第弐話

見知らぬ、天井

 

―ネルフ宿泊施設――――――――――――――――――――――

シンジはベッドの上で目を覚ました。

「・・・知らない天井だ・・・」

シンジは上体を起こし、今まで何が有ったかを思い出そうとした。

(そうか、そうだったな・・・)

 

 

 

―モノリスの並ぶ会議室―――――――――――――――――――

人類補完委員会、通信会議で行われる国際連合の実質的最高決定機関である。

議長は、ドイツのキールローレンツ、他議員はアメリカ、フランス、イギリス、ロシアの代表である。そして準議員として日本の碇が出席している。

 

「碇君、ネルフとエヴァもう少し上手く使えんのかね」

「零号機に引き続き君らが初陣で壊した初号機の射出口に兵装ビルの補修・・・国が一つ傾くよ」

「まぁ、我々の先行投資が無駄にはならなかったとも言えるがね」

「聞けば、あの玩具を君は息子に与えたと言うではないかね」

「人、物、金、いったい幾ら使えば気が済むのかね」

「玩具に金を注ぎ込むのもいいが肝心な事を忘れちゃ困る」

「君の仕事はそれだけではないだろう」

「左様、人類補完計画、我々にとってこの計画こそがこの絶望的状況下における唯一の希望なのだ」

「承知しております」

「明らかになってしまった使徒とエヴァの存在、どうするつもりかね」

「その件に関してはお任せを、既に対処済みです」

「いずれにせよ、使徒再来による計画の遅延は認められない、予算に関しては一考しよう」

「はい」

「では、後は委員会の仕事だ」

一人を残し委員達の姿が消えた。

 

「碇、後戻りはできんぞ」

「解っております、全てはゼーレのシナリオ通りに」

碇はにやりと口元を歪ませた。

キールの姿が消えた。

 

「・・・解っている。人間には時間がないのだ」

 

 

 

―第3新東京市市内封鎖地区―――――――――――――――――

プレハブ小屋の中でミサトはテレビを見ていた。

『昨夜の第3新東京市での爆弾テロに対して政府は』

ミサトはチャンネルを変えた。

『え〜ですから、その件につきましては、後日』

ミサトはチャンネルを変えた。

『正式な発表を持って』

ミサトはチャンネルを変えた。

『詳細を発表』

ミサトはチャンネルを変えた。

『したいの』

どこのテレビ局も全く同じ嘘の会見の放送をしているのにいらつき、ミサトはテレビの電源を切った。

「シナリオはB−22か」

分かってはいたが、こうまで鮮やかに、マスコミに圧力をかけるとは、ミサトは少し複雑な心境だった。

「作られた真実・・・事実と言うものね」

「分かってるわよ・・・・でもね」

ミサトは小屋の外を見た。

大人数を投入しての探索作業、ちょっと高いビルに登れば崩壊した街が見える。

ここまでやってしまえば、不審に思う者も3桁では済まないだろう。

「広報部は喜んでいたわよ、初めて仕事ができたって、皆張り切っているわ」

「恐怖から逃れるために、仕事に打ち込む。の間違いじゃないの?」

あの時、ミサト自身もそうであったとは否定できないから・・・

「言えるわね・・・貴女はどう?」

「決まってるでしょ・・・誰だって怖いわよ・・・」

ミサトは窓越しに使徒の残骸を探している作業者達を見た。

「あら?」

リツコはモニターの表示に気付いた。

「どうしたの?」

「シンジ君・・目覚めたようね・・・・若干の記憶の混乱が見られるけど」

「まさか精神汚染じゃ!」

ミサトはいきなり初戦で手駒を失ってしまう事への心配と、民間人の少年を戦場に引き摺り出し壊してしまう事への恐怖から叫んだ。

「その心配は無し、心身ともに健康よ」

「そう」

ミサトは机の上においてあったコーヒーを飲んだ。

「それ、冷めてるわよ」

「ぐっ!でも昨日のあれは、なんだったのかしら?」

「そうね、ビギナーズラックとでも言うのかしら?」

「ビギナーズラック?」

「えぇシンジ君の証言も辻褄が合うし、なにより思い通りに動いてないのは見てて明白だったわ」

「そうね・・・じゃぁシンジ君の所に行ってくるわ、司令との面談を希望していたし」

 

 

 

―第一次直上開戦――――――――――――――――――――――

「シンジ君、まずは歩く事を考えて!」

初めて乗るであろうシンジにリツコが指示を出す。

 

(・・・だったらこんな真ん前に出すなよなぁ)

「・・・よっ・・・よっ・・・旨く行きませんねぇ」

エントリープラグの中で足をもぞもぞさせながらシンジが言う。

 

「身体は動かさなくていいの、イメージだけでエヴァは動くわ」

「・・・そんな事言っても普段歩く事なんてイメージして歩いてませんよ」

その時、使徒の顔が光り発令所が真っ白になった。

 

「「シンジ君!」」

ミサトとリツコが叫ぶ。

 

「映像回復します」

オペレータの声とともにメインスクリーンに第三使徒が映し出される。

いや、第三使徒の赤い玉があったところからエヴァの腕が生えている。

そして、光の固まりが溶けていく様に霧散していく使徒。

 

「パターンブルー消失。し、使徒消滅しました・・・」

 

「な、何が起こったの?」

ミサトが唖然としている。

「わからないわ、マヤ解析できる?」

 

「は、はい・・・えぇっと使徒から光線が放たれると同時にエヴァが飛んでいます。その後使徒の後方に現れています。エヴァが振り向きざまに出した手が使徒のコアを貫いた模様です」

「一瞬で?」

ミサトが疑問を投げかける。

「いえ、それ程早い速度ではありません」

「ATフィールドは?」

今度はリツコだ。

「いえ、発生は確認できていません」

 

「・・・あのぉ・・・僕はどうすればいいんでしょうか?」

「あっ!ごめんなさい、使徒は消滅したわ。日向君回収ルートを指示してちょうだい」

「はい、シンジ君そこから右に300メートル程の所から戻ってくれるかな?」

「はい、わかりました・・・歩く・・・歩くと」

何やらぎこちない動きで指示された方向に歩いていくエヴァを見つめ発令所はなんとも言えない雰囲気に包まれた。

 

「碇、これはどういう事だ?」

「・・・問題ない、機会はまだある」

「そうか・・・」

「・・・・・」

 

 

 

―初号機ケージ―――――――――――――――――――――――

エヴァのエントリープラグから出てくるシンジにリツコが話しかける。

「シンジ君、これから簡単な検査と少し質問をしたいのだけれどいいかしら?」

「・・・かまいませんけど、その前にシャワーでも浴びさせて頂けませんか?」

「えぇ解ったわ案内させるから、シャワーを浴びたら検査に行って頂戴」

「・・・解りました」

黒服が行く先を促したので、来た時のままそこに放置されていたバッグを持ちシンジは黒服に付いて行った。

 

シャワーを浴び、簡単な検査を済ませた後、シンジはリツコの執務室に案内された。

検査の最中に、ICUでカプセルに横たわる綾波レイを上から覗き込んで居たが特に誰も気に留めなかった。

「サードチルドレンを連れてまいりました」

「入って」

シンジがリツコの執務室に入ると黒服は敬礼して去って行った。

リツコの執務室には何故かミサトも居た。

 

「じゃぁシンジ君、そこに座って」

パイプ椅子を指されシンジはそこに腰掛けた。

 

「コーヒーでいいかしら?砂糖とミルクは居る?」

「いえ、ブラックで結構です」

「あらシンちゃん渋いのねぇ〜」

ミサトが茶化すが、シンジに反応はない。

 

「それで、幾つか質問があるんだけどいいかしら?」

と言いながらシンジにコーヒーを差し出すリツコ。

「・・・はい解る事でしたらっとこれ良い豆使ってますねぇ」

 

「そうお気に召して嬉しいわ、じゃぁまず、エヴァに乗ってどんな感じだった?」

「苛々してましたねぇ」

「苛々?」

「えぇ電報かと思うような手紙で呼び出され、待ち合わせの時間に2時間も遅れてくる案内人、訳の解らない話を展開するかと思えば、帰れ。帰ろうとしたら重傷の女の子を連れて来て殺害」

「さ、殺害って!!レイは生きているわよ!」

ミサトが叫ぶ。

「そうですか、じゃぁ重傷の女の子を連れて来て、自分が乗らなければその娘が乗ると脅されて、苛々してて変ですか?」

ミサトが何か言おうとしたがリツコに制される。

 

「ごめんなさいね、シンジ君。でも貴方に乗って貰うしか時間的に余裕がなかったの」

「まぁ過ぎた事ですし、それで質問は終わりですか?」

 

「いえ、そのエヴァに乗ってエヴァに関してはどんな感じだった?」

聞き方を間違ったと思いリツコは同じ質問を言葉を換えて行った。

「エヴァに関してですか・・・LCLでしたっけ?気持ち悪かったです」

「そう、他には?」

「うーーん、なんか感覚が二重になると言うか違う自分が居ると言うかそんな感じでしたね」

 

「そう、それは他の存在を感じたって事?」

「うーーん、他の存在と言うより自分の身体がって感じでしたね」

リツコは暫し考え込んだ。

(まだエヴァの中の人は感じてないって事ね、ドイツのアスカもそんな報告はないからこれは当たり前なのかもしれないわね)

 

「じゃぁ今度は使徒と戦った時の事を教えてくれる?」

「えーーっと、まず「歩く事」って言われて歩こうとしたんですが旨くいかなくって・・・」

「そうだったわね」

先を促すように相槌を入れるリツコ。

 

「そしたら殺気とでも言うのかなぁ使徒の方からなんか来るって感じて、避けなきゃって思ったら飛んでたんです」

「飛んでた?」

 

「ジャンプって言うのかな?自分が飛んだのは、解ったんですが使徒が下の方に見えて、使徒の後ろの方に降りるのを感じたんです」

「感じた?」

 

「そうですね、自分が飛んでるって言う実感があったとでも言いますか・・・」

「なるほど、それで?」

 

「それで、使徒の後ろに後ろ向き、丁度使徒と背中合わせになったと思ったんで振り向いて使徒をこっちに向かせて殴りかかろうと左手を出したんです。使徒の肩って呼んでいいのかな?そこを掴もうとして・・・そしたら使徒の背中に手が突き刺さって、それで使徒が消えて行きました」

 

内容に矛盾は見いだせない。やっぱりビギナーズラックだったのかとリツコもミサトも納得してしまった。

 

「今日はこれで終わりよ、宿泊施設に案内させるからそこで休んでちょうだい」

「全く・・・何から何まで押しつけばっかりですね」

ふぅっとシンジは溜息をついた。

 

「どういう事?」

「そのまま言葉の通りですよ。何も知らない中学生に人類滅亡を掛けて決戦兵器に無理矢理乗らせ、勝って戻って来ても労いの言葉もなく次ぎ次ぎと命令するだけ」

「「・・・・・」」

確かにそうだった。初の使徒戦でハイになってたのかもしれないが、あまりにあっさり勝ったためパイロットに対する労いを根本的に失念していた。

 

「父さんと話をしたいんですが?」

「司令にその旨は伝えておくわ、今日はもう遅いから明日連絡するわ」

「そうですか、後、鉄骨に潰されても生きてるって言う女の子は?」

「レイは今ICUに入ってるわ、瀕死の重傷よ」

「あのカプセルみたいなのに入ってたのがそうだったのか・・・」

「見たの?」

「あっはい、検査で病院の中を移動しているときにそんなのが見える通路を通ったので」

「そう」

 

「じゃぁその宿泊施設とやらに行きますね」

「えぇ案内させるわ」

シンジがリツコの部屋を出ると先程の黒服が立っていて案内された。

 

「どう思う?」

ミサトが尋ねる。

「何が?言ってる事には矛盾はないわね。ただ資料とは性格がかなり違うようだけど」

「そうね」

「後、貴方と私と言うかNERVは間違いなく嫌われているわね」

「・・・・・」

項垂れてリツコの執務室を後にするミサト。

 

「ふぅ・・・」

溜息をつきながらリツコはターミナルドグマの映像を画面に出す。

(そろそろ3人目に移ってるかしら?)

―ガタンッ―

慌てて立ち上がったリツコは椅子を勢いよく倒してしまった。

顔面蒼白になりながら端末にICUの画面を出すと、そこにレイが居る事に安堵の息を漏らし駆けていった。

 

 

 

―司令室――――――――――――――――――――――――――

「では、レイのスペアは全て消失したのかね?」

いつものポーズで黙っているゲンドウの代わりに冬月が尋ねる。

 

「はい、原因は不明です」

「・・・推測は?」

ゲンドウが高圧的に尋ねる。

 

「MAGIのデータから第三者の介入の痕跡はありませんでした。全くの推測になりますが、3人目に移行するために他のスペアから補填したのではないかと・・・」

「何をかね?」

「3人目に移行するために足らない何かをです」

 

「確かに考えられない事ではないな、一人目は零号機にそして二人目が目覚めている。魂全部が移行するわけではないのかもしれんな」

「・・・3人目への移行は問題ないのか?」

「まだ目覚めてはいませんが、問題ないと思われます。脳波が眠りについている時のものに変化しています。明日にでも目覚めたら問診を行います」

 

「・・・サードについては何か解ったか?」

「質疑応答を行ったところ、それらしい矛盾点は見いだせませんでした。DNA鑑定については明日結果が出る予定です」

「他組織との接触は考えられないのかね?」

 

「保安部に再調査を命じております。しかし、監視からの報告から他組織の接触は見いだせず再調査の結果も期待できないと考えます」

「サードは本人だと思われると言う事かね?」

 

「それにつきましては、詳細に検査してみないと何とも言えません」

「・・・では検査したまえ」

 

「はい、引き続き検査を続行致します」

「・・・報告は以上か?」

 

「はい、報告は以上ですがサードが司令との面会を希望しておりました」

「・・・忙しいと言っておけ」

「碇、まだ彼にはチルドレンになって貰うことを話していないぞ?面会しないとなるとそのまま帰られる恐れがあるぞ」

「・・・奴には帰る場所などない」

「碇・・・」

「・・・明日の10時に連れて来い」

 

「はい、了解致しました。それでは失礼致します」

一礼してリツコは司令室を後にした。

 

「ダミープラグの開発に支障が出るな」

「・・・データは取れる、委員会にはデータだけ送る」

「代えも居なくなったから大事に使わんといかんな」

「・・・あぁ」

「3人目もお前を見てくれるか?」

「・・・問題ない」

 

 

 

―ネルフ宿泊施設前―――――――――――――――――――――

 

―ピンポーン―

「シンジく〜ん、ミサトよ〜ん司令が面会してくれるって〜」

 

―プシュッー―

自動ドアが開きシンジが出てきた。

「おはようございます」

「おはようシンジ君、司令が面会してくれるらしいのでこれから行くわよ」

「解りました」

司令室へ着くまでミサトが何かと話しかけるが、シンジの対応はそっけなかった。

 

 

 

―司令室――――――――――――――――――――――――――

 

「葛城一尉、サードチルドレンを連れて参りました」

 

―プシュッー―

自動ドアが開きシンジとミサトが中に入る。

「・・・何だ、用がないなら帰れ」

「碇、入って来たばかりなのに何を言っている。シンジ君、用件は何かね?」

 

「貴方は?」

「これは失礼、私は副司令の冬月と言うものだ。よろしく」

「そうですか、父さん僕はこれからどうするの?」

 

「・・・お前はサードチルドレンとして登録された。逃げる事は許さん」

「碇!シンジ君、我々は君を必要としているのだよ、これからもサードチルドレンとしてエヴァに乗ってくれないかね?」

 

「ふ〜〜ん、まぁいいですけど待遇は?」

これには、ゲンドウ、ミサト、冬月の3人とも驚いた。

まず断るだろうと思っていたし、MAGIもその可能性が高い事を示していたのだ。

 

「おぉ、乗ってくれるのかね?待遇はそれなりに考慮させて貰うよ」

「まぁ人類滅亡の危機を救う決戦兵器の数少ないパイロットとして妥当な待遇をお願いしますよ。それで住居は?」

冬月は考えていた金額では不満が出るかもしれないと、再考を決意した。

 

「ネルフ内に個人住居を用意させてもらうよ」

「うーーん、学校に行かなくてもいいならそれでも良いですけど、学校に行くならここと学校の中間ぐらいに部屋を借りてもらえませんか?」

 

「しかし、貴重なパイロットを何の警備も無い所に住まわすわけには行かないんだよ」

「あの女の子、綾波レイって言いましたっけ?彼女も中に住んでるんですか?」

 

「いや、彼女は別の・・・」

「・・・問題ない」

「碇?」

「・・・部屋は用意させる、話はそれで終わりか?終わりなら帰れ」

 

「昨日の分ってボランティア?」

「昨日の分も合わせて振り込ませてもらうよ、IDカードで引き出せるようになっている。未成年だから制限はかかるがね」

 

「その制限外して頂けます?一人暮らし用に色々買いそろえないといけないので」

「・・・問題ない、細かい話は葛城一尉に聞け」

 

「後、訓練とか実験とか毎日毎日は嫌だよ」

「・・・週に3回だ」

 

「じゃぁ平日は2時間まで土日祝日は4時間までね」

「・・・問題ない」

 

「じゃぁ住居が決まったら連絡よろしく」

そう言ってシンジは出て行き、その後をミサトが追った。

 

「碇、シンジ君はやけにしっかりしているようだぞ?」

「・・・所詮は子供ですどうとでもなります」

「だといいがな」

 

司令室を出てミサト大きく溜息をつきシンジに話しかけた。

「すっごいわねぇシンジ君、あの司令と交渉するなんて」

「あんなの交渉のうちに入りませんよ、それに昨日言ったでしょ?単なる臆病者だって」

 

「私には全然そうは見えなかったわ、確かに手と眼鏡で表情が全くわからなかったけど」

「後、面倒くさがりってのもありますね、最後の方は「問題ない」って投げやりだったでしょ?」

 

「そ、そうね確かに・・・それよりシンジ君これからどうする?」

「どうするとは?」

「住居が決まるまで暇でしょ?できれば発令所とかで紹介したいのだけど」

「別に構いませんよ、後、綾波のとこにも行きたいですね」

「あっら〜んシンジ君、もしかして一目惚れ?レイは可愛いもんねぇ」

「包帯だらけで可愛いかどうかなんて解りませんでしたよ。ただあんな重傷で運び出されて鉄骨の下敷きになっても生きてるって言うので、お見舞いに行きたいだけです」

いつものからかい癖を出したミサトだったが、シンジからレイの現実を突きつけられ気まずい雰囲気になってしまった。

 

「じゃ、じゃぁ発令所にいきましょ」

発令所でシンジをメインオペレータ伊吹マヤ、日向マコト、青葉シゲルに紹介したが、シンジは「よろしく」と一言だけだった。

 

次ぎに病院に行きICUに向かったがレイは既に病室に移動したとのことで、病室に向かった。

病室に入るとリツコがレイと話をしていた。

「あらリツコ、レイはもう大丈夫なの?」

「ストレッチャーのおかげでレイ自身には鉄骨の加重は、かからなかったみたいなの」

「そう、それは幸いだったわね」

 

(なかなか凄いシナリオだね)

(・・・私は痛かったわ)

(ご、ごめん悪かったよ、でもまさか下敷きになるとは思わなかったよ)

(・・・そうね)

 

「まだ予断は許されないけど、ICUに居る必要はなくなったわ」

「そう、レイ、こちらはサードチルドレンの碇シンジ君よ、仲良くしてね」

レイはシンジの方に顔を向けると「よろしく」と言ってニッコリ微笑んだ。

シンジもここに来て初めての微笑みを浮かべ「よろしく」と言った。

 

レイのその態度にリツコとミサトは固まってしまった。

無表情なレイしか見たことのないミサトは

(れ、レイが微笑んでいる・・・)

無機質に育てたつもりのリツコは

(何?何故レイに表情があるの?それに嬉しそう・・・ありえないわ)

と二者二様?な思考を巡らせていた。

 

(身体は大丈夫?)

(・・・問題ないわ)

(面倒だけど暫く我慢してね綾波)

(・・・わかったわ)

(退院したら一緒に住もう)

(・・・住居を代えるのは司令の許可がいるわ)

(大丈夫だよ、元々荷物なんてないんだから、申請なんかしなくてもうちに居れば)

(・・・そうね)

 

「レイ?シンジ君を知っているの?」

「・・・サードチルドレン、碇シンジ。今、葛城一尉が教えてくれました」

「そ、そうね・・・」

 

「あっら〜〜ん、レイもシンジ君に一目惚れぇ?」

「・・・一目惚れ、男女が一目で恋に落ちる事・・・違います」

「そ、そう・・・」

ミサトは、やっぱりレイは苦手だと再認識した。

 

「綾波は後どれくらいで退院できるのですか?」

「そうねぇ1週間か2週間ってとこね」

「じゃぁそれまでお見舞いに来ていいかな?綾波」

「・・・構わないわ」

 

「やっるわねぇシンジ君、早速ナンパ?」

「葛城さん、そろそろ住居決まってませんかね?」

「そ、そうね行きましょう、レイまたね」

からかい甲斐がないわねぇとミサトはシンジの案に乗った。

 

「またね綾波」

「・・・また」

 

―チンッ―

病室を出てエレベータでゲンドウと対峙した。

「父さん、降りないの?降りないなら乗るよ」

「・・・ふん」

ゲンドウはエレベータを降りそのままレイの病室へ向かった。

「全く、何考えているんだか・・・」

シンジの態度にミサトは冷や汗をかいていた。

 

病室ではゲンドウがレイに話しかけていた。

「・・・レイ、私が解るか?」

「・・・碇司令」

「・・・身体はどうだ?」

「・・・問題ありません」

ゲンドウの方を見ず答えるレイだが3人目への移行のため無機質さが増したものとゲンドウは認識し気に留めなかった。

 

「・・・赤木博士、レイはどうだ?」

「記憶は問題ないようです。若干感情の存在が見受けられます。身体については問題ありませんが、昨日まで重傷だったので1週間程このまま入院させようと思います」

感情の存在を自分に対してだとゲンドウは勘違いをした。

「・・・問題ない」

 

 

 

―生活科――――――――――――――――――――――――――

「コンフォート17っ〜?!!」

ミサトが絶叫していた。

 

「どうかしたんですか?葛城さん」

「いや、私の住んでるマンションと同じだったから・・・あはは」

「そうですか、別に同じ部屋じゃないでしょ?」

「なんか隣みたいね・・・あはは」

(そう来るか・・・まぁ同居じゃなきゃいいか)

 

「じゃぁ一緒に帰りましょ、送っていくわ」

「・・・はい、あ、安全運転でお願いします」

「だぁいじょうぶよ〜ん、何時も安全運転だから(はぁと)」

シンジは少し引きつった。

 

途中、コンビニに寄った。

「何でも好きなもの買ってねん」

 

主婦達が話している。

「遂に戦争はじまってしまいましたわね」

「主人は私と子供だけでも疎開しろと」

「そうですわね、要塞都市といっても、どこまで安全なのか」

「本当、恐ろしいですわ」

ミサトは弁当や飲み物以外にインスタント食品やレトルト食品を次々に籠の中に入れていく。

シンジは食材を籠の中に入れていた。

 

「ちょっち寄り道して行くわね」

数分後、第3新東京市郊外の丘の展望公園についた。

「さっ、下りて、」

シンジはミサトに言われるままに車を下りて、ミサトの左に立って第3新東京市を見た。

「淋しい町ですね・・・」

シンジは呟くように言った。

何も目立った物が無い、これが、第2次遷都計画によりその建設が進められている新首都、第3新東京市だとは思えないほどである。そして、居住人口690万人を誇るとはとても思えない。

 

ミサトは腕時計を見た。

「そろそろ時間ね」

ミサトはまるで宝物を友達に見せびらかす時の子供のように楽しそうだ。

警報が鳴り、夕焼けの中、地面からビルが次々に競り上がって来た。

「・・・・・」

一気に中都市から大都市へと変貌した。

超高層ビルが建ち並び、長い影が旧市街を覆っている。

「対使徒専用迎撃要塞都市、第3新東京市、これが私達の町であり、貴方が守った町よ。」

「・・・僕は守ったと思ってないし住んでる人も守られたとは思ってないんじゃないですか?」

「そうかもね、でも貴方が守ったのは事実よ」

(僕は、綾波以外守る気ないんだけどね・・・)

その頃、何故か病院のベッドで真っ赤になってる綾波レイが居た。

 

 

 

―コンフォート17―――――――――――――――――――――

「シンジ君の荷物は、もう届いているとは思うんだけど」

葛城と書かれたプレートが入った隣の部屋の前に荷物が積まれていた。

 

「僕はこっちですね」

「そうみたいね、IDカードで鍵は開くから」

「それじゃぁ今日は有り難うございました」

シンジが鍵を開け中に入って行った。

 

(うーーん、よしっ!)

ミサトは何か思いついた様子である。

 

シンジが荷物を運び入れ、風呂を沸かしながら食事の用意をしているとチャイムがなった。

シンジが扉を開けるとビールを抱えたペンギンとビールと食料を抱えたミサトが居た。

「シンちゃぁん、引っ越し祝いしましょ(はぁと)」

「はぁ?まぁいいですけど・・・じゃぁ上がって下さい」

 

ミサトが上がるとテーブルの上に並べられた食事に唖然とした。

「シンちゃん料理できるの?!!」

「まぁ家庭料理程度ですけど」

「すっごいわぁ(ジュル)」

「余分に作ってますから、葛城さんもよければどうぞ」

「ミサトでいいってばぁ」

「・・・女性をファーストネームで呼ぶのに慣れてないんですよ」

(うぅファーストネームで呼ぶフレンドリーなお姉さん作戦は失敗だわ・・・(泪))

等と思いながらも料理に目が奪われるミサト。

 

「じゃぁ遠慮しないで頂くわ」

―プシュッ ゴクゴク―

いきなりビールを開け飲み出すミサトとペンペン。

「かぁ〜〜っやっぱり人生この瞬間のために生きてるって感じよねぇ。うわっこれ美味しいわぁ」

 

(この調子だと毎日たかりに来るんじゃないだろうなぁ)

冷や汗を流すシンジだった。

 

「シンジ君、やっぱりうちに住まない?」

「葛城さん?貴女方は僕に何をしたか忘れたんですか?」

「あ、あれはしかたなく・・・」

「しかたがあろうがなかろうが何も知らない僕を無理矢理決戦兵器に乗せ、戦場に放り出した事実は変わりません。そんな僕が貴女と一緒に住みたいと思うとでも?」

「そ、それは、貴方も納得して・・・」

「僕は最初に帰ると言いましたよね?それも「帰れ」と言われて。僕に選択技がありましたか?」

「そ、そうね・・・悪かったわ・・・」

 

その後、ペンペンの紹介や取り留めのない話をしてミサトは帰って行った。

帰り際に

「一つ言い忘れたんだけど、貴方は人に誉められる立派な事をしたのよ。誇りに思っていいわ。おやすみなさい」

ミサトはそのままそっとドアを閉めた。

 

「ふぅっ・・・お風呂に入って寝ようっと・・・」

シンジは何の感慨も受けていなかった。