第八話

アスカ、来日

 

「ミル輸送ヘリ!こんなことでもなきゃ、一生乗る機会なんてなかったよ〜ほんと持つべきものは友達って感じだよシンジ・・・」

(・・・何時友達になったんだ?)

(・・・さぁ?)

(・・・まぁ解ってたことだし、いいけどね)

(・・・私は楽しみだわ)

 

そう言って、はしゃぐケンスケの声を聞きながら、シンジは恐らくこのあと出会うであろう少女の事を考えていた。

 

ここは、空母オーバーザレインボーでドイツから運ばれてきたエヴァ弐号機と、そのパイロットであるセカンドチルドレンを引き取りに向かう輸送ヘリの中・・・。

客室の乗員はミサト・シンジ・ケンスケの3人。

 

日曜日だったが、ミサトが呼びに来るだろうとシンジが自宅で待機していると、ケンスケがレイのデータを持って来たのだ。

ディスク数枚を持ってきたケンスケを押し返す理由もなく、家に上げてパソコンでデータの説明を受けている所にミサトがやって来た。

 

「あら、シンちゃん忙しい?」

 

「いえ、特に忙しいわけではないです・・・」

 

「あっ、葛城さん。おはようございます」

ケンスケが目を光らせて挨拶する。

 

「相田君だったっけ?、おはよう。ところで、シンちゃん。今日、一緒に着いて来て欲しいところがあるんだけど・・・」

 

「え?かまいませんけど?・・・」

 

「うーん、相田君も一緒に来る?」

「え?いいんですか?」

「もちろん!」

「やった〜碇、行くぞ!!」

(ああ、憧れのミサトさんと出掛けられる・・・)

 

完全に舞上がったケンスケは、シンジを引きずるようにしてミサトについて歩き出していた。

 

そして今に至る。

 

「ああ、見えたわよ。ほら、太平洋艦隊だわ」

「おおう、空母が五、戦艦四、大艦隊だ。正にゴージャス!流石国連軍が誇る正規空母、オーバー・ザ・レインボー!」

ケンスケは更にテンションを上げている。

 

「あんな老朽艦が良く浮いていられるものねー」

「いやいや、セカンドインパクト前のビンテージ物じゃないっすかあ」

 

(・・・ミサトさんも何でこういう言い方するかなぁ?)

(・・・何か問題あるの?)

(・・・少なくともエヴァを運んで貰ってるんだよ?もう少し感謝の意を表すべきだと僕は思うけどね)

(・・・そう、葛城一尉は感謝が足りないのね?)

(・・・敢えて敵を増やしているのは間違いないね)

シンジは小さく溜息をついた。

 

「おお、空母が5、戦艦が4・・・。太平洋艦隊の揃い踏みだ〜!」

 

その光景をケンスケが必死に写真に収める中、ヘリはオーバーザレインボーに着艦し、3人は空母に乗り移った。

 

「ヘロゥ、ミサト!元気してた?」

 

突然、少し上方にある甲板から声がかかっので声のする方に目をやると、黄色いワンピースを着た赤っぽい金色の髪に青い瞳をした少女が、腰に手を当てて見下ろしていた。

 

「まあね、あなたも背、伸びたんじゃない?」

「そ、他の所もちゃあんと女らしくなってるわよ?」

「紹介するわ、エヴァンゲリオン弐号機のパイロット、惣流・アスカ・ラングレーよ」

 

その時、甲板に突風が吹いて少女のワンピースの裾が捲れ上がった。

 

パンッ、パンッ!

 

「何するんだよっ!」

その平手打ちのためカメラのレンズに罅が入ったケンスケが叫んだ。

 

「見物料よ、安いものでしょ!」

ケンスケは涙目になってカメラのレンズを取り替えている。

(・・・流石だ、予備を持って来ているなんて)

 

「で、噂のサードチルドレンってどれ?」

「この子よ」

「ふーん。なんか冴えないわね・・・」

 

「・・・どうも・・・」

 

「ふんっ、アタシが来たからには、もうアンタには用はないわ!使徒は全部アタシが倒してあげる」

 

「そう?それは助かるよ。頼りにしてるよ、葛城さん、用事があるんじゃないんですか?さっさと済ませましょう」

「そ、そうね・・・」

アスカのシンジに対する第一印象は最悪だった。

(な、なによこいつ、むかつくぅ〜〜〜)

 

アスカを引っ張り小声で話すミサト。

「な、なによ!」

「アスカ、・・・シンジ君この間の使徒戦で恋人を亡くしちゃったから余りつっかからないで頂戴」

「えっ?!」

 

 

 

「おやおや、ボーイスカウト引率のお姉さんかと思っていたが、それはどうやらこっちの勘違いだったようだな」

差し出された写真入り金地のNERV製ネームカードを眺めながら、皮肉な言い方で艦長は言った。

 

「ご理解いただけて、幸いですわ」

ミサトは平然とした顔で受けて流す。

 

「いやいや、私の方こそ、久しぶりに子供達のお守りが出来て幸せだよ」

丁々発止と艦長とミサトがやり合っている中、ケンスケはお構いなしに歓声を上げながら二台目のカメラでブリッジ内をひたすら撮影し続けている。

 

「この度はエヴァ弐号機の輸送援助、ありがとうございます。こちらが非常用電源ソケットの仕様書です」

そういってミサトは艦長に、手に持っていたクリップでまとめられている紙の束を渡した。

その言葉を聞いた途端、制帽の影の下で顔をしかめる艦長。

 

「はっ!だいたいこの海の上で、あの人形を動かす要請なぞ聞いちゃおらん!」

「万一の事態に対する備え、と理解していただけますか」

「その万一に備えて、我々太平洋艦隊が護衛しておる----いつから我々国連軍は宅配屋に転業したのかな」

副長に意見を求める艦長。

 

「某組織が結成された後だと記憶しておりますが」

「おもちゃ一つ運ぶのに、たいそうな護衛だよ。太平洋艦隊勢揃いだからな」

「エヴァの重要度を考えると足りないぐらいですが。では、この書類にサインを」

「まだだ」

ファイルを差し出したミサトは、その艦長の言葉にぴくぴくと眉を引きつらせた。

 

「エヴァ弐号機および同操縦者は、ドイツのネルフ第三支部より本艦隊が預かっている。君らの勝手は許さん」

「では、いつ引き渡しを?」

「新横須賀に陸揚げしてからになります」

副長も慇懃な物腰で、取り澄ました言い方をする。

 

「海の上は我々の管轄だ。黙って従ってもらおう」

「わかりました。ただし有事の際は、我々ネルフの指揮権が最優先であることをお忘れなく」

 

「相変わらずりりしいなぁ」

「加持先輩!!」

男の声に反応して、頬を紅くしながらそちらのほうに手を振ってみせるアスカ。

 

「よっ」

「うがっ!?」

ミサトがいやな予感をさせながら振り向いたドアの所には、彼女のよく見知った顔があった。

素っ頓狂な声を挙げ、あからさまに「ゲッ」という顔をするミサト。

 

「加持君!君をブリッジに招待した覚えはないぞ」

「それは失礼」

艦長の言葉をひょうひょうとした態度ですり抜ける加持。

 

 

「では、これで失礼します。新横須賀までの輸送をよろしく」

敬礼をしながらミサトは艦長へとそういい、はしゃぐケンスケを押しやりながら下へ向かうエレベーターへと向かった。

後に残った艦長と副長は、いやそうな顔をしながら会話した。

 

Shit!子供が世界を救うというのか!」

「時代が変わったのでしょう。議会もあのロボットに期待していると聞いています」

「あんなロボットにか!バカ共め、そんな金があるのなら、こっちに回せばいいんだ」

そう苦々しげに言い捨てる艦長。

肩をすくめる副長。

 

 

 

―士官室――――――――――――――――――――――――――

その頃シンジは加持の部屋を訪れていた。

(・・・加持さんも迂闊だね)

(・・・そうね)

ベッドの上に無造作に置かれている頑丈そうなスーツケースに向かいシンジは手を翳す。

ケースの中から浮き出る赤い光、それをシンジは手で掴むと自分に胸に押しやった。

(・・・これで碇君も魂の回収は終了ね)

(・・・そうだね)

そしてシンジは黒い穴に消えて行った。

 

 

 

―エレベータ内―――――――――――――――――――――――

「何でアンタがここにいるのよ!」

「彼女の随伴でね。ドイツから出張さ」

3人しか乗っていないエレベーターの中、ミサトと加持はギリギリのポジションで向かい合っていた。隅っこにエレベーターの外すら撮影するケンスケがいたり、つんとした顔で加持の横に陣取っているアスカがいたりしたが、そこのあたりは細かいことだろう。

「迂闊だったわ。充分考えられる事態だったのに・・・ちょっと、触らないでよ!」

「仕方ないだろ?」

 

四人は館内の士官食堂へと降りてきていた。

 

「あら?そう言えばシンジ君は?」

「シンジならさっき酔ったみたいだから風に当たって来るって言ってましたけど?」

ケンスケが答える。

 

「あっシンジ君!」

ミサトが食堂のトイレから出てくるシンジを見つけ、合流した

 

5人でテーブルに腰掛けそれぞれ思い思いの物を飲んでいる。

 

「今、つきあってるやつ、いるの?」

「そんな事あんたに関係ないでしょ!」

素っ気なく言い放つミサト。そんな中テーブルの下では加持の足がミサトの足へと伸び、人知れず攻防が繰り広げられている。

 

「つれないねえ」

 

そんな加持とミサトのわけありげな関係を不振な目で見る、ケンスケ、アスカの二人。

 

「ところで、碇シンジ君、君は葛城の隣に住んでいるんだって?」

「・・・えぇ」

「じゃぁ彼女の寝相の悪さが治ってるかどうかなんて解らないか?」

「・・・えぇ」

 

「な、な、な・・・・何いってんのよ!」

顔を耳まで真っ赤にしながら、テーブルを叩くミサト。それを軽く流して加持はシンジに言葉を向けた。

 

「相変わらずのようだな、碇シンジ君」

「・・・僕に何かようですか?」

 

「どうしてそう思うんだい?」

「・・・そんなどうでも良い事を僕に振るからです」

 

「そりゃあ、この世界じゃ君は有名だからね。何の訓練もなしにエヴァを実戦で動かしたサードチルドレン」

「・・・そうですか?」

 

軽くウィンクした加持、苦笑で返すシンジ。

と、一瞬だけアスカはシンジへ明らかな嫌悪の目を向けた。

 

「・・・じゃ、また後でな」

そういって加持が席を立った後も、ミサトはぶつぶつと「冗談じゃないわ、これは悪夢よ」等と呟いていた。

 

艦外のデッキに立つ加持とアスカ。

「どうだ、碇シンジ君は」

手すりにもたれかかっている加持。

 

「サイッテー!あんなのがサードチルドレンだなんて信じられない!」

海の方を見ながら、手すりを使って体を手で浮かせているアスカ。

 

「だが、彼のシンクロ率はいきなりの実戦で90%オーバーらしいぞ」

「嘘!」

険しい顔で爪を噛むアスカ。

 

 

「サードチルドレン!ちょっと付き合って」

その高飛車な声に見上げるシンジ。エスカレーターの上には腰に手を当て見下ろすアスカの姿が。

 

(・・・さてどうしよっか?)

(・・・乗らないと、ガギエルを回収するのが面倒)

(・・・それもそうだね)

 

 

 

―オセロー―――――――――――――――――――――――――

ヘリでタンカーに移った二人。

アスカは、そのタンカー中央部にある巨大なシートの一部分をめくって見せた。

その下からのぞいたのは、なみなみと液体のひたされたプールに浮かぶ、エヴァンゲリオン弐号機。

 

「紅いんだね、弐号機って」

「違うのはカラーリングだけじゃないわ」

そういいながら弐号機を上っていって、あっという間に胸の頂上の部分まで上り、仁王立ちするアスカ。

 

「所詮、零号機と初号機は開発過程のプロトタイプとテストタイプ。訓練なしの貴方なんかにいきなりシンクロするのが、そのいい証拠よ。けど、この弐号機は違うわ!」

手で弐号機を指し示しながら、活き活きとして話す彼女。

 

「これこそ実戦用に作られた、世界初の、本物のエヴァンゲリオンなのよ。制式タイプのね」

「・・・・・」

 

黙ってその様子を見ているシンジ。

と、その時

 

―ドッゴォォ〜ン―

 

激しい衝撃音と共に、艦内が大きく揺れる。

しかし、それにも関わらず体勢を崩さないアスカとシンジ。

 

「水中衝撃波!爆発が近いわ」

 

スーッと滑り降り、外に駆け出すアスカとそれを追うシンジ。

甲板にでた二人からは、次々と艦を吹き飛ばし、水柱をあげながら艦隊の外側から迫り来る巨大な何かが見えた。

「使徒」

「あれが?本物の?」

「葛城さんの所に戻る?」

 

しかしアスカは

「チャ〜ンスッ」

 

 

 

―ブリッジ―――――――――――――――――――――――――

『各艦、艦隊距離に注意の上、回避運動』

 

艦内アナウンスがブリッジに響く。

そのブリッジでは、先ほどまでと一変して修羅場と化した艦長・副長の二人が指示をとばしていた。

 

「状況報告はどうした!?」

『シンメリン、沈黙!タイタスランド、リカス、目標確認できません!』

「くそっ、何が起こっているんだ!?」

 

副長の言葉に帰ってきたのは徹底的に無惨な戦果。思わず怒鳴る艦長。

そこへミサトが、ブリッジにケンスケを連れて登場した。

その顔はさっきのお返しとばかり、にや〜っとしている。

「ちわ〜っ、ネルフですが。見えない敵の情報と、的確な対処はいかがっすか〜?」

 

「戦闘中だ!見学者の立ち入りは許可できない」

「これは私見ですが、どう見ても使徒の攻撃ですねぇ」

艦長はミサトの言葉を完全に無視した。

 

「全艦任意に迎撃」

「無駄なことを」

真顔に戻って呟くミサト。

戦艦全砲門から魚雷が一斉発射されるが、何発もの直撃を受けても意にも介さず進み、またしても空母を一つ真っ二つにして沈没させる使徒。

 

手すりに寄りかかって見物している加持。

「この程度じゃ、ATフィールドは破れない、か」

 

「しかし、なぜ使徒がここに・・・まさか!?」

ミサトはミサトで、ブリッジで思い当たることがあるようだった。

 

 

 

―オセロー―――――――――――――――――――――――――

アスカはシンジの手を引っ張ってしばらく艦上をうろうろしていたが、ちょうど下へと続く階段を見つけ、そこの入り口で止まってシンジに強い口調で言い聞かせる。

「ちょっとここでまってなさいよ」

 

それからアスカは階段を素早く駆け下りると、着替えだした。

全てを脱ぎ捨て、中学生とは思えぬプロポーションをさらけ出すアスカ。

アスカは手首のスイッチを押してプラグスーツを引き締めると、自分に対し呟いた。

「アスカ、いくわよ!」

 

 

 

―ブリッジ―――――――――――――――――――――――――

悠々と、まるで小馬鹿にするかのように泳ぎ回る海中の使徒へ洋上のフリゲイト艦からは立て続けにミサイルが飛ぶが、何度やっても大きな水柱の後にはまったくノーダメージの使徒の姿が現れる。

 

「なぜ沈まん!」

その様子を見ていた艦長は、ぐぅ、と歯ぎしりをした。

 

「ま、気長にやることです」

艦長同様歯ぎしりをする副長の後ろから、若い男の声。

 

「「気長に出来るか!」」

「ごもっとも」

男は肩をすくめた。

 

 

 

―オセロー―――――――――――――――――――――――――

弐号機の前では、シンジとアスカが一悶着起こしていた。

 

「いいから黙って着替えなさい!」

「でも、これ、君の予備じゃ?」

「アンタのがないんだから仕方ないでしょ!」

(・・・はぁやっぱり着る事になるのかぁ)

 

アスカの真紅のプラグスーツを手渡されて、シンジは困っていたようだが結局は強引に押し切られてしまった。

しばらくして物陰から現れたシンジの紅いプラグスーツ姿は、アスカの笑いを誘った。

「ぷっ!・・・・・・・アハハハハハハハハッ!!」

「そんなに笑うことないじゃないか」

珍しくむくれてみせるシンジ。

アスカは笑いたいだけ笑うと、急にまじめな顔になってシンジを指さした。

「私の見事な操縦、見せてあげる。ただし、邪魔はしないでね」

シンジもシリアスな顔をして頷くが、その様がおかしかったのかアスカはまた爆笑した。

「あ、アンタ・・クスクス、それ正式なプラグスーツにしなさいよ。それ、あげるわ」

「いらないよ!」

 

エントリープラグに乗り込みアスカがシンクロシステムをスタートさせる。

L.C.L Fullung. Anfang der Bewegung. Anfang des Nerven anschlusses. Ausoloses von links-Kleidung. Sinkio-start」

 

アスカのなめらかなドイツ語がエントリープラグ内に響いた。

思考ノイズによりエラーが出ると思っていたアスカは、驚き声をあげた。

「あんた!ドイツ語できるの?!」

その途端鳴り響くエラー。

 

「いや、何も考えないようにしてただけだよ、それより思考言語切り替えた方が無難だと思うけど?」

「わかったわよ!もう!!思考言語切り替え、日本語を基本にフィックス」

 

途端にモニターが鮮明になり、外部の状況がなだれ込んでくる。

「エヴァンゲリオン弐号機、起動!」

 

 

 

―士官室――――――――――――――――――――――――――

「こんなところで使徒襲来とは、話が違いすぎませんか?」

加持が携帯電話で連絡を取っていた。

 

『問題ない、その為の弐号機だ・・・パイロットも追加している。最悪の場合、例の物を持って、君だけでも脱出したまえ』

 

「......分かってます」

それきり電話は切れた。

加持が一つ溜め息を吐く。

懐からタバコを取り出すと口に咥える。

 

 

 

―ブリッジ―――――――――――――――――――――――――

『オセローより入電。エヴァ弐号機、起動中』

「何だと!」

 

使徒の動きを静かに観察していたミサトも、ケンスケもガラスに張り付いて艦上で動き出す弐号機を見守った。

 

「ナァイス!アスカ!」

そういってからミサトは、弐号機と交信している艦長の手からマイクをもぎ取って聞いた。

 

「シンジ君ものってるのね!」

『・・・えぇ』

 

「...試せるか......」

ミサトは少し考え込んだ後、ポツリと呟いた。

 

「いかん!起動中止だ、直ぐに戻せ!!」

マイクに向かって艦長が叫ぶ。が、後ろからミサトがそのマイクをひったくるとアスカに命令を出す。

「かまわないわ、アスカ!発進して!!」

再びマイクを奪い返す艦長。

「エヴァ及びパイロットは我々の管轄下だ!勝手は許さん!!」

 

―ガッゴオォォォン―

 

急に大きな破壊音が、マイクの内外から響き渡った。使徒が弐号機のまだ載っていたオセローを破砕したのだ。

 

「なんて無茶をする!」

艦長は驚愕と非難の叫びをあげた。

 

間一髪、タンカーを踏み台にして跳躍した弐号機はイージス艦の上に着地したのだ。

当然その質量と衝撃に耐えられず、巨大な波しぶきがイージス艦のまわりに起こる。

が、バランスを完璧に取り直した弐号機は、その手に持つ機体を覆い隠していたカバーをマント状にまとい、さらに跳んだ。

 

「アスカ、あと58秒しか保たないわ」

『わぁかってる!ミサト!非常用の外部電源を甲板に用意して』

「わかったわ」

何かいいたそうにしている艦長を一瞥して、ミサトは応えた。

 

「いい?跳ぶわよ」

「・・・どうぞ」

シンジが返事をした瞬間、マントにしていたカバーを投げ捨て、大跳躍を見せる弐号機。

一隻、また一隻と確実に大損害を与えながら空母へと、まさに八艘跳びを行う弐号機の予備電源ケーブルを用意している空母甲板は、大慌てで人が蜘蛛の子を散らすように艦内に逃げ込んでいる。

使徒も弐号機の後を、まるでとどめを刺していくがごとく、踏み台にされた艦を貫きながら迫っている。

 

「予備電源出ました!リアクターと直結完了!飛行甲板退避!」

「エヴァ着艦準備よし!総員対ショック姿勢」

 

「デタラメだ!」

艦長は再び驚愕と非難の叫びをあげた。

 

『エヴァ弐号機、着艦しま〜す!』

アスカのやけに嬉しそうな声が、マイクを通してブリッジに響きわたる。

 

だが、もっと強烈な声がブリッジを貫いた。

「「あああっ、Su-27がぁっ!」」

着艦の衝撃で傾いた空母の甲板から海に落ちていく戦闘機。それを見たケンスケと艦長が同時に叫んだのだ。

 

「くぅ、これ以上の予算編成は無理なんだぞ!」

「なんてこった!こんな事なら全角度からデジタルカメラにおさめとけばよかった」

そんな艦内の喧噪とは別に、甲板ではソケットを取り付けて準備万端の弐号機。

 

「...来る!」

「分かってる!!外部電源に切り替え...完了。さあ、かかってきなさい!!」

電源メータが無限大を現す8を表示する。

肩口からプログナイフを抜き水平に構えると、プログナイフの刃が淡い光を発する。

そこにガギエルが突っ込んできた。

 

「くぅうぅぅ......こんのぉぉぉぉ!!!!」

正面からガギエルを押さえ込む弐号機。

強烈な突撃の影響で船体が大きく傾ぐ。

弐号機は衝撃で手に持っていたプログナイフを甲板上に取り落としたが、かまわずガギエルを押さえつける。

ガギエルの強烈な体当たりを何とか凌いでいた弐号機だったが、慣性の法則によって船体が揺れ戻った衝撃で、甲板の舳先に置いていた片足を踏み外してしまう。

 

「きゃぁぁぁぁ!な、なによぉぉぉ!!」

「......落ちる」

 

「B型装備じゃ海中戦闘は無理だよ」

「そんなのやってみなくちゃわかんないでしょ」

しかし、プログナイフは体当たりの衝撃で海底に落としている。くわえて海中のため、弐号機の動きも極端に鈍い。

 

「くぅ、絶体絶命って奴じゃないの!まったく、無茶するんだから、アスカ」

ブリッジで苦い顔をしているミサトの、もはや粉々に砕け散ったガラスを通すこともなくなった視線の先では、弐号機に電力を供給しているアンビリカルケーブルがトランス付きのボビンから猛スピードで送り出されている。

 

と、幸いにも損傷を免れていた一つのエレベーターから戦闘機が上ってきた。

「あれは・・・加持君!」

思わず嬉しそうな顔をするミサト。

しかし、次にブリッジのスピーカーから入ってきた音声は

 

『悪い葛城ぃ!届け物があるんで、俺、先に行くわぁ』

 

呆気にとられているミサトをよそに、あっという間に離陸して飛び去っていく加持を乗せたYak-38改。

『じゃ、よろしく〜、葛城一尉(はぁと)』

「・・・に、逃げた」

信じられないものを見る目つきで、飛び去るYak-38改を眺めながらケンスケは言った。

 

「・・・来る!!」

「くちぃいぃ!?」

「使徒だからね」

 

一瞬静寂が訪れる。

 

『きゃぁぁぁあ!!』

『くぅぅぅ!!』

二人の悲鳴と同時に水柱が上がる。

どうやらガギエルが跳ねたらしい。

その口の中には、弐号機がガップリと咥えられていた。

 

「おい・・・食われたぞ!」

「ええ・・・食われましたね」

 

「ギャラリーは黙ってなさい!!二人とも大丈夫!?」

背後の二人に怒鳴りつけるとマイクに向かって吼える。

 

『な、何とか・・・ね』

『だ・・・いじょうぶです』

二人から返事が返って来た事にミサトは胸を撫で下ろす。

 

「クッ!二人ともケーブルが無くなるわ!衝撃に備えて!!」

声と同時にケーブルの残りが無くなる。

水中では弐号機がピーンと張られたケーブルの衝撃で、ガギエルの口内の更に奥へと潜り込んだ。

 

つんのめるアスカとシンジ。

しかし、シンジはその瞬間、アスカの首の後ろから手刀を入れた。

気絶するアスカ。

 

シンジは、二号機の手を使徒のコアにあてる。

霧散していく使徒。

 

『葛城さん、使徒消滅しました。アスカは気絶しています。ケーブルを巻き上げて回収してください』

 

「な、なにが起こったの?」

『ケーブルが一杯になった衝撃で、使徒の口の奥に入り、その時口の中にあったコアを潰した様です』

 

「そ、そう・・・回収するわ」

 

 

 

―第壱中学―――――――――――――――――――――――――

始業のチャイムが鳴る。

教室のドアから担任教師がやってきて、開口一番

 

「今日は転校生を紹介します」

 

アスカは周囲のざわめきをよそにすました顔で黒板の前へ行くと、白チョークで流麗な筆記体の名前を書いた。そして振り返り、人当たりのよい笑顔で一言。

 

「惣流=アスカ=ラングレーです」

 

その金髪と青い目にざわめく教室の中、ケンスケは転けていた。