第拾五話

嘘と沈黙

 

 

―芦ノ湖上空――――――――――――――――――――――――

芦ノ湖の上空を大型の武装ヘリが通過していた。

 

「第2、第3芦ノ湖か・・・。これ以上増えないことを望むね」

機内から3つの湖を見下ろしながら冬月が呟く。

 

向かい側の席にはゲンドウがいたが無言のまま腕を組んでいる。

 

「昨日、キール議長から計画遅延の文句がきたぞ。おれのところに直接。相当、苛ついていたな。終いにはおまえの解任もちらつかせていたぞ」

 

「アダムは順調だ。ダミープラグについても情報は渡している。ゼーレの老人は何が不満なんだ」

「肝心の人類補完計画が遅れている」

「すべての計画はリンクしている。問題ない」

 

「レイもか?」

「・・・問題ない」

 

「まあいい、おまえがレイにこだわる気持ちもわかるが目的を忘れるなよ」

「・・・・・」

 

「ところであの男はどうする?」

「好きにさせておくさ、マルドゥック機関と同じだ」

「もうしばらく役に立ってもらうか」

 

 

 

―京都―――――――――――――――――――――――――――

 

「16年前ここで何があったんだ」

(すべてはこの京都で始まったはずなんだ)

加持は廃屋の中で佇んでいた。

 

ドアノブがゆっくりと回り出す。

加持は廃屋の中で壁に身を寄せるとジャケットの内側に手をさし入れた。

 

内側に開くドアの隙間から明るい陽ざしが差し込んできた。

 

誰も入ってこないため加持はドアににじり寄る。

そっとドアの隙間から外の様子を伺う。

薄汚れた裏口の段差に買い物かごを置いた中年の婦人が座っていた。

かっぱえびせんをつまみながら週刊誌をめくる姿は日陰で休んでいるただのおばさんである。

 

「マルドゥック機関とつながる108の企業のうち、106がダミーだったよ、ここが107個目」

女は日本政府の連絡員であった。

 

「この会社の登記簿だ」

加持のよく知っている名前が並んでいる。

 

「なるほどね」

「もう知っていたのか?」

「ああ、マルドゥック機関。エヴァンゲリオン操縦者選出のために設けられた人類補完委員会直属の諮問機関。組織の実体の無いダミーというわけか」

 

「貴様の仕事はネルフの内偵だ。マルドゥックに顔を出すのはまずいぞ」

 

連絡員の警告を軽く受け流す加持

「ま、何ごともね。自分の目で確かめないと気が済まないタチだから」

 

 

 

―第壱中学校――――――――――――――――――――――――

 

「まったくもう」

廊下でアスカがモップを持ったままぶつくさ言っている。

 

「どうしたの?」

タイミングを待っていたヒカリがさっそく話しかける。

 

「明日はせっかくの日曜日だから加持さん誘って買い物に行こうと思ってたのに、全然捕まらないの」

 

ヒカリはしめたと思った。

「つまり明日は空いているのね」

「うん、そうだけど」

「よかった。お願い聞いて」

ヒカリが手を合わせる。

 

「どうしたの?」

「コダマお姉ちゃんの知り合いで、どうしてもアスカとデートしたいという人がいるの、もし暇だったら助けると思ってお願い」

 

さすがにヒカリにここまで言われては断れない。

「1回だけよ」

アスカは引き受けることにした。

 

教室ではレイがひざまづいて雑巾を絞っていた。

その丁寧な絞り方はさまになっていた。

 

逆光の中、シルエットとなって写るその姿にシンジは懐かしい物を感じた。

「そう言えば、これを見て主婦が似合いそうって言って綾波に怒られたっけ」

「・・・怒ってないわ」

「えっ?そうだったの?」

「・・・少し恥ずかしかっただけ」

「そうだったの?後ろからだったから気がつかなかったよ」

「・・・いい」

レイは少し顔が赤くなっていた。

 

「真面目に掃除しなさぁい!!」

後ろでヒカリにトウジが怒られていた。

 

その声にシンジもビクッとしていた。

 

 

 

―実験場――――――――――――――――――――――――――

レイ・シンジ・アスカの3人はテストプラグでシンクロのデータを収集していた。

 

「明日、何を着てく?」

リツコが計器を点検しながら話しかける。

 

「あ、結婚式ね。う〜ん、ピンクのスーツはキヨミのときに着ちゃったし、紺のドレスはコトコのとき着たばっかだし・・・」

後ろで腕組みをしていたミサトは眉間にしわを寄せた。

 

「オレンジのやつはどうしたの、最近着てないじゃない」

「あ〜、あれね。ちょっち訳ありで・・。」

言いにくそうに語尾を濁すミサト

 

「きついの?」

容赦のない言葉がリツコから発せられる。

 

「そうよ」

苦々しげに答えが返ってきた。

 

「あ〜あ、帰りに新調しようかな?出費がかさむな」

「こう立て続けだとご祝儀もばかにならないわね」

「けっ、三十路(みそじ)前だとどいつもこいつも焦りやがって」

お祝い事だと言うことを完璧に忘れているミサトだった。

 

「お互い最後の一人にはなりたくないわよね」

最後の確認をしながらリツコがフォローする。

 

「3人ともお疲れさま、あがっていいわよ」

実験終了の合図と共に電源がカットされた。

 

 

 

―コンフォート17―――――――――――――――――――――

「ただいま〜」

「お帰り〜!」

10時を過ぎてやっとミサトが帰ってきた。

 

居間でクッションに背中を置いて仰向けになって器用にテレビを見ていたアスカが答える。

 

「もう寝なさいよ、明日デートなんじゃなかったの」

「そう、美形とね」

ぜんぜん乗り気でなさそうに答えるアスカ

 

ふと思いついて反動をつけたまま上半身を起こす。

「あっ、そうそうミサト、あのラベンダーの香水貸して!」

「だ〜め」

「チェッ、ケチッ!」

 

「子供のするものじゃないわ」

着替えながらきっぱりと否定するミサト。

 

 

 

―披露宴会場――――――――――――――――――――――――

 

「こないわねリョウジくん」

「あのバカが、時間通りに来た事なんていっぺんもないわよ」

リツコの穏やかな言い方とは対照的にミサトは憤懣やるかたないといった感じであった。

 

「デートの時はでしょう。仕事の時は違ってたわよ」

 

「よ〜、お二人さん、今日はまた一段とお美しい、時間までに仕事抜けらんなくてさ」

やっと加持が到着した。

 

「いつも暇そうにプラプラしているくせに!どうでもいいけど何とかならないのその無精髭!」

ジト目で睨みつけるミサト

 

ネクタイはだらしなく、無精髭もそのままの加持だった。

 

「ほら、ネクタイが曲がってる」

ぶつぶつ言いながらも世話をやくミサト。

 

「おおっと、どうも」

「夫婦みたいよ、あなた達」

リツコが突っ込みを入れる。

 

「いいこと言うね、りっちゃん」

「だ〜れがこんなやつと」

口では文句を言いつつ、まんざらでもないミサトだった。

 

 

 

―墓地―――――――――――――――――――――――――――

 

見渡す限り広大な平原に、墓標が一定の間隔で並んでいた。

 

―IKARI YUI 1977−2004―

 

ゲンドウは一人佇んでいた。

「人は思い出を忘れることによって生きていける。だが決して忘れてはならないこともある。ユイはそのかけがえのないことを教えてくれた。私はその確認をするためにここへ来ている。」

 

今回はシンジはこなかった。

独り言が虚しく風に流される。

 

―ゴォーーーー―

 

ネルフ所属のVTOLが背後に降りてきた。

 

一人帰るゲンドウ。

VTOLにはレイも乗っていない。

 

 

 

―ナイトラウンジ――――――――――――――――――――――

 

「いまさら何を言ってんだか」

披露宴の後、ミサトとリツコと加持は3人だけで3次会に突入していた。

 

「ひどいなあ」

ミサトの暴言に苦笑いの加持。

 

「ちょっち、お手洗い」

「とか何とか言って逃げんなよ」

「い〜〜〜だ!」

ドレスアップした姿のまま、かわいく舌を出して席を離れるミサト。

 

「何年ぶりかな、3人で飲むなんて」

「ミサト、飲み過ぎじゃない。何だか、はしゃいでるけど」

「浮かれる自分を抑えようとして、また飲んでる。今日は逆か」

 

「やっぱり一緒に暮らしていた人が言うと重みが違うわね。」

「暮らしてたと言っても葛城がヒールとか履く前のことだからな」

「学生時代には想像できなかったわよね」

 

「俺もガキだったし、あれは暮らしって言うよりも共同生活だったな。おままごとだよ。現実は甘くないさ」

 

「・・・・・」

「そうだ、これ猫の土産!」

 

「あら、ありがと。まめね〜」

「女性にはね。仕事はずぼらさ」

「どうだか、ミサトには?」

 

「一度敗戦してる。負ける戦はしない主義さ」

「勝算はあると思うけど」

「リッちゃんは?」

 

リツコの相手については加持も当初から情報を得ていた。

 

「自分の話はしない主義なの、おもしろくないもの」

グラスを運ぶリツコの表情が暗くなった。

 

「おそいなあ、葛城!化粧でも直しているのかな」

「京都へは何しに行って来たの」

「あれっ、松代だよ、その土産」

「とぼけても無駄。あまり深追いするとやけどするわよ。これは友人としての忠告」

加持の行動は逐一監視されていた。

 

「真摯に聞いておくよ。でもどうせやけどするのならキミと」

「花火でも買ってきましょうか」

突然、ミサトが割り込んできた。

 

「やあ、お帰り」

にこやかに迎える加持。

 

「変わんないわね。そのお軽いとこ」

「いやあ、変わっているさ。生きるってことは変わるってことさ」

「ホメオスタシスとトランジスタシスね」

「何それ?」

リツコに問いかけるミサト

 

「今を維持しようとする力と変えようとする力、その矛盾する2つの性質を一緒に共有しているのが生き物なのよ」

「男と女だな」

加持は意味深な言い方をする。

 

「そろそろお暇するわ。仕事も残っているし」

リツコは気を利かせて帰ることにした。

 

「そ〜お」

「残念だな」

「じゃ、またね」

昔の恋人どうしを残してリツコは早々に退散した。

 

 

 

―第3新東京市郊外―――――――――――――――――――――

 

「加持君、ここ何処?」

「Dブロックのあたりだ」

ミサトは加持に背負われて夜の公園に来ていた。

安心して眠り込んでしまっていたようである。

 

懐かしい加持の匂い。

 

「わたし歩く」

夜風が気持ちいいのでミサトは歩くことにした。

 

「加持くん、わたし変わったかな?」

「綺麗になった」

「ごめんね、あのとき一方的に別れ話して。他に好きな人ができたって言ったのは、あれ嘘。バレてた?」

「いや」

「気づいたのよ、加持くんが私の父に似ているのに」

 

「・・・・・」

 

「自分が男に・・・父親の姿を求めていた。それに気がついたとき・・・恐かった」

「加持くんと一緒にいることも、自分が女だということも、すべてが恐かった」

「父を憎んでいた私が、父とよく似た人を好きになる。すべてを吹っ切るつもりでネルフを選んだけど、でもそれも父のいた組織」

 

「結局、使徒に復讐することでみんなごまかしていたんだわ」

「葛城が選んだことだ。俺に謝ることじゃない」

 

「違うの!選んだわけじゃないの!ただ逃げてただけ。父親という呪縛から逃げ出しただけ!臆病者なのよ」

 

「ごめんね。ほんと酒の勢いで、いまさらこんな話」

「もういい」

「子供なのね。アスカに何も言う資格ない」

 

「もういい」

「その上、こうやって、都合のいいときだけ男にすがろうとする、ずるい女なのよ!」

「あの時だって!加持くんを利用してただけかもしれない。嫌になるわ」

「もういい、やめろ!」

「自分に絶望するわよ!」

「やめろ」

加持はミサトの唇を塞いだ。

 

それは8年ぶりの恋人達のキスであった。

 

 

 

―ターミナルドグマ―――――――――――――――――――――

 

―ピッ、ピッピッ、ピ、ピピ、ピッ―

セントラルドグマのさらに2000メートル下の深々度設備。

最重要管理区域のパスワードを入力するものがいた。

セキュリティカードを押し当てたところで動きが止まった。

 

「やあ、二日酔いの調子はどうだ?」

両手をあげる加持。

 

背後からピストルを突きつけていたのはミサトだった。

「おかげさまで眼が覚めたわ」

「それはよかった」

 

「特務機関ネルフ特殊監察部所属、加持リョウジ。同時に日本政府内務省調査部所属、加持リョウジでもあるわけね」

 

「バレバレか」

「ネルフを甘く見ないで」

「碇司令の命令か?」

「私の独断よ。これ以上バイトを続けると・・・死ぬわ」

 

「碇司令はもう少し俺を利用するつもりだ。まだいけるさ。ただ、葛城に隠し事をしていたことは謝る」

「昨日のお礼にちゃらにしてあげるわ」

言葉とは裏腹に険しい表情のミサト。

 

「それはありがとう。でも、司令やリッちゃんも、キミに隠しごとをしている。これがそれさ」

 

―ピッ!―

 

撃鉄の音がするのを聞きながら平然とカードをスリットに通した。

 

「これは・・・」

 

驚きのあまり声も出ないミサト、そこは余りに広く、そして無造作にLCLの海があった。

扉の奥には、巨大な十字架しかなかった。

 

「なにもないな・・・」

加持も面食らったようである。

 

「何故こんな何もないところのセキュリティーレベルが高いの?」

「全く不可解だな・・・」

 

「あんた、こんな事のために命かけるの馬鹿らしくない?」

「ごもっとも」

 

 

 

―コンフォート17―――――――――――――――――――――

 

シンジがチェロを出しているとレイが尋ねてきた。

「・・・どうしたの?」

 

「うん、母さんの命日には弾いていたんだ」

「・・・今日だったわね」

 

「うん、綾波、聞いてくれる?」

「・・・えぇ」

 

その時、玄関のチャイムが鳴った。

「アスカ?」

「もぅ〜〜〜っさいってぇ〜〜〜」

と叫びながらアスカが入ってきた。

 

「今日はデートだったんじゃなかったっけ?」

「確かに顔は良かったんだけど、なんかそれを鼻にかけてすっごいやな奴だったの!!」

アスカが憤慨しながらシンジの家の冷蔵庫から牛乳を出しそのまま飲んだ。

 

「なぁんかあたしを連れて居る事を自慢したいだけなのよね。あったま来たから、ジェットコースターを待ってる間に帰ってきたの!!」

「そ、そう・・・」

冷や汗を流すシンジと、折角シンジのチェロを聴ける所を邪魔されてご機嫌斜めなレイ。

 

ふとアスカがチェロに目を止めた。

「何、それ、誰が弾くの?」

「あ、ちょっと今弾こうとしてたところだったんだ」

「そう、じゃぁあたしが聞いてあげるからさっさと弾きなさいよ!」

「そ、そう?」

 

予定通り弾く事になってまぁいいかとシンジはチェロを構えた。

レイとアスカがシンジの前に陣取る。

 

「じゃぁ弾くね、あんまり旨くないけど」

そう言うとシンジはチェロを弾き始めた。

 

―パチパチパチパチ―

 

シンジが弾き終えるとアスカが拍手した。

「ありがとう」

シンジはそう言うとアスカに微笑んだ。

 

それを見たレイは、アスカを真似て拍手した。

「綾波もありがとう」

シンジはレイにもニッコリ微笑んだ。

レイは赤くなって俯いている。

 

「なかなか上手いじゃない、あんたも特技があったのね」

「特技って程じゃないけどね」

「レイはなんか出来るの?」

 

「・・・バイオリンなら少し弾けるわ」

 

「へぇ・・・じゃぁ今度3人でトリオでもやろうか?」

「アスカってピアノかフルートができるの?」

 

「・・・何?」

レイが尋ねる。

 

「うん、3人で楽器を演奏するのをトリオって言うんだけどバイオリンとチェロだと後はピアノかフルートなんだよね。フルート、バイオリン、ピアノって言うのもあるけど」

「・・・そう、二人だと何と言うの?」

 

「バイオリンとチェロだとデュオが出来るね」

「・・・そう」

レイは嬉しそうだ。

(・・・今度やってみたいわ)

(・・・勿論いいよ)

 

「そんな形式に拘らなくってもいいじゃない、3人で演奏しましょうって言ってるだけでしょ!」

「それもそうだね」

「で、アスカは何が出来るの?」

「バイオリン・・・」

 

「へぇ・・・ビオラでも探す?カルテットできるよ、青葉さんなんか出来そうな感じだよね」

「いいのっ!3人でやりたいんだから!!」

 

「解ったよ、じゃぁ今度3人で何かやろう」

シンジはニッコリと微笑んだ。

 

「あっカヲルってビオラ弾けないかしら?」

急にアスカが思い立ったようだ。

 

「今度、来た時に聞いてみようか」

「あぁあ、今度はあいつ何時来るのかなぁ・・・」

ミサトが居たなら速攻で突っ込むところだが、そこはこの3人である。

 

何故か音楽の話が弾む3人。

レイもまんざらでもなさそうであった。

 

「今日はアスカも一緒にご飯にする?」

「もっちろん!!」

「じゃぁ3人で買出しに行こうか?」

「いいわよ」

「・・・わかったわ」

 

その後3人で買出しに行くと、いつもの商店のおじさんから「今日は2号さんも連れているのかい?」等と言われ、アスカが憤慨するとか、レイが例によって「若奥さん」とか言われて天使の微笑みを大安売りするとかあったが、アスカが「ハンバーグが食べたい」と言ったためその日の食卓は豪勢な物になった。

 

そしてその夜、食事が終ってくつろいで居る時にシンジが切り出した。

「アスカ、エヴァって何だと思う?」

「あたしの優秀さを世間に知らしめるための道具よ」

 

「まぁアスカに取ってどうこうって言う話じゃなくてエヴァ自身の事なんだけどね」

「あんた何が言いたいの?」

 

「使徒に勝つためにはATフィールドが必要、ではそのATフィールドが張れるエヴァって何なのだろうって話さ」

「人類の科学でそれを可能にしたんじゃないの?」

 

「アスカはシンクロする時にどんな感じがする?」

「どんな感じって?」

 

「包まれるようなとか、一体になるようなとかそう言う感じしない?」

「そうね、確かに安心するような事はあるわね」

 

「・・・エヴァには心があるわ」

「えっ?」

 

「エヴァはロボットじゃなくて人造人間って聞いた事がない?」

「確かにそれは聞いたわ」

今まで深く考えた事がなかった事にアスカは次第にテンションが下がって行った。

 

「アスカ?アスカは頭が良いからNERVの矛盾に気がついているんじゃない?」

「そうね、時々変だと思う事はあるわ」

 

いつになく真剣な表情のシンジにアスカも唾を飲んだ。

 

「僕の母、碇ユイとアスカのお母さん、惣流キョウコツェッペリンさん、そして赤木博士のお母さん、赤木ナオコ博士、この3人は昔、東方の三賢者と呼ばれていたのは知っている?」

「えっ?何それ?どういう事?」

 

「そして東方の三賢者はNERVの前身ゲヒルンの時代から所属していてE計画の要だった」

「どうしてあんたがそんな事を知っているの?!」

 

「その話は後だ、それより、大事な事を話すから、覚悟を決めてくれるかな?」

「覚悟?」

 

「そう、これを知ったら多分、アスカは大いに悩むと思う、だけど、このまま何も知らないで居るのはアスカに取って不幸だと僕は思う、だから覚悟ができたら聞いて欲しいんだ」

「いいわっ!話して!」

アスカは座り直し、気合いが入っているのが解る。

 

「流石アスカ、即断即決だね。でもこれだけは覚えておいてね、僕や綾波、そしてカヲル君もアスカの味方だから」

「なんでここでカヲルが出てくるのよ!まぁいいわ考えが変わらないうちに早く話して!」

 

シンジは一つ息を吸い込むと、今までにない真剣な表情で話し始めた。

 

「まず、エヴァは使徒のコピーだ」

「!!」

アスカは聡明だ、これだけで何故シンジが、最初にATフィールドの話をしたか解った。

 

暫く間をおいてシンジはアスカの様子を慎重に伺い、話を続けた。

 

「そして、最初のシンクロ実験、僕が4歳の時だけど、その時の被験者、碇ユイは初号機に取り込まれた」

「!!」

 

「それが僕が初号機にシンクロできる理由だよ」

「!それってもしかして、弐号機には・・・でもママは死んだのよ・・・」

 

「碇ユイの失敗により、ドイツのシンクロ実験ではストッパーがかけられた。しかし、そのストッパーも完全ではなかった。つまりアスカが死んだと思っているお母さんは、魂の抜け殻だったんだよ」

「嘘よ!嘘っ!嘘っ!なんであんたがそんな事知ってるのよっ!」

 

頭を抱えて取り乱したアスカをレイが抱きしめた。

レイが強く抱きしめ、暫くするとアスカは暴れるのを止めたが、まだ錯乱しているようだ。

 

シンジは、ミルクを温めアスカの好きなココアを入れアスカに渡した。

それをガチガチと震えながらアスカは口をつけた。

 

「今日はここまでにしよう、今度シンクロテストがあれば騙されたと思ってお母さんに甘える感じでシンクロしてみれば僕が言った事がどういう事なのか解ると思うよ」

「そ、そうね、試してみてから考えても遅くないわね」

「・・・そうよ」

レイはアスカを抱きしめ、頭を撫でながら言った。

 

「最初に言った通り僕や綾波、それにカヲル君はアスカの味方だよ、アスカがどう思おうとそれは代わらない」

「そうね、確かにあんたの言う事が本当だったら、それを知らずにエヴァに乗り続けるのは、あたしに取って不幸だわ」

アスカも漸く落ち着きを取り戻し、冷静に考えられるようになった。

 

「続きは、アスカがシンクロで確認して話を聞きたくなってからにするよ、それから、この事は・・・」

「解ってる、誰にも言わないわ、それに続きがあるのね、まだまだ大きな覚悟が要りそうね。今日は帰って寝るわ」

 

「うん、だけどあんまり深く考える必要はないからね、まず落ち着いて、次ぎのシンクロテストで試す事を考えれば良いと思うよ」

「そうね、話はそれからだわ、それじゃおやすみ」

 

「おやすみアスカ」

「・・・おやすみなさい」

アスカは葛城邸へ帰って行った。

 

「アスカ、思ったより取り乱さなかったね」

「・・・きっと今はかなり精神が安定していて私達にもかなり心を開いているからだと思う」

「そうあってくれると嬉しいね」

「・・・そうね」