第参話

鳴らない、電話

 

エントリープラグ内。ゆっくりと息を吐き、口と鼻から気泡が出る。シンジはうっすらと目を開けた。

ここ何日かの訓練と実験でATフィールドの展開にも成功していた。

今日はインダクションモードの訓練だ。

 

『おはよう、シンジ君。調子はどう?』

「・・・いいと思います」

『エヴァの出現位置、非常用電源、兵装ビルの配置、頭に入ってるわね』

「・・・はい」

『ではもう一度おさらいするわね。通常、エヴァは有線からの電力供給で稼働しています、でも非常時に体内電池に切り替えると、蓄積容量の関係でフルで一分、ゲインを利用してもせいぜい五分しか稼働できないの。これが私達の科学の限界・・・てワケ。おわかりね』

「・・・はい」

「では、この前の続き、インダクションモードの練習、始めるわよ」

 

起動音が響き、体内電池の活動限界がゼロに向かってカウントされる。ビル街の中、巨大生物が初号機の前に立ちはだかる。

 

『目標をセンターに入れて・・・・スイッチ・オン』

 

大型ガトリング・レーザーの銃口から閃光が走り、目標に命中。巨大生物はものすごい轟音と共に爆破、地響きを上げて崩れ落ちる。が、これはヴァーチャル・リアリティによるシミュレーションだ。実際にはカチカチと何も放たれない銃の引き金を引く、体内電池による作動状況の観測。

 

「・・・しかし、よく乗る気になってくれましたね、シンジ君」

オペレーターの一人、操縦者モニターの伊吹マヤ二尉だ。リツコの直属の部下で、大学の後輩だという。

 

「人の言うことにはおとなしく従う、それがあの子の処世術じゃないの?」

「まさかぁ、あの司令と交渉した強者よ・・・」

ミサトの声に重なるように、規則正しい爆発音が連続する。

 

『目標をセンターに入れて、スイッチっと』

ただ一回それだけを呟き、シンジはカチカチとボタンを押し続ける。

 

「シンジ君、今日はもう終わりでいいわよぉん」

平日2時間と言う事を今のところ守り、ミサトがシンジに終了を告げる。

 

『・・・はい』

「シンジくぅ〜ん、これからまたレイのところぉ?」

『・・・はい、そのつもりです』

「随分仲良くなったのねぇ?」

『葛城一尉?明日をも知れない戦闘員の恋路を茶化すのがそんなに楽しいですか?』

「明日をも知れないって大袈裟な・・・」

『・・・僕はそのつもりですのでからかわれると不愉快です!』

「そ、そんなつもりじゃなかったのよ・・・ゴミン」

 

「ふっ・・・無様ね」

 

 

 

―コンフォート17―――――――――――――――――――――

ミサトが引越祝いと称して乱入した翌日、朝の8時からけたたましく呼び鈴を鳴らされ、出てみるとミサトが慌てふためいていた。

 

「・・・おはようございます、どうかしましたか?」

「シンジ君、昨日言い忘れたけど、今日から学校なの!」

「はっ?」

「転入手続きとかあるから送って行くから早く仕度してっ!急いでっ!!」

「は、はいっ」

勢いに押されて返事をしてしまったシンジだったが、取り敢えず制服を着て学校に行く準備をした。

(まぁ学校なら監視も厳しくないだろうし、抜け出すのに丁度いいかもね・・・)

中学生、しかも年中夏の日本では男子の制服など、どこも似かよった物であった。

シンジも半袖のカッターシャツに黒のズボンで向かったが特に違和感もなかった。

 

 

 

―第三新東京市立第壱中学校―――――――――――――――――

「では合図をしたら入って来てください」

そして、シンジは教室のドアの前に待たされた。

 

「今日は皆さんに、転校生を、紹介します。入って来なさい。」

シンジはドアを開けて教室に入った。

 

「碇、シンジです」

目立たない様に、簡潔に名前だけを述べた。

「それだけですか?じゃあ取り敢えず、あそこの席に座ってくれるかな?」

「・・・はい」

 

シンジは指された方向で空いてる席、窓側の一番後ろに座ろうとした。

「あぁ碇君、そこは今日休んでる生徒が居ます。他の席でお願いします」

「・・・はい」

返事をし、その隣に座った。

 

端末を開け、電源を入れるとチャットモードで色々な質問が入って来た。

シンジはそれに適当に答えると、机に俯せて寝てしまった。

昼休みのチャイムと共に教室を抜け出し、トイレに入った。

(ここまでは監視カメラもないようだな・・・)

シンジは黒い穴に消えて行った。

 

 

 

―ターミナルドグマ―――――――――――――――――――――

黒い穴からシンジが出てきた。

ここは監視カメラも少なく、盲点となってる位置でシンジは胸から取り出した淡い光をLCLに浸けている。

LCLが人型を取り、徐々に人間の容貌と成って行った。

銀髪の腰まである髪と紅い目が印象的な色白の美しい女性となった。

(やぁサキエル、その身体でどうだい?尤も容姿は君のイメージだけど)

(はい、不都合もなく、感覚も良好です)

(そう、良かった。じゃぁこれを着て)

どこから取り出したのかシンジは淡いブルーのワンピースを差し出した。

(サイズが解らなかったからね、取り敢えずこれで服とか揃えてね)

(はい、畏まりました)

そして、二人はまた黒い穴に消えて行った。

 

 

 

―第三新東京市某所―――――――――――――――――――――

「じゃぁサキエルは、住む場所を探して買って来てくれるかな?」

「畏まりました」

その仰々しい物言いにシンジは苦笑した。

 

「できれば、どこか孤島で大きい屋敷があるところがいいな」

「孤島ですか?」

「うん、お金はこのカードで払ってくれていいから」

とシンジはどこかの銀行系カードを出した。

実は、MAGIを少し使ってゲンドウの個人資産を一部(数百億だが)着服していた。

 

「後、家は20人ぐらい住めるぐらいので、地下室とかもあるのがいいな。勿論後で増築でも構わないから、取り敢えず場所と基本となる物件だね」

「畏まりました」

「で、家が確保できたら、家具とか服とか下着とか生活用品とかも買っておいてね」

「どのような物でしょうか?」

「うーーん、サキエルの趣味でいいよ、後から増えたらその人達の趣味で買いに行くのも楽しみだろうしね」

「畏まりました」

「じゃぁ宜しくね。困った事があったら何時でも連絡してね」

「はい、それでは行って参ります」

「よしっと、学校に戻るか」

そう言うとシンジは、また黒い穴に消えて行った。

 

 

 

―第三新東京市立第壱中学校―――――――――――――――――

学校では、既に昼休みが終了していたので、シンジはこっそり教室に入り、鞄を取ると

「先生、早退します」

と言って教室を出て行った。

 

そして、NERVへと向かう。

途中、お見舞い用の果物セットと果物ナイフを買い、レイの病室に向かった。

「こんにちは、綾波」

「・・・こんにちは碇君」

レイはシンジの顔を見ると、ニッコリと満面の笑みで迎え入れた。

「果物買って来たんだ。食べる?」

「・・・ええ」

シンジはニッコリ微笑むと林檎をむき出した。

 

(サキエルに住む所を探しに行ってもらったよ)

(・・・そう)

(一応、孤島を希望しておいたんだけどね)

(・・・何故?)

 

「綾波、右手が使えないね、あ〜んしてくれる?」

「・・・あ〜ん」

少し赤くなりながらレイが口を開く。

シンジが差し出した林檎を囓り、シャリシャリと呵責する。

 

(だって、その方が周り気にしなくていいし、煩わしくないと思って)

(・・・そうね)

 

「美味しい?」

「・・・ええ」

その後、何度かレイが林檎を食べると二人は黙ったまま、レイは本を読んでおりシンジもボーっとしてる様に見えた。

 

「そろそろ面会時間も終わりだね。また明日来るよ」

「・・・えぇ待ってるわ」

それを監視カメラで見ていたミサトとリツコには会話の少ない恋人同士に見えた。

 

端から見ていて、もの静かなそんな逢瀬はレイが退院するまで毎日続いた。

 

退院の日はシンジが付き添いレイのマンションまで帰ると、レイの荷物(下着と学校の物ぐらいしかなかったのでスポーツバッグ一つ)を持ってシンジの家に行った。

 

例によってそれを知ったミサトがからかったが、シンジに「レイのマンションを見て来い」と言われ見に行って驚愕するはめになった。

 

中にあがると、そこは壁紙すら張られていない冷たいむき出しのコンクリート。

あるものはベッドと、小さなタンスと、そのわきに血のついた包帯の入った段ボール。

ベッドも枕も血の跡がどす黒くなっており、とても人が寝ていたとは思えない。

黒いビニールのカーテンの隙間から僅かに月明かりが差し込んでいる。

冷蔵庫の上には、ビーカーと錠剤が数粒。

好奇心から冷蔵庫を開けたが水しか入っていなかった。

 

表面上は右手にギプスをしているレイだったので、世話が必要だと言う話に反論の余地はなかった。

 

 

 

―コンフォート17―――――――――――――――――――――

布団から顔も出さずに、ミサトは手探りで電話のコール音の元を掴む。そのまま布団の中に持っていき、ようやくそこで出た。

 

「はい、もしもし・・・・何だ、リツコか」

『どう、カレとはうまくいってる?』

「彼?ああ、シンジ君ね。転校して二週間、相変わらずよ。ただ、未だに、誰からも電話、かかってこないのよね」

『電話?』

「必須アイテムだから、随分前に電話、渡したんだけどね・・・・それ以外の連絡方法とっているのかも知れないけど、あたしは朝シンジ君より遅いからわからないのよ」

『例えば、手紙?』

「さあ、部屋はプライバシーだからあれこれ探したことはないけど・・・・それよりも気になることがあるのよね」

『何?』

「実は・・・・あたし、何となく、シンジ君に何もかも見透かされているような気がして・・・・」

『考え過ぎよ、十四の子供に』

「十四歳、一番大人でも子供でもない年だわ」

『私はそうは思わないけど』

「あなたは実際一緒に接していないからそういえるのよ。確かに彼は普通の中学二年生のようなんだけど・・・・」

『どう違うというの?』

「何が普通と違うなんてわからない、とにかく何か、よくわからないけどそんな気がするのよ」

『なら気のせいね、夕方の出頭までゆっくり眠っていなさい』

「シンジ君の家に一度あなたも、お邪魔してみれば?料理はことのほかレストランでもやっていける位よ」

 

少しミサトの声がおどけてみせる。

 

『女のくせに料理が出来ない方が、珍しいと思うけど』

「あら、そういうリツコはどうなのよ」

『勿論、出来るわよ』

「嫌な女ね」

『どういたしまして・・・・じゃ、せいぜい休みなさい、シンジ君の家に行くのは考えておくわ』

「どうもご丁寧に。それじゃ」

 

ピッと言う音がしてミサトは、切れたことを確認するとまた静かに眠りについた。

 

 

 

―第三新東京市立第壱中学校―――――――――――――――――

その日いつもの様にレイとシンジは一緒に登校していた。

最初の頃こそ、色々言われたが今では公然となっている。

 

教室に入ると委員長が相田ケンスケに何やら詰め寄ってた。

「プリント持って行ってくれた?」

「あ、あぁなんか鈴原、家にも居なくってさぁ」

と言いながらケンスケはプリントを机の中に押しやっていた。

 

「もぅ・・・鈴原と友達でしょ?ちゃんと届けてよね」

ガラリとドアが開き、ジャージの少年が入ってくる。

「鈴原・・・」

 

ケンスケはこれ幸いとトウジに声を掛けた。

「よう」

「やっぱ、えらいへっとるのう」

トウジは机に足を掛け、外の方を見ながら、そんなことを言った。

 

ケンスケは、呑気に言う。

「疎開だよ、疎開。今さら何を・・・みんな転校しちゃったよ、街中であれだけ派手な戦闘やられちゃあ・・・な」

「よろこんどんのはお前だけやろな。ナマのドンパチ見られるよってに」

「まぁね・・・トウジはなんで休んで居たんだよ」

 

「妹の奴がな・・・こないだのドンパチで怪我してしもうてん。うちはおとんもおじいも研究所勤めやさかい、わいが見てたらなあいつ一人になってしまうねん」

「そうだったのか・・・」

 

「しっかし、あのロボットのパイロットほんまヘボやのお、味方が暴れてどなするっちゅうねん」

「トウジ・・・その事なんだけどちょっとな」

「なんや?」

「トウジが休んでる間に転校生が来たんだよ」

「転校生?それがどないしたっちゅうねん」

「おかしいと思わないか?この時期にだぜ?俺はあいつがパイロットじゃないかと睨んでるんだ」

「ほんまか?!」

―ガタンッ―

トウジが勢いよく立ち上がり椅子が倒れた。

 

「ま、まだ決定した訳じゃないよ、でもかなり確立高いと見ているんだ」

 

授業中、メールが来た。

『碇君があのロボットのパイロットって言うのはホント?Y/N』

振り向いたら、後ろの方の席の女の子が小さく手を振っていた。

(なんで今更、こんなの来るかなぁ・・・そうかケンスケだな)

(・・・そうね)

『ロボットって何?』

迷わず返信する。

『とぼけないで。知ってるんだから』

思わず溜め息。

『じゃぁ守秘義務ってのも知ってるよね?それを喋ると窓の下に見える黒服のおじさん達に拉致されて、親がNERV関係だったら親御さんにも罰が及ぶって』

そこで質問はこなくなった。

 

しかし熱血ジャージ男は収まらなかったらしい。

「転校生、ちょっと付き合えや」

「断るよ、僕が好きなのは、綾波だけなんだ。ごめんね」

そう言いながらレイの頭を撫でるシンジ。レイはうっすらと目を細め気持ち良さそうにしながら本を読んでいる。

「「「「えええ〜〜〜っ!!」」」」

「碇君と綾波さんって付き合ってるの?」

「付き合ってるって言うのがどの状態か不明だけど、僕は綾波が好きだし、大事に思ってるよ」

ポッと赤くなるレイ。

「・・・私も・・碇君が好き」

「「「「・・・・・」」」」

やってられないと言う雰囲気のクラス一同。しかし熱血ジャージ男は更に収まらない。

 

「何いやぁ〜〜んな雰囲気かもしだしとんねん、わいは転校生に話があるっちゅうてるだけや」

「話ならここで聞くよ、それともここじゃできない話?」

 

「くっ!すまんな転校生。わしはお前を殴らなあかん。殴らなあかんのじゃ」

と言って急に殴りかかってきた。

 

それをかわすと、つんのめった足を引っかけた。

「君の話って意味もなく殴る事?」

「わいの妹はこないだのロボットのドンパチで怪我したんや」

「だから?」

「あんロボットのパイロットがもっとうまあ動かしとったら妹は怪我せんですんだんじゃ!」

「君はその戦いを見ていたの?」

「み、見てないわい!」

「じゃぁなんでそんな事わかるのさ?大体非常警報はお昼に出てたよね?あの戦闘は夜中だったんだけどそれまで何してたのさ?」

「わいの妹が悪いっちゅうんかい!」

「そうは言わないけど、君の話は事実関係が全然不透明だからさ、八つ当たりにしか見えないよ、それに君は今、何故ころんだの?」

「そ、それはお前が足を引っかけたからやろが!」

「つまり、君は殴り掛かるときに足下を見ていなかったと言う事だよね?だけど、それを、そのロボットのパイロットには出来ないのが悪いと?」

 

Pipipipi―

「・・・碇君、非常招集」

「今度はシェルターから出ようなんて考えないようにね」

そう言うとシンジはレイと共に教室を後にした。

 

時間を置かず非常警報が鳴り響いた。

 

 

 

―発令所――――――――――――――――――――――――――

「総員、第一種戦闘配置。迎撃用意」

「迎撃用意」

「第三新東京市、戦闘形態に入ります」

 

自動的にシャッターがおり、道路にバリケードが作られていく。

 

「中央ブロック、収容開始」

 

不要なビルは地下に収納され、高層ビルには防御壁が覆っていく。

逆にジオフロント天井へ姿を見せる、ビル群。天蓋を覆っていく装甲シャッター。

次々と天井から出続けるビル群。

 

「第6ブロック、閉鎖。全館収容完了」

 

「政府及び関係各省へ通達終了」

「第5から第7管区まで、迎撃システム、スタートします」

 

ホロディスプレイ上では道路から次々とミサイル・ランチャーが顔を出し、ミサイル群が偽装ビルへと装填されている。続いて山林の山肌からもミサイル・ランチャーが現れ、来るべき目標へ向け方向修正に入っていく。

 

 

 

―シェルター内―――――――――――――――――――――――

ケンスケは、ただ黙ってじっと自分のハンディカメラのモニターを見ている。

切り替えても切り替えてもどのチャンネルも画面は同じ。お花畑の静止画像。思わずケンスケは声を漏らした。

 

「ちっ、まただ!」

「また文字だけなんか?」

 

後ろからつまらなそうに天井を見つめながらトウジが言う。

 

「報道管制って奴だよ。我々民間人には見せてくれないんだ。こんなビッグイベントだっていうのに」

 

ケンスケも天井を見上げる。爆音のような音と共に、微震が連続している。

 

「ねぇ、ちょっと二人で話があるんだけど」

「なんや?」

「ちょっと、なっ」

 

目配せするケンスケ。

 

「しゃーないな、委員長!」

「なに?」

 

そばかすの少女、洞木ヒカリが女友達とのお喋りから振り返って返事をする。

 

「わしら二人、便所や」

「もう、ちゃんと済ませときなさいよ」

 

それを受けてトウジ、ケンスケと立ち上がりながら

 

「すまんな」

 

そしてシェルター内をしばらくほっつき歩き、トイレのある通路までやや時間をかけてたどり着く。

やたらと長細いシェルター内の通路。今二人の側には緊急用のハッチがある。

 

「で、何や?」

「死ぬまでに一度だけでもみたいんだよ!」

「上のドンパチか?」

「今度またいつ敵が来てくれるかどうかもわかんないし」

「ケンスケ、お前な・・・・・」

 

呆れるトウジ。

 

「この時を逃しては、あるいは永久に・・・なっ、頼むよ。ロック外すの手伝ってくれ」

「外に出たら死んでまうで」

「ここにいたって、わからないよ。どうせ死ぬなら見てからがいい」

 

ケンスケの口調には熱意がこもっていた。だが応対する方のトウジには気が入っていない。

 

「なんの為にネルフがおんねん。ネルフが守ってくれるわい」

「そのネルフの決戦兵器って何なんだよ。あの転校生が操縦するロボットだよ。この前もあいつが俺たちを守ったんだ。それなのにトウジは殴りかかってさ。そのせいであのロボットが満足に動かないようだったら・・・・・」

 

ケンスケはわざと次の言葉までの間を作った。

 

「みんな、死ぬぞ」

「・・・・・」

「トウジにはあいつの戦いを見守る義務があるんじゃないのか?」

 

頭をかきながらトウジは二つあるうちの片方のロックへと歩き出した。

 

「しゃあないなぁ。お前ホンマ自分の欲望に素直なやっちゃな」

 

笑顔のケンスケ。そして自分ももう一方のロックへと手を付ける。

同時解除と共に、バシュンと開く非常ドア。

 

 

 

―発令所――――――――――――――――――――――――――

「司令のいぬ間に、第4の使徒襲来。意外と早かったわね」

「前は15年のブランク。今回はたったの3週間ですからね」

「こっちの都合はおかまいなしか。女性に嫌われるタイプね」

 

ミサトと日向マコトの会話の間にもディスプレイ上では上陸済みの使徒が森の奥を進み、木々が次々に倒壊している。やがて湖の側を通過し、湖面に波が起こる。

 

山間部からの迎撃が行われているが、使徒はミサイルを難なく跳ね返して進軍している。

 

「税金の無駄遣いだな」

冬月副司令が呟く。

 

「・・シンジ君は?」

「ケージに到着しました。搭乗の準備をしています」

「・・・そう」

そして、なんら有効な事が出来ずに、国際連合は退散する事になった。

 

「委員会からエヴァンゲリオンの出撃要請がきています」

「煩いわね、言われなくても出すわよ!」

 

 

「シンジ君、出撃、いいわね」

言葉こそ疑問形だが、他の回答がないミサトの確認。

「・・・どうぞ」

 

「エヴァンゲリオン初号機発進!」

 

強烈なGを受け初号機が地上へと射出される。

 

「シンジ君、使徒のATフィールドを中和、パレットガンの一斉射。いいわね?」

言われた通りATフィールドを中和しつつ、パレットガンの一斉射を行うシンジ。

『馬鹿っ。煙で前が見えない!』

ミサトが怒鳴ってる。

 

「言われた通りやったのに馬鹿ってどういう事ですか?」

言い返していると使徒が鞭を振るって来た。

パレットガンが真っ二つにされ、なんとか避けた初号機。

 

『シンジ君、新しいパレットガンを今出すわ!!』

意味ないのになぁと思いながらそれを取りに向かうところで使徒の鞭が足に絡み付き、上空へと投げ飛ばされた。

(やっぱりこうなるのね・・・)

 

「エヴァ、アンビリカブルケーブル切断、内部電源に切り替わりました!」

「活動限界まで、あと4分53秒」

 

山の斜面に叩きつけられて、慌てて手元を見ると、そこにはやっぱりトウジとケンスケが脅えていた。

発令所内にエラーが鳴り響く。

 

『なんでこんなところに民間人が!シンジ君のクラスメート?!』

初号機に使徒が迫ってきて、シンジは光の鞭を手で受け止めた。

 

「何で戦わんのや?」

「俺らが邪魔で戦えないんだよ」

 

『シンジ君、EVAを現行モードでホールド。2人をエントリープラグの中へ収容して!』

『越権行為よ、葛城一尉。許可の無い民間人をエントリープラグには入れられないわ』

『私が許可します』

 

プラグが半分射出され、外部スピーカからミサトが叫ぶ。

『そこの二人、乗って』

 

取り敢えず靴と汚れてる上着は脱がせてプラグ内に入れる。

「なんや、こらぁ。水やないか!」

「カメラ、カメラ」

 

『シンクロ率低下、パルス乱れてます』

『異物を二つも入れたら当然ね』

リツコの言葉にもミサトは耳を貸さない。

 

『シンジ君。いまよ、後退して』

「こんな、鈍い動きでどうやって後退しろって言うんですか!?」

(一応言っておかないとね)

『いいから命令を聞きなさい!』

何も解ってないミサトが叫ぶ。

『無理ね』

リツコが呟いた。

 

「転校生、逃げろ言うとるで」

「煩いっ!死にたくなかったら黙ってろ!」

「何やとぉっ!」

「トウジ、今はおとなしくしてろ、死にたいのかよ」

状況を理解しているケンスケがトウジを羽交い締めにする。

「わ、わかったわい・・・」

 

鞭を引っ張って、使徒を引き寄せると、抱きつくようにしてからナイフを装備。

そのままナイフをコアに突き立てた。

「だあああああぁぁぁぁぁぁ!!」

『シンジ君!!』

 

残り時間10秒以上残して使徒は霧散して行った。

しかし、泥まみれの二人を入れたためか、その後3人して気絶してしまった。

 

 

 

―ネルフ病院――――――――――――――――――――――――

「・・・綾波」

シンジが目覚めると、レイが横に座っていた。

「・・・無理はしないで」

優しい眼差しでシンジの頭を撫でながらレイが言った。

「・・・うん心配かけてごめん」

シンジはレイの手を取りニッコリと微笑んだ。

 

穏やかな時間が流れている中、騒々しい足音と共にミサトが病室に入って来た。

「どうして命令を聞かなかったの?!」

「・・・どの命令ですか?」

「後退って言ったでしょ?!」

 

その時病室の扉が開いてリツコが入って来た。

ミサトを追いかけて来たらしくはぁはぁ言っている。

 

「・・・異物をプラグに入れさせたのは葛城さんですよね?それでシンクロはどうなってました?」

「何言ってるのよ、それと命令を無視した事と関係ないでしょ!遊びじゃないのよ!」

 

「ミサト!止めなさいっ!」

「何でよリツコ、この色惚け餓鬼に戦場の厳しさを教えているのよっ!」

 

「だったら貴方の越権行為も責められるべきね」

「何でよ、人命を優先しただけでしょ・・・」

 

「LCLが肺に取り込まれるのは知ってるわね?そこに泥だらけの民間人を放り込んだのよ貴方は。シンジ君が機転を利かしたけど、それでもシンジ君達は気絶したわ」

「あっ・・・」

「後の二人もまだ意識不明よ」

 

「それに異物を二人も入れたからシンクロは20%代まで低下、あの状態じゃろくな動作はできないわ。後退していたら使徒の鞭で真っ二つだったでしょうね」

「うぞっ・・・」

 

「解ったら、さっさと戻って後始末しなさい!」

とぼとぼとミサトは病室を後にした。

 

「さて、シンジ君、検査の結果は特に異常はなかったわ。動けるなら今日はもう帰ってもいいわよ」

「・・・解りました」

 

「・・・これ着替え」

レイがシンジの制服を持って来ていた。

「ありがとう綾波」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・あのぉ着替えたいんですけど・・・」

「・・・構わないわ」

「・・・いや、二人して見ていられると着替え辛いんですが・・・」

 

「あっあらそうね・・・レイいらっしゃい」

リツコが思い出したようにレイを連れて病室を出た。

 

着替えたシンジはレイと共に帰って行った。

 

トウジとケンスケは、その後目覚めると、リツコから懇々と説教を食らい、どれ程危険な事をしたか、フィードバックの事等、長々と説明され漸く親が迎えに来て開放された。

 

当然その後、親からもこっぴどく怒られている。