヲルの頭を小突いた。

 

「ねぇ一つ聞いていい?」

「なんだい?」

「シンジがね、よくあたしに、『僕と綾波とカヲル君はアスカの味方だから、アスカが望む限り独りぼっちにしない』って言うのよ」

アスカは少し赤くなっている。

「それで?」

カヲルは優しく先を促す。

 

「シンジとレイは、ずっと一緒にエヴァのパイロットをやってるから解らないでもないんだけど、なんであんたが必ず入ってるのかなって」

「それは僕が君を一目見て気に入ったからだよ」

 

「何それ、一目惚れって言いたいの?」

アスカは基本的に一目惚れを信じていなかった。

 

「惚れるって言う感情がまだ僕には理解できないけど、君の心はとても繊細で好意に値すると感じたのは事実だね」

「好意って・・・」

「好きって事さ」

 

アスカは顔から火が出るくらい赤くなった。

「あ、あんた恥ずかし気もなく平気でよくそんな事、口にできるわね」

 

「そうだね、恥ずかしいって気持ちも僕にはまだよく理解できていないからね」

「あんたってなんかレイに似ているわね」

 

「そうだね、僕と彼女はかなり育った環境が近いようだね」

「そうなんだ・・・」

 

「カヲル・・・」

「なんだい?」

「あ、あたしもあんたは好意に値するわ」

「ありがとう、嬉しいよ」

カヲルはニッコリ微笑んだ。

アスカは眼を瞑り、顔を上向けた。

(こ、これが「逃げちゃ駄目だ」と言う気持ちなんだねシンジ君・・・)

重なる唇、それは本当に重なるだけの淡い口吻だった。

 

そして部屋に戻った二人は、唖然とする事になる。

シンジを鋏んでレイとリエがシンジの腕を抱きピッタリとくっついて寝ているのだ。

 

「はは、これはシンジ君、目覚めたらパニックかもしれないねぇ」

「カ、カヲル・・・あたしもあんな風に寝かせてくれるかな?」

目の前の光景に当てられアスカはかなり大胆になっている。

 

「勿論、構わないよ、僕でいいのかい?」

「バカ」

 

そして5人は昼前まで寝ていて、軽いブランチの後、カヲルとリエは帰る事となった。

「今度は、もっと長く居なさいよ!」

「努力させて貰うよ」

 

アスカは送って行くと言ったのだが、下に向かえが来ているからと扉の前で別れた。

カヲルとリエはエレベータの中で黒い穴に消えて行った。