第五話

レイ、心のむこうに

 

―第二実験場(22日前)―――――――――――――――――――

「これより起動実験を始める」

ゲンドウの声で実験が始まった。

 

そして、暫くして事件は起こった。

「パルス逆流!!」

「中枢神経素子にも拒絶が始まっています!」

「コンタクト停止!」

リツコ博士の指示で各職員が必死に現状を打開しようとする。

 

零号機が拘束具を引き千切った。

「実験中止!」

「電源を落とせ!!」

「零号機内部電源に切り替わりました!」

 

零号機は壁を殴り付けている。特殊装甲の壁がいとも簡単にへこみ破壊されていく。

「完全停止まで30秒」

「恐れていた事態が起こってしまったの!」

 

そして更に追い討ちを掛けるような事に発展した。

「オートイジェクション作動!!」

「いかん!!」

 

「硬化ベークライトを!」

リツコの指示で硬化ベークライトが零号機に吹き付けられた。

 

零号機の頚部から後方にプラグが射出された。

 

硬化ベークライトが凝固を始め、零号機の動きが鈍くなり始めた。

プラグは何度か壁や天井にぶつかった。

「レイ!!」

ゲンドウが実験室に飛び出した。

 

プラグはロケットの燃料が切れ落下し、床に叩きつけられた。

ゲンドウは直ぐに駆け寄り、ハッチを開けようとした。

「ぐおっ!」

ゲンドウは余りの熱さに手を離し、同時に眼鏡が落ちた。

 

零号機の動きが止まった。

「くそっ!」

ゲンドウは、無理やりハッチを抉じ開けた。

 

掌は焼け爛れ、感覚は殆ど無い。

「レイ!」

ゲンドウは、プラグの中のシートに横たわるレイを呼んだ。

 

レイはうっすらと目を開け美しく透き通る赤い瞳が見えた。

「大丈夫か!?レイ!」

 

レイはゆっくりと頷いた。

「そうか・・・」

 

高温のLCLによって眼鏡のレンズが割れフレームが歪んだ。

 

 

 

―第壱中学校――――――――――――――――――――――――

学校の体育の時間、男子は校庭でバスケ、女子はプールだった。

 

一人で座ってるレイをシンジはじっと見てたが今回はトウジ達に冷やかされる事はなかった。

この間の話が効いているのだろう、あれ以来、シンジとレイに話しかけて来るクラスメートは居なくなった。

時々、委員長が事務的な連絡事項を知らせる際に、少し話しをして行く程度だ。

 

レイが振り返ったので、シンジが手を振るとレイも小さく振り返した。

 

それを見ていた女の子達はきゃーきゃー何か騒いでいる。

(・・・どうしたのかな?)

(・・・解らないわ)

実際は大人びたシンジにかなり人気があるのだが二人はそんな事は気づかない。

 

「いいよねぇ綾波さん」

「碇君って大人びているもんねえ、他の男子達って子供っぽくって」

「あぁあ私も彼氏欲しいわぁ」

などと女子がきゃーきゃー騒いでいるのでトウジとケンスケが見ると、

 

「きゃー鈴原の目すけべー」

「相田の変態ぃー」

と言う声と共にキックボードが飛んで来た。

 

「わしが何したっちゅうねん」

「変態って・・・」

泪を流すトウジとケンスケだった。

 

 

 

―ネルフケージ―――――――――――――――――――――――

シンジがシンクロテストを終えるとレイがエントリープラグの調整をしていた。

そこにゲンドウが近寄る。

レイに何かを話しかけるが、レイは作業を行いながら返事をしているようだ。

ゲンドウは微笑みかけながら話をしている。

 

(・・・うわっ凄いもん見ちゃったな・・・)

(・・・何?)

(・・・いや、今父さんが微笑んでいたから)

(・・・そう)

(・・・父さん何だって?)

(・・・怖いか?って)

(・・・問題ありませんって答えたの?)

(・・・そうよ)

 

(・・・シンジは優しくしてくれるか?って)

(・・・へぇ)

 

ゲンドウが苦虫を噛み潰したような顔をして去って行った。

 

(・・・私の秘密を知っても優しくしてくれると思うか?って)

(・・・あの馬鹿、又、起動実験を失敗させるつもりか?)

(・・・「はい」と答えておいたわ)

(・・・ぷっ、だからあんな顔して去って行ったのか)

(・・・シンジに話したのか?と言うからそれは「いいえ」と答えておいたわ)

 

『シンジ君、上がっていいわよ』

「・・・はい」

 

(・・・じゃぁまた後でね)

(・・・えぇ)

(・・・綾波?)

(・・・何?)

(・・・愛してるよ)

(・・・な、何を言うのよ)

ボッと音が出る程レイが真っ赤になっているが、それに気付くものは居なかった。

 

 

 

―第一実験場――――――――――――――――――――――――

モニターの1つには、シンジの視線、つまり、ゲンドウとレイの姿が映っていた。

「シンジ君・・・辛いでしょうね」

マヤは少し涙ぐんでいる。

 

「ねえ、リツコ、何で司令は、レイをあんなに大事にしてるわけ?実の息子を放って置いて」

リツコは無言でモニターを見たまま答えを返さなかった。

 

「・・・でもシンジ君は勝ち誇ってるかもね」

「どういう事ですか?」

ミサトの言葉にマヤが尋ねる。

 

「だって、今レイは、シンジ君にベッタリって感じだもの」

「ベッタリと言うよりあの二人は爽やかなカップルって感じです!」

何故かマヤが憤慨している。

 

「爽やかって?」

今度はミサトが問い返した。

「だって、あの二人、何時も一緒だけど、あんまり喋らなくて、ベタベタ引っ付いてもいなくて、時々微笑みあってて、端から見てて微笑ましい感じなんですっ!」

何故かマヤが力説する。

 

「そうね、確かに外では精々、手を繋いでるぐらいだわね」

リツコが突然肯定した。

「そうなんです。見ててあの二人の周りだけ時間が穏やかに過ぎてる様な感じなんですよね」

目がハートマークに見えるマヤ。

「この間なんて、二人で食堂で食事していたんですが、二人して黙々と食べていたのに突然シンジ君がソースか醤油かをレイちゃんに差し出したんです。そしたらレイちゃんも自然にそれを取って使ってニッコリ微笑んでいたんですよぉ。もぅ以心伝心って感じでしたぁ」

 

「随分詳しいのね?マヤ」

「えっ?私だけじゃないですよ先輩!NERVの中では、あの二人の空間を邪魔をしないのは暗黙の了解になってますよ」

 

「そ、そうだったの?」

ミサトが驚いた。

 

「えぇ、明日をも知れない前線の戦闘員の幸せな時間を阻害してはいけないって」

 

「それってシンジ君がよく言う言葉よね?」

ミサトとリツコが顔を見合わせた。

 

「リツコ、例の件今日決行するわ」

「例の件って?」

「お・しょ・く・じ・か・い」

 

「えぇぇお二人で美味しい物食べに行くんですかぁ?ずるいですぅ」

「マヤちゃんも一緒に行く?」

「えっ良いのですか?」

「いいわよぉん、シンジ君の家だけどね」

「わぁ行きたいですぅ」

 

はぁっと溜息を付くリツコだった。

「マヤ!今日は残業だったでしょ」

「そんなぁ先輩ぃ」

涙目になっているマヤ。

 

「今日は、この間の戦闘後のミサトの行動に対して、シンジ君に謝りに行くのよ。今度何かあればマヤも誘ってあげるから今日は我慢してちょうだい」

「そう言う事ですか、解りました先輩!」

 

「大勢の方が気が楽だったのにぃ」

「ミサト?話の進み具合によっては、人が居るとまずくなるわよ」

「それもそうね、マヤちゃんごめんね、今度誘うから」

「はいっ是非誘って下さい!」

 

 

 

―コンフォート17―――――――――――――――――――――

その夜、御飯仕度をしていると呼び鈴が鳴った。

―ガチャッ―

扉を開けるとビールを抱えたペンペンとミサトとリツコが居た。

「・・・こんばんは」

「シンジ君、ミサトが仲直りしたいって言ってるんだけど、中に入れてくれる?」

「・・・仲直り?」

「こないだの戦闘後の事を気にしているのよ」

 

「あぁそうなんですか、折角ですからどうぞ中入ってください。今、御飯作ってるからよかったら一緒にどうぞ」

「ありがとう、いただくわ」

 

中に入るとレイが御飯仕度をしていた。

「レイも料理が出来るの?」

ミサトが驚いた様に尋ねた。

「・・・はい、碇君に教えて貰ってます」

「仲良いわねぇ〜このぉ新婚夫婦って感じねぇ♪」

 

「からかうのなら帰って頂きますよ」

シンジがピシャッと釘を刺す。

「・・・ゴミン」

「・・・無様ね」

レイはほんのり赤くなっていた。

 

そして急遽増量された料理が食卓に並んだ。

「凄いわねぇ、急造でこれだけできるなんて」

リツコが驚愕の表情をする。

 

「まぁ在り合わせですので口に合うか解りませんが、どうぞ食べてください」

「それじゃぁ遠慮なく頂くわ」

リツコが話しているうちにミサトは既にビール片手に食べ始めていた。

 

「シンジ君、本当に美味しいわ、うちで一緒に住まない?」

「赤木博士、うちに帰ってるんですか?」

「そ、そうね・・・でもこの味を毎日味わえるなら無理してでも帰りたくなるわ」

「・・・碇君の料理は美味しい」

「レイもメロメロね♪」

シンジとレイの冷たい目線がミサトに降り注ぐ。

小さくなるミサト。

 

「あっ丁度いいわ、これレイの新しいカードよ」

リツコがレイに更新されたIDカードを手渡した。

「明日は零号機の起動実験だから遅れないようにね」

「・・・了解」

 

リツコがミサトをツンツンと突いた。

「と、ところでシンジ君、この前の戦闘の後の事だけど・・・」

ミサトが言い辛そうに言った。

 

「あぁ気にしてませんよ。戦闘でテンション上がってるし、感情的になるのもしかたないですよ。ただ僕も前線でテンションが上がってるんだって認識して貰えれば良いですよ。喧嘩してる子供に周りが止めろと言ってもなかなか止まらないでしょ?」

 

「そ、そうね悪かったわ、これからもよろしくね」

ミサトはホッとしたようににこやかになった。

 

「どっちが子供か解らないわね」

「リツコォ〜〜」

 

 

「ところでレイは何時までここに居座るつもりなの?」

リツコがちっと唇を引きつらせた。

(折角、司令が放っておけと言ってるのにミサトは余計な事を・・・)

 

「・・・ずっと」

「そ、そう・・・でもね貴方達若いんだから避妊はしっかりしなさい」

「ミサトッ!!」

「・・・私は子供が欲しくても出来ません」

俯くレイ。

 

「そ、そうだったのごめんなさい」

単に子供が出来ないと言うだけなら、まだ初潮が来てないのかと思う所だが、欲しくてもと言われたので、何か身体的問題があると感じミサトは悪い事を言ったと思った。

 

「ミサトさん?前にも言いましたけど、僕たちは明日をも知れないんです。からかうのは止めてもらえませんか?」

「わ、私はからかった訳じゃないわよ!エヴァのパイロットが妊娠したら戦闘に出せないから・・・」

 

「成る程、駒が減るから心配したと?」

「そ、そんな事言ってないわよ!」

 

「ミサトッ!シンジ君、レイ?碇司令も二人の事は放っておけと言っているわ」

「えっ?あの司令が?」

「・・・父さんが?」

 

「えぇ、だから、あまり羽目を外さないなら今の状況を続けていて構わないわ」

「司令も息子に理解あるのねぇ」

(そんな訳ないでしょ・・・)

リツコはミサトの短絡思考に目眩を覚えた。

 

「学校の事もあるし、体面上、住居は今のまま変更しないでおくわ、でもレイのIDカードでここは開くようにしておいたから」

「解りました、有り難うございます」

 

(・・・多分、何か企んでるね)

(・・・そうね)

(・・・綾波)

(・・・何?)

(・・・少し予定を早めようか?)

(・・・構わないわ)

 

なんとか落ち着いてミサトとリツコが帰って行った。

 

 

翌日、二人で学校に行き、そのままNERVに向かおうとするとレイが一度前のマンションに寄ると言い出した。

時間的に問題がなかったのでシンジはレイに着いて行った。

 

レイのマンションは相変わらずゴーストタウンの様だった。

 

立ち並ぶ同じスタイルのマンション。

相変わらず聞こえる工事の音。

402号室、久しぶりに入ったそこは、やはり殺伐としていた。

 

何故かレイは、シャワーを浴びて行くと言い出した。

シンジは暑かったからかな?と特に不審に思わず待っていた。

 

ある種の懐かしさを感じながらシンジは部屋を見渡していた。

血で染まったベッドと枕、無造作に投げ入れられた使用済みの包帯の入ったダンボール箱、冷蔵庫の上にあるビーカーと錠剤。

 

ふとシンジが目をやるとゲンドウの眼鏡が目についた。

(これを掛けてたら綾波が怒って取りに来たんだったよなぁ)

と思いながら眼鏡を掛けると、アコーディオンカーテンが開く音がして後ろを振り向いた。

そこには裸で髪の毛をタオルで拭いているだけのレイの姿があった。

 

オーバーラップする過去にシンジは取り乱した。

「あ、あ、あの・・・」

 

レイがつかつかと無表情のままシンジに歩み寄って来る。

レイが自分の顔に手を伸ばしてきたので、シンジは反射的に避けようと背中を反らせ、体勢が崩れたので更に修正しようとして前に倒れてしまった。

 

鞄の肩紐に引っかかり引き出しが開き飛び散る下着。

 

目の前にレイの顔があり紅い瞳がじぃっと見ている。

「・・どいてくれる?」

 

自分の右手に何か柔らかい物を感じ、見てみるとレイの胸を掴んでいた。

 

「・・・綾波ぃ」

うふふと笑い、シンジの首に腕を回し唇を重ねるレイ。

 

暫くしてシンジから奪った眼鏡をゴミ箱?に投げ入れるレイ。

「・・・この眼鏡は碇君には似合わないわ」

「・・・綾波ぃ」

(・・・史実を余り逸脱しては行けないわ)

(・・・降参です)

まんまとレイの目論見に引っかかったシンジであった。

 

この部屋には元々監視カメラの類はなかった。

レイの生活を、監視する者に見させるのも色々な面で問題があったからだが、ゲンドウがレイを他人に見せたくなかったのも作用していた。

 

服を着て二人してNERVに向かった。

目論見が成功したレイは上機嫌でニコニコしながら歩いている。

そんなレイを見てシンジはやっぱり微笑んでいた。

 

NERVのゲートを通る時、レイがカードをシンジに渡した。

はいはいとシンジはレイのカードを通した。

ニッコリと微笑むレイ。

 

NERV名物の長いエスカレータを降りて居る時シンジに嫌な予感が走った。

(・・・まさか・・・)

(・・・何?)

(・・・いや、まさかここでの事も再現しようとなんて考えてないよね?)

(・・・ここでの事?)

(・・・いや、解らないならいいんだ)

冷や汗をかいているシンジだった。

 

(・・・碇君)

(・・・何?)

(・・・ありがとう)

(・・・えっ?)

(・・・碇君に逢えて本当によかったと思う)

(・・・綾波・・・)

(・・・好きよ碇君)

(・・・僕もだよ綾波)

 

他人が聞いてたらやってられないよって感じの二人だが、外から見てると無言でエスカレータに乗ってる様にしか見えない。

 

「・・・私こっちだから」

エスカレータを降りたレイが言う。

 

「うん、気をつけてね」

「・・・大丈夫」

「また後でね」

「・・・また後で」

 

二人は、そこで別れて各々の更衣室へと向かった。

 

 

 

―第二実験場――――――――――――――――――――――――

(・・・屋内なのに何故オートイジェクションにロックが掛かっていなかったのか)

(・・・何故ロケットの燃料が抜かれていなかったのか)

(・・・何故あの高低差がある場所で救護班より早く司令が駆けつけたのか)

(・・・そう、あの時は不思議に思わなかった)

(・・・あれを絆だと思った)

(・・・でもあれは鎖・・・絆ではなく縛り付けるための鎖)

 

(・・・綾波?)

(・・・碇君)

(・・・今日は大丈夫だよ、さっきリツコさんに確認して貰った)

(・・・そう)

(・・・他のオペレータの人達も同じ轍は踏まないようにと独自で確認してるようだよ)

(・・・他の人達はちゃんと仕事しているのね)

(・・・ふふ・・・そうだね、下に救護班も待機していたよ、今回は細工できなかったみたいだね)

 

実はゲンドウは前回と同じ細工を行おうとしておりリツコに命令していた。

しかし、冬月に、今は使徒襲来が始まっており、またレイが重傷になると使徒殲滅に支障が出る事、前回と同じであったら関わる職員が無能と言う事になってしまう事、なによりレイに代わりが居ないのだから失敗して死んでしまったら本末転倒である事等を懇々と諭され諦めたのだった。

 

(・・・でも安心はできないわ)

(・・・綾波も随分、髭に慎重になってるね。いざって時はATフィールド使ってでも自分を守ってね)

(・・・解ったわ)

(・・・綾波?)

(・・・何?)

(・・・気をつけてね)

(・・・ありがとう)

 

零号機が実験場内に配置されレイが乗り込んだ。

「これより、零号機再起動実験を行う」

 

「レイ、準備は良いか?」

何時もとは打って変わった優しげな声でゲンドウが尋ねる。

『・・・はい』

何時も通り抑揚のない返事を返すレイ。

 

「・・・実験開始」

ゲンドウの言葉で実験が始まった。

 

「第1次接続開始、主電源接続」

「稼動電圧臨界点を突破」

「フェイズ2に移行」

「パイロット零号機と接続開始、パルス及びハーモニクス正常、シンクロ問題無し」

「オールナーブリンク終了」

「絶対境界線まで後2.5」

「1.7」

「1.2」

「1.0」

「0.7」

「0.4」

「0.2」

「絶対境界線突破します」

「零号機起動しました」

 

『引き続き連動試験に入ります』

 

冬月が電話を取った。

「そうか、分かった」

冬月は電話を置いた。

 

「未確認飛行物体がここに接近中だ。恐らく使徒だな」

「テスト中断、総員第一種警戒体制」

 

「零号機はこのまま使わないのか?」

「未だ、戦闘には耐えん。初号機を使う」

 

「初号機380秒で出撃できます」

「良し、出撃だ」

 

「レイ、起動は成功した。戻れ」

『・・・はい』

 

(・・・行って来るよ、多分また、いきなり出されると思うけどね)

(・・・気をつけてね)

(・・・ありがとう、もし打たれて収容されたら例の予定を実行して)

(・・・解ったわ)

 

 

 

―発令所――――――――――――――――――――――――――

ディスプレイ上では第三新東京市付近の上空が映し出されている。

正八面体の形態をした巨大な飛行物体が姿を現す。

 

「シンジ君いいわね?」

『駄目です。使徒の攻撃手段は?』

「それを調べに初号機を出すのよっ!」

 

「エヴァ初号機、発進!」

 

「使徒内部に高エネルギー反応を確認、収束中です」

「何ですって!」

 

「まさかっ・・・加粒子砲!?」

リツコの口から不可思議な兵器の名前が飛び出てくる。

 

「ダメッ!シンジ君避けて!」

『ロックボルトがあるのに無理だろっ!!』

 

次の瞬間、オペレータが機転を利かし初号機前方に遮蔽壁を出したが一瞬で溶け、加粒子砲が胸部に直撃、シンジの叫び声が発令所を埋め尽くす。

 

『わああああああ!!!!!!!』

唖然とする発令所。

 

「早く下げてっ!!」

ミサトが喚く。

 

『あああああああああああああ!!!!!!』

『あうううぅぅぅぅ・・・』

シンジは意識を失った。

 

「ケージに行くわ!」

ミサトは走って発令所を出て行った。

 

「パイロット心音微弱」

「心臓停止しました!」

「生命維持システム最大、心臓マッサージを!」

「駄目です!」

「もう一度!」

「パルス確認!」

「心臓活動を開始しました!」

 

「プラグの強制排除急いで!」

初号機からエントリープラグが取り出された。

「LCL緊急排水」

「はい」

 

それら一連のやり取りをレイは静かに見つめていたが、発令所を出て行った。

 

ケージに着いたミサトが見たのは救護班に担ぎ出されて行くシンジだった。

 

「シンジ君!」

何のためにケージに来たのか、ミサトは一度叫んだだけだった。

 

発令所では(昨日の今日なのに・・・)とリツコが頭を抱えていた。

 

 

 

―ターミナルドグマ―――――――――――――――――――――

白い巨人の前に佇むレイ。

今、突然のエヴァの敗退のための突貫修理と強烈な使徒の調査で大忙しのため、ここに注意を払っている者が居ないのは解っていた。

 

レイは、無造作に服を脱ぎ裸になった。

巨人の前まで歩み寄ると浮かび上がり、巨人の胸元に吸い寄せられる様に融合されるレイ。

(・・・ただいま)

(おかえりなさい)

 

一気に下半身が再生する白い巨人、そのまま貼り付けられた十字架から抜け落ちて行く。

七つ目の仮面が落ち、序々に身体と顔がレイの容姿へと成っていく。

 

そのまま小さく成っていく巨人、元のレイと同じにサイズにまで小さくなると脱ぎ去った服の元へ音もなく静かに降りた。

 

真っ白なレイのまま、先程脱ぎ去った服を着て行く元巨人。

服を着終る頃には、髪の毛と瞳の色も元のレイに戻った。

 

レイは赤い十字架を一瞥すると、踵を返しその場を後にした。