第拾四話

ゼーレ、魂の座

 

 

第三使徒、サキエル戦。

初号機パイロット碇シンジを使途襲来当日呼び寄せ、初号機に搭乗させる。

ビギナーズラックと言える程、あまりにあっけなく使徒殲滅。

その後、初号機パイロットを調査したが、まさしくビギナーズラックであったと確定。

 

第四使徒、シャムシェル戦。

初号機にて使徒迎撃を行うも、戦闘域に民間人を発見。

エントリープラグに2名の民間人を乗せるも、初号機が特攻し使徒殲滅。

 

第五使徒、ラミエル戦。

一度目の強行威力偵察により、撃退される初号機。

次いで、超長距離からの一点突破攻撃によって、撃破するも零号機消滅。

この際、零号機パイロットも消失と報告される。

 

第六使徒、ガギエル戦。

太平洋艦隊に運搬されてきた弐号機に、パイロット2名が搭乗。

弐号機パイロットが気絶していたため詳細は不明だが、アンビリカブルケーブルの限界により引き起こされた衝撃により、水中において使徒殲滅。

 

第七使徒、イスラフェル戦。

水際迎撃を行うも、使徒分裂後、弐号機は敗退。

N2爆雷により、使徒の構成物質の21%の焼却に成功、と同時に初号機により殲滅。

 

第八使徒、サンダルフォン戦。

マグマ内部に沈降した弐号機が、捕獲作戦を決行。

使徒が羽化した事により殲滅作戦に移行。

 

第九使徒、マトリエル戦。

NERV内停電となるも手動にてエヴァ起動、出撃坑からのパレットガンの一斉射により殲滅。

零号機パイロット生還の報告。

瀕死の重傷であったため極秘裏に治療中であったと報告される。

 

第十使徒、サハクィエル戦。

衛星軌道上から落下してくる使徒を、エヴァ二体によって直接受け止め迎撃。

この際、初号機はタンデムシートによるダブルエントリーを実施。

 

第十一使徒、イロウル戦。

NERV本部への進入は誤報と報告される。

 

「いかんなあ、これは」

「さよう、早すぎる!」

暗い部屋の中央でゲンドウがひとりスポットライトを浴びながら座っていた。

それを取り囲むように委員会の老人達が居る。

 

「使徒がネルフ本部へ侵入するなど予定外だよ」

「まして、セントラルドグマへの侵入を許すとはな」

「もし、アダムとの接触が起こればすべての計画が水泡と化したところだ」

 

口々にゲンドウをなじる会話が交わされる。

 

「委員会への報告は誤報、使徒侵入の事実はありません」

やっとゲンドウが重い口を開いた。

 

「では、碇!第11使徒侵入の事実はないというのだな?」

「はい」

平然と答えるゲンドウ

 

「気をつけてしゃべりたまえ碇くん!この席での偽証は死にあたいするぞ」

 

「お疑いでしたらMAGIのレコーダーを調べていただいても結構です。その事実は記録されていません」

既にMAGIの記録はリツコによって書き換えられていた。

 

「笑わせるな碇!事実の隠蔽はキミの十八番ではないか」

 

「タイムスケジュールは死海文書の記述どおりに進んでおります」

嘘だということは双方ともわかっていたがそれでもゲンドウは型どおりに答える。

 

「まあいい。今回のキミの罪と責任は問わない。だが、キミが新たなシナリオを創る必要はない」

「わかっております。すべてはゼーレのシナリオどおりに」

ゲンドウの返答と同時にホログラフの老人達は消えて照明がついた。

 

 

 

―司令室――――――――――――――――――――――――――

 

―パチン!―

 

広大な司令室に将棋の駒を置く音が響く

 

中央のテーブルにいつものとおり顔の前で腕を組むゲンドウ

その向かい側で本を片手に冬月が詰め将棋をしていた。

 

―パチン!―

 

「予定外の使徒侵入!その事実を知った人類補完委員会の突き上げか」

ひとりごとのように話す冬月に対し、ゲンドウが答えた。

「切り札はすべてこちら側が擁している。彼らは何もできんよ」

 

「だからといって焦らすこともあるまい。今、ゼーレが乗り出すと面倒だぞ、いろいろとな」

 

「すべては我々のシナリオどおりだ。問題ない。」

「アダム計画はどうなんだ?」

「順調だ。2%も遅れていない」

 

 

 

―名も無い南の孤島―――――――――――――――――――――

今回は零号機がないためと、レイは単独エントリーを拒否しており、機体相互試験は行われない。

シンジとレイは久しぶりに、皆の居るこの島でのんびり過ごしていた。

 

擬人化使徒達も9人となりシンジとレイを入れると11人とかなり大所帯だ。

彼らは基本的に物静かである。

 

永い時を一緒に過ごして来た彼らは、それ程日常で会話することなく、お互いを解り合って居るためだ。

 

しかし、元々の性格と言うものもある。

ラミエルとサンダルフォンは、見た目年齢が5〜6歳前後なのだが、それに合わせてこの中に居ては比較的、元気である。

 

そして、この二人の得意とするところが加粒子砲とマグマ並の高熱なため、事あるごとに熱い。

その二人の熱い戦いは、マトリエルが雨で沈めることとなるのもしばしばだった。

 

最近来たイロウルは、来た早々、部屋に籠もりっぱなしでコンピュータと格闘している。

なんでもリリンに負けたのが悔しくてしかたないそうで、「MAGIを超える物を作ってやる」と息巻いている。

 

そんなこんなでも、ここは平和で穏やかだった。

 

先のA-17発令時に空売りしていた日本株を買い戻し、天文学的な資産も手に入れた。

 

残る使徒達の回収も大した事はない。

 

今シンジとレイの悩みは、アスカとカヲルであった。

 

「そろそろカヲル君の所に行ってみようか」

「・・・そうね」

 

「前のカヲル君の記憶だと、ウルの後ぐらいからゼーレの動きが活発になってカヲル君自体も、外に出されたらしいからね」

「・・・でも、カヲルとの接触は細心の注意が必要だわ」

 

「そうだね、ウルがある程度コンピュータを仕上げてからにしようか」

「・・・そうね、NERVもゼーレもコンピュータに頼りきっているわ」

 

「進入するぐらいの物なら今でも大丈夫ですよ」

イロウルの声が突然した。

 

「ん?これは、スピーカかい?」

「はい、まだこちらからの一方通行ですが、元々ホテルでしたので全館放送のシステムに介入してみました」

 

「なるほど、でもなんか話し辛いから、こっちまで来てくれる?」

「ラジャーです」

 

そうこうしていると、さっきのスピーカの声はなんだなんだとぞろぞろ集まって来た。

 

「あぁ、皆来ちゃったね。丁度いいからこれからの事を少し話し合おう」

「では、お茶とお茶菓子を用意致しますわ」

サキエルがそそくさと用意を始める。

 

「・・・手伝うわ」

「私もお手伝い致します」

レイとガギエルが手伝いに行く。

 

本来のホテルの入り口、所謂ロビーで大テーブルを囲んで、皆が席につく。

まだまだ余裕があるようで倍の人数になっても大丈夫そうだ。

 

「まず、アスカ、エヴァの弐号機パイロットの事なんだけど、彼女は現在、前回の史実よりは安定した精神状態だと思う」

シンジが切り出した。

 

「・・・そうね、友好的に接してくれているわ」

他の娘達は前回も今回も特に接触がないため、別段意見もない。

 

「皆にはあまり馴染みがないと思うけど、僕としてはできれば彼女には前回みたいに精神崩壊を起こさない様にしてあげたいんだ。それとカヲル君がかなり気に掛けててね」

シンジが苦笑する。

 

「そこで、問題になるのがカヲル君なんだけど、そろそろ彼と接触しようと思う」

「タブリスはまだ目覚めて居ないのではないの?」

音楽好きで気の合うイスラフェルが問う。

 

「うん、彼は綾波と同じで、身体だけアダムから作られて既に存在しているんだ。タブリスとして目覚めるのは順番通りなんだけど、カヲル君としての意識は既にあるんだよ」

「じゃぁ〜今まで何で会いに行かなかったんだぁ?」

小首を傾げ、人差し指をホッペに当てラミエルが尋ねる。

 

「まず、史実に大きな影響を与えたくなかったのが一つ、そして、カヲル君の記憶からは、ずっとカプセルの中に居て、外に出たのが今くらいの時期だったからさ」

「なるほどぉ〜解ったぞぉ〜」

ラミエルは簡単に納得した。

 

レイは目を細め微笑んでいる。

レイもラミエルとサンダルフォンの愛らしさは好きなようだ。

因みにサンダルフォンはラミエルと違い、かなり活発な女の娘と言う見た目だ。

髪は赤毛の三つ編みで、目も赤色、服装も迷彩模様の短パンと黒いタンクトップにカーキ色のジャケット等を好んで着ている。

 

「ところでウル、今のカヲル君が居る場所の情報なんて解るかな?」

「はい、現在、ドイツの培養施設に居るのは、ダミープラグ用の素体達のみの様子です。

カヲル自体は、キール・ローレンツの元で教育を受けている様子です」

イロウルが手元のノートパソコンを操りながら、報告する。

作業をしていたから趣味なのか解らないがイロウルは緑の繋ぎに眼鏡をかけている。

そして何故か白衣を纏っている。

使徒に眼鏡は必要ないだろうからやっぱり趣味かもしれない。

髪は金髪で結構長いが今は帽子の中のようだ、目は青い。

 

「そうか、じゃぁちょっとカヲル君に逢ってくるよ、正確な位置を教えてウル。後その辺りの監視の無効化も」

「ラジャーです」

 

「レイも行く?」

「・・・勿論だわ」

そう言って服を脱ごうとするレイをシンジは押し止めた。

 

「いや、融合しないで、そのまま行こう」

「・・・何故?」

 

「二人で行った方が、彼も納得し易いと思うんだ」

「・・・わかったわ」

レイは少し不満だったが、シンジが望む事を阻害する気はさらさら無いので素直に了承する。

 

「皆、少し待っててね、30分も掛からないと思うから」

「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」

 

「お茶を入れ直してお待ちしておりますわ」

サキエルが言った。

シンジはそれに微笑みで応えると、レイと共に黒い穴に消えて行った。

 

 

 

―見知らぬ西欧の城中――――――――――――――――――――

 

カヲルは、のんびりと木陰で鼻歌を唄っていた。

そこに黒い穴が現れ、そこからシンジとレイが現れた。

 

「やぁ、これは驚きだね、君たちは誰だい?」

カヲルはやはりカヲルでいつもの張り付いた微笑みと淡々とした言葉で尋ねた。

 

「いや、君たちは見た事があるなぁファーストチルドレンとサードチルドレンかい?」

レイは無表情だがシンジは少し驚きの表情をした。

 

「そうだよ、僕はサードチルドレン碇シンジ、こちらはファーストチルドレン綾波レイ、僕の大事な人だよ」

レイはその紹介に頬を赤く染める。

 

「そうかい、大事な人が居ると言うのは幸せに繋がる、君たちは幸せそうだね」

「勿論さ」

シンジは微笑み、レイも赤くなっているが微笑む。

それを見たカヲルはいつものアルカイックスマイルではなく、微笑んだ。

 

「それに凄いねぇ、チルドレンと言うのはそんな力まで持っているのかい?」

「まぁその話は、置いておいて、今日は少し話しが有って来たんだ」

 

「そうだろうねぇ、何の用もなく来るはずはないからねぇ、それで話とはなんだい?」

「単刀直入に言うと、僕からの贈り物を受け取って欲しいんだ」

 

「良い物だと嬉しいねぇ」

「未来の君の心と記憶さ」

 

「それは、どういう事だい?」

「まず受け取って貰えるかな?そうすれば全て解るし、君が消えるわけでもない」

 

「でも僕は僕で無くなってしまうんじゃないのかい?」

「君は君のままだよ、ただ記憶と心を手に入れるだけで、その後どうするかは君次第さ」

 

 

「ある意味時間の節約だと思ってくれればいいかな?君がこれから経験するであろう記憶を今手に入れる事が出来るだけだよ」

「それは結構魅力的な話だねぇ、でも自分が自分でなくなってしまうような不安も感じるよ」

 

「どんな記憶を手に入れても君は君だよ、例え同じ形と同じ出生を持っていてもそれぞれはそれぞれの様にね」

「君は何か色々と知って居るようだね、後の問題は君が信用できるかだけだね」

 

「まぁカヲル君は自由意志そのものだからね、判断は任せるよ、今判断がつかないなら出直して来るけど、どうする?」

「僕の事もよく知っているようだね、綾波レイ?君も彼から記憶と心を貰ったのかい?」

 

「・・・いいえ、私は碇君の中に入って一緒になったの」

「それはどういう事だい?」

 

「綾波は、僕が初めてエヴァに乗るときに鉄骨に押しつぶされて、次ぎの素体に魂が移るところだったんだ」

「それは、また悲惨だったんだねぇ」

 

「その時、既に魂がかなり稀薄になってたから、取り敢ず僕の中に入って貰ったんだ。そして他の素体達から魂を集めて補完して一つの素体に移って貰った」

「なるほど、それが第一次直上会戦の時の話だね」

 

「よく知ってるね、その一連の作業の間、僕の中に居る魂の綾波と心の綾波が会話をして今の綾波になったんだよ」

「リリンが出来る話じゃないね、君は何者だい?碇シンジ君」

 

「シンジでいいよ、僕は未来から碇シンジだよ。その際、皆の心を持って来た」

「皆って誰だい?」

 

「リリン以外の使徒と呼ばれる者達だよ」

 

これにはカヲルも驚きの表情を隠せなかった。

「君はそんな話を僕にしてしまっていいのかい?」

 

「勿論だよ、僕は青い空と青い海、白い雲と緑の山があるところで皆と幸せに暮らすために戻って来たんだ」

「君の言う皆にリリンは含まれないのかい?」

 

「個別のリリンは含まれないよ、あっカヲル君が気にかけてる個別のリリンが居るけどね。そして皆の中には勿論カヲル君も含まれている」

シンジは意地悪く笑った。

 

「それは興味深いね、それも記憶を貰えば解るんだろうねぇ」

「勿論だよ」

 

「君の話は俄に信じられない事が多いけど、僕の興味を刺激するねぇ。考えても解らないだろうし、時間が経てば興味だけが膨れあがりそうだから決断させて貰うよ」

「そう、じゃぁどうする?」

 

「ありがたく頂く事にするよ」

「そう、よかった、ありがとう」

 

そう言うとシンジは胸に手をあて、赤く光るものを取り出した。

「それが、僕の記憶かい?」

 

「そう、カヲル君の記憶と心だよ」

そう言ってシンジはその光をカヲルの額に翳した。

光が序々にカヲルに吸い込まれていく。

 

「こ、これは・・・そうかそうい事か」

額を押さえ蹲るカヲル。

 

心配そうに見ているシンジとレイ。

「ふぅ・・・凄い情報量だね」

そう言ってカヲルは額の汗を拭った。

 

「しかし、こうやって見ると生命の溢れている山々は気持ちいいねぇ、今までも気持ちいいとは思っていたが、凄い感銘を受けるよ」

「そうだね、僕はそのために戻って来たんだ」

 

「シンジ君、やっぱり君は好意に値するよ」

「ありがとうカヲル君」

「・・・碇君は私のもの」

レイがしっかりとシンジの腕をホールドし、キッとカヲルを睨む。

 

「ふっ心配はいらないよレイ君、それで僕はこれからどうすればいいのかな?」

 

「まず、僕と一緒にアスカに会いに行ってもらいたいんだ」

「それは願ったりだね」

 

「今日は随分時間を取ったから、また明日にでも」

「それは残念だねぇ、でも仕方ないね解ったよ、他には?」

 

「ダミープラグだね」

「それも了解だよ」

 

「今日は、ちょっと皆の所に顔をださない?」

「それも魅力的だねぇ、是非お願いするよ」

 

そして、シンジ、レイ、カヲルの3人は黒い穴に消えて行った。

 

 

 

―名も無い南の孤島―――――――――――――――――――――

 

黒い穴から3人が出てきた途端ブーイングの荒らしだった。

「「おっそぉ〜〜いぃっ」」

ラミエルとサンダルフォンだ。

 

「少々時間が掛かり過ぎたようですわね、お茶が冷めてしまいました」

サキエルが不満そうにお茶を入れ替えている。

 

「大方、カヲルが回りくどい説明を求めていたんだろ?」

シャムシェルが無骨に言い放つ。

 

「そうですわね」

ガギエルが同意する。

 

「まぁ穏やかな西欧で過ごしていると時間も穏やかに流れるものですよ」

音楽仲間のイスラフェルがフォローする。

 

「元からおっとりしてるからね」

イロウルも辛辣だ。

 

「まぁまぁ折角の再会ですし、皆様もそのぐらいで・・・」

長い黒髪に黒い瞳でどこか日本人形を思わせるマトリエルが取りなす。

 

長く赤い髪に緑の目のサハクィエルはニコニコしているだけだった。

 

冷や汗をかくカヲル。

「や、やぁ皆久しぶり・・・また宜しくお願いするよ」

アルカイックスマイルも引きつっている。

 

「残念だけど、今日は時間がないので、顔見せだけね。もうすぐリエが来るからそうすれば何時でも逢えるようになるよ」

「そ、そうだねぇ、今日は結構時間を取ってしまったからまた来させて頂くよ」

カヲルはまだ引きつっている。

 

「そうだね、じゃぁ送ってくるよ」

そう言って、カヲルを連れてシンジは黒い穴に消えた。

 

「・・・あっ」

レイは着いていき損なって不満そうだ。

 

そして黒い穴からシンジが出てきた。

「これで一つの関門は通過したね」

「・・・何か問題だったの?」

 

「うん、他の皆は戦闘して強制的に魂をサルベージしてって感じだけど、カヲル君の場合は既に自我があるからね、断られる事もあり得たんだよ」

「・・・そうね」

 

「後は、アスカにどうやってどこまで話すかだな」

「・・・何故そんなに急ぐの?」

 

「リエのことさ」

「・・・リエがどうかしたの?」

 

「リエと戦闘するためには、虚数空間に入らなければいけないけど、その事について話ておかないと、僕達を助けるために一緒に入ってしまうかもしれないだろ?」

「・・・それが何か問題なの?」

 

「そこでいきなり僕達の力を見たら、彼女は崩壊しかねないよ」

「・・・そう、そうね」

 

 

 

―コンフォート17―――――――――――――――――――――

 

その夜、家に戻ったシンジ達のところでアスカ御飯を食べていた。

 

特に誘ったわけでは無いのだが、夕食時にアスカが尋ねてきたのだ。

 

夕食が終わり、お茶を飲んでくつろいでいる処、シンジが切り出した。

 

「アスカ、明日って暇?」

「えっ特に予定は入ってないわよ」

翌日は日曜で学校もネルフの訓練も休みだった。

 

「解った」

「何よぉ〜」

アスカがジト目で睨んだ。

 

「いや、明日も暇ならまた御飯食べに来るでしょ?買い出しの予定を立ててただけだよ」

「そ、そぅんなに私が来るわけないでしょ!」

 

「・・・来ないの?」

レイの突っ込みが入る。

 

「ぐっ・・・それは・・・」

ここまで言われると「来ないわよ!」と言いたいところだが、何しろシンジの食事の誘惑が強い。

 

「何時でも来ていいんだよ、アスカ」

シンジが微笑んだ。

 

「そ、そうね、じゃぁ明日もご馳走して貰いに来るわ!」

アスカが居直った。

 

ふふと微笑み合うシンジとレイ。

「な、何よ〜感じ悪いわねぇっ!」

 

「・・・嬉しいだけよ」

「そう、アスカが来てくれると僕らも楽しいからね」

 

「ほ、本当ぅ〜?」

半信半疑なアスカ。

 

「まぁそこまで言うなら、このアスカ様もちょくちょく顔出してあげるわ!」

「お願いするよ」

「・・・そうね」

 

二人の優しい対応に、最近はかなり精神安定しているアスカだった。

 

 

そして翌朝、シンジはカヲルを迎えに行った。

カヲルも当日は、特に予定がない日だったのでそのままシンジの部屋へ来た。

と言っても時差がある。

概ね9時間〜10時間と言うところか、向こうは夜中だったわけである。

カヲルは少し眠いようだ。

 

「ほぉこれが日本の住居と言うものなんだね、少し手狭だねぇ」

「まぁ欧米に比べれば、日本は住居に関しては狭いからね、アスカも荷物が入りきらないって騒いでいたよ」

 

「そうだろうねぇ、特に女の子は荷物が多いからねぇ、レイ君も大変だったろ?」

「・・・私は鞄ひとつ」

 

「そ、そうだったね、僕も似たような者だけどね」

カヲルは少し引きつった。

 

「ところで、夜中に寝室にいないって事になるけど大丈夫?」

「そうだねぇ多分、朝までに帰れば問題ないと思うよ」

 

「じゃぁ3時ぐらいまでかな、ここに居られるのは」

「僕は徹夜した状態となるけどね・・・」

 

「こっちで昼食を取って帰れば、向こうで少し寝る事ができそうだね」

「そうだね、その方向でお願いするよ」

 

「じゃぁ軽い物でも食べて、作戦を練ろう」

「それは、いい考えだねぇ、賛同させて頂くよ」

 

そして、パンとベーコンエッグと言う軽い朝食を取り、今日の作戦を練った。

作戦と言っても、今日は顔合わせにして、アスカに嫌われない程度にと言う話で作戦もくそもなく、それより、カヲルは日本のテレビや日本製のゲームに興味を示していた。

 

「うーーん、テレビゲームはリリンの文化が産みだした娯楽の極みだねぇ」

などと言いつつ目を血走らせレイと対戦していた。

 

「・・・無駄」

レイに惨敗であったが。

 

お昼前にシンジはアスカを呼びに行った。

ランチと呼ぶには豪華な昼食を用意して。

 

葛城邸のチャイムを鳴らすシンジ

「誰ぇ〜」

アスカが出てきた。

 

「僕だよ、シンジ」

「あら、あんたから来るなんて珍しいわねぇ」

 

「今、友達が来てるんだ、よければ昼食一緒に食べない?」

「うーーん、さっき起きたところだから丁度いいわ、でもあんたの友達って誰?ケンスケとかじゃないでしょうね」

アスカがあからさまに嫌そうな顔をする。

 

「違うよ、アスカの知らない人さ、でもきっとアスカも気にいると思うよ」

「へぇあんたに学校以外で友達が居るとはねぇ、15分くらいしたら行くわ」

「解った、待ってるよ」

 

そう言ってシンジは自宅へ引き上げた。

 

カヲルを見てアスカは

「レイの親戚?」

とか言い出したが、まぁ色々と話をした。

 

カヲルはドイツから来ていて、お昼過ぎにはもう帰らなければいけないが、またちょくちょく来る事になると聞いてアスカは少し嬉しそうだった。

 

当然、ドイツ話で話しが盛り上がり、アスカとカヲルの出会いと第一印象はかなり良いものとなった。

 

「じゃぁ僕はそろそろお暇させて頂くよ」

「あら、もう帰っちゃうの?でも飛行機の時間があるなら仕方ないわね」

 

「そうだね、アスカさんもまたね」

「えぇカヲルもこっちに来たら必ず連絡しなさいよっ!」

「解ったよ、それじゃ」

 

「僕は、表まで見送って来るね」

「はいはぁい、行ってらっしゃぁい」

「・・・気をつけてね」

 

そうして、シンジとカヲルはアスカの見えないところで黒い穴に消えて行った。

「思った通りだったし、今はかなり精神も安定しているようだねぇ」

「カヲル君のおかげもあるよ」

「そうなのかい?」

「今度は、リエの後ぐらいに、また迎えに行くよ」

「宜しくお願いするよ」

 

そうして、シンジは戻って来た。

「あら?早いわねぇ」

「まぁね、外にお迎えを待たせて居たみたいだったから」

「へぇお金持ちなんだぁ〜」

 

「そうだね」

「あんた達、あいつが来たらあたしにも教えなさいよっ!」

 

「・・・解ったわ」

「勿論だよ」

 

その夜の食事時には、アスカはカヲルの話ばかりしていた。

かなり気にいったようである。