第拾六話

死に至る病、そして…

 

 

「アスカァ、なんか暗くないぃ?シンちゃん達となんかあったぁ?」

「無いわよ、何もね・・・」

 

アスカはそう言うものの、ミサトからしてみれば、やはり元気が無い様に見える。

 

「さては、シンちゃんに惚れちゃったかなぁ?」

ミサトがニヤニヤしている。

 

「ばっかじゃないの?加持さんとよりが戻ったからって、他人にまで幸せを押し付けないでよね」

「加持なんかとは何でも無いわよ」

 

その時、間が悪く電話が鳴り

『よう、葛城。酒の美味い店見付けたんだ、今晩どう?じゃ・・・』

 

ガチャっと言う音と共に電話が切れた。

 

(あっちゃー・・・)

 

気まずい雰囲気が二人の間に流れる。

 

「どうせ私は、不潔な大人の付き合いなんてしたこと無いわよ!」

 

アスカは席を立って自分の部屋に入ると勢いよく扉を閉めた。

 

ミサトは溜息をついた。

 

 

 

―実験室――――――――――――――――――――――――――

「ミサトさん、何だか疲れていません?」

日向が心配そうに聞く

 

「いろいろとね。プライベートで」

軽くかわすミサト

 

それに追い打ちをかけるリツコ

「加持くん?」

 

「うっさいわねー!」

せっかく受け流したのが水の泡である。

 

「どお?セカンドチルドレンの様子は」

話題を変えようとするミサト

 

マヤが素直に応じる。

「見てくださいよ、この数値!」

 

コントロールルームの全員がディスプレイに見入った。

「ほおっ!」

「これはすごい」

 

アスカのシンクロ率は99.89%を示していた。

 

「シンジ君が一人で初号機に乗った時と同じね」

(これで機嫌が治ればいいんだけど・・・)

ミサトが呟いた。

 

「アスカァ調子いいわよぉん」

ミサトが脳天気にアスカに言う。

 

しかし、アスカは余り嬉しそうな表情ではなかった。

 

「理想的な数値だわ」

リツコが溜息をついた。

(これは一体どういうことからしら?)

 

「アスカ?何かいつもと違う事はある?」

リツコがマイクでアスカに尋ねた。

 

「特にないわよ。強いて言えば感覚が鮮明に感じるってとこかしら」

「それはきっと高シンクロ率のせいね、他になにかない?」

「ないわよ」

 

「じゃぁ何か心境の変化とかは?」

「べっつにぃ〜いつもと変わんないわ」

「そう、でもこの急激なシンクロ率の上昇は何かあるはずなのよ!」

リツコは説明のつかないシンクロ率の上昇に苛立ってきた。

 

「そんなのアタシがわかるわけ、ないじゃん!」

アスカは逆ギレして追求をかわした。

 

「そ、そうね、ごめんなさい」

そう、解らないから実験を繰り返しているのだ。

パイロット達にシンクロの秘密を話してない以上、パイロット達に詳しい情報を求めるのも無理な話なのだ。

 

シンクロテストを終えて着替えを済ませた3人は、ネルフの通路を出口に向かって歩きだした。

 

アスカはキッと口を引き締め無言で歩いている。

いつもは、かなり賑やかなアスカにしては珍しい事だ。

 

シンジとレイは元々それ程喋らないのだが、今日のアスカの雰囲気を察し、話しかけず3人は黙々と家路を歩いていた。

 

 

 

―コンフォート17―――――――――――――――――――――

家の前についたアスカは

「着替えたら行くわ」

と一言、言って家に入って行った。

 

シンジとレイは家に入り、いつも通り食事の用意とお風呂の用意をしていた。

ネルフでシャワーを浴びているのだから特に風呂は必要ないのだが、二人で湯船に浸かるのがレイが好きなので、いつもお風呂は沸かすのだ。

 

食事の準備をしているところで玄関のチャイムが鳴った。

「・・・いらっしゃい」

レイがアスカを迎え入れる。

 

アスカは真剣な顔で言った。

「シンジ!あんたの言った事、信用するわ、今日は続きを聞かせて!」

 

「解ったよアスカ、でもまず腹ごしらえしよう」

そう言ってシンジは3人分の料理をテーブルに並べて行った。

いつもはアスカが何か喋ってそれに応えている食事風景なのだが、今日はアスカが喋らないため黙々と3人は食事を取った。

 

後片付けを終え、食後のお茶を入れ一息ついた処でシンジが切り出した。

「じゃぁ続きだね?」

「えぇ」

アスカは静かに答えた。

 

「まず疑問に思っているだろう、エヴァのシンクロについて話すね」

「そんな事よりママの事を話してっ!」

 

「勿論そのつもりだよ、そのためにシンクロについて知っていなければ理解できないと思うんだ」

「解ったわ、じゃぁさっさと始めて」

 

「うん、まずエヴァのシンクロだけど、当初は適格者と呼ばれる人がシンクロできると考えられていたんだ」

「それってチルドレンじゃないの?」

 

「当初考えられていた適格者は今のチルドレンとは違うんだ。その選出基準は僕も知らない。だけど、その最初の適格者として被験者になったのが僕の母、碇ユイなんだ」

「確かにあんたのママならチルドレンと言うには年齢が高いわね」

 

「魂のないエヴァは魂を渇望していて、シンクロした人間の魂を取り込んでしまうんだ。しかし、ドイツは日本の失敗を受け自分達の優位性を示すため、簡単なストッパーのみでシンクロテストを強行に実施した。この時の被験者がアスカのお母さん惣流キョウコツェッペリンさんだったんだ」

 

「そんな、じゃぁママは無理矢理被験者にされたの?」

「そこの経緯は解らない、E計画の要として拒否できない状況だったのか、それとも自信があったのか、本当に強制的だったのか、それは今となっては解らない」

 

「そう・・・」

「そして、その後、魂が入ったエヴァは比較的安全にシンクロテストが行われ、魂を取り込まれた親近者は高い確率でシンクロできる事が解った。それで選ばれたのがアスカ、君だったんだよ」

 

「で、でもあたしが選ばれた時は、ママはまだ生きていたわよ!」

「それは不完全なストッパーのため魂の殆どが取り込まれた抜け殻だったんだよ。だから周りの誰も認識できず、人形をアスカだと思ってずっと抱いていた」

 

「そ、そんな・・・」

アスカは必死で耐えているが涙眼になっている。

レイはアスカの横に行き、そっとアスカを抱きしめた。

 

「じゃ、じゃぁレイはどうなの?あたしより先にチルドレンに選出されていたレイは零号機にママが居たの?」

「綾波は少し特殊なんだ。その話をすると長くなるので、まずはアスカの話を進めていいかな?」

 

「解ったわ、それはまた後でと言うことね」

「そう言うこと、それで、今のシンクロ方式なんだけど、それはエヴァに取り込まれた近親者に対して行っているんだ。だからお母さんに甘える感じでシンクロしたらシンクロ率が上がるんだよ」

 

「そう、そう言う事だったのね、あたしが特別なんじゃなくて、あたしである必要があったって言う事ね・・・」

 

暫くの間沈黙が続いた。

シンジとレイは、アスカが今までの話を呵責し理解するのを待った。

 

アスカが口を開いた。

「それで、ママは生きているの?」

「生きていると言えるかも知れない。だけど、考えてみて?身体を無くし魂だけ取り込まれて10年近くも経って正常な精神が保てるか・・・今は本能のみ存在する魂でしかないと思うよ。それを生きていると言うのは、植物人間を生きていると言うのと同義だと思う」

「そうね、あんたも同じだもんね、サルベージできないのかぐらい考えたわよね・・・」

 

「うん、僕達に出来る事は、今は協力してもらって、戦いが済んだら安らかに眠って貰う事だと思うんだ」

「戦いが済んだらって?」

 

「アスカは使徒が何時までも来ると思ってる?」

「考えた事もなかったわ・・・」

 

「エヴァについては納得してもらえたかな?サルベージは出来るかもしれないけど、すればアスカは乗れなくなるし、サルベージも成功するか解らない、もし成功してもそれは昔のままの姿では有り得ない」

「解ったわ、使徒と戦う以上、エヴァは現状維持するしかない。そしてあたしはママと共にある」

 

「うん、今日はここまでにするかい?」

「まだ何かあるの?!」

 

「・・・まだまだあるわ」

「レイ・・・そうねあんたの事も深刻そうだもんね」

 

「じゃぁ今日はここまでとして、二つ程約束してくれるかな?」

「何よ!」

 

「一つ目は、僕に聞いた話を他言しないこと、これはNERV、特に父さんや赤木博士や副司令には絶対知られてはいけない。知られると殺される可能性が高い」

「この話ってあんたパパから聞いたんじゃないの?」

 

「今言った3人は今のところ僕達の味方とは成り得ない、むしろ敵と思った方が良い」

「はぁ〜まだまだ話が続くって言うのがなんとなく納得できたわ」

 

「二つ目は、僕と綾波、それとカヲル君はアスカの味方だと言う事を忘れないで」

「だからなんでそこでカヲルが出てくるのよっ!」

 

シンジとレイは微笑んだ。

 

「そして信じて欲しいんだ、アスカが望む限り、僕達はアスカを独りぼっちにはしない。絶対に」

「わ、解ったわよ・・・」

アスカは何故か顔を真っ赤にしている。

 

 

 

―発令所――――――――――――――――――――――――――

突如、第3新東京市上空に直径60メートルの球体が現れた。

 

「目標は微速進行中、毎時2.5キロ」

 

「どうなってるの?富士の電波観測所は!」

「探知していません。直上にいきなり現われました」

「パターンはオレンジ、ATフィールドは反応無し」

 

「新種の使徒?」

「MAGIは判断を保留しています」

 

突然空中に現われた物体に対して、ミサトは慌ててエヴァのパイロット3人を呼び出すと、とりあえず出撃させた。

 

「目標のデータは送った通り、今はそれしか判らないわ。慎重に接近して反応を窺い、可能であれば市街地上空外への誘導を行う。先行する一機をもう一機が援護。よろし?」

 

アスカはビル群を利用し、球体から身を隠すように移動してかなり近づいていた。

シンジは出撃位置が悪かったのか電源ケーブルの長さが足りなくなり、兵装ビルから別のケーブルを接続したりして遅れていた。

 

アスカは遅れている初号機が追いつきやすいように使徒を足止めすることにした。

『足止めだけでもしておくわっ!』

 

―バシュッ、バシュッ、バシュッ―

 

アスカが使徒にパレット・ライフルを撃ち込むと、使徒が消えた。

『きゃ〜〜〜〜〜〜っ!!』

 

「パターン青!弐号機の直下です!」

 

シンジは初号機を全力で走らせた。

 

『加持さぁ〜〜ん!!シンジぃ〜〜〜!!』

弐号機が使徒の影の中に飲み込まれようとしている。

 

シンジは影の中に飛び込んだ。

『アスカっ!早くっ!』

『シンジぃ〜〜〜!!』

弐号機は初号機を踏んづけて、近くのビルによじ登った。

 

『イヤぁぁぁ〜〜〜〜!!』

 

『アスカ!僕達を信じて!大丈夫。絶対戻ってくるから』

モニターの中のアスカが、はっとした顔になった。

 

「シンジ君!レイ!」

ミサトが叫んでいる。

 

「アンビリカルケーブルで引き上げて!」

呆然としていた本部内で、いち早く我に返ったリツコの言葉に、弐号機が慌ててケーブルを巻き上げた。

 

『シンジ・・・レイ・・・』

 

ケーブルは途中で切れて先は無くなっていた。

 

「アスカ、戻りなさい。退却よ」

ミサトが現存するエヴァを失うわけに行かないと退却を命じる。

 

『でも、シンジとレイが・・・』

「今、ここで貴方まで失うわけに行かないの!命令よ、アスカ下がりなさい」

 

感情が許さないのだが、頭で理解できてしまうアスカは渋々命令を承諾し下がった。

 

 

 

―作戦室――――――――――――――――――――――――――

 

「使徒の本体は、影のように見える地面の黒いシミです。」

リツコが分析結果を説明していた。

 

「では、上空の球体は?」

「あれこそが使徒の影のようなものです」

「どうしてそんな常識では考えられない現象が起こるのですか?」

 

「まだ仮説の域を出ませんが、地面のシミのように見える直径680メートル、厚さ3ナノメートルの影、その極薄の空間を内向きのATフィールドで支えている。結果として内部はディラックの海と呼ばれる虚数空間が形成されていると思われます」

 

「それはどういうことなんですか?」

 

「つまり異次元か別の宇宙かわからないけど、こちらとは別の法則の世界とつながっている可能性が高いわ」

 

「そんなばかな!」

 

「どれくらい生きていられるのですか?」

 

「シンジ君たちがやみくもに動き回らずにエヴァの内部電源を生命維持モードに切り替えていれば24時間、ただしプラグに2人入っているからせいぜい保って16時間でしょうね」

 

 

端っこで座っているアスカは震えている。

「シンジとレイが死んだら・・・アタシのせいだ・・・で、でも・・・シンジは絶対戻ってくるって言った・・・独りぼっちにしないって言った・・・信じろって言った」

 

 

 

―虚数空間内――――――――――――――――――――――――

 

レイは虚数空間に取り込まれるとすぐさま生命維持モードに切り替えた。

 

「さて、特に電源が切れるのを待つ必要もないね」

「・・・そうね」

 

「でもこの狭い空間に、二人っきりで誰にも邪魔されないってのもいいね」

「・・・そうね、このまま二人でずっといましょう」

レイは器用にLCLの中を泳ぐとシンジの腿に座りシンジに抱きついた。

 

「い、いやそれはちょっと・・・」

「・・・碇君は嫌なの?」

 

「嫌じゃないけど、早く戻らないと皆が心配するよ」

「・・・そうね」

 

「そろそろ始めようか」

「・・・もう良いの?」

 

シンジは意識を集中して使徒のコアを探す。

「見つけた・・・行くよ綾波」

「・・・そう、良かったわね」

 

「・・・綾波ぃ・・・」

戦闘モードに切り替え、初号機は動き出した。

 

 

 

―発令所――――――――――――――――――――――――――

 

「何ですって!?EVAの強制サルベージ!?」

ミサトがリツコと言い合っている。

 

「992個、現存するすべてのN2爆雷を使徒に投下、タイミングを合わせて残存するEVAのATフィールドで使徒の虚数回路に千分の1秒だけ干渉するわ。その瞬間に爆発を集中させて、使徒をディラックの海ごと破壊します」

「それじゃEVAの機体が!シンジ君とレイはどうなるのよ!?」

 

「作戦はEVAの回収を最優先とします。たとえボディが大破しても構わないわ。この際、パイロットの生死は問いません」

 

―パチンッ―

 

ミサトの平手が飛んだ。

「碇司令やあなたが、そこまで初号機にこだわる理由は何?EVAって何なの?」

「あなたに渡した資料がすべてよ」

「嘘ね」

「ミサト・・・私を信じて」

 

アスカが見たこともないような恐ろしい形相でリツコを睨み付けていた。

「これがNERVの本性・・・」

アスカは先日のシンジの話を思い出していた。

 

その時、オペレータから連絡が入った。

「使徒に変化!!」

 

「何っ!?何が起こってるの!?」

リツコが叫んだ。

 

「すべてのメーターは振り切られています!」

マヤが叫ぶ。

 

「まさか、シンジ君が!?」

「そんな馬鹿な!」

 

使徒の影に亀裂が走り、血のように赤い液体が飛び散った。

空中に浮かぶ球体も震えだし、やがて割れ始めた。

 

ウゥゥウォォォォォォォォー−−−−−−!

 

「EVA初号機!!」

球体を破って出てきたのは、初号機だった。

 

発令所の面々やアスカは恐怖に顔を引きつらせていた。

 

「アタシ・・・こんなものに乗ってるの?」

「なんてものを・・・なんてものを造ってしまったの、私達は・・・」

アスカとリツコの呆然とした呟きが聞こえた。

 

ウゥゥウォォォォォォォォー−−−−−−!

 

叫んでる初号機の傍ら、使徒は霧散して行く。

 

映像を呆然と見つめるリツコを、後ろからミサトが醒めた目で見ていた。

 

「エヴァがただの第壱使徒のコピーなんかじゃないことはわかる。でもネルフは使徒を全て倒した後、エヴァをどうするつもりなの?」

 

ミサトのつぶやきは誰にも聞こえず消えていった。

 

 

 

―ネルフ通路――――――――――――――――――――――――

 

シンジが更衣室から出てくるとアスカとレイが居た。

「おかえり、シンジ」

少し涙眼で言うアスカ。

 

「・・・ただいま」

シンジも少し照れている。

 

レイはそんな二人を見て微笑んでいる。

 

「じゃぁ帰ろうか、今日もお腹空いたから一杯作ろう」

「・・・そうね」

 

今日はこの間と違ってアスカは元気だった。

「ねぇ使徒の中ってどんなだったの?」

「うーん、なんか重力も無くって、上も下も解らなくって、宇宙空間ってあんな感じなのかな?ってとこだった」

 

「ふーーん、そんな所からよく出てこれたわねぇ」

「まあ、その話は食事しながらでもしようよ」

シンジはそう言うと、アスカはここでは出来ない話なんだと理解して、他の話へと移った。

 

「でも狭いエントリープラグで二人っきりでレイも嬉しかったんじゃない?」

アスカはニヤリと笑っている。

 

「・・・私は、このままずっと二人でいましょって言ったわ」

アスカは口を開けて唖然としてる。

 

シンジは苦笑いするしかなかった。

 

「あんたって、本当シンジ至上主義ね・・・」

気を取り直したアスカもそう言うのが精一杯だった。

 

 

 

―コンフォート17―――――――――――――――――――――

 

いつもの様に3人で食事を終え、くつろいでいるところで、アスカが口火を切った。

 

「ところで、続き教えてくれるんでしょ?」

「アスカ、こっから先はかなりの覚悟がいるよ、いいの?」

 

「もう、これ以上驚く事はないわ、例えあんた達が人間じゃないって言っても大丈夫よ!」

 

それにはシンジとレイも少し眼を見開いた。

 

その様子にアスカは、少し引いた。

「ま、まさか、そうなの?」

 

「ねぇアスカ?エヴァは13〜15歳の子供しか操縦できないと言うのに、アスカがチルドレンに選ばれたのは何歳だった?」

「6歳よ・・・それって」

 

「そう、使徒はこの1年に襲来する事は既にその時には解っていた。それは裏死海文書に記載されているから」

「裏死海文書?」

 

「裏死海文書はある組織では予言書として神聖視されている。そして、その内容通りに進めれば、自分達が神になれると盲信している組織がある、それがゼーレ」

「ゼーレ?」

 

「人類補完委員会と言う隠れ蓑に隠された、裏で世界経済を操っている組織だよ」

「そ、それって・・・」

 

「そう、NERVの親組織だよ」

「そ、そんな・・・」

 

「NERVが使徒と呼んでいる者達、これは裏死海文書に記載されている者達なんだ、そして、最初の人間アダム、これが第一使徒と呼ばれている」

「何それ?なんか聖書とだぶってない?」

 

「そう、それが事の発端なんだ、西暦2000年のセカンドインパクト、これはアダムが引き起こしたと聞いているよね?」

「そうね、NERVでは、そう聞いているわね」

 

「実は、セカンドインパクトはアダムを卵まで還元させる事により、放出されたエネルギーが引き起こした物理的インパクトだったんだ」

「卵まで還元させるって・・・」

 

「葛城博士はスーパーソレノイド機関について提唱していた。そこに南極にそれがあると言う情報を流した組織、それがゼーレ。そして葛城調査隊は南極でアダムを発見し、そのコアにあるスーパーソレノイド機関を制御しようとした」

「葛城博士って・・・まさかミサトの?」

 

「そう、葛城さんのお父さんだよ、葛城さんは葛城調査隊唯一の生き残りなんだ。そしてそれが今NERVに居る大きな理由でもある。だから葛城さんは使徒を仇だと思っているようだね」

「・・・・・」

 

「そして、その実験が行われる前日、全ての資料を持って南極を引き上げた人物がいる。それが六分儀ゲンドウ、後の碇ゲンドウだよ」

「なんて事・・・セカンドインパクトは人為的に起された・・・」

 

「裏死海文書に記されている使徒襲来、それは、種を選ぶ生存競争なんだ。未来を託される生命体は一つしか選ばれないと言うのが、その解釈らしいよ」

「じゃぁ使徒を全部倒したら人類は生き残れるのね?」

 

「実はそうじゃない、選ばれた使徒はサードインパクトを起すんだよ」

「あんた馬鹿ぁ?使徒を全部倒したらって言った・・・じゃ・・・な・・・ぃ・・・まさか・・・」

 

「やっぱりアスカは聡明だね、その通りだよ人類も第壱拾八使徒リリンと裏死海文書には記載されている」

「じゃぁ勝っても負けてもサードインパクトは起こるってこと?」

 

「裏死海文書の解釈によれば、そうだね、だけど使徒がアダムと接触したらサードインパクトが起こるとして人類はどうすればサードインパクトが起こるんだろう?」

「起こらないはずね・・・」

 

「そうなんだ、だからゼーレは儀式を行おうとしている。それに使用されるのがエヴァなんだよ」

「なんですってぇ〜っ!!!」

 

レイが耳を塞いでいる。

「・・・アスカ煩い」

 

かなり強烈な声だったようだ。

 

「ふぅ〜!ふぅ〜!ふぅ〜!」

アスカはまだ鼻息が荒い。

 

「じゃぁあたし達はサードインパクトの片棒を担がされているって事?」

「うーーん厳密に言うと片棒を担がされいるふりをしているんだけどね♪」

 

「そ、そうね、あんたはそこまで知ってるんだからそう言う事になるわね」

 

「そして父さん達は、その計画に乗って、別なシナリオを考えているんだ」

「別なシナリオ?」

 

「うん、父さんは初号機に取り込まれた母さんを取り戻したいんだけど、10年の間にその想い出は神格化されて既に偶像となっているんだ」

「それって・・・」

 

「そう、まず10年も魂だけでエヴァの中に取り込まれていて今更戻っても正常な精神を持ってるとは考えられない、しかも仮に願いが叶ったとしても、実の息子に対する仕打ちや全人類を犠牲にしようとしている事を知って許してもらえるはずが無い事すら解らなくなっている」

「あんたのパパも盲信者ってことね・・・」

「副司令もね」

 

「あたしはなんて組織に居るの・・・」

 

「葛城さんは、使徒への仇討ちの思いから、使徒をエヴァで倒す事に執着している。だからその辺りの事情は全く知らされていないんだ。その方が都合がいいからね」

「都合がいいって?」

 

「葛城さんのその拘りが、他の組織との連携を拒絶しているから」

「そっかミサトも利用されているのね・・・じゃぁリツコは?」

 

「赤木博士は、まず赤木ナオコ博士にコンプレックスを持っているんだ、父さんがそこをついて更に女性に対する性的圧力によって利用している」

「性的圧力って・・・」

 

「犯したんだよ・・・」

シンジが小さく呟き俯いた。

 

「あんたのパパって外道ね・・・」

 

「兎に角、上層部3人はそう言う事だから、下手に感づかれないように注意してね」

「解ったわ、ところであんた達は何故あたしにそんな重要な話をしてくれるの?」

アスカは一連の話をされた最初から引っかかっていた疑問をぶつけた。

 

「・・・貴方は意地悪じゃないもの」

「へ?」

レイが突然言ったその言葉の場違いさにアスカはキョトンとしてしまった。

 

苦笑いをしながらシンジは続けた。

「この間の使徒、あれは一度取り込まれる事が解っていたんだ」

「・・・そして私達が取り込まれたら貴方が心配してくれる事も」

 

「その前に少し話をしておいて、必ず戻るって信用して貰おうと思ってね」

「・・・何も話していなければ、私達が取り込まれた時、貴方は私達を助けようと無茶をしたわ」

「それか、自分のせいだと責めてたと思うよ」

「貴方達・・・」

アスカはボロボロ泣き出した。

 

「ど、どうしたのアスカ?何か悪い事言った?」

アスカは俯いたまま首を横に振った。

 

「そこまであたしの事を考えてくれてたのね」

「・・・アスカと居ると楽しいから」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

その夜、アスカは衝撃的な話を聞いたにも関わらずぐっすりと眠る事ができた。

本当に自分を見てくれていた仲間と言う物を感じたから。