第拾話
マグマダイバー
「えーーーーっ!!修学旅行に行っちゃダメーー!?」
明後日からの沖縄への修学旅行に備えて準備万端、そのために新調した水着もバッチリ入れた荷物を前にして、アスカはミサトの言葉に絶叫した。
それに対して、ミサトは「そう」とあっさり言うと、お茶をすする。
「どうして!?」
「戦闘待機だもの」
「そんなの聞いてないわよ!」
「今言ったわ」
「誰が決めたのよ!」
どうしても修学旅行に行きたいアスカは食い下がる。
「作戦担当のあたしが決めたの」
ミサトの方は、あくまでも冷静に再びお茶をすすった。
だぁ〜っと駆け出し隣のシンジの家のチャイムをけたたましく鳴らせ、ドアを叩くアスカ。
(まずっ、応援を呼びに行ったわね)
「どうしたの?」
シンジが暢気に顔を出す。
「あんた、修学旅行に行けないって聞いてた?」
「いや、聞いてないけど?」
「ミサトが行っちゃ駄目だって言うの!あんたも来て抗議しなさい!」
「ちょ、ちょ、ちょっとぉ〜」
抵抗虚しく葛城邸に引きずられて行くシンジであった。
「ほら、シンジも聞いてないって言ってるわ、シンジ!なんとか言ってやんなさい!」
「えぇ〜っと」
「丁度良かったわ、シンジ君も戦闘待機で修学旅行行けないから」
ミサトが努めて平静を装い述べる。
「なんで、こんな急に言うんですか?」
「そ、そうよ!ミサト!あたしなんか水着まで買っちゃったんだからね!」
「そ、それはちょっち忙しくて通達が遅れたのよ」
実際は忘れてたミサトが狼狽する。
「まぁ行けないもんは仕方ないですけど、戦闘待機って全員居る必要あるんですか?」
「そ、そうよ」
冷や汗をかき始めたミサト。
「ところで戦闘待機って何時からですか?」
「だ、第三使徒が現れてからかしら」
「それだと変ですよね?アスカはこないだまで居なかったんだし、アスカだけでも行かせてあげてもいいんじゃないですか?」
「な、何言ってるのよシンジ!あんたが行かないんならあたしが行ける訳ないでしょ!」
「おやぁアスカったら「シンちゃんと」修学旅行に行きたいのかなぁ?」
ミサトがこれ幸いとアスカをからかう。
「そ、そんな訳ないでしょ!」
「葛城さん?」
「な、何かしら?」
からかいに動じないシンジにまたもや冷や汗を流すミサト。
「今回はもう仕方ないですけど、こういう事はもっと早めに言って下さい。もう明後日の話で班決めとか終ってて皆に迷惑掛かるんですから」
「・・・ゴミンなさい」
「何諦めてんのよ!飼い慣らされた男なんて最低ぇ〜っ!」
「ま、シンちゃんのことは置いとくとして、アスカ、丁度いい機会じゃない」
そう言ってミサトさんはアスカの成績が入ったフロッピーを取り出した。
「この際、遅れてる勉強を取り戻しなさい」
「ええぇ〜っ!?アタシだけぇ〜っ!?日本の減点式の試験には何の興味もないわっ!」
「だからこの機会に、アスカには漢字の書き取りをして貰います」
「んもう、さいってぇ〜っ!!」
「気持ちは分かるけど、こればっかりは仕方が無いわ。あなた達が修学旅行に行っている間に使徒の攻撃があるかもしれないでしょ?」
「いつもいつも待機待機待機待機!いつ来るかわかんない敵を相手に守ることばっかし!たまには敵の居場所を突き止めて攻めに行ったらどうなの!」
「それが出来ればやってるわよ・・・」
思わずミサトは苦笑をもらした。
―ネルフ室内プール―――――――――――――――――――――
アスカは修学旅行に行かない事の見返りに、このプールを2人だけで独占的に使わせてもらえるように提案して、ミサトから許可を得ていた。
「何してんの?」
「理科の勉強・・・」
アスカの問いに、ノートパソコンから目を離さずにシンジは答えた。
「まったく・・・お利巧さんなんだから・・・」
「そんな事言ったって、就職するにしても進学するにしても基礎を勉強しておかないと困ると思うから・・・」
「あんたバカァ?もうNERVにいるんだし、就職なんて関係無いじゃないの!」
「それは、解らないよ。アスカと違ってエヴァに乗れなくなったら僕はNERVには必要ないからね」
「エヴァに乗れなくなったらって?」
「だってエヴァって子供しか乗れないんでしょ?」
「そ、そうね・・・」
そんな先の事は考えてなかったアスカは言葉に詰まる。
「でもアスカは才色兼備だし、NERVの技術部とかでもやっていけそうだしね」
「・・・・・」
「じゃーん!新しい水着よ。沖縄でスクーバーできない代わりに、ここで潜るの」
話題を変えようと、アスカは修学旅行のために新調した水着を披露した。
その水着はかなり露出度の高いビキニタイプの水着で、その水着を買うために一緒に行った加持は、目のやり場に困っていたような品物だ。
「・・・随分きわどいけどアスカぐらいプロポーションが良いと似合うね」
「そ、そう?あ、ありがとう」
思わぬ反応が返って来て戸惑うアスカ。
(・・・そう碇君はあぁ言う水着が好きなのね?)
(・・・違うよ綾波ぃここでアスカの機嫌取っておかないと・・・)
(・・・そう、良かったわね)
(・・・綾波ぃ)
心の中で冷や汗を流すシンジだった。
「どれどれ、何やってるの?ちょっと見せて・・・」
少し照れてしまったのを隠すようにシンジのノートパソコンを覗くアスカ。
「こっちのこれって、なんて書いてあるの?」
「熱膨張に関する問題だよ」
「熱膨張?幼稚な事やってるのね。とどのつまり、物ってのは温めれば膨らんで大きくなるし、冷やせば縮んで小さくなるって事じゃない」
「そうだね・・・」
「私の場合、胸だけ温めれば少しはおっぱいが大きくなるのかな?」
「それだと、冷やすと戻っちゃうんじゃないの?」
「・・・バカ!」
(・・・なんで怒られたんだろう?)
(・・・解らないわ)
「見て見てシンジ!バックロールエントリー!」
バシャンと言う音を立ててアスカがプールに飛び込んだ。
「はあぁ・・・」
やはり溜息が出てしまうシンジだった。
アスカはアスカで、水に潜ってさっきの言葉を考えていた。
(エヴァに乗れなくなったら・・・か)
―浅間山地震研究所―――――――――――――――――――――
『限界深度、オーバー』
「続けて」
研究所内の緊張感が増す。
まだ使徒は発見されない。
「もう限界です!」
「いえ、後500、お願いします」
『深度1200、耐圧隔壁に亀裂発生』
「葛城さん!」
「壊れたらウチで弁償します。後200」
まだ問題の影は発見されない。
「モニターに反応」
「解析開始」
「はい」
『観測機、圧壊』
「観測結果は」
「ぎりぎりで間に合いましたね。パターン青、使徒です」
「これより当研究所は、完全閉鎖。NERVの管轄下に入ります。今後別命あるまで、研究所における一切の入退室を禁止。現在より、過去6時間での全ての情報を部外秘とします」
ミサトが携帯で話す。
『碇指令あてにA-17を要請。大至急』
『気をつけてください。これは通常回線です』
『わかってるわよ、さっさと守秘回線に切り替えて!』
シゲルの忠告もあっさり叱責へと代わった。
―モノリスの並ぶ会議室―――――――――――――――――――
「A-17・・・こちらから、打って出るのか」
男の声が、小さな驚きを含んで、言葉を発する。
「使徒を捕獲するつもりか」
「しかし、その危険は大き過ぎるのではないか?」
「左様、セカンドインパクトの二の舞とも成りかねない。」
「生きた使徒のサンプル、これがいかに重大な物であるかは自明の理です。」
ゲンドウは、低い声で答えた。
「いずれにせよ、失敗は許されんぞ」
キールの言葉と同時に、老人達は、闇に消えた。
「・・・失敗か・・その時は人類は消えているよ・・」
冬月が、呟くように言う。
「ああ、失敗しても我々は責任を取る必要は無い、我々も、そして責任を追及する老人達も消えているのだからな」
―ブリーフィングルーム―――――――――――――――――――
「これが使徒?」
アスカが尋ねる。
「そうよ、まだ完成体になっていないサナギの状態みたいなものよ。今回の作戦は使徒の捕獲を最優先とします」
(・・・まったく胎児を司る使徒のこの形態がなぜサナギだと思うかなぁ)
(・・・そこまで赤木博士には知らされていないのかも)
(・・・それでも父さんが使徒捕獲を優先する理由にはならないな)
(・・・そうね)
(・・・やっぱりA-17で資産の徴収が本当の目的だな)
(・・・そうね)
浅間山のマグマの中で発見された使徒のサナギの映像を見ながら、リツコが今回の作戦の詳細を説明し始めた。
「出来うる限り原形をとどめ、生きたまま回収する事」
「出来なかった時は?」
アスカが質問を発した。
「即時殲滅、いいわね」
「それならば最初から殲滅した方が良くないですか?」
珍しくシンジが作戦に意見を陳べた事にリツコは少し驚いたが、その質問にすぐに答えた。
「これからのためにも、生きた使徒のサンプルが必要なのよ」
(・・・それもアダムがここにあると思ってるはずなのに変だな)
(・・・赤木博士も解っていると言うことね)
「虎穴に入らずんば虎児を得ずですか?いきなり虎児が虎になりそうですが」
「何が言いたいの?」
「マグマの高熱と圧力に耐えているサナギ、羽化するとどれ程の力があるんでしょう?少なくともプログナイフが刺さるとは思えませんが、搬送中に羽化したらどうするんですか?捕獲後は?抑えておける確証はあるんですか?」
「それは・・・」
「あんたね、怖いなら怖いって言えばいいじゃない!それを、まわりクドイ言い方なんかして・・・シンジが嫌なら私が潜る!」
答えに詰まりそうになったリツコの言葉を遮って、アスカが名乗り出た。
「そうね、アスカ、弐号機で担当して」
「ふん、楽勝よ!こんなの」
「捕獲後の事もだよ!!何時、羽化するか解らないものを置いておいて見張りはどうするのさ?修学旅行どころじゃないよ!下手したら僕とアスカで二交代で張り付かなきゃいけなくなるかも知れないんだよ?」
「えっ?・・・そうなの?」
「しかも、次ぎの使徒が来るのと同時に羽化したらどうするんですか?」
「・・・・・」
リツコは回答に詰まってしまった。
「これは司令も認めた事なのよ。A-17が発令されたからもう後には引けないし時間もないのよ」
リツコが切り札を出した。
「いや〜、何よこれ〜!?」
エヴァへの搭乗準備中、耐熱装備のために膨らんだ赤いプラグスーツ姿にアスカは憤慨した。
「嫌だ、あたし下りる!こんなので人前に出たくないわ!こういうのはシンジの方がお似合いよ!」
「じゃぁ、僕が・・・」
「残念だけどD型装備は弐号機にしか装備できないのよ」
シンジが手を挙げようとしたところリツコが遮って説明した。
「格好悪いけど、我慢してね」
アスカは弐号機に呟いた。
―浅間山――――――――――――――――――――――――――
「あれ?、加持さんは?」
『あのバカは来ないわよ、仕事ないもの』
「ちぇー、せっかく加持さんにもいいとこ見せようと思ったのに」
軽い調子でアスカが呟く。
「なんですか、あれ?」
上空を飛んでいる飛行機を見つけたシンジが聞いた。
『UNの空軍が空中待機してるのよ』
『この作戦が終わるまでね』
「手伝ってくれるの?」
明るい声でアスカが聞く。
『いえ、後始末よ』
『わたし達が失敗した時のね』
「どういうこと?」
『使徒をN2爆雷で熱処理するのよ、わたし達ごとね』
「酷い!誰がそんな命令出すのよ!」
「どうせ、また父さんでしょ?」
『『「・・・」』』
「見て見てシンジ、ジャイアントストロークエントリー!」
そう言いながらマグマに入っていくアスカに、シンジは溜息をついた。
『限界震度オーバー』
『アスカ、どう?』
「まだ持ちそう。さっさと終わらせてシャワー浴びたい」
(プラグスーツと言うよりサウナスーツね)
アスカは呟いた。
『近くに良い温泉があるわ。終わったら行きましょう。もう少し頑張って』
―ビシッ!―
耐熱装備が軋み始め足に巻いて装備していたプログナイフが脱落してマグマの底へと消えて行く。
『エヴァ弐号機、プログナイフ、焼失』
『限界震度プラス200』
『葛城さん、もうこれ以上は!今度は人が乗っているんですよ!』
『この作戦の責任者は私です。続けて下さい』
その時、誰知れず初号機は、僅かに火口に近づくように膝を進めて態勢を整えた。
それとほぼ同時に弐号機のアスカから通信が入った。
「居た!」
『お互い対流に流されているから、接触のチャンスは一度しかないわよ』
「わかってる」
そう答える映像のアスカは、汗だくだった。
『目標接触まであと30』
「電磁柵展開、問題無し。目標、捕獲しました」
『ナイス、アスカ!』
仮設の発令所から、ミサトを含めて一斉に安堵の溜息が漏れた。
「あなたもホントは今回の作戦、怖かったんでしょ」
「当然よ。下手に使徒に手を出せば、あれの二の舞ですからね」
「そうね。セカンドインパクト・・・二度とごめんだわ」
リツコとミサトがもう成功した気になっている。
「アスカ!気を抜かないで!」
シンジがアスカに注意を促す。
「判ってるわよ。・・・前回と同じ間違いなんてしないわよ」
(前回はそれで大恥をかいたんだから・・・)
シンジの言葉にアスカは思いなおして弛みそうになった気を引き締めなおす。
使徒のサナギを捕獲した弐号機は、冷却パイプに引き上げられるように浮上を開始した。
―ビーーーッ!―
突然、仮設の発令所内に警報音が鳴り響いた。
『まずいわ、羽化をはじめたのよ!計算より早過ぎるわ』
「アスカ!ナイフを落とすよ!受け取って!」
ほとんど間を置かずに初号機は自分のプログナイフを火口に向かって投げ入れた。
シンジの言葉に何も武器を持っていない事に気がついてアスカは青くなった。
『・・・捕獲中止、キャッチャーを破棄。作戦変更、使徒殲滅を最優先!』
シンジの行動に一瞬気を取られていたミサトだったが即座に作戦変更の指示を出した。
「きゃー来ないでぇ、早く来てぇ〜!」
なかなか落ちてこないナイフが気になって、ナイフが来る前に使徒が近寄って来るのを拒んで訳の解らない事を口走っている。
そこに使徒が突っ込んできた。
「くっ、バラスト放出!」
状況判断と反射神経に優れたアスカは、バラストを切り離して軽くなった分だけ浮かび上がる事で使徒との衝突を回避した。
「まずいわね、見失うなんて・・・」
使徒はマグマの対流に乗って弐号機から離れて行き視界から消えた。
「来た!」
アスカは落ちてきたナイフを装備した。
それとほぼ同時に対流で回遊してきた使徒が、正面に姿を現した。
「こんのーーーーーー!」
使徒にナイフを突き立てたのだが使徒の皮膚を貫けない。
『高温高圧、これだけの極限状態に耐えているのよ。プログナイフじゃダメだわ』
(そんな事、シンジが言ってたじゃない!)
あまりに計画性の無い作戦である事に気がついて怒鳴りたくなる。
「アスカ!熱膨張!!」
「!!」
シンジの言いたい事に気がついたアスカは、冷却パイプの一本を引き千切ると使徒の口へと突っ込んだ。
「冷却液の圧力を全て3番にまわして、早く!!」
内側と外側の圧力差で使徒の皮膚が微妙に歪んだところに、再度突き立てたナイフは内部に食い込み始め、使徒はそこからボロボロと崩れ落ちるように消えていった。
しかし、使徒が最後の足掻きのように伸ばした手が、命綱でもある冷却パイプにかかり引き千切られていて、もはや弐号機の重さを支えられず徐々に切れ目が大きくなっていく。
「せっかくやったのに・・・やだな、ここまでなの・・・」
―グンッ!―
絶望を感じた時、急に襟首を捕まれて引き上げられるような感覚にアスカは顔を上に向けた。
そこにはマグマの熱で表面が泡立ち塗装が溶け始めながらも、片手は冷却パイプを掴み、もう片方の手で弐号機の襟のあたりを掴んでいる初号機の姿があった。
「シンジ・・・。バカ、無理しちゃって・・・」
憎まれ口を叩きながらも、アスカは微笑んでいた。
―浅間山ロープウェイ――――――――――――――――――――
「A-17、何故止めなかったの?」
「私にそんな権限はありませんよ。発令は正式な物でしたんでね」
加持と女性が話している。
「A-17、それには現有資産の凍結も含まれていた」
「お困りの方も、さぞ多かったと?」
「失敗していればセカンドインパクトの二の舞だったわ」
「彼らはそこまで傲慢じゃありませんよ」
―浅間山温泉――――――――――――――――――――――――
「ごめんくださーい。ネルフの関係の人、いますか」
「あ、はーい」
シンジが出てみると、クール宅急便の宅配員がダンボールを一つ抱えて玄関で待っていた。
「宅急便です。ここにサインをお願いします」
サインするシンジ。
「毎度どうも」
差出人を見てみると、加持リョウジとなっている。
「あれ?加持さんからだ・・」
そしてダンボールを開けようとすると中からはペンペンがバサバサッと飛び出してきた。
「お風呂、そこを左だよ」
「クェー」と一声、ペタペタと走り去る。
シンジはペンペンと温泉に浸かっている。
「シンジくぅん居るぅ?」
「はぁいいますよぉ」
ミサトが女湯から叫んでいるので取り敢ず応えた。
「ボディーシャンプー投げてくれるぅ?切れちゃったのぉ」
「はぁ〜い」
ポーンと投げた後、アスカが何か言って、ミサトがアスカの身体を何かしていたようだが取り敢ずシンジは温泉に浸かる事を楽しんで居た。
(・・・誰か来たらすぐ融合するんだよ?)
(・・・わかったわ)
シンジからレイが分離して、シンジの横にピッタリと着いて湯に浸かっている。
「・・・これが温泉と言う物だったのね」
レイは温泉に入った事がないと言う事で無理を言って分離して貰ったのだ。
「まぁ地下熱で暖められている地下水だけどね」
「・・・情緒がないわ」
レイに責められるシンジだった。
因みにシンジは微弱にATフィールドを緩め、周りに人が近づかないか気を配っている。
お湯に浸かりほんのり赤くなったレイは、艶っぽい。
思わず赤くなってしまうシンジだった。
「今度、皆と一緒に来たいね」
「・・・そうね」
「あの島、温泉でないかなぁ?今度掘ってみようか」
「・・・賛成だわ」
「誰か来たみたいだ、綾波、重なって」
「・・・解ったわ」
少し名残惜しそうだが、シンジに口吻して融合するレイだった。
儀式はこんな状況でも有効らしい。
シンジは湯から上がり、出ようとしたところで男とすれ違った。
(・・・誰だったんだろう?)
(・・・解らないわ)
温泉から上がると食事の用意が出来ていた。
ミサトは例によってビールを飲みまくって今日は日本酒にまで手を出して居る。
触らぬ神に祟りなしと、シンジは食事をそそくさと切り上げ散歩に出ていた。
(・・・今日も月が綺麗だね)
(・・・そうね)
レイと話ながら涼んで居るとアスカがやって来た。
「やぁアスカ、涼みに来たの?」
「ミサトから逃げて来たのよ!」
「そっかぁ、かなり出来上がってたみたいだったもんね」
シンジは軽く微笑んだ。
アスカが何か言いたそうなので、シンジは切り出した。
「どうかしたの?」
「・・・きょ、今日は助けてくれて、あ、ありがとう・・・」
「あぁ、どういたしまして♪」
シンジはニッコリと微笑んだ。
ちょっと赤くなるアスカ。
「あ、あんたさ、何であんなに反対してたの?」
「理由はあの時言った通りだけど?」
「・・・そう」
「アスカはさ、エヴァに乗れなくなったらどうするの?」
「ま、まだそんな事、考えてないわよ!」
「そう?でも前聞いた時はエヴァに乗れるのは13歳から15歳の子供って聞いたんだよね」
それはアスカも知っていた。
「そうすると、長くて後2年、高校に入る頃には乗れなくなるってことだよね」
「そうよ、だから今、私はエヴァで一番になるの!」
「もう一番じゃない」
「えっ?」
「今エヴァのパイロットは二人しか居ない、そして僕よりアスカの方がエヴァの操縦は旨い。皆そう思ってるよ」
「私は思ってないわ!」
「そっか、でも僕は、何時死ぬかも解らない今の状況では、もっとやっておかなきゃ行けない事がありそうで不安なんだけどね」
「不安?あんたが?」
「そう、大事な事をやり残しているような不安・・・アスカにはそんなのない?」
「私はエヴァで一番になる事だけを考えていたから他の事なんか考えた事ないわ」
「まぁ僕もそれが何か解ってないから、偉そうな事言えないけどね」
シンジは微かに微笑んだ。
「あんた、本当にバカね」
「そうだね」
二人は笑っていた。
しかし、アスカには、今までエヴァに拘っていた自分に疑問が浮かび上がっていた。